milk tea


食堂に素敵な香りが漂う。
「出来たよ、芳佳ちゃん」
リーネが持ってきたティーポット。
テーブルに置かれたティーカップにそっと注がれるのは、セピア色にも似たミルクティー。
「良い匂い」
芳佳がミルクティーを見て、ふと呟く。
「普通はお湯で淹れるんだけど、牛乳に茶葉を入れて、そのまま煮出して淹れるんだよ」
リーネが説明する。
「へえ。どう違うの?」
「飲んでみて」
芳佳は勧められるがまま、そっと口をつけた。
食後や午後のひとときに飲む普通のミルクティーと違い、牛乳のコクが前面に出た濃厚な味わい。
紅茶もひときわ強く自我を主張して、決して牛乳の味に負けていない。
でも、どちらが喧嘩している訳でもなく、飲む人を優しく包み込む様に、温かく柔らか。
「おいしい、リーネちゃん」
「良かった。気に入って貰えて」
「ありがとう」
ほっと一息いれる芳佳。そんな彼女を見て微笑むリーネ。
「これ、少し入れるともっと美味しくなるよ」
「ハチミツ?」
「そう。ホントは寝る前に飲むと落ち着くから良いって話だけど」
「ありがとう」
芳佳はスプーンでハチミツをすくうと、ミルクティーに垂らした。つつと糸の様に流れ落ち、茶色の中に溶けて消えていく。
芳佳はそっとかき混ぜ、口にした。
「甘くて美味しい」
「良かった」
「リーネちゃんも飲もうよ。一緒に」
「うん」
食堂の片隅、二人だけで味わうミルクティー。腰掛け、肩を寄せ合い、静かに味わう。
「今日は大変だったね」
芳佳はリーネに話し掛けた。
「そうだね」
「せっかくのリーネちゃんの誕生日祝いなんだから、もうちょっとみんな……」
「まあまあ、芳佳ちゃん」
苦笑するリーネ。
「色々大変だったけど、でも、私はそれでも良いの。何だか皆楽しそうだったし」
「確かに、最後はみんな楽しそうだったね。そう言えば、ペリーヌさん意外だったよね。私ちょっと感心しちゃった」
「芳佳ちゃんたら。ペリーヌさんはああ見えて優しい人だよ?」
「そうなの? まあ、いいけど」
ちょっと不満そうな芳佳は、ミルクティーを一口飲んだ。リーネも一緒に飲み、芳佳に言った。
「それにね。芳佳ちゃんからお祝いして貰えただけでも、私は満足だから」
「リーネちゃん」
微笑むリーネ。一緒に芳佳も穏やかな笑みを見せた。
その笑顔に紅が少し差し……ふたりはそっと顔を近付け、口吻を交わす。
少し長めのキスを終え、唇が離れた。
「お誕生日、おめでとう。リーネちゃん」
芳佳は改めて言った。
「ありがとう、芳佳ちゃん」
リーネはとびっきりの笑顔で、芳佳を見た。
二人の後ろ……洗い場には、山積みになった誕生祝いパーティーの皿やらコップなど、片付けものが溜まっていた。
そう、今は二人で片付けの途中の、休息の時間。
二人だけの台所。先程までの喧噪もなく、静寂が支配する。
ゆったりと立ち上るミルクティーの湯気が、ふたりをそっと包み、やがて消える。
まだまだ片付けるもの、洗うものは沢山ある。でも、今の二人ならあっという間に終わるだろう。
その時間すら、ふたり一緒に居られるだけで楽しいに違いない。
事実……ふたりはもう一度お互いを味わう行為に耽っていた。
片付けがいつ終わるかは、二人だけが知っている。

end


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