If.<イフ> -ジ・アナザー・ストーリーズ-CASE 04:"CRIME OF RIOT"


 世界には貧富の差や治安の良し悪しが様々にある。ここブリタニアの地においてもそれは例外ではなかった。富んでいる者は他者に施すほどの金が
あり、貧しいものは軽食を買う金すらない。治安の良いところは警察官は警察署警備員-自宅警備員を模したたとえ-と快く見られることはなく、治安の
悪いところは小さな軍隊さえ点在するほどである。そして治安が悪い地域において軍隊が存在することには、常に軍隊と悪者どもとの戦力差を視野に
入れなくてはならないというおまけもついていくる。ギャングやマフィア連中がもしも軍隊に対抗するべく戦力を整えてしまうと、軍隊でさえ歯止めが
効かなくなってしまう。小さな軍隊で手がつけられなければ大きな軍隊が動くしかないのは当然といえ、いわば『街の警備隊』以外の軍隊が出動する
ことは国家規模の動きである。一部のギャングのために軍隊が出動しなくてはならなくなるなんて、そんな恥さらしを国が許すわけもない。加えて
言うならば、もはやそれは組織犯罪の域を超過して軍事クーデターの領域にさえ達してしまっているといえるだろう。
 そしてここ、ブリタニアのある小さな街。いや決して小さくはないのだが、ロンドン周辺の発展した街からはひとつ外れたところにある市街地。
この地も小規模な軍隊が点在している治安のきわめて悪い街であったが、この街の代名詞とも言われている国内最大級の犯罪組織『フレンジー』が
ここ数ヶ月で驚異的な成長を遂げたという。戦車や対地攻撃ヘリコプターを数機導入した程度では殲滅することが出来ないほどの規模にまで膨れ
あがっており、最早内戦状態と言っても過言ではないほどの状況になっていた。
 そうなればどこかに出撃要請が下ってしまうのは致し方ないことで、そしてブリタニアとしては公になることは避けたい。つまり公にならずに
かつ確実に敵を殲滅できる戦力を確保したいわけだ。――となれば、特殊な任務や困難な作戦にも従事し完璧にこなせるエージェントと相応の火力が
必要。幸いブリタニアには、エージェントかどうかはさておき通常では考えられない任務や作戦に従事している部隊がひとつある。人間以外の
侵略者と戦うなんて、一般人の考えうる範疇ではない。いや、考えるだけなら簡単だろう。しかしそれが実際に起こっているとは、なかなか考えにくい
のが現状だ。特に戦争からは遠く縁のない世界であるブリタニアにおいては、それが顕著である。





 CASE 04:"CRIME OF RIOT"
  ――――戦闘ヘリが配備され、リアクティブアーマーが普及した一九四四年。犯罪都市に立ち向かう、"乙娘-おとこ-"たちの物語。




 かくして。

「私たちストライクウィッチーズに支援要請が来ました」
「……最新鋭の魔法のホウキを操る天翔る乙女たちに、むっさいオッサンどもの相手をしろって?」
「しかも公になってはならないということは、私たちは飛んではならないわけだな?」
「でも市街地戦なんて想定してないし、つーかそんなに機動力ないよ」
「うー、私怖いですーっ」

 確かに放っておけば国家規模の大問題に発展しかねない事態であり、もしそうなればストライクウィッチーズの運営にも支障をきたす。無視できる
レベルははるかに超えていたが、だからといって管轄外どころか訓練もまともにしていない市街戦をやれと言い出す始末だ。これには流石のミーナも
頭を抱えざるを得ない。加えて……。

「ちなみに依頼者は空軍大将よ」
「マロニーかぁッ!」
「成功したら特別報酬だとか」
「くそ、釣りやがったな……」
「でもここで歩み寄っておく意義は大きいわ」
「こうしてウィッチーズ隊は手のひらの上で転がされるのであった……嗚呼無常」
「フラウ、何が言いたいのかしら?」
「なんでもなーい」

 まるで緊張感がまったくないが、これでも一応ブリーフィングである。


 ともあれ支援要請が来ている以上は返事をしなければならない。十分な補給、戦力が確保されていて勝算が見込め、基地が離れていることから
ある程度の偽装で誤魔化せる隠密性の高さも魅力的。ブリタニアとしてはこれ以上好都合な部隊はないのだろう。ほかの部隊を出動させれば確実に
大事になりかねないが、ウィッチーズ隊は普段から扱っているのが重機関砲や対物ライフルといった化け物級の兵器ばかりだ。つまりは戦車やら
戦闘ヘリやらそんな大掛かりな兵器を使わずとも、白兵戦で必要以上の火力を確保できる。マスコミに『街の中で起こった騒乱』程度にしか映らない
という最大の利点は、確かにほかの基地にはないものだ。
 どうしようかと話はいまいち進みが悪かったが、早急に結論を出さねばならない。ここで出動できなければストライクウィッチーズ隊の面目は
丸つぶれということもあって、最終的にとりあえず出るだけは出ようという結論で落ち着いた。最悪、弾が当たりそうだったら防御魔法でも張れば
いい話なので、まあ死なないだろうという楽観的思考もある。

「というわけで宮藤は必須だね」
「へ?」
「治療のために。あと火力と弾運べる人が必要だからトゥルーデも要るね」
「おいフラウ、勝手に進―――
「で、勝手知りたるなんとやらで、私もトゥルーデにくっついていくと」
「ハルトマンさん、若干意味が違います……」
「どうでもいいのー。あと宮藤といえばリーネもセットだよね」
「はい!?」
「これで四人。あとミーナが適当な車を調達してくれればいけるよ!」

 まるでマシンガンの如くエーリカが勝手に話を進め、ミーナもすらすらと書類をまとめていく。

「っておい!! ミーナ! 何書いてるんだ!」
「え? 出撃要員だけれど」
「貸せ! 勝手に書くな! そんなもの無効だ! 捨ててやる!」
「あの、これ一枚だけよ? 予備とかないわよ?」
「……」

 ゲルトルート、反論できず。つまりはもう行くしかないわけで、がっくりと肩を落として項垂れた。しかしゲルトルートの反抗とは別に、機嫌を
悪くしている人が一名いた。

「私、こんなことするために入ったんじゃないのに……」
「芳佳ちゃん……」
「泥をかぶるようなことも、仕方のない場合はあるわ。例え人が命を落としても、結果的に多くの人が救われるならその人を撃つ勇気も」
「そんなの……!」
「理想と現実とは程遠い。理想を掲げて進むのは素晴らしいことだが、それで現実を無視してはいけないさ」

 ミーナやゲルトルートが、芳佳を窘める。しかし芳佳は納得できない様子で、本来の職務から外れたこんな任務には従事できないと腕を組んで
そっぽを向いてしまう。
 しかし書類はすでに完成してしまった。ミーナが名前を書いてしまった以上、もう芳佳の出撃は決定されてしまったことなのだ。

「ごめんなさいね、こういうのって時間が経てば経つほど誰も行こうとしなくなるから、早く決めないと進まなくなるの」
「だからって人の名前を勝手に使わないでください」
「けれどこれも立派な任務だわ。どんなに汚い仕事でも、命令されたからにはやらなければならない」

 軍隊というものに所属している以上、上からの命令は絶対だ。先ほどの緊張感のないブリーフィングとは打って変わって、今この場に横たわる
空気はぴりぴりと電気を帯びているかのようだった。ミーナがどんなに説得を試みても芳佳は決して折れることなく、まっすぐにミーナを見据えて
こんな理不尽な出撃には従えないと対立する。
 しかしそこに、ゲルトルートの厳しい言葉が降り注いだ。

「宮藤、いい加減にしろ」
「でも私は――
「お前の意見は聞いていない。命令は絶対、それが軍における行動原則だ。守れないようなら出て行け、それだけの話だ」
「……っ」

 小声で、そんなのおかしいよと呟く芳佳。しかしあまりに真正面から正論をぶつけられてしまっては言い返すことも出来ず、先ほどまでの勢いは
どこへやら、言い淀んでしまう。そこにゲルトルートが歩み寄って、そして微笑しながら芳佳の肩に手を置いた。不意に置かれた手に驚いてばっと
見上げると、その顔はまるで氷をゆっくり溶かしていく人肌のように温かかった。

「そんなに気張ることはないさ。ドライブに出かけるぐらいのつもりで、肩の力を抜いて気軽にな」
「……人の命がかかってるのに、気軽になんて……」
「ネウロイと同じさ」

 どれだけの人が、その連中のせいで命を落としてきたか。それらを考えれば、どんな形であれ自らが死を迎えるのも当然というべき結果だろう。
因果応報とはまさにこのことだ。とにかく名前に載ってしまった以上は芳佳も出撃せざるを得ないので、不服ながらも出ることになる。かくして
ストライクウィッチーズ隊の、後に奇妙な名で呼ばれることになる事件は幕を開けたのだった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 一台の車が、フレンジーの縄張り内を走っていく。それはごく普通に車の流れにまぎれていて傍目からは不自然さはどこにも感じられなかった。
搭乗者は全員黒の服を着ていて、一見どこか落ち着いた雰囲気を醸し出している。だがよく見てみるとサングラスに帽子、加えて服も帽子も光物で
ギラギラと輝いていて、とても普通の集団とは思えなかった。脇においてある楽器のケースが、妙な不気味さを見せている。
 街の様子はいかにもといったところで、壁はスプレーだらけ、辺りはフレンジーのカラーである水色の服を着た人間ばかり。加えて武装している。
さらに走っていくと、車の中からは水色に塗ったくられた航空管制塔を発見する。滑走路もないヘリコプターや垂直離着陸機用の基地のようだが、
様子を見るに完全にフレンジーのものと化しているのだろう。なるほど、さながら戦争である。

「大分来たねぇ」
「そろそろ準備しますか」

 そしてそんな基地を横目に見つつ、車の中では動きが起こる。運転手である金髪の少女を除く三人が、楽器ケースから何かを取り出し始めた。
……出てきたものは、光を鋭く跳ね返す大型の重機関銃。戦闘機に搭載するような大型のマシンガンだ。中にはそれを二丁持っていたり、あるいは
ボーイズ対戦車ライフルなんてものを持っている者もいる。ここまで来ると、もう車内の連中が何をしたいかなどバレバレだった。しかし、空いた
ケースで上手くそれを隠す一行。準備を始めたのに隠すとは不自然だが、理由はちゃんとあった。

「ヘイ、そこのお姉ちゃんたち」

 フレンジーに所属する一人の男が、ヘラヘラと笑いながら車に近づいてくる。今車は信号待ちで、かつ一番左の車線にいる。となれば歩道から人が
出てくるのも当然のことで、こうして声をかけられるのもこの場所ならば当たり前のことだった。かくして運転席に座っていた少女は顔をあげ、
男のほうを見る。

「俺らといいことしないかい? コレはいくらでもやるからさ」

 男が金のハンドサインを出す。要は体を売れとのことか。少女は一回車内を見渡し、そして車内の三人が小さく頷いたのを確認する。もう一度
男のほうを見てにやりと笑うと、男は承諾と判断したのかにんまりと笑い、少女がかけていたサングラスをはずそうとする。少女も抵抗することなく
それに身を委ね、少しずつサングラスがはずされて行くのに素直に従う。ゆっくりと外されるソレ、そして男は外しきると少女にそれを返却する。
彼女はまた男のほうを見て、そこで男が少々首をかしげる。―――この女、どこかで……? そう言い淀んでいる間に、運転席の彼女は帽子をさっと
外した。そこにあったのは短いよく手入れされた金色の髪と、そして世界中の誰もが知っているであろうカールスラント人の顔。

「お前はっ――

 男が顔を青ざめる。とんでもないやつに声をかけてしまった。だが次の瞬間、男の心臓は存在していなかった。


 重く激しく轟く銃声。男は盛大に血を撒き散らして後ろに倒れ、そこに周囲にいた仲間が駆け寄ってくる。声をかけたのは男一人だったが、後ろから
仲間たちが見ていたのだろう。男は即死で、そして彼女たちが乗っていた黒い車に返り血を盛大に吹きかけている。運転手や車内のほうは無事のようで、
窓が開いているのに車内が無事とは奇妙なものだった。しかしそんな矛盾にも気づかず、男たちは立ち上がって車内の連中を始末しようと銃を構え――、
すべての窓が開け放たれていることに気がついた。
 重なる銃声。連射される銃弾。その場は一瞬で殺戮の場と化した。それはかつてフレンジーがやってきたことだったが、流石に十数人をこんなに瞬殺
したことはなかっただろう。

「エーリカ、行け!」
「オッケー!」

 助手席に乗っていた一人が、運転手に声をかける。運転手のほうはすでにサングラスと帽子をかけなおしており、指示に従って街を爆走し始めるのだった。

 - - - - -

「後ろ、二台来ます!」
「うーっ、速すぎて目がぐるぐるするーっ!」
「スピードは落とさないからね、ちゃんとついてきなよ!」
「ついてくるという表現も何か違う気がするがな、右前方にバイク三台、こっちは任せろ!」

 爆走する一台の黒い車。エーリカが運転するそれは、すでに多数の撃墜スコアを上げていた。加えて被弾なしとは、まるでエイラのようである。
あまりに連中の車を破壊しすぎたか、いまや街のどこにいてもフレンジーに銃を向けられる。これは面白いとテンションのあがってきたエーリカに
対し、極限状態の只中にある芳佳は最早人を撃つとかそんなのどうでも良くなるぐらいに頭がぐるぐるしていた。スピードが速すぎて回りに目が
追いついていかないというのもその要因のひとつだ。現在、速度は八十から百三十の間を行き来している。

「芳佳ちゃん、そっちはお願い、私こっちやる!」
「う、うー、りょ、了解っ」

 口ではかなり困っている様子だったが、一度銃を構えるとまるで人が変わる。芳佳とリネットは後部座席に並んで座っており、芳佳が右、リネットが
左。それぞれがそれぞれの窓から顔と右手を外へ投げ出すと、後方に迫るターゲットを狙う。速度が速く狙いがつけづらいのは確かだが、しかし速度が
速いこの車についてくるということはターゲットも速い。ターゲットとそれ以外との区別がつきやすいのはいいことだった。かくして芳佳は狙うべき
一台を視野に納めると、そいつに向けてとにかく九九式の重い弾を乱射する!

「吹っ飛べーッ!」

 叫びながら、周囲の車もろとも巻き込んでターゲットに次々と命中弾を与えていく。まるで狂気に満ちたかのような戦場、しかし敵の車にマシンガンの
弾を防ぐほどの能力はなく、あっけなく爆発、炎上する! 芳佳は左手でガッツポーズを取ると、今度は車の前方へと視界を移す。ゲルトルートが今
バイクを相手にしているはずなので、それを援護する―――見えた、残り二台! 片方を狙うと、芳佳は遠慮も躊躇いもへったくれもなしに乱射――弾は
吸い込まれるようにバイクに命中し、ドライバーごと燃やしながら爆発する! ドライバーがきれいな放物線を描いて落下していき、それを気にかける
間もなく芳佳はいったん車内に身を引っ込め、残弾や周囲の状況を確認する。残弾は十分だがそろそろ次のマガジンを考えたほうが良くなってきたため、
ケースから満タンに弾が入れられたドラムマガジンを取り出して横においておく。そして再び確認すると、後方反対車線から高速で迫る敵車が一台……
迎撃は間に合わない! エーリカに伝えると、エーリカも快活な返事とともに一般車を避けながら反対車線へ突入、ターゲットの真横につける!
 瞬間、ターゲットの車内から銃が向けられ、しかし臆することなくゲルトルートと芳佳はそれよりも早く銃を構えて乱射! 相手の車内は一瞬で地獄と
化し、血飛沫が舞い散る。最早そこに人間がいた跡は存在せず、真っ赤な肉塊が転がるだけ――出撃前は散々文句を言っていた芳佳もすでに見慣れたか
にやりと笑うと、エーリカに殲滅完了の報告をする。運転手を失った車は徐々に後退して行き、そして……芳佳が再び放った銃弾が直撃して爆発する!
反対車線の右側よりに来てしまった車、現状ではゲルトルートと芳佳がまともに機能しない――はずだった。
 後方からはバイクが二台と車が一台、前方からはバイク三台に車四台と大量の敵が迫っている。これをリネットのみで捌ききるのはなかなかに厳しい
ものがあり――リネットはケースから急いで何かを取り出した。それは重機関砲のひとつ、MG151/20―――ゲルトルートから借りた一丁だ!

「芳佳ちゃん、援護お願い!」
「はいはーい!」
「宮藤、適当につぶしたらこっちの援護も頼む!」
「了解!」

 簡単な打ち合わせを終えてからリネットが身を乗り出して後方の敵に対して射撃を開始、芳佳とゲルトルートは右側にいても撃てるようにと、なんと
上半身すべてを乗り出してルーフの上に腕を置く! 足場が安定しない上に被弾面積が大きくなり危険な体勢ではあるが、確かにこれなら右側にいても
左側を狙うことが出来る。合理的な配置――芳佳とゲルトルートは自らの狙うべきターゲットを決めると、そこに向けて容赦なく引き金を引いていく!
放たれる弾、巻き込まれる一般車、反撃を試みる敵、直撃する弾丸! リネットと二人で攻撃する後方は敵が次々と散っていき、車も盛大な炎を上げて
爆散する! 後方が残りわずかになったため芳佳は体をひねって前に向け、ゲルトルートと共に大量のバイクと車を狙い撃つ! 相手も身を乗り出して
反撃を試みるが、重機関砲相手には敵わない。遠くに見えるバイクや車がどんどん火を噴いていき、面白いぐらいにパーツや人が吹っ飛んでいく! 更に
撃っていると、リネットから叫び声が聞こえてくる。

「後方からバイク三台、武装にRPGを確認!」
「ロケットランチャーとはずいぶんと物騒なものを持ってきたな」
「サーニャちゃんも連れてきてロケラン対決とかやったら面白かったですかね」
「ッハハハ! そいつは面白そうだ!」
「当てられちゃかなわないからちょっと車揺れるよ、特にミヤフジとトゥルーデは気をつけてね!」

 一行はもう遊び感覚である。大分感覚が麻痺してすでにそこらのギャングと似たり寄ったりになりつつあったが、一応これでも正式な任務なので問題
なし。世界とは皮肉なものである。
 ともあれロケットランチャーを相手にすることで気を引き締める一行だったが、リネットはどこかいびつな笑みを浮かべると突然武器をボーイズ
ライフルに変える。ロケットランチャーなんて弾速の速い爆発物を持つ相手と対し、速効性がものをいう戦場において、狙撃銃を持ち出すメリットが
全く感じられない。しかしほかの三人もニンマリと笑うと、右側二人は前方からも迫るRPGを抱えたバイク五台を狙う! 後方の先頭一台がついにRPGを
構え、そしてこちらに向けて引き金を引く――!!
 轟音と共に解き放たれるロケット弾、それは瞬く間にエーリカたちの車へ接近し――――しかし空中で謎の爆発を遂げる! その先ではリネットの
構えたボーイズが煙を吹いて、リネットもボーイズも正気とは思えぬ狂った笑みを浮かべて笑っていた。――ロケット弾を空中で撃墜する、そんな
離れ業を易々とやってのけた!

「あっははは!! リーネやるぅ!」
「宮藤、リネットの援護をしてやれ! ロケットランチャーが何だ、気にするな!」
「りょーかーい!」

 前方から迫っていたバイクも残り二台に減りゲルトルート一人で対処できるため芳佳は後ろへ向き直り、こちらを狙う三台に狙いをつける! 先頭は
リネットに任せ、二番目のターゲットに照準を合わせ――ひたすらに連射!! 道路を隆起させ、ひとつ手前の車のタイヤに直撃してパンクさせ、もう
滅茶苦茶になってしまう――が、その中でターゲットのバイクの撃破も確認する! 更に後方の一台にも狙いをあわせ乱射し破壊すると、もう残弾が
ほとんど残っていないことを確認した。芳佳はにやりと笑って、一度車内に戻るとマガジンを取り替えて装填作業を行ってから残り十数発のマガジンを
手に握る。再び後方を見やると、ロケットランチャーにガトリングガンを持ち出してきた車が迫っているのを確認する!

「ッヘヘ、あれでいいや!」

 芳佳はそいつを狙って、思いっきりマガジンをブン投げる!! 更に弾の入っていない辺りを狙い撃って飛距離を伸ばし、車のフロントガラスに直撃
させ―――更にその状態でマガジンを狙い撃つ!
 マガジン内の弾が暴発し、十数発が一気に爆発、簡易的な爆弾の機能を果たす! フロントガラスをぶち抜き運転手が目をやられている間に再び
銃弾を叩き込み、車内が地獄と化している間にエンジンに火がつき――数秒後、盛大な爆発を起こして車は粉々に散る!

「すっごい! 流石重火器の弾頭を積んでるだけあるね!」
「派手すぎて頭が狂いそうだ!」
「えー? トゥルーデもうとっくにおかしくなってるよー」
「はははっ、そうかもしれんな!」

 大分暴走を続けているが未だ事態は収拾を見せない。それどころか、今度は警察と軍隊まで襲来してきてもはやカオスである。奥からは戦車が
一般車を踏み潰しながらやってきて、後ろからは警察の特殊車両とヘリがやってくる。四人は狂気に満ちた顔で笑みを浮かべると、それぞれの見た
獲物に対して中指を空高くおっ立てる!

『ハッハァ、さっさとアッチにイッちまいな!』

 普段では絶対ありえない台詞を、四人口をそろえて吐き捨てる。それに呼応したかのように周囲を取り囲みつつあるフレンジーの車たちが銃撃を
開始、更に警察や軍隊さえも取り囲もうとしてくる。だがリネットのボーイズさえ一発だけなら防げる防弾仕様の特殊車両に加えウィッチが相手では
分が悪いらしい。リネットと芳佳、ゲルトルートは再び得物を構えると、容赦もくそもなしに弾をバラ撒く!!

「ブッ飛んじまいな!」
「ほらほらさっさと私を撃ってみたらどうなのよ!」
「雑魚が調子に乗ってんじゃないよ!」

 思い思いに言葉を吐きながら撃ち続けるが、そこに可憐な乙女の姿はすでになかった。あるのはただこの街に完全に汚染されてしまった汚いギャング
スタの姿だけである。だがこれでも一応合法。
 周辺のフレンジーをあっけなく一掃すると車内に戻るが、今度は迫り来る警察車両に目が行く!

「ここらの弱小警察なんてアテにしてらんないね」
「というか連中、こっちに向かって撃つ気満々だぞ」
「誇り高き連合軍のお仕事を邪魔するとは、いい度胸ですね」
「少し痛い目見せてあげましょう!」
「あっはは! 二人ともやる気だねぇ!」
「何を言うか、私を外すな!」

 三人は再び身を乗り出すと、黄色と水色のカラーリングが施された警察車両に銃口を向ける! 邪魔くせえ、通行の邪魔だ、どっか行っちまいな――
最早誰が放った言葉かさえわからず、しかしそれらの言葉を皮切りに銃弾が次々と放たれ警察車両を飲み込んでいく!

「何ぃ!?」
「くそ、あいつだ! あの黒い車を狙え!」
「ぶっ潰せ! 摘み出せ! この世から追い払え!」

 とかなんとか、警察のほうでは言ってたりもする。が、それも空しく。

「オラっ、少しは反撃でもしてきたらどうなんだッ!」
「警察とか言っちゃって、ただの弱腰の集まりじゃない!」
「ヘタレ戦隊ヘタレンジャー、なんちゃって」

 最早公共機関であることもすっかり忘れて罵倒しまくるウィッチーズの面々、しかし一応国際連合の軍隊である。一行は引き金を戻すことなく
ひらすた撃ち続け、車を片っ端から吹き飛ばしていく! すると上空にいた警察ヘリが高度を落としてやってきて、横に座っていた特殊部隊と思しき
兵士がこちらへ銃口を向けてくる!

「雑魚はおとなしく引っ込んでろ!」

 ゲルトルートがそんな罵声を吐くと同時、芳佳もMG151/20を装備したリネットも上を向いてヘリに向けて総攻撃を叩き込む! ゲルトルートは
搭乗員を狙い撃ち、そしていつの間にかヘリが火を噴いているのに気づき―――伏せろ、誰かが叫ぶ!
 次の瞬間空中に汚いかつドデカい爆発が発生! 耳を吹き飛ばすかのような轟音と共にヘリのローターや破片が辺り一帯に吹き飛び、あちこちで
車やポスト、街頭などが吹っ飛んでいく! その中ローターの破片がエーリカたちの車に迫り―――芳佳の乱射が命中して軌道は大きくそれる!

「へっ、どってことないね!」

 周囲に再び迫り来るフレンジーの車、警察車両、そして前方からは戦車が接近する! 無論戦車もこちらを狙っているようで、流石に戦車の装甲を
ブチ抜くには少々骨が折れそうだった―――が、幸いすれ違う方向だ。ということはつまり……。

「エーリカ、すれ違うまではなんとかしてくれよ!」
「まっかせといて!」
「それじゃ私たちは後ろふっ飛ばします!」

 ゲルトルートが戦車の相手を引き受け、その間に後方に十数台と迫った警察およびフレンジーの車両を芳佳とリネットが弾き飛ばす。その作戦が
面白いほどハマり、芳佳とリネットの目の前で次々と車が爆発して吹き飛ばされていく! フレンジーの水色の車はなすすべもなく一台また一台と
数秒ごとに吹き飛ばされていき、警察車両は何とか応戦しようと試みるものの防弾仕様の特殊車両を相手に敵うわけもなく一瞬で飲み込まれていく!
最早そこはフレンジーの縄張りではなく、ウィッチたちの狩猟場。そして後方に迫っていた全車両の掃討を一通り終えると今度は前方に向き直り、
ゲルトルートが戦車を相手している間に今度は前方に溜まりに溜まって先ほどからこちらを撃ち続けていた二十五台のフレンジーと警察車両に
十倍のお返しを差し上げる!

「流石にロケットランチャーの弾を一人で迎撃し続けるのは応えたぞ」
「流石ですね、バルクホルンさん」
「この程度が出来なくて何がカールスラント軍人か、んなことよりさっさとブッ飛ばせ!」
「アイアイサー!」

 先ほどから戦車の主砲がゲルトルートと芳佳の間をすり抜けては後方の建物に直撃して街を破壊していっているが、そんなの知ったことか。芳佳と
リネットが前方の車を次々と撃破して行き、二十五台あった車両がたった十秒後にはすでに十九台に減っていた! 二人の殲滅速度はこの数分間で
瞬く間に上昇し、今の二人なら二百を越えるキューブ型ネウロイも数分ですべての迎撃を終えてしまいそうな勢いである!

「ヒャーッホォォォォーウ!!」
「宮藤ー。キャラ違うぞー」
「だってしょうがないじゃないですか、面白いんですもの」
「だめだこりゃ」

 いつの間にか敵は全滅し、後方もしばらく空きがある。残るは戦車のみ、ここでリネットの本領発揮だ! ボーイズライフルを取り出すと、それを
砲塔に向けて一発ぶち込む!! 当然破壊には至らないものの、魔力ですさまじく威力を強化された銃弾は砲塔をベコリとへこませるほどの威力を
誇る! 続けて第二弾を装填し、今度はキャタピラを吹っ飛ばす! リネットの放つ魔力の込められた銃弾はどんな弾でさえも異常なまでの貫通力を
誇り、キャラピラのベルトを破壊したどころか車輪を三つほど同時に撃破! もはや戦車の面目皆無である。更に弾が崩壊する寸前まで魔力を込めた、
込めすぎて紫電が発生するほどの派手な一撃を、今度は砲身に向けて思いっきりブッ放す!! 空中に雷をまとった紫色の線が引かれ、そして砲身は
まるで木の枝のように真っ二つにぶち抜かれる!

「いやっほーぅ! ざまあみやがれーっ!」
「おーい、リーネー。君そんなこと言う子じゃなかったよー」
「はっ!? す、すみません、ついっ」

 かくして主砲と車輪を失った戦車はついに動きを止め、砲塔から一人の兵士が出てきてマシンガンに手を伸ばす――が、それを許すウィッチ隊では
ない! ゲルトルートが容赦なく鉛弾を叩き込み、それがマシンガンのマガジンに直撃して大暴発を起こす! 兵士は一瞬で息絶え、それどころか
車内で破片が跳ね回って地獄の様相を呈している。ふふふとどこかでほくそ笑む声が聞こえ、そして横をすり抜けた車が最後に捉えたのは戦車の
一番の弱点、エンジンルーム―――すれ違いざまに狙える、最初から見据えていたポイント!

「リネット! やってしまえ!」
「了解ーっ!」

 ボーイズライフルに再び紫電が発生するまで魔力を叩き込み、そしてそれを防御力のもっとも薄いエンジンルームへ叩き込む!! 刹那エンジンは
周囲数台の車を巻き込んで盛大に爆発、すべてを吹き飛ばす! 盛大な三つの歓声が上がりリネットは上機嫌、ボーイズをMG151/20に持ち返ると再び
後ろに迫りつつある大群に対して容赦ない乱射をプレゼントして差し上げる!
 芳佳とゲルトルートは前方に溜まり始めた敵に対して攻撃、そして上空には戦車を破壊されたことに対する応報か、ついに軍の攻撃ヘリコプターが
迫り来ていた!

「イーヤハァーッ!! おいでなすったぞ!」
「ミーナ、やっちまえ!」
『あなたたちねぇ……みんな、行動開始よ!』
「フゥッフゥー!! テンションあがってきたーっ!」
「どんどんおいでー、かもんべいべっ!」

 リネットが上空の攻撃ヘリの搭載兵装に向けて弾を乱射し、芳佳は後方に向き直ってリネットが担当していた分の敵に対して同じ量の弾丸を
叩き込み、ゲルトルートは両手に持ったMG42で敵を片っ端から蹴散らしていく!! リネットの攻撃のせいで機体がぶれて上手く攻撃が出来ずに
いる戦闘ヘリ、しかし何とかこちらを捉えようと必死。リネットのすさまじい攻撃は増して行き、そしてしばらく攻撃していたところでヘリの姿勢が
大きく崩れる! 今しかない、リネットは武器を再び持ち替えるとボーイズを左翼に積んでいるミサイルに照準を合わせる!

「汚い花火、一丁いきまーす!」

 どう考えても、それ一発でミサイルは爆発する。敵機は火を噴く――しかしそれでは面白くない、いつでもどこでも全力全開だ! リネットはまた
紫電が発生するまで魔力を叩き込み、今度は少々距離が開いたヘリに向けてまるで砲撃を行うかの如く思い切りブッ放した!! 長い軌跡を描く弾丸、
それはヘリのミサイルを容易く撃ち抜くどころかタイミングよく角度があってしまったためにエンジンさえも貫通してどこかへ飛び去ってしまう!
そこに残ったのは一瞬炎に飲まれたヘリと、そして低空に咲く汚い巨大な花火の姿!

「ヒャーハーッ! 焼き鳥一丁あがりぃ!」
「お、前方に輸送ヘリの接近をかっくにーん! ミーナ達だーっ!」
「ヒャッホォォォウ! やっほー、元気ぃー?!」
「ハッハァ、手柄は渡さんぞッ!」

 後日、そのとき501の全員が盛大に引いていたのを四人は知ることになるが、それはまた別の話である。
 ともあれミーナ達の援護射撃を受けながら、エーリカは徐々にフレンジーの航空基地へと向かっていた。基地を押さえてしまえばあとはこちらの
もの、空からいくらでも撃ち放題である。そして細々とつぶしていてはキリもないし弾も足りないからということで、殲滅速度を徐々に落とし始める。
残った連中は基地でヘリをかっぱらった後にヘリで粉々に吹き飛ばしてあげればいいのである。

「よーし、小休憩だ!」
「ひゃっほう! リーネちゃんなに飲む?」
「私スポーツドリンク系のがほしいなぁ」
「はいはーい」
「トゥルーデー、私オレンジジュースー」
「わかったわかった」

 三人は車内に戻って窓を閉め、武器を置く。上空には七人もの武装少女がいるのだ、わざわざこちらが応戦するまでもなく危険度の高い敵はすべて
消え去っていく。あの様子では中には大量の弾薬が保管されているだろうから、おそらくサーニャのフリーガーハマーも撃ち放題のやり放題だろう。
かくして速度だけを落とさず遠足ムードに打って変わった車内は、ハンバーガーやサンドウィッチ、おにぎりなどの食事とジュース類が横行する
昼食パーティの場と化していた。

 - - - - -

「うーっし! もうすぐつくよーん!」
「ふう、ちょうど満腹から一呼吸置けたところだ」
「交戦準備ーっと!」
「はあ、またおかしくなりそう」

 三人は意気揚々と武器の確認をはじめ、そして予備のマガジンの用意を終えると窓を開ける。とりあえずさっきの感覚を取り戻すべく、後方に五十台
前後、前方に三十台前後溜まった敵車たちを蹴散らそうと銃を構えた。

「ヒュゥ――ずいぶんと溜まっていらっしゃいますね」
「これでもサーニャちゃんとかが随分ふっ飛ばしたらしいですよ」
「紳士がこれほど集まるとは壮観だな」
「そんじゃ、張り切っていってみよー!」

 エーリカの掛け声と共に三人は再び身を乗り出し、周囲の水色と、水色と黄色の車たちに対して鉛玉を叩き込んでいく! 車は先ほどと同じく次々と
火を噴いては吹っ飛んで行き、面白いぐらいに次々ぶち壊されていく!! 一瞬でヴォルテージがマックスになった三人は、容赦もへったくれもなく
どんどん敵車両を飲み込む。 上空では驚きの声が聞こえ、それにも構わずひたすらに弾を放ち続ける!

「ヒャーーハアァァァァァ!! 最ッッ高!!」
「オラオラ、どんどんかかって来い!」
「殺れるもんなら殺ってみなよ!」
「ヒャーッホーウ!」

 ……これでも、いちおう、正式な軍隊である。こんな調子だが、これも一応、正式な任務である。

 かくして前方の敵車両群を殲滅した三人は後方に攻撃を集中させ、数秒後にエーリカの掛け声で前方へと視界を移す。巨大な門、そして厳重な警備。
見た目こそ水色のTシャツの単なるギャング連中だが、その装備は本物だ。四人は不吉に歪んだ笑みを浮かべると、エーリカはアクセルをぐっと踏み込んで
エンジンをフル回転!! 三人も銃をいっせいに向けて、そこに立つ『兵士』たちを片っ端からなぎ払っていく!!

『ヒャァァァァァーーッホォォォォォォオオオオウ!!!!』

 狂ったような叫びが轟いて、そして上空からはサーニャのフリーガーハマーによる援護射撃! 一瞬で門は崩壊し、航空基地へと車とヘリと戦車が
いっせいに雪崩れ込んでいく!!

「よーっし、ヘリ奪取だ!」
『おうよ!』
「ヘリを壊さないように気をつけろ、周りの警備連中だけ吹っ飛ばすんだ!」
「りょーかい! ところでヘリの操縦ってどうやるんですか?」
『気合!』

 エーリカとゲルトルートが、満面の笑みで親指を天に突き上げる。

「ヒョウ!! わっかりやすい!」

 芳佳も笑みを浮かべ、そしてそこらじゅうから出てきた警備のフレンジー連中に向けて引き金を引く!! 航空機さえ撃墜できる大砲口の直撃を受け
次々に散っていくフレンジー、格納庫に収まるヘリコプターは今にも離陸しようとエンジンが回っていた!!

「ハッハァ、ちょうどいいじゃないか! エーリカ、横につけろ!! 宮藤、飛び乗るぞ!」
「ヒョーッ!! 飛び乗るとかかっこいい!」

 芳佳とゲルトルートは対象機のコックピット、パイロットシートとガンナーシートの両方に座っていた敵を窓もろともぶち抜く!! そして高速の
ままエーリカはヘリのすぐ脇を通り過ぎるルートへ―――そして!!

「今だよっ!!」
『ヒャッハァッ!!』

 ルーフとドアに足を乗せていたゲルトルートと芳佳が、ヘリに向かってダイブ!! ヘリのつかまれそうなところに手を伸ばし、見事ヘリへの飛び移りに
成功する! ……が、流石に手に響く。

「いってえええええ!!!!」
「手が! 手が死ぬ!」

 二人は悲鳴を上げながら何とかよじ登り、操縦席と射撃手の椅子に座る。芳佳が操縦でゲルトルートが射撃だ。芳佳はとりあえず計器盤の英語を読み、
これかな、これかなとそれらしいレバーやスイッチを操作し――ローターの回転数が上がるのを感じる! やがて機体はふわりと少しずつ上昇を開始、
直後芳佳が操縦桿を思い切り倒してヘリは前に傾く!

「ヒャーホーゥッ! すっごい楽しい!」
「行け宮藤、大空にただいまだ!」
「イェッサー!」

 前に傾けることで加速した機体、芳佳が機首を元に戻すと、ぎりぎり格納庫の天井に触れることなく機体は格納庫からの脱出に成功! さえぎるものの
なくなったところで思い切り回転数を上げ上昇すると、こちらに向かってなだれ込んできていた車両群に狙いをつける!

「宮藤、ロケットを叩き込む! 適当にあの群れを狙いながら飛んでくれ!」
「あいあいさーっ!」

 新たな玩具を手に入れた芳佳とゲルトルートのテンションは限界突破、下手をするとフレンジーに代わってこの二人が街の破壊に走りそうな勢いだ。
芳佳は初めてとは思えぬ巧みな操作でヘリを操ると、車両の群れを正面に捉えつつ上空をパスしていく!

「ナイスだ宮藤! 行くぞお前ら、吹っ飛んじまいな!! イヤーッホーゥ!!」
「景気良くいきましょ! やっほう!」

 ロケットポッドから、無数のロケット弾が瞬く間に放たれていく!! そして車両群は次々と爆発に飲まれていき、五十を超過していたそれらが一気に
数を減らしていく!! それどころか破片が空高く舞い、場合によっては車の原型をとどめたまま百メーター以上も上空へ吹き飛んでいくものもあった。
リネットとエーリカの歓声がインカム越しに聞こえ、そして芳佳のヘリは今度は元あった格納庫の隣の格納庫を狙う。正面へと滑り込んだ機体の回転機銃は
格納庫内を狙っており、そこにいる兵士たちに向いていた!

「フハハハハハ!! 30mmチェーンガンを味わうがいい!!!」

 どこかの悪役かのような台詞を吐きながらゲルトルートは引き金を躊躇いなく引く!! チェーンガン故に装填されている弾は砲弾であるが、上手く
操作しているため駐機されているヘリに危害を及ぼすことなく周囲の人間だけを吹き飛ばしていく。そしていつしか格納庫内の人間は、ガンナーと
パイロット、そしてエーリカとリネットだけになっていた。

「よーし、いっくぞリーネ!」
「オーライです!」

 こちらのヘリもまたエンジンの回転を始め、今にも出撃しようとしていた。だが逆にそれを待っていたエーリカとリネットは今こそ好機と飛び乗る
準備を済ませる。アクセルはゲルトルートが使い終わった空弾倉を置くことで固定され、エーリカもリネットもゲルトルートや芳佳と同じくドアとルーフに
足をかける――そして!

「ヒャッホーゥ!!」
「いーやはーっ!」

 すれ違いざまにヘリへとダイブイン! 先に飛び込んだ二人と同じく手に激痛を感じつつ、それを最高潮にあがったテンションで覆い隠すとパイロットと
ガンナーの下へと走る! パイロットもガンナーも、あがってくる二人に対して銃を構え―――しかし!!

「ハッハァ、甘いねッ!!」

 突如ハンガーの外から飛んできた13ミリが窓とパイロットたちをぶち抜き、二人の敵兵は動かなくなる。ハンガー真正面、まだ同じ場所で待機していた
芳佳が自らの得物で狙い撃った! エーリカとリネットは親指を突き立てると機内に乗り込み、それを確認したゲルトルートと芳佳は格納庫の天井を一部
剥ぎ取るべく上昇、そして回転砲塔が格納庫の出入り口を襲う!! 次々に剥がれ落ちる壁、天井、骨組み。数倍に広くなった出入り口からは、戦闘
ヘリコプターが悠々と姿を現す!

『やっばい! トゥルーデこれ楽しい!!』

 ここまでくればもう敵なしである。戦車もあっけなく蹂躙され、フレンジーはもともとなすすべのなかったところに更に戦略爆撃にも似た攻撃で次々に
吹き飛ばされていく。もはやここは狩場どころか、一般車がいなくなって倒すべきターゲットのみになったことから無差別殺戮場と化していた。……一応
フレンジーの壊滅が作戦目的であることから、任務通りの内容をこなしているだけであるとフォローは入れておこう。

 かくしてこの地において最強の武器を手に入れた四人のウィッチたちによって、フレンジーはあっという間に駆逐された。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 警察と市民、軍隊にも大きな損害を及ぼした今回の抗争。しかしウィッチーズ隊の活躍であると知るのは一部の軍部と国の上層部のみで、一般には
あの街における内部抗争と認識されていた。つまりは目論見どおり、最強の軍隊を出動させながらも世界に公表される前、隠密のうちに軍事クーデター
組織ともいえる集団を壊滅させられたわけだ。これにはマロニーも大満足のようで、ウィッチーズ隊に差し入れを持ってくるほどの気前のよさを見せた。

「これからも活躍を期待しているぞ、ミーナ中佐」
「閣下の指揮される空軍の健闘も祈っています」
「はっはっは、言うことを言うようになったな。それでは失礼する」

 上機嫌にウィッチーズ基地を後にしたマロニー。ミーナもふうと一息ついて、演技をする必要のなかった面会に内心ほっとするのだった。そして
執務室に帰ろうと基地内を歩いていてふと目にしたのは、一台の暴走車両と無数の訓練用ターゲット。

「ヒャーハーッ!! 撃ち漏らしゼローっ!」
「やるな宮藤、お前こそ我が501の誇りだ!」
「いやいやそんなー。バルクホルンさんには敵いませんて」
「ッハハハ、私の機嫌なんざとってどうするんだ。 それじゃあ次は私が行かせてもらうとしようか!」
「きゃー! バルクホルンさんがんばってー!」
「あ、リーネ、やめときな」
「え?」
「うおおぉぉぉ!! リーネ、私はやってみせるぞ!! でやああああ!!!」
「あーあ。姉バカスイッチ入った」


 あの日以来、例の四人はこんなことばかりしていた。一応、市街地戦を想定した訓練という名目で許可は出しているものの……単なるスコアタックに
過ぎない。いわば遊びといっても過言ではないだろう。まあエーリカやゲルトルートはともかく、芳佳とリネットは射撃の訓練にならなくもないため
意味が全くないとは言えない。

「まったく、あのトゥルーデがあんなになるなんて……世の中わからないものね」

 今日もストライクウィッチーズ隊の基地には、イカれた叫び声が響いていた。



----fin.



コメントを書く・見る

戻る

ストライクウィッチーズ 百合SSまとめ