あした天気になあれ


 夕焼け小焼けの逢い引きの帰り道。カラスの群れが鳴いている。
 みるみる世界は赤々と染めあげられ、じきに日は水平線の向こうに隠れてしまう。
 潮のにおい。波の音。どちらともなくつないだ手のひらのぬくもり。
 黄昏時。
 でも並んで歩くあなたのことを、他の誰かと間違えることはない。
 その姿をたしかに瞳に宿しているから。どんな暗闇だってありありと輪郭を思い浮かべられる。

 今日はすっごく楽しくって、けれどもうじき終わってしまう。
 それを切ないと思ってしまうのは夕日のせい?
 だけど、過ぎていく日を惜しんでも、悔やみたくはない。
 それよりも明日を見つめていたい。どこまでも期待したい。
 今日の続きに明日があって、明後日があって、そんな日々が続いていったらいいのにな。

「ねぇ、リーネちゃん。こんなの知ってる?」
 私は靴のかかとをずらすと、おもいきり足を振りある。
「あーした天気になーれっ!」
 そして前へと靴を飛ばした。願いをこめて。

 明日あなたの見あげる空が、明るく晴れていますように――

 放たれた靴はみるみると舞いあがっていく。
 落日の空に描かれる放物線。
 地面にぽんと一回跳ねると、ころころと転がりはじめる。

 裏、表、裏、表……

 おねがい、表が出て!

 横……裏……横…………表。

 やった! 表だ!

「これね、扶桑のおまじないなんだ。靴を飛ばして表が出たら明日は晴れ」
 私は自慢げに説明した。飛ばした靴の元へとけんけんで向かいながら。
「じゃあ明日は晴れだね」
「うん」
 うなずこうとして振り返り、私は思わずこけそうになる。
 でも間一髪でリーネちゃんが手をつかんでくれた。
「だいじょうぶ?」
「うん、ありがとう」
 苦笑いをしながら答える私。微笑みかけたあなたに見とれたなんて言えるはずもなくて。
 寄りそうように私はリーネちゃんに身を任せた。
 リーネちゃんの顔が赤い。
 それはなにも、夕日に染められたせいばかりじゃない。
 今の私も同じ色をしているに違いない。
 あなたは少しだけ私より背が高くって、だから私はほんのちょっと背伸びをした。

 茜色の空の下。
 長く長く、ふたつの影が伸びている。
 そのふたつがまじわるように重なって――
 そうしてやがて、ひとつになった。


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