スオムス1946 ついてない喫茶店の風景


「しっかし、緊急で召集してよくこれだけのメンバーが集まったな……」

 集まった連中を見渡して、ハカリスティの制服(?)であるウェイトレス服に身を包んだあたし、ニッカ・エドワーディン・カタヤイネンは呟いた。
 店主とその嫁(悔しいが認めざるを得ない)が夜の水浴び場で不埒な事をした結果病欠ダウンした喫茶ハカリスティは本日緊急編成だ。

「そうですね。エイラさんの人徳ですかねー」

 幸せそうな顔で微笑みながら言うのはエル姉ことエルマ・レイヴォネン。

「いや、あの……緊急事態って、この店を手伝う事、だったのか? ニパ、エルマ……」

 しっかりと戦闘服を着込み、脚には国産ストライカーユニットのピョレミルスキを装着し、その手にMG-42を持って困惑した表情を浮かべているのは極北のマルセイユことハンナ"ハッセ"ウィンド。
 っていうかエル姉ってばどういう伝え方したんだ?

「いい加減ハッセもエル姉の言動に惑わされないようにしなさいって……」

 普段着のまま呆れ顔で突っ込みを入れているのは空軍時代には良くつるんでたエリカ・リリィ。
 コイツは多分だがこの中で一番の常識人だ。

「では、私はさーにゃんの看病に集中しますね」

 真摯な表情で揺れるおっぱいは実は呼んでいない、というか呼ぶコネなんて無かったのに勝手にやってきたおっぱいの人だ。
 名前は確かハイデマリー・W・シュナウファーだったか? とにかくおっぱいが大きいんで害は無いと思う。
 自分で言ってるんでサーニャちゃんの面倒は見てくれるだろう。多分ついでにイッルの分も。

「ワタシが来たからにはもう安心ネー」

 底抜け能天気に安心宣言を出すおっぱい二号はキャサリン"クラッシャー"オヘアだ。
 おっぱいは大きいがコイツはきっと何かをやらかすと思う。揺れるからっておっぱいばかり見てたら絶対後で痛い目に合いそうだ。
 ……っていうか誰だよこいつ呼んだの? エル姉か! エル姉なのか!?
 
「所でエル姉、他のメンバーは何となくわかるんだけどなんでコイツまでいるんだよ」
「はい、人手は多い方がいいと思いまして、丁度フィンランド湾にレキシントンが来ていたのでちょっと呼んじゃいました」
「ミーとエルマはとっても仲良しさんねー。お友達が困ってたらお仕事よりも優先よー」

 オヘアがエル姉に抱きついて困った事を言っている。つまり本来の仕事を放って来たって事かよ。
 しかしまぁ、知り合いのツテってのは恐ろしいもんで、喫茶店の手伝いだってのに名だたるエースが揃いやがった。
 寝込んでるイッルも含めればスオムスのトップ3揃ってるし、夜戦最強おっぱいはいるし、いろんな意味でのクラッシャーおっぱいもいる。
 今この瞬間ネウロイの再侵攻が始まったとしても全部叩き落せるんじゃないか?

「既に開店時間を回っているようじゃないか。こうして雑談をしていても埒は明かないだろう。ニパ、ここに慣熟しているお前が指揮を執って我々を使え」
「そうね、一ヶ月お店やってるんなら色々わかってるんでしょ」


 根も態度も真面目なハッセと常識人のエリカが全うな意見を出す。
 あたしもそのつもりだ。
 とはいえサーニャちゃんのオラーシャ料理だけはここで再現できる人材がいないんで、今日はメニューをサンドウィッチとコーヒーに偏らせて提供するしかないだろうか?
 いや、もしかしたら意外と料理が上手な奴もいるかもしれないから一応確認はするべきか。

「とりあえず、スオムス組はサンドウィッチとコーヒーはいけるな。あとはオラーシャ料理できる奴はいるか?」
「はい、私少しなら出来ますけれど、飽くまでも出来るのは少しなんでメニューにあるものを上手く再現できる自信がありません……ごめんなさい」
「あ、私もできますけれど……残念ながらさーにゃんの看病に来たのでお店は手伝えません」
「ハーイ! リベリオンのバーベキューするね。お肉いっぱい焼くよ。食べるよー」

 エル姉は自信なさそうにしてるけどそれはいつもの態度だし、家庭的な事は得意だし、サーニャちゃんと料理の情報を交換してたみたいだし、多分それなりに信用できるな。
 おっぱい一号は……まぁ、サーニャちゃんのことを任せておけばいいか。とか考えているとさっさと奥へ引っ込んでしまった。マイペースな奴め。
 おっぱい二号は……っていうか何でバーベキューだよ! 連れ来たの誰だよ! エル姉か! クソッ、とりあえず無視だっ。

「ハッセ、とりあえずストライカー脱いで、リリィも一緒に着替えろ。服はイッルのやつならサイズ的に着れるだろ。ハッセがウェイターでリリィがウェイトレスで行こうか」
「了解した」

 服装の指定に関してはぶっちゃけあたしの趣味だ。異論は認めない。

「エル姉はとりあえずエプロンだけつけて厨房に頼む」
「エプロンだけって!? は、はだっ……」
「んなわけあるかっ! そのままの服でいいから袖まくってエプロンだけつけてろってんだよ!」

 何でそういう方向性の勘違いするかな……。
 あたしの中ではありだけど、さすがにさせらんないな。

「こんな事もあろうかと自前の衣装を持ってきたねー。じゃじゃーん」

 口での効果音付きで何だか服を取り出す二号。
 馬鹿でかいおっぱいを強調するような殊勝なデザインだ……っていうか衣装じゃねーよ。
 頼むからつれてきた奴は責任とってコイツを引き取ってくれ。エル姉じゃ無理なのはわかってるけど。
 とか嘆いてるうちにお客さんが入り始めた。
 オーダーを取ってエル姉に回す。
 程なくして着替えを終えたハッセとエリカが合流し、一気に昼のラッシュへと雪崩れ込んでいく。
 普段から何がどこにあるかをサーニャちゃんが良く整理していたのとエル姉の家庭的スキルのお陰で意外と店は回る。
 しかし前々から思ってたんだが、ここって喫茶店のはずなのにすっかり復興作業員専門の食堂になっちまってるよなぁ。
 イッルもサーニャちゃんもその辺に意義を見出してるみたいだからいいんだけどさ。
 そんな事を考えながら店内を見回すと、リリィが難なくオーダーをこなしてるのはいいんだがハッセが何だか流しで苦戦してるようだった。

「どうしたんだハッセ?」
「ん? ああニパ。どうにもこの汚れが気になるんだ」

 見るとハッセは流し台についた傷についた汚れと格闘していた……いや、そんなのいいからさっさと食器を洗えよ。
 真面目で凝り性なのも考え物だな。

 そこはいいよ、と一言だけ言って自分の仕事に戻ろうとすると、顔が柔らかいものに埋まった。

 それはばかでかいおっぱいだった。

「うぶっ」
「オー、ニッカは積極的ねー」

 これは役得……いや、何でこんな高い場所におっぱいがあるんだ?

「ちょっとなんだコレ!?」

 慌てておっぱいを押しのけると、信じられないほど軽い手ごたえが返って来てキャサリンの姿が急激に遠ざかり、おっちゃんたちの座るテーブルへと滑らかな動きで近づいていって……。

 どんがらがっしゃーん!

 ちょ!!! 一体ナニがっ!?

「突然押しては駄目ねー。まだローラースケートにはストライカーほど慣れていないよ」
「何だそりゃ! 何でそんなもの履いてるんだよ!」
「見れば解るね。ローラースケートよ」
「だからなんでそんなもんここで履いてるんだよ!」
「ミーはこういうのに憧れていたね。チャンスをくれたエルマとニッカに感謝ねー」

 言いながらよろよろと立ち上がって、そのまま抱きついてくるキャサリン。
 行動に悪い気はしないんだが、アレだ。
 悪気が無いだけ性質が悪い。
 初めから悪戯するつもりで奇行に走るイッルの方が何倍もマシだ。
 ついでに周りのおっちゃん達も怒ればいいのに笑ったり歓迎したり口笛吹いたり「もっとやれ」とか言ってるから更に性質が悪い。
 もうあたしに出来る事といったら大きなため息を一つついてから、

「とりあえずそれは脱げ。抗議は全部却下だ」

 と、言う事だけだった。

「残念ねー」

 当の本人はさして残念そうでも無く笑顔でそう言うとローラースケートを脱ぎ始めた。
 ま、ああいうオプションでもなければ騒いだりぶっ壊したりするにも限度があるだろうから後はもう大丈夫だろ。

「キャー!」

 ってなんだこの悲鳴!? エル姉かっ!?

「どうしたッ! 何があった!?」

「ででで出ましたっ!」
「冷静に状況を報告しやがれ! 少佐だろ!」
「ねっ、ねねねねね……」
「ね?」
「ネズミさんですっ!」
「そんなんでいちいち騒ぐなっ!」
「で、でも~」
「でもじゃない! 小動物でいちいちびびんな! 使い魔だって同じようなもんだろうに」

 なんかまだ色々と小声でぐちぐち言うエル姉を無視して背中を向ける。
 っていうか、何だってこんな事になってんだ?
 あたしか! あたしのせいか! あたしがついてないからこうなのか!?
 いや違う! 断じて違うっ!
 そもそもイッルがヘタレなせいだっ! そういう事にしとかないと収まんないぞっ!
 憤慨しながらも丁度コーヒーのオーダーが入ったんで煎れる。
 コレがなかなか湯加減とかあったりして難しい。
 冷静でないと出来ない作業なんで、結果的にではあるけれど目の前の豆やカップ達と向かい合う事によって心の中のカリカリした部分が追い出されていく。
 ふぅ、ちょっと落ち着けたか。

「ねぇニパ」
「ん、何だエリカ」
「キャサリンがまた暴走してるんだけど私は止められる気がしないのよね」
「ゑ?」
「コーヒーの方替わるから宜しく」

 と、いいながらこちらが呆気に取られた隙を利用してすすっと身体の位置を入れ替える。
 しまった、逃げ場を奪われた。
 仕方なく店内を見回すと、キャサリンが赤と白で彩られ青色で文字の書かれたリベリオンビールのビンを客のおっちゃんたちに配っていた。
 しかも大量に。
 あんなのいつの間に用意したんだよ……。
 横目にハッセがサンドウィッチのパンのエッジを綺麗に切りそろえる為に頭を悩ませているようだったがもうそんなことはどうでもいい。

「おいっ! お前一体何やってんだよ」
「ミナサマに監査の気持ちねー」
「うちにはそんなのメニューにないっての!」
「大丈夫ねー。全部ミーのポケットマネーで揃えたよ」
「コレ全部をか?」

 いつの間にか積みあがっていたボトルケース。
 っていうか良く見ると外でリベリオンのフライトジャケットを着た女の子が動き回ってるじゃないか。
 コイツ部下まで動員しやがったのか!?
 クソッ! マジで常識が通用しない!
 そしてノリのいいおっちゃんたちはまだこの後も作業があるだろうってのに呑む呑む呑む!
 最早手遅れだった。

 既にイッルとサーニャちゃんのこの小さな喫茶店はリベリアンの魔の手によって収拾がつかない程の混沌と化してしまった。
 うう、イッルたちの為に良かれと思って人を集めたって言うのに……。
 所詮あたしのやる事は全部裏目かよ。
 うなだれているとぽんぽんと肩を叩かれ、

「元気出すねー。いっぱい頑張ってるユーにもお裾分けヨ」

 能天気な声で話しかけながら良く冷えた紅白+青のボトルを頬っぺたに押し付けられた。
 ひんやりとしたそれの感触。
 底抜けの笑顔。
 何かどうでもよくなったあたしはビンをひったくると一気にそれを煽った。
 ノリのいいおっちゃんたちも囃したて、あたしも加速する。
 なんか店のコッスも煽りだしてエル姉やハッセに止められた様な気もするけどちょっと飲みすぎたせいでなんかもう覚えてない。


 …………。
 で、どうやら最終的にはサウナを経由せずに水浴び場へと飛び込んだらしい。
 そして今あたしがどうしているかというと……。

「まさか一日で立場が逆転するとは思わなかったな」
「うん、でも大丈夫? ニパさん」
「う~……あたま痛いぞ……げほ、げほ」

 なんというか、二人の替わりにキングサイズのベッドに一人で横になっているわけだ。
 一緒に飛び込んだらしいキャサリンはその後酔っ払いながらもピンピンしながら帰ったらしい……ストライカーで。
 混沌空間と化した店内はエル姉、ハッセ、エリカが何とか片付けてくれたみたいで、ハイディの奴も二人の看病を無事完遂したようだ。

「こらこら、身体起こすなよ。まだ熱高いんだからさ」
「はい、冷やしたタオル、替えるね」
「ん……」

 イッルの言葉に従って身体を楽にすると毛布を直してくれた。
 そしてそのままサーニャちゃんにおでこのタオルを取り替えてもらう。
 正直かなり辛くて物を考えるのも億劫だが、コレはコレでもしかして幸せかもしんない。
 なんせこの二人がお互いに求め、しかし今回は結局果たされなかったお互いに看病してもらうっていうイベントをあたし一人でこなしてるわけだからな。

「わ、オマエなにをニヤニヤしてんだよ。熱が脳に来ちゃったか!?」
「だ、大丈夫? ニパさん」
「んふー」

 二人の心配する声を聞きながら手を伸ばしてその頭を抱き、にへらーっとしながら胸に抱いてみる。
 イッルが抗議の声を上げるけど無視で、熱に浮かされた衝動に任せてみる。
 二人とも大好きだぞー、って。
 心のどこかで、こんな事普段じゃ出来ないなー、後でからかいのネタにされるかなー、でもそれもいいかなーとか思ってみたりしながらまた意識が遠のいていく。

「エイラさーん。氷水もってき……ひゃっ!」

 ずるっ。
 ばしゃ。
 がらん。

「つ! つめたっ!!!」
「エル姉っ!」
「エルマさんっ!」

 どこかでそんな声と音が聞こえた。
 漠然と次のかぜっぴきはエル姉かぁ。
 とか思いながら。
 私は眠りについた。



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