サーニャさん締結れる


「今日はみなさんにビッグニュースがあります」
 と、教壇にのぼったミーナ先生が朝の挨拶をはじめた。
 ふわあ、と私は大あくび。
 朝の会が退屈なせいもあるけど、それにも増して寝不足だった。
 机に頬杖をついて顔をうつ向け(考えごとをしている振りだ)、居眠りを始めようとしていたところ、
「ねぇ、エイラ。聞いた? ビッグニュースだって」
 と、その元凶が話しかけてきた。朝の会の最中とか、先生が話してるのとかお構いなしに。
 言わずもがな、隣の席のサーニャだ。
「………………」
 無視無視。人が寝ようとしてるのに話しかけてくんなヨナ。
 だいたいオマエにベッド貸したせいで、ここ1週間、私は全然眠れなかったんだからナ。
「ねぇねぇ、なんだと思う?」 
「………………」
「なにかな? ねぇ、ビッグニュースなんだよ。大きいお知らせよ。なんだと思う?
 ……エイラ? うつむいて、どうかしたの……? 具合が悪いの? お願い、返事をして、エイラ!」
 なんでコイツ、朝っぱらからこんなにテンションが高いんダ?
 ――いや、そんなことかまうな。寝るったら寝るんダ。
 私は石だ。私はこれから石になるんダ。私はただの石ころ……

「エッ・イッ・ラッ!!!!」

 まさに、金の針。
 ぐぎって骨が変な音を出した。曲がっていた腰がぎこちなくぴぃんと伸びたせいで。
 私はサーニャの方に顔を向けた。サーニャは丸めた教科書を手にしている。
 キーンと耳鳴りが頭を駆けめぐって、なかなか治まらない。
「なんダヨ……?」 
 不機嫌さを隠すことなく私が訊くと、
「先生がね、今日はビッグニュースがあるって」
 と、まったく悪びれるふうを見せないサーニャ。
「さあナ――まあ、どうせ大したことじゃないダロ。転校生が来るとか」
「転校生!?」
 大きな声を出したサーニャを、私は鼻の前に人差し指をやって、しーって戒める。
 サーニャがいけないと口を両手で押さえてたら――ミーナ先生は言葉を続けた。
「実は、私たち5年1組に新しい仲間が加わることになりました」
 ビンゴ。
 わあーっ、と教室中から歓声があがった。やっぱり、前の席のシャーリーは特にうるさい。
「すっごい! エイラ、どうしてわかっちゃったの!?」
 サーニャは目をまんまるにさせて私のことを見てくる。
 ……オイ、あんまりジロジロ見つめんナ。
「ただの勘」
 私は面倒くさく肩をすくめた。
 転校生が来るなんて、別に珍しいことじゃない。サーニャが転校してきたのだってつい先日のことだし。

「それじゃあ入ってきて」
 というミーナ先生の言葉に、教室の前の扉の開く音がこたえた。
 みんなはまた、歓声をあげた。サーニャも。
 もちろん私は黙ったまま、ぼんやりとその転校生とやらに視線だけを向けた。
 ソイツは前時代的なロボットのぎこちない歩き方で、教壇まで歩いていく。あきらかにキョドっている。
 なんというか、砂糖菓子みたいな女の子だった。
 全体的にそんな雰囲気。太めの眉とやさしげな目元が頼りなげな印象。
 うすい茶色の髪の毛を後ろに1本、三つ編みに束ねている。
「ブリタニアからやってきたリネット・ビショップさん」
 というミーナ先生の紹介に、ソイツは礼儀正しくお辞儀をしながら、
「リッリネット・ビビショップです。よろろしくおお願いしま」
 ゴンッ。
 と、いい音がした。
 礼儀正しくおじぎをしすぎて、教壇に頭をぶつけたのだ。
「あらあら、大丈夫?」
「はい……」
 とは言うものの、おでこは真っ赤。ソイツは目に涙を浮かべている。
 クラスのみんなが沸きに沸くなか、私はひそかに胸を撫で下ろしていた。
 ああ、普通のヤツでよかった、って。なにせ前の転校生はヤンデレだったわけだから。
「リネットさんね……それじゃあ愛称はリーネさんでどうかしら」
 というミーナ先生の提案に、
「よっ、リーネ!」
 と、シャーリーがさっそく叫ぶ。なぜかコイツはいつもテンションが高い。
 リネット……いや、リーネは恥ずかしそうに視線をうつむけた。
「リーネ! リーネ! リーネ! リーネ! リーネ! リーネ! リーネ! リーネ!」
 シャーリーはなおも連呼。ミーナ先生がまだ話してる最中だというのに。
 実は彼女は――とかなんとか。
 前の席であまりにうるさくされるので、私にはミーナ先生の声がよく聞こえなかった。
 ……まあ、どうだっていいカ。
 ミーナ先生は口元に指をあてながら、私たち一人一人に目をやり、
「じゃあリーネさんの面倒を見てくれる人だけど――誰にしようかしら?」
「そういうことは私の役割ではないだろうか、ミーナ」
 と、颯爽と手を挙げながらそう言うのは、学級委員のバルクホルンだ。
「そうね。じゃあ、ペリーヌさんお願いね」
「わたくしが、ですか?」
「こんな重大な任務、あなたにしか任せられないわ」
「しっ、仕方ありませんわね」
 とかペリーヌは言うものの、まんざらでもないといった感じ。
 単純なヤツだ。すっかり丸めこまれてしまっている。
 ミーナ先生はしてやったりという笑みを微塵も隠そうとはせずに、
「リーネさん、わからないことがあったら私じゃなくってペリーヌさんに聞くのよ。
 あと、シャーリーさんとバルクホルンは廊下に立ってなさい」

 そんなわけで朝の会は終わり、1時間目が始まるまでの短い休み時間となった。
 リーネの席にはわらわらと野次馬たちが群がっている。
 バケツに水を汲みにいったシャーリーとバルクホルンを除いて、クラスのほぼ全員。
 なかでも一際うるさいのは、人懐っこいルッキーニだ。
「罰金がガムってホント?」
「ストーンヘンジ行ったことある? ストーンヘンジ」
「ブリタニアって紅茶はおいしいのに、なんで料理はあんなにマズいの?」
 などなど、頭の悪い質問責め。
 リーネにとってはまさに災難だった。まあこれも、転校生の宿命というヤツカナ。
 私は自分の席に座ったまま、そんなことを思っていた。
 サーニャはといえば、興味はあるらしく――けれど、席にはじっとついたままだ。
「気になるのカ?」
 と訊くと、サーニャはこくんとうなずいた。
「じゃあオマエも行ってきたらどうダ?」
 って言ったら、サーニャは今度はふるふると首を横に振って、
「会ったばかりの人といきなり話をするなんて、できるわけないわ」
 …………!?
 なにを言ってるんだと思った。
 会ったそうそういきなり告白してきた人間の口から出たとは思えないセリフだ。
 けどそういえば、サーニャが私以外の人と会話をしているのを、ほとんど見たことがない気がする。
 意外とコイツ、人見知りなのかもしれない。ヤンデレだけど。

 4時間目は体育だった。
 私はさっさと1人で着替えを済ませて、グラウンドに出た。
 ちんたらなんて着替えてたらサーニャが発作を起こしてしまうのだ。
 続いてやって来たのはルッキーニだった。その後ろからはシャーリー。
「やっぱりブルマは最高だよな。短パンも捨てがたいけど」
 とかなんとか、しゃがみこんでぶつぶつ言ってるシャーリー。ルッキーニのお尻がどうとかこうとか。
 その体操服からは2つの隆起が際立っている。迫力のボディラインだった。
「――なんだよ、じっと見て」
 急に話しかけられて、ギクってした。チラ見してるつもりだったのに。
「なっ、なんのことダヨ!?」
 取り繕うとするものの、シャーリーは視線を自分の胸へと移していき、
「ふうん。エイラのムッツリスケベ」
「わっ、私にかぎってそんなことあるわけないダロ!」
「さあて、どうだかね」
 ニヤニヤと笑みを浮かべるシャーリー。
 ぞろぞろと、リーネやペリーヌたちもグラウンドに現れた。サーニャも。
 会話の一端を聞かれてしまったのか、サーニャはなんのことだろうと不思議そうに首をかしげた。

「今日の授業はドッジボールをおこなう」
 との坂本先生の言葉に、シャーリーはヒャッハァって奇妙な雄叫びをあげた。
 意味わかんネー……でも、気持ちはクラスのみんなにわかる。
 坂本先生の体育の授業はすこぶる評判が悪いのだ。なぜなら基本的に走ってばっかりだから。
 マラソンなんてしたくない。今日のような夏日ともなればなおさらだ。
 そんなわけで、グッパーでチーム分けが進んでいった。
 私のチームはシャーリーとルッキーニ、それに外野にサーニャだ。

 ――そして、試合開始。
 センターラインを挟んでジリジリと火花を散らすバルクホルンとシャーリー。
 ピーとホイッスルが鳴る。
 坂本少佐が真上へボールを放り投げた。
 先に飛んだのはバルクホルンだった。少し遅れてシャーリーも続く。
 身長・瞬発力ともに分はシャーリーにある。
 ジャンプボールに指先が触れたのは――シャーリーだった。
 しめた。弾かれた私のところにボールが来たゾ。
「くらエッ!」
「ひでぶっ!」
 兵は神速を尊ぶ。さっそく私は1人撃墜した。
 当たったのはアメリーだった。声を出して泣き出してしまった。
 ぶーぶー、と相手チームからブーイングが来た。ペリーヌは特にうるさい。
 う……足狙ったのに。足に当たったのに。
「仇は私がとってやるから」
 と、ボールを手にしたバルクホルン。
 私めがけて豪速球(火の玉ストレート)を放ってきた。
 こんなもん、取れっこネーヨ。
 ――なので、ひらりとかわす私。
 ボールは相手チーム外野のハルトマンの手にわたり、ハルトマンはバルクホルンに山なりのパスを返す。
 バルクホルンはまたもや私めがけて豪速球(火の玉ストレート)。
 が、私はひらり。
 よけるのなら誰にも負けない自信があったりする。
 バルクホルンとハルトマン、それにペリーヌを交えた連携が私1人を狙っている。
 とはいえ、私だってそうやすやすと当たるわけにはいかない。
 やっている当人たちにとっては、手に汗握る、緊迫した時間が数分間続いた。
「くらえ、エイラッ!」
 と、豪速球(火の玉ストレート)がまた私に――は来ず、フェイント。
 バルクホルンは狙いを変え、ボールはぼーっと突っ立っていたルッキーニの肩にヒット。
 これでうちの1人アウト――となるはずだった。
 が、ボールが地面にバウンドする寸前、シャーリーがなんとかそれに飛びつき、高々と跳ねあげた。
 バレーボールのレシーブだ。
 土のグラウンドとか擦りむくことを気にしない、勇猛果敢なダイビングだった。
「シャッ、シャーリー……!」
 感激したルッキーニは声を出した。
 ニッと笑みをのぞかせ、シャーリーはそれにこたえた。
 目と目でなにか会話してたようだけど、それがどのようなものであったかは私にはわからない。

 ボールは高く、高く、高く上がって―――――――地面に落ちた。

「おいっ! 誰か取れよっ!?」
 シャーリーの叫びが虚しくコートに響いた。
 そんなわけで、シャーリーとルッキーニはアウト。瞬く間に形勢が逆転してしまった。
 外野に行った2人に入れ替わって、内野にサーニャがやって来た。
 サーニャは私の後ろにぴたりとひっついてきて……とっさに私は体を離した。
「あっ、あんまりひっつくナ。動きづらくなるダロ」
「ご、ごめんなさい……」
 しょんぼりとうなだれるサーニャ。
 な、なんダヨ……。これじゃ私が悪いみたいじゃないカ……?
「――じゃあ、ここならいい?」
 と、サーニャは私の体操服の袖をちょんとつまんだ。
 その手はちっさくって、どうにも頼りなげで。
「まあ、そこならいいけど……」
 きっとそれくらいなら大丈夫だろう。私の体も。
「大丈夫だから。私がついてるダロ?」
「……うん」
 半分は自分に言い聞かせるように言った言葉に、サーニャはたしかにうなずいてくれた。

 ――そうして、試合再開。
 私は外野のシャーリーにボールを回した。シャーリーはルッキーニに。ルッキーニは私に。
 時折サーニャをまじえて、私たちのチームは内外野をボール回ししていく。
 くるくる、くるくる……その度に向きを変えていく相手チーム。
 なんとか隙をうかがおうとするも、相手はなかなかそれを見せてはくれない。
 このままではジリ貧だ。とはいっても、焦ってはいけない。
 ボールを一度取られようものなら、一転して私たちのチームがピンチになってしまうのだから。
「しめたっ!」
 ほんのちょっとの隙だった。激しい動きのなかでペリーヌがメガネをずらしたのだ。
 その一瞬が命取りだった。私の視線はバッチリ“それ”を捕えていた。
 ボールを手にした私は、ペリーヌの顔面めがけて全力投球。
「くらエッ!」
「ひでぶっ!」
 と、声高らかに絶叫をあげた。
 まさに吸いこまれるようだった。顔面めがけて糸を引くように。
 しまったと思う私。茫然とボールの軌道を目で追うペリーヌ。
 ――命中したのはリーネにだった。

「ダメだ。すっかりノビてしまっている」
 と、横たわったリーネをしげしげと見ながら坂本先生。 
 結局、そこで試合は中断してしまった。 
「なんてことなさいますの、エイラさん!?」
 って、ペリーヌは私に詰め寄ってくる。なんでオマエがそんなに怒るんダヨ……?
「あっ汗でボールがすべっちゃってサ、」
 しどろもどろになりながら、私はなんとか言い訳した。
 いくらなんでも顔面は可哀想だった。不可抗力とはいえ、リーネには酷いことをしてしまった。
「これは保健室に連れていった方がいいな」
 という坂本先生の言葉に、私のなかにとある考えが思いつき、
「じゃあ、私が連れていくヨ」
 すぐさま手を挙げて、私はそう言った。
「お前がか?」
「ほら、当てちゃったのは私なわけだし……それに先生は授業があるダロ?」
「それもそうだな。じゃあエイラ、頼んだぞ」
 そんなわけで、私は授業から抜け出すことに成功した。
 よっこらしょと未だ意識の戻らないリーネをおんぶする私。
 む、胸のふかふかした感触が背中に……
 のっしのっしと私は保健室に歩いていった。その後ろからはサーニャも続く。
「――って、なんでサーニャまでついて来てんダヨ!?」
 くわっと向き直った私に、サーニャはぽかんとした顔を見せた。
「えっ!?」
 と、目をぱちくりさせて、サーニャは言った。
「だってわたしとエイラは同じチームだもの。そう、死が2人を分かつまで」
「なに言ってんダ。うちのチームから2人も抜けちゃマズいダロ?」
「で、でも、」
「ほら、帰れヨ。もうすぐ試合再開するゾ」
 しっしっ、と私は手でサーニャを追い払った。
 サーニャはくしゃくしゃに顔をしかめて、
「だったら、」
 と、ブルマからボビンを取り出して(なんでそんなものが入ってるんダ?)、
「――ねぇ、エイラ。手を出して」
 って私の手を取ると、糸を私の小指にくくりつけた。
 真っ赤な糸だった。
「この糸をたぐっていって、エイラにつながっている――それだったら、わたし、大丈夫だから」

 そうして私とサーニャは別れた。
 ちょっと後ろめたさがしてしまったけど……いや、私には関係ない。
 好都合にも、保健室にはアホネン先生はいなかった。
 千載一遇のチャンスだ。ただでさえあの人とはあまり顔をあわせたくないし。
 リーネをベッドに寝かせると、私はその傍らに腰をおろし、はあと息を吐いた。
 ――っと、ホッとしてる場合じゃない。
 自分の病気について、調べものをしにきたんだった。
 なにせこないだ図書室で借りた本は、私にはさっぱりだったからナ。
 保健室であれば、なにか本……あるいはカルテが見つかるかもしれない。
 真っ先にさぐることにしたのは、アホネン先生の机だ。
 整理されてはいたけど、いろいろと物が多いため、私にはなにがなんだかよくわからない。
 机の上には特にそれらしいものはない(気になるものはいろいろあるけど。切った爪を集めた瓶とか)。
 次は引き出しを探ろうとして一番下から順に開けていった。こういう場合の、正しい順番だ。
 けれど、それらしいものは見つかる気配はなく、とうとう一番上の引き出しを開け――
 が、開かなかった。カギがかかっているのだ。
 なんダなんダ、ぷんぷん匂うナ。
 私は机の上のヘアピンを1本手に取ると、まっすぐに伸ばし、それをカギ穴につめた。
 そして試行錯誤すること数十秒。
 カチリ、と音がした。
 まるでスパイ映画みたいだと思った。気分が高鳴る。脳内にそういうBGMが流れてくる。
 引き出しにはファイルが1冊だけ入っていた。
 表紙にはエイラ・イルマタル・ユーティライネンの文字。
 間違いない――私の探していたものだ。さっそく手に取って、ファイルをめくった。
 そこにはただ一言、こう書かれていた。

『そんなところにはなくってよ、エイラさん』

「アンニャロッ!」
 私はファイルを壁に投げつけた。
 まるで考えが見透かされてるようで――いや、まるっと見透かされていた。
 私は力なくとぼとぼと歩き、ベッドにたどり着くと身を丸投げした。
 その傍らでは、リーネが未だに眠っていた。寝顔はやすらかなものだったけれど。
 私は視線を下へとずらしていった。
 ……やっぱりだ。
 教室では厚いジャケットを着てるから一見わからなかったけど。
 でも、体操着姿なら、はっきりとわかる。
 リーネって、胸おっきい。
 ドッジボールの最中、リーネの胸がぷるんぷるん揺れていたのを、私は見逃してはいなかった。
 ちょっと見とれてしまったせいで、誤ってぶつけてしまったけど……。
 ちゃんと寝息を立てているのを確認すると、私は人差し指の先で、つん、と胸をつついてみた。
 ぽよん、ってした。
「お……女の子のおっぱいってこんなにふかふかしてるものなのカ」
 思わず、一人ごちる。
 自分のを試しに揉むことはあるけど、人のははじめてだ。
 くやしいけど、リーネは私よりずっと立派なものを保有していた。
 形といい、弾力といい、非の打ちどころがない。まだ5年生なのに。
 今度は手のひらでつかんでみる。
 私は指は長い方だけど、それでも覆いきれないほど、その胸は豊満だった。
 あとはもう無我夢中だった。
 寝ている人間にとかそういうのは考えられなかった。
 チャイムが鳴っているのも関係なしに、私はリーネのおっぱいを揉み続けた。
 もういっそ顔をうずめてしまおうとしようとしたところ、

 ――目と目があった。

「なっ、なにやってるんですかっ!?」
 しどろもどろになりながら、リーネは言ってきた。
 私は頭が真っ白になった。
 しばらくしてから、罪悪感とかしまった感とかそんなものが一気に押し寄せてくる。
「ええっと……こっこれはダナ……」
 なにか言おうとしても、舌がもつれてしまってうまくいかない。
「とりあえず……手、どけてくれませんか?」
「ごっ、ごめんっ」
 私はリーネの胸の上に置いたままだった手をどけた。名残惜しかった。
 お互いに顔をそむけた。とても顔なんて合わせられない。
 そしてしばらくしてから、
「……ここ、どこですか?」
 先に口を開いたのはリーネだった。
「保健室。気を失っちゃったから、私がここまで運んできたんダ」
 “私が”ということを強調してそう答えた。焼け石に水でもなにもないよりはいい。
「そうですか……それは、ありがとうございました」
 “それは”ということを強調して、リーネは言ってきた。
 やっやっぱり、怒ってる……ヨナ?
「いいって。元はといえば、私がぶつけちゃったからだし」
 私はなんとかそれだけ言って、あとは黙りこんだ。
 ――と、リーネが、

「……でも、エイラさんでよかったです」

 ン? どういう意味ダ?
 私に言うではなく、まるで独り言のようにリーネはぽつりつぶやいた。
 “私”でよかったってことは、他の人だったらダメってことダヨナ……?
 というか、どうしてリーネは私の名前を知ってるんダ?
 転校1日目なのに。喋ったのなんて、ぶっちゃけ言うとさっきの会話が初めてだし。
 私は今日一日のことを思い返して、脳細胞を総動員して演算を始めた。
 1回……2回……3回……と検算も忘れない。
 ――計算終了。
 答えはすべて同じになった。
 間違いない。そうとしか考えられないじゃないカ。

 フラグが立った。

 まさしくこれはそういう状況だった。他には考えられない。
 きっとドッジボールでの私の華麗な回避技に、リーネはキュンとときめいてしまったんだろう。
「どうかしたんですか、エイラさん。顔、赤いですよ」
 と、リーネは訊いてきた。
 なんだかだんだん、リーネのことが可愛く見えてくる。
「なっ、なんでもない……」
 ああっ、なに意識しまくってんダヨ、私は。
 頭がぐるんぐるんかき乱される。知恵熱で蒸発してしまいそうだ。
 恥ずかしながら――エイラ・イルマタル・ユーティライネンの人生初のモテ期だった。
 ここだけの話、普段はストイックに装っている私も、心のなかではそういうものに飢えていた。
 こういう時ってどうすればいいんダ……?
 考えをこねくり出そうにも経験不足で、なかなか答えが見つからない。
 ここは強気に押し倒して――いや、あんまりガメツいのはよくないヨナ。
 我存ぜぬといったふうに、いつもどおり堂々としているべきなんだ。坂本先生のように――
「ななななにしてるんですかっ……!?」
 と、リーネは声をあたふたあたふた。
 えっ……?
 私は自分の手元に目をやった。
 私は再び、リーネの胸を揉んでいた。
 本能だった。そうとしか言いようがない。いろいろ思案したけど、それ以上に体は正直だった。
「………………」
 愕然となる。やめようかとも思った――けど、もう手遅れだった。
「なに恥ずかしがってんダヨ。いいダロ」
 私はリーネを押し倒していた。
 ヤバい、止まんない。
 だってぽよんってしてるんだから、しょうがないダロ。ぽよんて――

 ガシャン!

 と、私の背後から音がした。
 びくっとなって私は振り返った。
 床には、給食がトレイごと盛大にぶちまけられていた。
 そういえばさっきチャイムが鳴った。4時間目が終わって、もう給食の時間になってたのだ。
 おそらくなかなか教室に帰ってこない私に、給食を運んできてくれたのだろう。
 考えうるかぎり、最低最悪のタイミングで。

 ―――――――――――サーニャだった。

「ななななっななっなっなっにっをしっているのっ!!!?」
 サーニャの声が震えている。顔面は蒼白だった。
 ハイライトの入ってない目だった。作画ミスじゃない。ヤンデレ特有のそういう目をサーニャはしていた。
 いつの間にか、私は修羅場に足を踏み入れてしまっていた。
「サッサーニャ、こっこれは……」
 声ばかりが空まわる。
 とても言い訳なんてできる状況じゃないのに、それを探すのをやめられない。
 泥沼だった。そこで私は溺れている。
 ――いや、待て。
 そもそもなんで私が、サーニャに言い訳なんてしなきゃならないんだ。
 別に私とサーニャはそういう関係じゃないはずだ。
 ただ、サーニャが一方的に私のことが好きなだけで。私の気持ちなんて考えなしで……。
 サーニャは身をぶるぶると震わせていた。
「そっそうよね。そんなはずないわよね、エイラに限ってそんなこと……エイラがわたし以外の人と……」
 エイラガワタシイガイノヒトト、エイラガワタシイガイノヒトト……
 その言葉を、サーニャが繰り返し、繰り返す。
 エイラガワタシイガイノヒトト、エイラガワタシイガイノヒトト……
 お経でも聞いているみたいだった。身の毛のよだつ、ぞっとするような冷たい声だった。
 そしてサーニャは2、3歩後ずさると、立ち去るように走って行ってしまった。
「サーニャ!」
 呼び止めようと、とっさに私は叫んでいた。
 ――けれど、サーニャが戻ってくることはなかった。
 もうサーニャはいなくなってしまった。
 その目から飛んだ、きらきらと光るものを残して。

 いつの間にか、リーネまでいなくなっていた。
 そうして保健室には、私1人だけ。
 まるで取り残されたみたいだと思った。ベッドにごろんと寝っ転がる。広々としていた。
 ホント、女ってわけわかんネー。心底そう思う。
 二兎を追うもの……
 と、頭のなかにそんな言葉が浮かんできた。今の私は、まさしくそういう状況だった。
 どちらかを選べと問われれば、私はたちどころに即答するだろう。
 サーニャ……は絶対ない。アリエナイ。
 迷わずリーネを選ぶべきだ。
 だってそうダロ? 他にあるカ?
 なにせ、ぽよん、ってしてるんだから。ぽよん、って。
 ちょっとドジなところもあるけど、そういうのも愛嬌だろう。それに、ぽよん、ってしてるし。
 一方サーニャはといえば、発育具合からいえば私より劣る。リーネとは比べるべくもない。
 それなのにサーニャを選ばなきゃいけない理由なんて、なにかあるのカ?
 それなら自分の胸を揉んでいても……いや、やっぱりそれはナシだ。虚しくなるから。
 ――とにかく。
 考えてみればちょうどいい機会だった。
 せいせいする。そもそもヤンデレ女なんて、こっちから願い下げだったんだ。
 サーニャがどうなろうと、私にはどうだっていい。気にしてやる必要なんてない。
 ぜんぜん、なんにも、これっぽっちも関係ない。
 私はごろんと寝返りをうった。
 カーテンが閉められてないため、窓からは容赦なく夏の日差しが差しこんでくる。
 私はそれに、手をかざした。
 すると、小指にくくりつけられた赤い糸が、嫌でも目に入ってきた。

『恋をしなさい』

 前にアホネン先生に言われた言葉が、ふいによみがえってくる。
「恋……」
 ぽつり、つぶやいてみる。
 恋ってなんダ? 私にはわからない。
 ただ悶々とするばかりだ。あるいはこういうのが、恋ってヤツなのかもしれない。
 ぐるぐる、ぐるぐる……頭のなかで有象無象の考えがうずまく。
 まるで迷路だ。そこから私は一向に抜け出せそうにない。
「なにやってんダヨ、私は」
「なにやってるんですか、エイラさん」
「なにって、」
 ン……? 私、誰と会話してるんダ?
「おっ、おどかすナヨ! エル姉!」
 私はベッドから飛び起きた。
「ごめんなさい」
 と、素直に頭を下げて謝るエル姉。
 恥ずかしいところを見られてしまった……かもしれない。いつからそこにいたのかわからないから。
 その人の名前はエルマ・レイヴォネン。こんなだけど、5年7組の先生をやっている。
 誰に対しても敬語で、だから私としゃべると教師と生徒がまるでひっくり返ったみたいになる。
 背も私と同じくらいだし、正直なところ、先生って感じがぜんぜんしない。
「なんですか、それ?」
 と、エル姉は私の手を見て訊いてきた。
「なっ、なんでもない……」
 とっさに私は、もう片方の手で小指を隠した。
 すると私の反応を見て、エル姉はくすくすと笑い出した。
「な、なんダヨ……?」
「いえ――エイラさんも、もうそんなお年頃なんだなって」
「なっ……!?」
 なに言ってんダ? 意味わかんねーし。
「それで、その相手ってどういう人なんですか?」
 エル姉は目をキラキラさせて訊いてくる。完全に女子中学生あたりのノリだ。
「べっ別に、私とサーニャはそんなんじゃ――」
「へぇ。サーニャさんって言うんですね」
 語るに落ちるだった。エル姉はあわてる私を見てくすくすとまた笑った。
「それで、サーニャさんがどうかしたんですか?」
「なっ。なんでもネーヨ」
「なんにもないなんてこと、ないでしょう。そんなに悩んでいるんですから」
「うっ……」
 なんだかエル姉が、私には初めて先生に見えた気がする。
 追及からは逃れられそうにない――いい加減、観念してしまった方がいいのかも。
「なあ、エル姉。私、どうしたらいいと思う?」
 って意を決して訊いてみると、
「わかりません」
 って即答された。……ダヨナ、脈絡を端折りすぎた。
 でも――と、エル姉はそう言葉を続けた。
「でも、エイラさんにはもうわかってるんじゃないですか。どうすればいいのか」
 私がするべきこと……
「ごめん、エル姉っ。私、行くから」
 と、私はベッドから立ち上がった。そして、着地するなり走り出す。
 ――っと。床にはぶちまけられた給食が残ったままだ。あやうく踏んづけてしまうところだった。
 ああっ、これ片づけておかなきゃナ……
 そんな私を見かねたのか、エル姉は言った。
「ああ、いいですよ。私が片づけておきますから」

 私は廊下を全力しながら、頭の片隅でずっと悔いていた。
 いい加減、認めてしまうべきだったんだ。
 なんで今まで、ちゃんと考えてこなかったんダロ?
 ホントならもっと早く、ちゃんと自分の気持ちに向き合っておくべきだったんだ。
 なぜかなんてわからない。理屈じゃない。誰にも説明できっこない。
 でもたしかに――私はサーニャのことが好きだった。
 だから、サーニャを探さなきゃ。
 会ってどうなるとか、そんなことわからない。
 なにを話していいかとか、どんな顔すればいいかとか、そんなの考えてもない。
 それでも私は、サーニャに会わなきゃいけない。
 だってこのままじゃ、満足に息ができない。私がどうにかなってしまいそうになる。
 私はサーニャを探して、あてもなく校舎を走り回った。
 けれど、一向にサーニャは見つからない。
 ただでさえ校舎は広い。サーニャがどこにいるかなんて――いいや、違う。
 私は手を見た。小指にはたしかに、赤い糸が残されている。

 時間はかかって放課後になってしまったけれど、私はサーニャを見つけることができた。
 5、6時間目をすっかりサボってしまった。
 あとでミーナ先生にこっぴどく叱られることだろう――別にそれでもかまわない。
 サーニャは校舎裏のウサギ小屋の前でしゃがみこんでいた。
 私はその後ろに立つと、
「サーニャ」
 と、名前を呼んだ。できるだけ、やさしく。
 サーニャはゆっくりと、私に顔を向けた。
 その顔は泣きはらしてて、真っ赤になってて、おばあちゃんみたいにしわしわだった。
 一体どれだけ、涙を流させてしまったんだろう……?
 私が次の言葉を言うよりも前に、

「ごめんなさい」

 と、サーニャは言った。そして、力なくうなだれる。
「……なんでサーニャが謝るんダ?」
「怖くて怖くて、今までずっと言いそびれてしまっていたの」
 ぼそぼそと口元でつぶやくように、サーニャは言った。
 私はサーニャのすぐ隣に、腰をおろした。
「わたし、エイラのことが好きよ。すっごく、すっごく」
 うん、と私はうなずいた。それ、知ってる。
「でも――どれだけわたしがエイラを好きでも――エイラがわたしを好きだとはかぎらないでしょ?」
 ううん、と心のなかで私は首を横に振る。
 そんなことない。オマエのこと、わたしは好きダゾ……口にはまだ出してないけど。
「そうだったらいいなってずっと思うようにしてたけど……心のどこかでは疑ってたの。
 だってそうよね。エイラがわたし以外の人を好きになることだって、それは普通にあることだもの」
 だから、そんなことないって。
 私がオマエを探すのに、一体どれだけ校舎を走り回ったと思ってるんダ。
 小指の糸をたぐっていくのを思いついたのはいいけど、糸は途中で切れていたのだ。
 糸の長さなんてせいぜい数百メートルなのだ。
 それに比べて校舎はずっと広いし、廊下だってカクカク曲がっている。
 切れた糸を見たその時ばかりは、思わず泣きそうになった。
 ――それでもサ、こうして私はサーニャを見つけてやったダロ?
「別にリーネとは、そういうんじゃネーヨ」
「ううん、エイラにはリーネさんの方がずっとふさわしいと思う……だってわたしはヤンデレだもの」
 そんなこと言ったら、私はヘタレだ。こんな2人、どっちもどっちダ。
 ……ああっ、メンドくさい。
 私は舌打ちした。いつまでもうじうじスンナヨナ。
「ほら――手、出せヨ」
 私は戸惑うサーニャの手首を強引につかんだ。やっぱりだ。
 大丈夫とか言ったくせに、ぜんぜん大丈夫じゃないじゃないカ。
 つながってないと不安で不安でしょうがないなら、しっかり自分の指にもつないでおけヨナ。
 私はサーニャの小指に、私の指に結ばれた糸のもう一端をくくりつけた。
「どうダ? これでいいカ?」
 サーニャの顔の前に、2人の手を掲げてみせた。
 私は小指だけ1本、立ててみた。
 サーニャも遅れて同じように、ぎこちなくだけど小指だけを立てる。
 たしかに今、赤い糸はつながれている。私の小指と、サーニャの小指を。
 細く、頼りなく、またいつかどこかでプツンと切れてしまうことがあるかもしれない。
 ――でもナ、サーニャ。
 切れた糸なら、こうしてまた結べばいい。そうダロ――?

 ボロボロとサーニャの目から涙があふれてきた。
「わっ、泣くナヨナ! 私、なんか変なことしたカ?」
「ううん……だって嬉しくって」
 お世辞にも綺麗な顔なんかじゃない。だけど私にとっては、それはどこまでも愛おしい。
 サーニャはずずっと鼻水を吸いこむと、そう続けた。

「だってエイラが別に好きでもないわたしのために、こんなにやさしくしてくれるなんて」

 …………アレッ?
 今のって告白じゃなかったのカ? 私としてはそのつもりだったんだけど。
 いや、たしかに「好き」とかは言ってないけど……。
 ここは改めてもう一度コクるべき場面だった。
 100%答えは決まり切ってるんだ。なにを怖気づく必要があるんダ。ほら、言わなきゃ。
 ――けど、言えなかった。
 なに一言も。口からは一切出てきてくれない。
 もういい加減に、このことも認めてしまった方がいいのかもしれない。
 つまり、私がヘタレだってことを。

「わたしこのまま、エイラのこと好きでいていい?」
 サーニャの問いかけに私はなんとか、ああ、とうなずいた。それだけで精一杯だった。
「じゃあ、エイラがわたしのことを好きになってもらえるように、がんばる」
 実はもう、オマエのこと好きなんだけどナ……とても自分の口からは言えそうにないけど。
 うん、とも、ううん、ともつかない返事を私はした。
「――ねぇ、エイラ、」
 と、サーニャは話しかけてきた。なんダ、と返すと、

「エイラって、胸はおっきい方が好きなの?」

 ………………えっ!?
 牛乳を飲んでなくてよかった。じゃなかったら、噴き出しているところだ。
「なっ、なんでっ……!?」
「だってわたしは、エイラのことはいつも見てるもの。いつも見てるもの」
 なんで同じことを2回言うんダ?
 ――いや、それよりも。
 見られてたのカ? 誰にもバレないように、こっそりチラ見してたはずなのに。
「だからね、」
 と、サーニャは言って、私の方に向き直った。
 サーニャの胸は、すごいことになっていた。
 リーネやシャーリーよりも、もっと、ずっと。
 今までサーニャは身を抱えるようにしゃがみこんでいたので、気づかなかった。
 いや、おかしいとはずっと思っていたけど、空気を読んで気づかないようにしてたんだけど。
 給食の牛乳を一体どれだけヤケ飲みすれば、こんなことになってしまうんダ……?
 サーニャは私の手首をつかむと、それを自分の胸に押しつけた。
 私の心臓は、びくんって一回跳ねあがった。そのまま体の外に飛び出してしまいそうだった。

 サーニャの胸は――カッチンカッチンだった。

 ずるり、とサーニャの胸が滑った。
「あっ、」
 と、声を出すサーニャ。
 それはそのまま服の下から落っこちて、ぽーんと地面を何度か跳ねた。
 ドッジボールだった。
 それを2つ、サーニャは服の下に忍ばせていたのだ。あまりにもシュールだ。
「あっ、」
 と、今度は私が声を出す番だった。
 サーニャの胸から手を放そうとした――そのつもりだったのに。
 伸びに伸びきったサーニャの服を、私は破いてしまった。
 あらわになるサーニャの上半身。
 私の鼻から、血が噴き出した。
 大量に、ドバドバと。
 そのあとのことは、よく覚えていない。私はくらくらと貧血を起こし、そこで意識は事切れた。

 ――そしてこれは翌日の話だ。
 なんとか一命を取り留めた私は、いつものように自分の席に座っていた。
 私はチラチラと、前の方の席に座るリーネを見ていた。
 結局、保健室での一件以来、リーネとは口を聞いていない。
 けどいつまでも宙ぶらりんでいるわけにもいかないヨナ。
 かわいそうだけど、リーネの気持ちは嬉しいけど――でもちゃんと断らなくちゃナ。ちょっと残念だけど。
 そんなことを考えて悶々としている間に、ミーナ先生が教室へとやって来てしまった。
「今日はみなさんにビッグニュースがあります」
 と、教壇にのぼったミーナ先生が朝の挨拶をはじめた。
 なんダ、コレ? 昨日も会ったヨナ。
「実は、私たち5年1組に新しい仲間が加わることになりました」
 わあーっ、と教室中から歓声があがった。毎度ながら、前の席のシャーリーは特にうるさい。
 ――まあ、別に転校生なんて珍しくもないんだけど。とはいえ、2日連続はさすがにどうなんダ?
「それじゃあ入ってきて」
 というミーナ先生の言葉に、教室の前の扉の開く音がこたえた。
 また新しい転校生が教室に入ってきて、
「扶桑からやって来た宮藤――」
 と、先生が紹介をはじめようとしていたところ突然、1人が席から立ち上がった。
 リーネだった。
 その転校生(宮藤だっけ?)ってヤツの目の前までスタスタ歩いていく。
 そして開口一番、リーネは言った。

「結婚しよ」

 って。
 その言葉に、教室中が大パニックになった。



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