特別な日に、いつも通りなこと


8月18日。

サーニャの誕生日。

私の、大好きな人の誕生日。

――――――

サーニャのため、というよりは自分のためにいつも以上に気合いを入れて隊長室に直談判へ向かう。
直談判の中身はもちろん「今夜サーニャと一緒に飛ばせろ」だ。
誕生日なんだから休ませてやれとかそんなのじゃない。
誕生日なんだから飛ばなくちゃ。

サーニャのお父さんは絶対今日もピアノを弾いてくれる。

静かな夜にお父さんのピアノを聞きながら2人で祝う。
それってなんだか素敵じゃないか。
ま、休みは明日もらうんだけどなー。

そんなわけで勢いよく突撃した隊長室。

「ミーナ隊ちょ――! う…?」
「はい、エイラさん」

机に手をバンとつける前に目の前に突き出された紙に完全に勢いをなくす。

「なに? コレ?」
「そのために、来たんでしょう?」

書類には私の要求の上をいく文字…。
…この人、予知能力者なのか?

「あ、ありがと…」
「どういたしまして。…サーニャさんをよろしくね」
「うん…。…って! 言われなくても!」
「はいはい」



あっさり手にはいった哨戒任務と明日からの休暇に想いを馳せながら、サーニャに勝利の報告へ。
休暇はサーニャとなにしようか。どこに行こう? そりゃサーニャの行きたいとこが一番だけど。

「サーニャ!」
「ありがとう、エイラ」
「……え?」
「今夜。一緒に飛べることになったんでしょう?」

サーニャも…予知能力者なのか?

「ふふ。エイラだもの」
「な、なんだよーそれー…」
「ううん! なんでもないわ。一緒に飛べてうれしい…」

んー。ちょっと引っかかるけどこの笑顔を見たらなんでもよくなってきたな。
今夜も、サーニャと一緒。
うん。楽しみだ。


――――――

星が瞬き、月が輝く。
サーニャと2人きりの夜の世界。

いつのまにか手なんかつないじゃっててドキドキしながらの飛行。
ちらりと横を見るとサーニャが笑顔を向けてくれて、ぎゅっと手に力が込められる。
こんないい雰囲気の中の飛行。

ああ、最高だ…。

「エイラ」
「うわぁ! ……な、なに?」
「ラジオ。つけるね…?」
「う、うん…」

空中で止まり、サーニャのアンテナの色が変わっていくのを見つめていると、いろんな国の言葉が聞こえてきた。


「まだ、なのかな…」
「…11時30分…。もう少しじゃないかー?」
「うん…」

きっと、絶対、大丈夫。
サーニャのことが大好きなんだから、絶対ピアノを弾いてくれる。
予知なんて必要ない。
だってサーニャのお父さんだもの。

「………~♪…」

ほら、な?

「お父様…!」

みんな、サーニャのことがだいすきなんだから。



月明かりの下、涙を浮かべてピアノを聞き入っているサーニャの姿…。
綺麗で、美しくて、かわいくて、愛しい。

「エイラ、本当にありがとう…」
「ん? なにがだ?」
「今ね? お父様のピアノを聞いてて…、エイラの事が浮かんできたの…」
「私?」
「うん…」

涙を浮かべながら…?
って、な、なんかヤバくないか…?

「さっサーニャ! ご、ごめ――」
「そしたら、エイラはいつも私のことを考えてくれてたなぁって…」
「……え?」
「今日だってそう。私の事を考えてくれてたから一緒に飛べるようになった…」
「い、いや…。普通だよ、ふつう! そんなこと言ったら隊長だって、……宮藤! だって…」
「ううん、エイラは特別…」


ちょっと…ささ…サーニャ…?
手…、手…!

「エイラは誰よりもあったかい…」

そ、そんなことは! ない…、って…。

「……あったかくて、やさしいの」

……。

「ほら、エイラのぬくもり。私はいつもこれに包まれて気持ちよかったの」

……っ。

「エイラのそばにいるだけで。エイラと一緒にいるだけで。ぽかぽかあったかい気持ちになれた」

ったくぅ…。

「いつもありがとう。エイラ」
「……今日だけ…だかんな…」
「え? ――きゃっ!」

あったかい気持ちになってるのは私の方だっての…。


抱きしめて、手からだけじゃなくなって、もっと感じるサーニャのぬくもり。サーニャの音。
愛しさがもっと込み上げてきて、サーニャでいっぱいになって、もっと触れたい、もっと近くにいたいと願う。

苦しいよ、なんて言われても離せない。離したくない。
この小さな体を思いっきり抱きしめて、一生そばにいるんだと誓う。

「こっちこそ、ありがとう。サーニャ」


2人っきりの夜の空の中。
ピアノの音色がやむまで、私たちは抱き合っていた。


――――――


「……あああ!」
「…? どうしたの?」
「大事なこと…忘れてた…」

時間は12時過ぎ…。
昼に1度言っていたとはいえ、こんな大事な場面で言えてないだなんて……。

「サーニャ! 遅くなったけど…、誕生日おめでとな!」
「うん、ありがとう」

ぷ、プレゼント…プレゼント…。あった!

「は、はい、サーニャ。誕生日プレゼント!」
「うふふ、慌てなくて大丈夫よ? …ありがとう」
「あ、開けてみてくれよ」
「うん」

指輪…は勇気でなくて無理でしたごめんなさい。

「黒猫のネックレス…」
「私の時はほら、これ。ダイヤだったからなー。形は違うけど、おそろい」
「えへへ…、ありがと」

ハート…も考えたんだけどやっぱり無理でしたごめんなさい。

「ねぇ、つけて」
「お、うん」

…今だ! 絶好のチャンス!
つけて、そのまま…、す、すす…って言って、さ、さにゃ…に…き…キ…!

「はい、ついたぞ」
「うん…。どう?」
「い、いいと思うぞ!」
「えへへ…」
「あ、さ、サーニャ!」
「ちゅ…」

え?


「ふふ、おれい…」

え? あれ?

「さ、さーにゃ…?」
「……」
「あの…」
「……」
「耳、真っ赤だぞ…?」
「…! もうっ!」

ちぇ、私から頑張るつもりだったのに…。今日もサーニャから、か。
…そうだ。

「じゃあ、私からも」

ふふ、不意打ちで私の混乱が逆に落ち着いちゃったからな…。
恥ずかしいのを吹っ切ったとも言う!

「…えいらの…ばか…」
「ふふん、いいだろー? 別に」

私が言うのも変だけど、こんなことは珍しいんだぞ?

「だったら…、もう一回ぎゅーってして…?」
「…うん」

…ほんとに、今日は珍しいのかもしれない…。
でも。

今日だけ、にはしたくないな。


「サーニャ。だいすきだよ」


END


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