スオムス1946 ピアノのある喫茶店の風景 8月18日、午後。
「サーニャさん」「サーニャちゃん」「サーニャ」「さーにゃん」
『お誕生日おめでとう!!』
ドレス姿のサーニャをお姫様抱っこで登場したら、ぴたりと揃った声と共にクラッカーの洗礼。
「わぁ……みんなありがとう」
続いて案の定ニパやルッキーニから冷やかされたりもしたんだけど、サーニャの頼みでやったことだからなんともないぞ。
むしろサーニャが小さく呟いた台詞の方が数百倍、数千いや数万倍やばかった。
「こうやって登場して皆からクラッカー鳴らされるなんて、ちょっと結婚式みたいだね」
わたしの腕に抱かれて優しく微笑みながらそう囁いたサーニャのその言葉は、フリーガーハマーよりも激しい攻撃力を持ってわたしの中の何かを木っ端微塵に吹っ飛ばした
。
けけけ結婚式!? い、いやペリドットが夫婦の愛だからってそんなっ! ま、まだ早すぎるだろ……。
いや……でも……ササササーニャが言うならっ!!!!
………………。
………………。
………………。
………………。
………………。
「ありがとうエイラ。もう、降ろしてくれて良いよ……エイラ?」
改めて名前を呼ばれてから、やっと我に返る事ができた。危なくオーロラの彼方から帰ってこれなくなるところだったぞ。
何だかさっきから自分ばかりが空回りを加速させてるよなぁ。
サーニャの側にはそんなに深い意図なんてないんだから発言一つ一つにふにゃふにゃになってたら駄目だぞ、エイラ。
自分に言い聞かせつつ返事。
「お、おうっ。今降ろすぞ」
羽のように軽いサーニャを優しく立たせる。
薄暗い部屋でなく、日の光の差し込む店内で見るサーニャのドレス姿はまた違った輝きを魅せてくれた。
サーニャは月の光だけじゃなくてお日様にだって愛されてるんだな。
本当にステキだよなぁ。
「サーニャカワイー」
猫のようにサーニャの周りをくるくる回りながらカワイーを連発するルッキーニ。
つくづく背が伸びておっぱい大きくなってもコイツは変わんないな。
「もしかしてそのドレス、エイラさんからのプレゼントですか?」
「いえ、これはお母様からのプレゼントなんです」
「わ、それはそれでとっても納得です。すごく綺麗ですよ、サーニャさん」
「ありがとうございます」
この場で一番の常識人らしく非常に常識的なやり取りを展開するエル姉。
まぁ、わたしから見ててサーニャに近づいても一番危機感を感じない人だしなぁ。
「おいイッル。ちょっと時間かかりすぎだろ。上でナニやってたんだ~?」
「イロイロ手間取ったんだよ。大体ナニって何だよ」
「まぁまぁ、そりゃあ……ホラ……ナニだろ」
「そんなことするか! バカ!」
ニパとのやり取りはいつも通りだ。
でも、どうにもサーニャを引き合いに出されると話の主導権取れなくて困るんだよな。
とはいえサーニャに色目を使われるよりはよっぽどいいぞ。
「さーにゃんステキ」
サーニャのそのドレス姿に見とれてまるで恋する乙女の如く目をキラキラさせてるハイディ……ってオイ!
恋する乙女って何だよ!
それはちょっと……いや、かなり駄目だろ。
すぐに言って聞かせるか? いや待て、言って聞かせるって何を言うんだよわたし!
あ~むしろ、なんかコイツってイイヤツっぽすぎて正面から物を言いにくいんだよな。
サーニャの両親の為にがんばるとかって手紙書いてたし、仲の良い友達も極端に少なそうだしなぁ。
うーん、行動がナチュラルなあたりは宮藤と同じで強敵だ。
同じメガネだって言うのにツンツンメガネとはえらい違いだよな。
「メガネかぁ……はぁ」
「どうしたんだイッル? メガネってハイディちゃんか?」
「いや、ハイディってイイヤツだよな、って思ってから同じメガネのイヤナヤツのことを思い出してた」
「イヤナヤツって言うと……そうか、ビン底メガネだな」
ニパがなんだか自分の想像してた相手とは違う誰かを挙げた。
ああ、そういえばコイツはペリーヌと会った事なかったもんな。
知ってればきっと共通認識なれた自信はあるぞ。
でも、ニパが言ってるのって誰の事だ?
「ビン底メガネ?」
と、口に出してみてピンときた。そうかーアイツかー。
「ああ、そういえばアレはうっとおしかったよな。ラブラブな相手がいるんだったら他に色目使うなってーの」
「イッルもサーニャちゃんも随分と気に入られてたしなぁ……」
「うわ、変な事イロイロと思い出させるなよニパ!」
その変な事をイロイロ思い出してしまい鳥肌が立つ。
「ま、あのビン底メガネも遠い扶桑の空の下だろ」
「ふーん、そのメガネって誰の事ですか?」
「そんな事決まってるじゃないか、ツンツンメガネはペリーヌで、ビン底メガネは迫水……」
う……何だこの嫌な予感は。
この聞き覚えのある声、独特のイントネーションのブリタニア語って……まさか!?
「サ、迫水ハルカぁっ!!!!!!」
「おひさしぶりです……ねっ!」
エル姉に負けず劣らずトロトロした雰囲気は何処へやら、わたしが叫びながら振り返りきるよりも速く身体を密着させるとその手をイキナリ股間へと這わせ始める。
変態アホネンの超絶テクニックを受け継いだ変態ちびっこ扶桑海軍の面目躍如……っていうか、ちょっとぉ、イキナリナニすんのっ!?
「ヤ、ヤメロっ!!」
「気にしてるのにっ! そんなことを言う口はこの口ですかっ! このッ! このっ!」
「ちょっ! ああんっ……そっ……そこは口じゃないっ……だろ!!!」
「下の口だからいいんですっ!」
む、無茶苦茶だぁ……っていうかにちゃっとしたぞ!オイ! 耐えろわたしっ!
「おおっ、ステキな展開だな、イッル」
「はぁぁんっ……ヤメッ……」
見てるな助けろ!このバカタヤイネン!! うう、口開いたらえっちな声がでちゃうじゃないかぁ……。
「エイラッ」
うわっうわっ! ホントにやばいって!! サーニャが見てるんだぞっ! っていうかズボンの中に手を入れるなぁ!!!
「迫水さんっ! いきなり何してるんですかっ!」
意外な救い主はやはり懐かしい声とともにハルカの背後から現われた。
「わわっ、芳佳ちゃん!」
「そういう事したら坂本さんに斬られちゃいますって!」
ハルカと同じく唐突に現われた宮藤がこのビン底メガネ(今はメガネをしてないようだが)を羽交い絞めにして引き離してくれたみたいだ。
「あ~……あはは……それもそうですね。斬られるなら智子少佐にって決めてますから、それはイヤです」
暢気な事を言う迫水を涙目で睨むけど本人意に介さず変なのろけを展開する。
「はぁ、もう……出発前に釘刺されてたじゃないですか~」
「でも、いきなり人の気にしてること言うエイラちゃんも悪いですよ」
「だからと言っていきなりやっていいことと悪いことが……」
いいぞ宮藤! わたしが呼吸を整える間ガンガンこの変態を攻撃してやれ!
「だいたいここに来るまでの間だって……」
と、私の精神的声援によって全面的に支持された宮藤による変態ビン底メガネへの糾弾は、意外な人物の介入によって中断される事になった。
「芳佳ちゃん! お久しぶり。会いたかった……」
わたしと迫水の間を抜けて、サーニャが宮藤へと抱きついたんだ。
「わっ! サーニャちゃん。久しぶり……私も会いたかったよ」
互いにぎゅっと抱き合って再会を喜び合うサーニャと宮藤……って言うかなんだよ、ソレ!
宮藤への精神的声援を超速攻で中断して全力で糾弾っていうかブーイング開始! ブーブーブー!
とはいえまださっきの変態の攻撃のせいで声を出したら恥ずかしい事になりそうなんで飽くまでも精神的にだぞ。
でも、そんなわたしの事などお構い無しに状況は進む。
「うん、えと……芳佳ちゃん」
「うん、サーニャちゃん」
抱き合っていた身体を離し、見詰め合う二人。
正面からお互いの手を合わせて、握り合う。
サ、サーニャと運命線重ねていいのは私だけだぞ宮藤!
速くその手をどけろー!
心で叫んでみても状況は好転することなく、ふたリは微笑みあい、どちらからともなく呼吸を合わせ……。
『お誕生日おめでとう』
綺麗にハモって、お互いを祝いあった。
何だかイロイロこうして内心グダグダしてるのがあほらしくなっちゃうほど爽やかな笑顔での本当に心からの祝福。
あーもう……こういう時の二人の良い表情見せ付けられちゃうと、文句がつけられなくなるじゃないかー。
そんな複雑な気持ちを振り切って、何度かの深呼吸で心と身体を落ち着ける事に成功していたわたしは、笑顔につられて祝福の言葉を口にする。
「おめでとな、二人とも」
あとは皆からの「おめでとう」と拍手の嵐で、ニパとルッキーニが余ってるクラッカーを鳴らすオマケつきだ。
耳元でクラッカーを鳴らされたエル姉が驚いて悲鳴を上げてるけどエル姉だからしょうがないんでスルー。
っていうか軍人が火薬の音でいちいちびびるなよ……。
絶対に徒競争の時のスターターの音に竦んで実力を発揮できないタイプだよな、エル姉。
「ありがとう、サーニャちゃん、エイラさん、みんな……」
そんな周りの見渡してから言葉を止めてかしこまる宮藤。
「何だかばたばたしちゃったけど、お久しぶりです。エイラさん、サーニャちゃん、ルッキーニちゃん、あとニパさん。そちらの人は……初めまして、ですね」
「はい、はじめまして。宮藤芳佳さんでしたよね。わたしはエルマ・レイヴォネンです。一応エイラさんの先輩ですよ」
「わぁ、あなたがあの…………道中で迫水さんからお話しは聞かせて貰いました。よろしくおねがいします」
「……つかぬ事をお伺いしますが、ハルカさんからはなんと?」
宮藤はぺこりとお辞儀。が、そこにヒソヒソと内容を追求し始めるエル姉。
その様子に一瞬たじろぎながらアイコンタクトで迫水に助けを求める宮藤。
「私と一緒でてんで駄目だったいらん子中隊の頃からトモコ少佐のお力によって華麗に羽ばたくまでのサクセスストーリーです!」
「ま、まぁなんというか……陸軍の穴拭智子少佐がどれだけ素晴らしいかをずっと聞かされてました……」
「芳佳ちゃんにもトモコ少佐がどれだけ素晴らしいかをわかってもらえましたよ」
「そ、そう、ですか……」
えへんと胸を張って目をキラキラさせながら語る迫水と対照的に、宮藤はなんだか疲れた様子になる。
そこにエル姉も同調。
察するに、道中ずっとこの変態のののろけをずーっと聞かされたわけダナ。
お疲れ様だ宮藤。良く頑張った。
「はじめまして宮藤サン。私はカールスラントのハイデマリー・W・シュナウファー。さーにゃんのお友達ですよ」
「はいっ。宜しくお願いします……おっぱ……おっきい……」
「どうかしましたか?」
「あ……いえ、何でも無い何でも無い何でも無いですっ!」
ハイディを見て案の定な反応を示す宮藤。
ふふーん、ソウダ。
「オイ宮藤」
ぐっと宮藤の首に腕を回してヒソヒソ話モード。
気を引き締めて極力真面目な表情で話を切り出す。
「わっ、と。何ですかエイラさん?」
「ふふーん、宮藤お前、ハイディのおっぱい触りたいんだろ」
「え、ええっ!?」
「顔に書いてあるぞー」
「いえっ、あの……そういうわけじゃっ……」
「ヤメトケ」
図星を突かれてしどろもどろになった宮藤にぴしゃりと言い放つ。
「え!?」
「実はさっきさぁ、ルッキーニがいつもの調子でやったんだよ。そしたら彼女泣いちゃってさー……だからヤメトケ」
真顔で言って、内心は「にひひ」って感じだ。嘘はついてないぞ。泣いたのは事実だからな。
「そうなんですか……そうですよね、気にしてる人だっていますものね。残念ですけどわかりました……って、わたしそんなことしませんよ!」
「どうだかなー」
「お二人とも、何か?」
「えっ……何でも無いっ、何でも無いですよっ」
慌てる宮藤を見て満足する。
私一人が触れないんじゃ悔しいもんな。
「きゃっ!」
「あれ? 迫水さん!?」
なんか、悲鳴が突然上がるのにも大分慣れたぞ。
今度のルッキーニの犠牲者は迫水のかー。アイツはなんていうか事前のリサーチ無しでとりあえず触ってみようって感じだよな。
私の場合はまず見た目で判断してから触るんだ。同じことをやっているようで明確なスタンスの違いがあることを忘れないで頂きたい。
「ウジュ~……残念賞~。見た目どおりだね~」
「ちょっとぉ! このパスタいきなりナニをっ!!」
叫ぶ迫水を無視して今度は宮藤へ。
迫水の事だからもっとヒートアップするかとも思ったけど、「これだからロマーニャ娘は……」とか何とかぶつくさいいながら睨み付けるだけだ。
そういえばジュゼッピーナとかって言うライバルも居たんだよな。その辺でロマーニャ娘には苦手意識でもあるのかな?
「ウシュシュッ。今度は芳佳の~」
「わわ……っと、も~ルッキーニちゃんは相変わらずなんだから~」
「芳佳も相変わらず残念なんてツマンナ~イ」
「ひどい! コレでも大きくなったんだよっ!」
「へへ~ん、大きくなったって言うのはこういうことを言うんだよ~だ。ホラッウリウリ、背中でわっかる~?」
おおっ、ルッキーニが宮藤の背中に胸を押し付けてる!
アレは新しいアプローチだな……ハイディ級の胸にあんなことされたら……宮藤なら昇天モノだな。
まあでもおっぱいの事ばかりしか見てなかったけど、ルッキーニって身長も伸びてるな。
宮藤にピッタリくっついてるからよく解る。もう暫くしたら身長とかも宮藤を追い抜いちゃったりして。
「お……おおお? おー……本当だ、おっきくなってる。すご~い!」
「ニシシ。コレからもっと大きくなって16歳の頃にはシャーリーみたいになるもんね~」
「ルッキーニちゃん!」
早業で振り返り、向かい合わせでルッキーニの両手を左右から包み込んだ懇願のポーズを作る宮藤。
「な、なに!?」
「これから毎年確かめさせて!」
「イーヨ」
「ほんとっ?」
「うん、まぁなんにも用意してなかったしさ、アタシから芳佳への誕生日プレゼントってことでネッ」
「うんっルッキーニちゃん」
「ああもう……なんていうかロマーニャ娘には碌なのがいないわね……」
一人悪態をつく迫水には慈愛の塊のような人であるエル姉が話しかけていた。
「ハルカさんもお久しぶりです。でも、来るなら事前に連絡してくれれば良かったのに」
「結構急に来ることになったんで、折角だから驚かしちゃおうって事でナイショにしてたんです」
「ふふふ、とっても驚きましたよ……ところで、その服かっこいいですね」
「良くぞ気付いてくれましたぁ。トモコ少佐につりあうオンナになる為に、不肖この迫水ハルカ一念発起いたしまして、先日めでたく士官になりましたっ!」
詰襟の扶桑海軍士官服を強調するように両手を広げてくるりと一回転する扶桑海軍の誇る変態迫水。
坂本少佐や竹井少佐と揃いの服には違和感ありまくりだな。
「あ、そうだサーニャちゃん。これ、私と坂本さんと迫水さんからの誕生日プレゼントです」
一通りの挨拶が済んでから、宮藤が脇においてあったらしいちょっと大きめの風呂敷包みを持ち上げて差し出した。
「え、でも、わたし芳佳ちゃんへのプレゼント用意して無い」
「そんなの気にしないでいいよ」
「うん、私たちがサーニャちゃんに喜んで欲しくて持ってきたんだから、受け取って喜んでもらえるのが一番よ」
「気にせず貰っとけよサーニャ。今日は主役なんだから遠慮なんてすることナイッテ」
中身に想像を巡らせながらサーニャを促す。
大きさと言い、持ち上げた時の重さの雰囲気と言い、二人の国と言い……アレは扶桑人形だな、きっと。
宮藤が持ってるのとお揃いの穴拭少佐か、はたまた坂本少佐かあたりかな?
「うん。ありがとう。芳佳ちゃん、ハルカさん。あけてもいいですか?」
「いいよ、あけてみて」
風呂敷包みをテーブルの上においてから丁寧に結び目を解いていくサーニャ。
中からでてきたのはしっかりしたつくりの箱で、底面以外の部分がそのままふたになっているようだった。
皆興味しんしんでテーブルを囲み、サーニャの行動を見守っている。
「あんまり見られてると、恥ずかしいよ」
そう言ってちょっと顔を赤らめながら左右から両手で蓋を持ち上げる。
そんなサーニャの表情に見とれていたわたしは、皆からの歓声にワンテンポ遅れて反応した。
「わぁ、すてき……」
ゑゑゑっ!? ってぇ!? ワタシジャナイカー!!!
「エイラさんかっこいいですね~」
「良く出来てますね、ストライカーの作りこみまで……すごい」
「おおっ! これはちょっと、いやかなりあたしも欲しいぞ」
「ニヒッ、エイラも扶桑デビューだねっ」
「ありがとう芳佳ちゃん。わたし、大切にするね」
みんなの感想に、追い討ちをかけるようなサーニャの一言。
だいたいこんなもので喜ぶはず無い……って、本人喜んでるからそこは否定のしようがないんだけれど、もっとアクセサリとか女の子の喜びそうなものと買ってあるだろ!
しかも、よ、よりによって……わたし……ううっ、やっぱりなんか恥ずかしいじゃないか。
「ちょ、ちょっとちょっとちょっと宮藤!! これ、なんでわたしなんだよ!」
「え、何で……って、サーニャちゃんが喜ぶと思って……」
「うん、すごく嬉しいよ。本当にありがとう、芳佳ちゃん」
っていうか、そりゃ嬉しいのかも知んないけどさ、なんでそこで鼻を啜る音させるほど感涙に咽ぶかなぁ。
「ででででもわたしだぞ! 本当にこんなのでいいのか!?」
「だってホラ、エイラかっこいいよ」「ですよね、すごくかっこいいです」
二人は其の扶桑人形に顔を寄せ、6分の1くらいと思われるサイズのわたしの向こうからカッコイイを連呼。
「お、イッル赤くなってるな。さては照れてるのか~」
「あ、ホントだ~。こっちのエイラはかっこよくて、そっちのエイラはカワイ~」
うぁ、よりによって二人も参戦かよ。
ちなみに言うとハイディはニコニコしながらやり取りを見ている。幸せそうなサーニャを見るのが幸せといった風情だ。
人を茶化さないおっぱいはいいおっぱいだな。ああ、さわりたい……じゃなくてこの場を何とかしないとっ!
「そっそそそそんなわけないだろ! だだだだいたい、こんなの作られるなんて聞いてないぞ!」
何でどもるわたし! 動転してるのバレバレじゃないかー。
「あ、それでしたら随分昔に扶桑の業者からスオムス空軍に打診があったんで喜ぶと思って許可しておきました」
「犯人はエル姉かよっ!?」
「はい、扶桑人形の【世界の航空エースシリーズ】ですよ。スオムスいちの撃墜数を誇るエイラさんが選ばれるのは当然だと思います。とっても誇らしいですよ」
えへんと自分の事のように胸を張るエル姉だけど、ちゃんとわたしの許可も取ってやれよ!
「聞いてないぞ! だいたいホラ、肖像権とか何とか色々あるじゃないか!」
「はい、そういうのは軍が管理してましたんで、上司であるわたしが責任を持って報酬を離散家族支援にまわしましたよ。サーニャさんみたいにバラバラになった家族が一人
でも多く幸せになれたら素敵ですよね」
「くっ!?」
天使のごとき笑顔で語るエル姉。天然いい人オーラがここまで強烈だったとはっ!
でもサーニャを引き合いに出されたら何もいえなくなるよな……。
「だからって、教えてくれてたっていいじゃないか」
「あれ? 言ってませんでしたっけ?」
「何も聞いてないぞ」
半眼でエル姉を睨みつけ、迫る。
「え、でも確か今回の件の案内とその他の作品紹介のパンフレットを貰って……あ」
更に距離を詰めながら一言。
「執務室のデスクの中、とかいうんじゃないだろうな、エル姉」
「あ、あははははは……ごめんなさい」
ああもうっ!
「エル姉のバカー!!!!!!」