無題


「暑いよ~…」
「あぁっつー…」
「あち~…」

ここ数日、やたらと暑い日が続いてる。
そのおかげで、ウィッチーズ基地内では1日中「暑い」って単語が飛び交ってんだ。もちろんあたしもその一人だけど。

こまめにシャワー浴びたり海で泳いだり薄着したりでなんとかやってるけど、さすがにこう続いちゃ嫌になる。

「ああもう、こう暑い暑い言われては余計に暑くなりますわ!」

ペリーヌが突然そう叫んだ。
まぁ気持ちはわかるけど、こいつはまず薄着したほうがいいんじゃないかな。普段着のままだし。

「じゃあさじゃあさ、これから『暑い』って言っちゃダメなゲームしない?」

ソファーに寝転んでいた、ペリーヌとは正反対で下着姿のハルトマンがそう持ちかけた。

「ゲームって事はペナルティ付きか?」
「もちろん。それぞれに専用の決めようよ」

あたしの質問ににやにやするハルトマン。こういうの考える時はほんとに楽しそうだな、この人。

「おもしろそーじゃん。私にも考えさせろよー」

もう一人、こういうのが好きなスオムス人が話に入ってきた。
北国出身の癖に、サウナで暑さに馴れてるせいか幾分他のみんなよりは辛くなさそうだ。


「ペリーヌは一週間少佐にうっとりするの禁止ね」
「な…!私はやるだなんて言ってませんわ!」

早速ペリーヌも巻き込まれた。

「じゃあ、宮藤は一週間おっぱい禁止だな」
「えぇーっ!!」

おっぱい禁止って何だよ。

「リーネは一週間おやつ作って~」
「バルクホルン大尉はご飯なー」

これはペナルティっつーか、願望じゃん。

「ルッキーニは昼寝禁止でー、そんでサーニャは」
「サーニャはいいんだよ!寝てるから!お前はゴミ一つなくなるまで片付けだかんな!」
「なんだよー、じゃあエイラはサーニャ禁止だからね!」

サーニャ禁止も何なんだ?
ハルトマンのもペナルティっつーかなんていうか…

「ウジュ~、アタシが昼寝禁止なんだったらシャーリーは整備禁止!」
「おいおいルッキーニ」

ルッキーニにあたしのペナルティも決められた。しかもかなりツラい。

「はっはっは、楽しそうではないか。なら、ミーナのペナルティは私が決めよう」
「美緒…そういう事なら、美緒のも私が決めさせてもらうわね」

少佐と中佐はなんか二人の世界だな…

「よ~し、じゃあ期限は今日の夜まで!では我慢ゲーム開始~!」

ハルトマンの声とともに、よくわからないままゲームが開始(?)された。


……

…………

「……あついー…」
「はい、ルッキーニ失格~」
「うにゃ!」

あーあ。ルッキーニってば、早速やっちまったよ。
素直だから、思った事がすぐ口に出ちゃうんだよな。向いてないな、こういうゲーム。
でも今日は特に暑くて、気を抜いたらあたしも言っちゃいそうだ。整備禁止はツラい。頑張れあたし。


―――


それからしばらくして、夕方。
訓練中に宮藤とリーネも失格になり、ペリーヌもつい口走っちゃったらしい。

「おっぱい禁止…うぅ…」
「よ、芳佳ちゃん元気出して…」
「あぁっ、少佐にうっとりしないなんて無理ですわ…」

だからおっぱい禁止ってなんなんだ。

「う~ん、みんななかなか粘るね」
「そりゃそうだ、ペナルティなんて嫌だし」

ハルトマンはどうにかして自分以外の奴に言わせたいらしい。

「あっ」

エイラが突然声を上げた。見ると、起きてきたらしいサーニャがふらふらと歩いていた。

「サーニャ、起きたのか」
「……エイラ…」

駆け寄ったエイラに、サーニャは抱きつくようにして寄りかかった。

「さ、サーニャっ!!」
「ん~…むにゃ…」
「ひゅーひゅー、ラブラブだねぇ」



からかうハルトマンの言葉に、エイラは真っ赤になってわたわたとし出した。

「ち、違っ…もー、あつい!あちーよ!」
「あ、エイラ失格~」
「ちょ!今のは違うだろ!」
「ダメで~す、はいサーニャ禁止~」

ハルトマンは寝ぼけたサーニャを奪い取り、あたしに預けてきた。
これが“サーニャ禁止”か。

「あまり苛めるなよ、エーリカ」

バルクホルンがため息混じりに諌める。こいつは嫌なペナルティじゃないんだから粘る必要ないのに、油断しないところはさすが堅物というか。

「トゥルーデも強いなぁ」
「ふん。お前の始めた遊びでヘマをする訳にはいかんからな」

崩すのはなかなか手強そうだ。
するとしばらくバルクホルンを見つめていたハルトマンが、突然ぱたぱたとキッチンへ走っていった。

「そんなトゥルーデにはこれをあげよう!」

戻ってきたハルトマンが持っていたのは…冷えた水が入ったグラス。
氷がいくつも入ってて、マジで冷たそうだ。う~、うまそう…

「……何を企んでいる」
「やだなぁ、大尉殿の我慢強さに敬意を示しただけですよ」

バルクホルンは不審そうな顔をしていたが、それを受け取った。暑いもんは暑いんだろう。


「あたしにもくれよ、ハルトマン」
「シャーリーは自分で取って~」

おいおい、あたしだって“我慢強い大尉殿”だぞ。大体今残ってるメンバー、みんな上官じゃないか。敬意示せよ。

「じゃあ堅物、あたしにもそれ……って」

水を分けてもらおうとバルクホルンを見たら、何かおかしかった。暑いから、みんな頬とか赤くなってるけどこいつのは異常だ。なんか目も潤んでる。

「トゥルーデ」
「ひゃ、…」

ハルトマンが抱きつくと、バルクホルンの体がびくっと震えた。
……まさか。

「……あつ、ぃ…」

色っぽい吐息と共に、そんな言葉がぽつりと漏れた。

「失格ね、トゥルーデ」
「ぅ…卑怯…だぞ、エーリカぁ…」

ふるふると震えるバルクホルンに、耳に息を吹き掛けたりして攻めるハルトマン。ていうかよそでやってくれ。

「シャーリー、残りの水いるんならあげるよ」
「いや、遠慮しとく」

変なクスリが入ってそうな水なんかいるか。

「ふむ、バルクホルンも失格とはな」
「フラウ、人前なんだから慎みなさい」

左官コンビはさすがに余裕だな。慎め、と言いつつしっかり少佐の手を握っちゃってるとこも中佐らしいというか…


「ミーナはペナルティなんにしたの?」

変わらずバルクホルンの体を撫で回しながらハルトマンが尋ねた。そんなにくっついて暑くないのか?見てるこっちが暑いよ…

「ふふ、内緒」
「……」

立てた人差し指を振って微笑む中佐を、少佐がじっと見つめる。

「ミーナ、私も知りたいな」
「え?」
「私と同じ事を考えているような気がしてならないんだ」

眼帯をずらし、魔眼を見せた少佐がふっと笑った。途端に中佐はぽっと赤くなる。
『君の考えてる事は(魔眼で)お見通しだよ』って感じか?凄い口説きだなぁ…本人は口説いてるつもりないんだろうけど…

「…今夜はずっと部屋にいてもらおうかしら…って思ってたの」
「それペナルティじゃないじゃん」

あっ、ハルトマンに突っ込み取られた。

「そうか…私は、今夜は寝かさないと言うつもりだった」

それもペナルt(略)

「……」
「……」

少しの沈黙の後。

「…暑いわね、美緒」
「あぁ。暑いな、ミーナ」

一言交わし合い、二人は廊下へと消えていった。

「あれ、アリか?」
「んー…いいんじゃないの」

ハルトマンはバルクホルンを好きにしているから他はどうでもよくなったようだ。


「もう夜だし、タイムアップだね」
「じゃあ、勝ったのはあたしとあんただけって事か」
「そだね。整備禁止回避おめでとシャーリー」

祝われても微妙だけど、整備禁止にならなかったのは確かに嬉しい。

「じゃ、私らも部屋行くね。おやすみ~」
「おやすみ~。ほどほどにしときなよ?」

フラフラしているバルクホルンを支えて、この騒ぎの元凶も消えていった。

気がつけば、ロビーにいるのはあたしと寝てるサーニャと、サーニャ禁止のショックで石化したエイラだけだった。

「エイラ、大丈夫か?」

肩を揺すると、固まっていたエイラがはっと目を覚ました。

「さ、サーニャは…」
「あんたはサーニャ禁止なんだろ、だからあたしがもらってくね」
「なっ!ちょ、待てー!」

ひょいとサーニャを抱き上げて、さっさとロビーから退散した。

「くそー!今度いやってほど揉みしだいてやるかんなー!!」

エイラの叫びを背中に受けながら、サーニャの部屋に行きベッドに寝かせてやる。
まぁ、禁止って言ってもサーニャの方からエイラの側に行くんだろうし良かったじゃないか。

自分の部屋に戻り、ベッドに突っ伏しながら今日1日溜まった分を吐き出した。

「あぁー、あっつー!」

今夜もこの基地は暑くなりそうだ。色んな意味で。


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