無題


チリン、チリーン……
 
淡い透き通った音色が耳をくすぐる。
薄い青色のガラスから響くその音色に、私とリーネちゃんはしばしの間、目を閉じて聴き入っていた。
 
「……不思議な音だね、芳佳ちゃん。綺麗で、涼しくて……」
「うん。リーネちゃんみたいにお母さん達に仕送りしたら、代わりに送ってきてくれたの」
 
チリーン……
 
ブリタニアの夏は扶桑よりはどこか涼しいけれど、それでもこういった物は気分なんだと私は思う。
窓から差し込む夕日もほとんど沈み、まだ薄暗い夜空が広がっている。
開け放した窓からは涼し気な緩い風が部屋へと入ってくる。
窓枠から吊した風鈴は風と一緒に緩やかに踊っている。
 
「ええと、芳佳ちゃん……フウリン…で合ってたかな?」
「うん。扶桑では夏に縁側に吊すんだ」
「エンガワ…?」
「あ、えっとね。扶桑の家って……」
 
ブリタニアと扶桑の家の違い等をリーネちゃんと話す。
なんて事のない話しから最近の訓練の事、リーネちゃんと話す事は後から後から湧いて出る様に溢れるてくる。
そして、今日も他愛のない談話に花を咲かせて一日が終わる。
……そう思っていた時間もありました、はい。
耕耘機とシャーリーさんは急には止まれない様に、きっとこういった流れも止められないのだろう、と後に私は思った。
そう、突然窓の下から何かが煙の尾を引いて飛んで来て、物の見事に風鈴に直撃したのだ。
その突然の様子に言葉も無く、呆然と窓を見る私とリーネちゃん。
 
…リーン……チリーン……
 
とりあえず頑丈なのが扶桑クオリティ。
風鈴はなんとか無事な様であったが、一体何が起こったのだろうか。
しばしの後、パチクリと目を瞬いてリーネちゃんと見つめ合う。
その瞬間、バァン!と勢いよく部屋のドアが開け放たれた。
……隣のリーネちゃんの部屋のドアが。
 
『さぁ!……あれ、いない』
 
ドタドタと私の部屋の前に走って来た足音がピタリと止まった。
とりあえずドアを見つめる私とリーネちゃん。
静まり返る部屋。
何故か異様な威圧感を放つ部屋のドア。
が、一向にドアが開く様子がない。
さっきの声はおそらくシャーリーさんの声だと思うのだが、どうかしたのだろうか。
私はリーネちゃんと目配せをしてそっとドアへと近付いた。
その時
 
パァン!!
 
「わひゃああああ~~~っ!!!!」
「きゃぁああああ~~~っ!!!!」

突然背後から風船を割るような破裂音が響き渡った。
あまりにも突然なその音に、私達は思わずお互いに抱き着きながら叫んでしまう。
見れば、私達の叫び声に驚いたのか、耳を塞いでいるルッキーニちゃんがそこにいた。
足元には先程の炸裂音の音源であろう、破れたビニール袋が打ち捨ててあった。
 
「うぅ~、芳佳、リーネ、叫び過ぎ~」
「あ、え…ご、ごめんなさい……」
「ル、ルッキーニちゃん…一体何処から入ったの!?」
 
あれ、私達が被害者なんじゃ…と思わず謝ってしまったリーネちゃんを見て思ったけれども、それよりも問題はこっちだ。
どこかに抜け道でもあるのだろうか……
そう思っていると、ルッキーニちゃんはニィ、と笑って窓を指差した。
 
「余裕だね」
「まったくだ」
 
よじ登って来たのか、上から下りてきたのかはわからないけれど、それよりもポンと背後から肩に置かれた手に、私とリーネちゃんは驚いて固まった。
慌てて振り返ると、いつドアを開けたのか、シャーリーさんが素晴らしい笑顔でそこにいた。
 
「さぁ!花火をするぞ!!」
「……………え?」
「…………はい?」
 
さぁ、行くぞー、と意気揚々なシャーリーさんとルッキーニちゃんに引きずられながら、私達はその場を後にしたのであった。
 

 
基地裏にある浜辺に連れて来られた私とリーネちゃん。
そこでは、他の皆が思い思いに夏を満喫している様に見えた。
その時は、確かに。
そう、それが一見そう見えただけであったとしても。
浜辺に着くやいなや、ルッキーニちゃんは駆け出すと、まとめて置いてある花火数本を両手に握りしめ、その全てに火を着けた。
 
「じゃっじゃじゃーん!シャーリー、ほらほら、しゅごーっ!!」
「あっはっはっ!綺麗だなルッキーニ!だけど、そのまま走ってくるなぁーっ!!」
 
勢いよく閃光を散らす花火を振り回しながら、シャーリーさんを追い掛けるルッキーニちゃん。
一方のシャーリーさんもいつ手にしたのか、煙玉を次々と走りながら落としていく。
色とりどりの粉塵が立ち込める浜辺。
しかし、そんな騒ぎもなんのその。
別の場所ではハルトマンさんとペリーヌさんが、何やらお互いの足元にネズミ花火を投げ込んでいた。
 
「……って、ハルトマンさん、ペリーヌさんも、一体何やってるんですか!?危ないですよ!?」
「あら、宮藤さん…リーネさんも…っと!姑息ですわねハルトマン中尉!」

「あっさりいなした癖にっぉ!?そっちこそえげつない所に投げ込むねっ!」
 
チラリとペリーヌさんがこちらを見たけれども、すぐにまた二人の危ない世界に入ってしまった。
ペリーヌさんが目を逸らした隙にネズミ花火を投げ込むハルトマンさん。
それを軽く爪先でターンする様に躱しながら、ハルトマンさんの今まさに下ろそうとする足元に投げ込むペリーヌさん。
やってることはしょうもないのに、そこには確かに私には入り込めない二人だけの世界が広がっていた。
だが、それにしても
 
「危ない遊びだね、リーネちゃん」
「わー……懐かしいな」
「……へ?」
 
……なんですと?
今リーネちゃんはなんと言ったのか。
見れば本当に懐かしいのか、胸の前で手を合わせながら目を輝かせているリーネちゃんがそこにはいた。
 
「ほら、二人の足元に丸が幾つも書いてあるのわかる?」
「え……あ、本当だ」
 
リーネちゃんが言うには、要は相手を円の外側に追い出すゲームらしい。
実の所はソフトボールを使うらしいのだけれど、そこはブリタニアサマーマジック。
手身近な物で激闘を繰り広げるにまで至るのだから夏って大変だと思う。
時折飛んでくる煙玉を避けながら、ペリーヌさん達を見ていたのだけれども、ふと、視界の端に何故か竹を担いでいるバルクホルンさんを見つけた。
……な、何本持ってるんだろ…あれ。
 
「少佐、これくらいで大丈夫ですか?」
「ああ、最初の分は切っておいたが下準備を先にし終えてしまうか」
 
リーネちゃんに断って様子を見にバルクホルンさんの後を追ってみると、そこには何やら刀で竹を切り揃える坂元さんと、それを所々削るバルクホルンさんがいた。
少し離れた所で、ミーナさんが小難しい顔をして二人の様子を見ていたので話しを聞いてみることにした。
 
「ミーナさん、坂元さん達は何をしてるんですか?」
「あら、宮藤さん……ええと…どう説明したらいいかしらね……」
 
困った様に私を見て微笑むミーナさん。
が、相当悩んでいるのか、眉間に微妙にシワが寄っていてなんとも言い難い面付きであった。
 
「……宮藤さんの方が詳しいかしら。宮藤さんは、キャンプファイヤーって、知ってる?」
「あ、知ってますよ。学校の遠足で遭難した時に、狼煙ついでに皆でやるんですよー」
 
懐かしい全学年合同遠足。

道無き道をコンパスと山岳地図を片手に進む、二泊三日(予定)の自然と触れ合うフリーダムフェスティバル。
熊の軍団と遭遇した時は覚悟を決めたっけ。
みっちゃんがいてくれなかったら熊と戦う事になってたな。
そんなこんなを、気付けばどこか遠い目をして思い出していた。
 
「な、中々サバイバルな遠足ね……。まぁいいわ、そんな話しを美緒とトゥルーデがしてたんだけど、どうにも盛り上がっちゃって……」
「それで、実際に造ろうと?……あれ、でも」
 
振り返れば切る分は終わったのか、坂元さんが、バルクホルンさんの削り終えた竹を次々と汲み上げていく。
二人とも怖い位に無言。
ただ、もくもくと各が作業を熟していた。
 
「……あれって、竹でするものでしたっけ」
「やっぱりそうよね。この間やった、流し素麺の時に貰ってきた竹が大量に余ってたから、だそうなのだけど……」
 
ああ…と、そんな事もしたっけ。
あれは確か、坂本さんの一言から始まったのだけれど……
 
「……流しましたねぇ」
「……流したわねぇ」
 
私素麺を茹でる係り、リーネちゃん水流す係り、ミーナさん素麺流す係り、他の皆は食べる係り。
そんなノリで終わった流し素麺大会は、最後に私達三人で下流に設置しておいた桶に流れ着いた素麺を突いて終わったのであった。
 
「…………はぁ」
「…………はぁ」
 
どちらからともなく、力の無いため息を零した。
その後、組み上がった頃にまた来ます、と私は踵を返した。
というのも、先程からとっても気になっている事が一つあったからだ。
極力気にしないようにしていたのだけれど、もう限界。
先程から時折聞こえてくる、エイラさんの怪しげな笑いが気になって仕方ないのだ。
キョロキョロと辺りを見渡すと、岩場の隅の方でこちらに背を向けしゃがみ込むエイラさんを見つけた。
 
「エイラさん、さっきから…うわぉ……」
 
エイラさんの肩越しに覗き込んだそこではウニュウニュと延びる怪しげな物体。
延びきったソレも大量に屯ろしている凄まじく怪しげな空間がそこには広がっていた。
エイラさんは私に気付かない程に夢中なのか、フフフ…と、どこか虚ろな目をして、そのヘビ花火を見つめていた。
一体何個あるのか、次から次へと一定の間隔をもって量産されるヘビ花火。
なんと言うか、エイラさんも色々と憑かれて…もとい、疲れているのかな、と思った。

「……芳佳ちゃん、さっきは大丈夫だった?」
「あ、サーニャちゃん。…大丈夫って?」
 
エイラさんのいる岩場の後ろからサーニャちゃんがひょっこりと現れる。
小首を傾げるサーニャちゃんだけれど、さっきって何かあったかな?
 
「ルッキーニちゃんが、芳佳達も呼んで来るね、ってロケット花火を一つ持っていったから」
「……ああ、あれ…ロケット花火だったんだ」
 
そういえば、のんびりとリーネちゃんと納涼を満喫してた事が遥か昔の事に思えてしまう。
涼やかに鳴る風鈴を直撃したのが、一発のロケット花火だったなんて。
……凄い命中率だね、ルッキーニちゃん。
ロマーニャのエース恐るべし。
悪戯だと、普段見える以上に真の実力を窺い知る事の出来るルッキーニちゃんとエイラさん。
とすると、やっぱりルッキーニちゃんはあの壁を登ってきたのだろうか……。
と、そこまで考えた時、サーニャちゃんが少しキョロキョロと辺りを見回していることに気が付いた。
そういえばさっきから右手に何かを持っているけど、もしかして……
 
「あの、サーニャちゃん……それは?」
「え……これは、導火線。芳佳ちゃん、火種…持ってる?」
 
導火線…?
一体なんのだろう……。
目を凝らして見れば、岩場の向こうへと続いているその線に妙な不安を覚える。
それでもサーニャちゃんだし、あんまり不安は…ない、かな。
とりあえずサーニャちゃんの希望通り、火種は無いかと探してみると、すぐ近くに、というか足元にエイラさんがいることを思い出した。
 
「エイラさん、そのマッチ少し借りますね」
「…ぁ………」
「…………ごめんなさい」
 
未だ薄く笑いながらヘビ花火にのめり込んでいるエイラさんの手から、スルリとマッチを抜き取ったのだが、なんと言うかとても哀愁の漂う顔で見られてしまった。
子を奪われた母狐というか、どうするアイ〇ル的な。
とりあえず、ごめんなさい。
何故か理由はわからないけれども、謝るしかないでしょう!?
何と言うか……ギャップ萌え?
普段、不敵な笑みを浮かべる事の多いエイラさんが、少し潤んだ不安げな瞳を揺らしてこっちを見るのだ。
こう、上目使いで、保護欲というかむしれ逆に被虐心をくすぐる、そんな感じの破壊力上等な顔。
マッチをエイラさんに返して、私はサーニャちゃんの希望である火種を探す事にした。

…あとついでに、エイラさんのその表情に驚きを隠せないのか、目を丸くしているサーニャちゃんの鼻血を止める為のティッシュ等もあれば。
花火が山の如く大量に用意されている場所のそばに数本のロウソクが転がっていたので、それを借りることにした。
……本当に山の様に積んであるなぁ。
その近くには水の張ったタライがいくつか用意してあり、燃え尽きた花火が無造作に沈められていた。
その時、私の目の前を花火であろう物体が通り過ぎて、タライの水の中へと沈んだ。
発射位置を探そうと顔を上げると、もう一本花火が飛んで来て、やはり綺麗な弧を描いて水の中に沈んでいった。
 
「おぅい!?まだ持ってるのかよ、ルッキーニ!?」
「シャ、シャーリーこそ、けほっ、煙玉持ち過ぎーっ!!」
「じゃあ花火の火を付けてない状態で追い掛けれーっ!!」
「なんとなく、やだーっ、わぷっ!!」
 
未だ走り続けていたシャーリーさんとルッキーニちゃん。
どうやらルッキーニちゃんが、燃え尽きた花火をその場に捨てないで、キチンと水に沈めているらしい。
……何と言う命中率…。
ロマーニャのエース恐るべしリターンズ。
花火の山の側を通り過ぎる時に、シャーリーさんは煙玉を掻っ攫って胸の谷間に、ルッキーニちゃんは勢いの強そうな花火をズボンに挿して、スピードダウンする事もなくまた走り去って行った。
……………。
後でシャーリーさんの煙玉を奪いに…げふん、貰いに行こう。
どうにかして自分で取らないと……。
まぁ、今は先にサーニャちゃんにロウソクを届けないとね。
危うく当初の目的を忘れそうだった私は、ロウソクに火を点け再び岩場へと戻った。
 
「………フフフ……」
「……………」
 
岩場へと戻ると、先程と少し様子が異なっていた。
と言うのも、ヘビ花火を見つめるエイラさんは変わらないのだけれど、サーニャちゃんがエイラさんの後ろに立ち、両手を広げてわなわなと震えていた。
……おそらく今サーニャちゃんの中では「楽しんでるエイラを邪魔しちゃダメ…だよね…?」と悩む天使サーニャちゃんと、「さっきの顔もう一度見たくないの?抱きしめたりしたくない?」と誘惑する悪魔サーニャちゃんが激しいバトルを繰り広げているに違いない。
……悪魔サーニャちゃん優勢だなぁ。
とにかくサーニャちゃんにロウソクを渡さないとね。
 
「サーニャちゃん。ロウソク持ってきたよ」

「……芳佳ちゃん…………………うん、ありがとう」
 
何かとっても悩んだねサーニャちゃん。
サーニャちゃんは私からロウソクを受け取ると、近くの岩に垂れ下げていた導火線に火を点けた。
バチバチと燃えながら岩場の向こうへと消える導火線。
打ち上げ花火でもするのかな、とその様子を眺めていた次の瞬間!
私は、ああ、サーニャちゃんも結構色々と溜まってるものがあるんだなぁ、と変な実感が湧いたのであった。
 
『シャーリーッ!!いい加減待ってよーっ!!』
『無茶言う…なぁ!?ル、ルッキーニ、後ろ、後ろーっ!!!』
『へ………ギニャー!!なんか追い掛けながら飛んでくるーっ!?』
 
『はぁ…はぁ…往生際……悪い…ですわね……ハルトマン…中尉……はぁ…』
『そっち…こそ……はぁ…はぁ…やるじゃ…………ってぇ、ペ、ペリーヌ、後ろ!!』
『ペリーヌさん!ハルトマンさん!!』
『なんです…のォ!?ちょ、危な…ええぃ、猪口際ですわ!!この程度避け切って見せましてよ!?』
『ほっ、やっ、おっ、とりゃーっ!』
『わぁっ!お二人共、凄いです!!』
 
『……ふぅ、中々形になって来たな、バルクホルン』
『そうですね…?……少佐』
『ああ。……ミーナ、私とバルクホルンの後ろに。……来るぞ』
『…あらあら……後片付けが大変ね……はぁ』
 
「……フフフフフフ………」
「うふふふふふふふふ……」
「うわぁ……なんか色々大変な事に……」
 
なんと言えばいいのだろうか。
サーニャちゃんに渡してしまったロウソクの火から点火された、導火線カウントダウン。
ゼロになった瞬間に発射されたのは、百は裕に越えたであろうロケット花火の一斉射。
岩場の向こうでこれの準備してたんだね、サーニャちゃん。
と言うか、一体何発用意していたのかしばらくの後に第二、第三と発射されるロケット花火群。
その様子を眺め、にっこり…ではなく、ニヤリとエイラさんのソレと変わらぬ笑みを浮かべているサーニャちゃん。
……確かサーニャちゃんのフリーガーハマーは、装弾数九発だったっけ。
ハッピートリガーサーニャンを横目に、ロケット花火群の飛んで行った惨劇場を見つめる。
浜辺で追い掛けっこをしていたシャーリーさんとルッキーニちゃんは、追尾機能でも搭載しているのかきっちりと背後を追い掛けてくるロケット花火から全力で逃げ走っている。

先程から場所が全く移動していないので、未だ熱いバトルを繰り広げていたであろうペリーヌさんとハルトマンさんは、イナバウアーと言うか、マトリックス的な動きを持って飛び迫るロケット花火を避け仰せていた。
それを横で応援しながらはしゃいでいるリーネちゃんには、一発も掠りもしない辺り何と言うか、リーネちゃんだなぁ、と思う。
所変わって、坂本さんとバルクホルンさんは激闘を繰り広げていた。
飛来するロケット花火を一刀の元に切り捨てながら乱舞する坂本さん。
バルクホルンさんは少し細い竹をゲルト…じゃないゲル〇グよろしく回転させては、次々と叩き落としている。
その後ろで困った顔をしているミーナさんだが、少し辺りを見回してからしゃがんで何かを拾った。
そうして立ち上がると右手の親指が何かを弾いた。
すると、坂本さんとバルクホルンさんの間を抜けたロケット花火が弾かれた様に撃墜された。
小石を親指で弾いて飛ばしてるんだ!
流石ミーナさん、他のウィッチに出来ない事を平然とやってのける!
そこに痺れる以下略ぅ!
そんなこんなで、綺麗だった砂浜は、至る所にロケット花火が突き刺さってたり、煙玉が転がってたり、ネズミ花火が散乱していたり、ヘビ花火が群をなしてたむろしていたりと、中々にして混沌が極まっていた。
息を切らせて、寄り添う様に座り込んでいるシャーリーさんとルッキーニちゃん。
最終的には足が絡まったのか、ひっくり返っているペリーヌさんとハルトマンさん。
その傍でせっせと花火を拾い集めるリーネちゃん。
そうだね、とりあえず掃除から始めないとね。
私もリーネちゃんに習って花火を拾い集める事にした。
そう、決して背後で怪しげに高らかに笑うエイラさんとサーニャちゃんを見たくないとか言う訳じゃないんです!
…それはそうと…流石にもう飛んでこないよね?
結局、その考えはなんとか杞憂に終わった。
 
「よぅし、完成だ!」
「やりましたね、少佐!」
 
数分後、一通りの花火回収を終えた私達の耳に、そんな話し声が聞こえてきた。
声のした方を見れば……なんかすっごい物体の前で、坂本さんとバルクホルンさんが固く握手を交わしていた。
 
「……ミーナさん……なんでこれ、組み木が外と中の二重構造なんですか?」
「……不思議ねぇ……」

組み木の前で二人並んで、完成したというこの物体を見上げる私とミーナさん。
その視界の隅で、せっせと動き回るハルトマンさんとルッキーニちゃん。
 
「さぁ、点火するぞ。……サーニャ」
「はい、どうぞ」
 
一通りバルクホルンさんと完成の喜びを分かち合い終えたのか、坂本さんが気合い十分に声を上げた。
そして、普段のテンションに戻ったサーニャちゃんが、坂本さんに何かを手渡す。
そう、それは……導 火 線 !
 
「………宮藤さん、離れましょうか」
「え…………はい、そうですね」
 
すすす、とその場を離れるミーナさんの視線の先を追うと、サーニャちゃんの手にある導火線。
ずい~っと、地を這う導火線を追うと……私の真横、つまり組み木の中へと繋がっていた。
……い、いつの間に。
 
「よし、それでは……点火!!」
「点火!!」
 
全員がそれとなく離れると、坂本さんとバルクホルンさんによる点火式が執り行われた。
……キャンプファイヤーってこんなのだったかな?
火の点いた導火線は、勢いよく火花を散らしながら組み木へと突き進む。
そして、二重に組まれた組み木の中へと消えた。
 
ドンッ!……ヒュルルル…………ドッカァン!!
 
消えた導火線の代わりとばかりに、何故か夜空へと舞い上がったのは、なんと打ち上げ花火……なんと怒涛の30連発。
 
「サァアニャーッ!!」
「エェイラーッ!!!」
 
次々と打ち上がる花火を眺めつつ、なんとか自分を取り戻した様子のエイラさんとサーニャちゃんが花火に向かって声を上げる。
……たまやとかぎやは人の名前じゃなかったんだけどな……。
 
「ル、ルッキーニ……お前……」
「にひひ~、どぉ?キレーでしょー」
 
人間とは、ウィッチとは、ただ上を見上げて生きるだけじゃ駄目なんだと私は思う。
ほら、こうして前を見れば、そこには地上で咲く大輪の花火が……
 
「……扶桑のキャンプファイヤーって過激なんだね、芳佳ちゃん!」
「違っ…ご、誤解だよ!リーネちゃん、これは違うからね!?」
 
どうやら、ルッキーニちゃんが残っていた未使用花火のほとんどを、あの組んだ竹の隙間へとセッティングをしていた模様。
竹と竹の隙間から噴き漏れる色鮮やかな煌めき。
そして崩れ落ちる坂本さんとバルクホルンさん。
 
「……フラウ、貴女も何かしていたわね?」
「あ、ミーナ酷ーい」

眉間を揉みほぐしながら、ミーナさんがハルトマンさんに問いかける。
ハルトマンさんは心外だと言わんばかりに頬を膨らませた。
 
「私はただ、台所にあったじゃがいもと栗を……」
 
…あれ?
今、何か聞こえたのは聞き間違いだよね?
悲しいけれど、これって現実なのよね。
数秒後、ミーナさんの悲鳴にも似た激が飛んだ。
 
「……総員、退避!!」
 
竹の隙間から一体どれだけの量を放り込んだのか、焼き栗が群れをなして襲い掛かってきたのは、それから間もなくの事だった。
 

 
爆竹。
それは容易に作り上げる事の出来る危険物。
……皆さん、危険なので竹は燃やしちゃダメですよ?
そして、爆散しながら閃光を散らす、大輪の炸裂花火。
私達は岩陰で、見なかった事にして締めにと、小さな閃光花火を楽しんだのであった。
 
チリーン……
 
風に乗って、微かに風鈴の音が聞こえた。
嗚呼、今日はなんかドッと疲れたよリーネちゃん。
花火と風鈴とリーネちゃん。
三者の微かな笑い声が、緩く穏やかに浜辺に響き渡った。
 
 
おーわり


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