501のいらん子は?
501の全ウィッチがブリーフィングルームに集められた。
「なんだよ、気持ちよく昼寝してたのにぃ」
いつものように木の上で寝ていたところを起こされ、ルッキーニは少々むくれ気味である。
折角のゆとりある時間を潰された待機組は、総じてご機嫌斜めであった。
無条件に喜んでいるのは、訓練を公然とサボれることになった宮藤芳佳くらいのものである。
芳佳は何が始まるのかと、好奇心に目をキラキラ輝かせていた。
「みんな、もう集まった?」
待つことしばし、ようやく隊長のミーナが部屋に入ってきた。
手には紙束を持っている。
「どういうことだ。待機班はともかく、警戒班の我々まで集合とは」
バルクホルンは軍規違反だとばかりにミーナを睨み付ける。
「それだけ重要な話だってことだな、ミーナ?」
坂本少佐が殊更気楽そうに助け船を出した。
バルクホルンの矛先が少佐に向かいそうになる、その機先を制するようにミーナが答える。
「ご名答。実はスオムスの部隊が消耗してきたので、他の部隊から増援を出すことになりました」
ニコニコ顔を崩さぬままで、ミーナはとんでもないことを口にした。
それを耳にした隊員たちが、しーんと黙り込んでしまう。
通称いらん子中隊の任地であるスオムスは激戦地中の激戦地である。
イチャイチャの合間に戦闘があるブリタニアとは訳が違う。
世界で最も過酷な任地なのである。
そんなところに行きたがる酔狂なウィッチは誰もいなかった。
「即ち、501のいらん子を一人選出することになったのです」
「上手いっ」
思わずハルトマンが褒め讃えたが、後に続く者は誰もいなかった。
「そんなぁ、これまでみんな仲良くやってきたのに。そんなのってないよっ」
芳佳が立ち上がって抗議するが、こう言う時に目立っては損するだけだと他の者は縮こまっている。
「芳佳ちゃん……」
ただ一人、親友のリーネだけが芳佳のセーラー服を引っ張ってたしなめる。
「これから紙を配ります。絶対に要ると思う人、それとこいつイラネと思う人を一人づつ上げて、その理由を併記してください」
ニッコリ笑ったミーナは、有無を言わせぬように紙を配り始めた。
ニコニコ顔をしている時のミーナに逆らう者など、この基地には一人もいない。
「弱ったなあ。リーネちゃんは親友だし、坂本さんは恩人だし……いらん子だったら直ぐに書けるんだけどなぁ」
芳佳がチラチラとペリーヌに視線を送る。
「ちょっと、宮藤さんっ。なんなんですのっ?」
カッと来たペリーヌが立ち上がるが、目立つことの不利を考えて直ぐに大人しく着席する。
「必要なのは坂本少佐……少佐あっての私ですもの……いらん子は豆狸で決まりですわ」
理由には「軍律を乱す」旨の内容を克明に書き上げていく。
エイラも比較的筆を滑らせている方であった。
「必要な人。そんなのサーニャに決まっているダロ」
しかし不要な隊員となると、ペンの動きは止まってしまう。
「特に仲の悪い奴はいないしナ。と言って仲のいいのもいないケド」
エイラは自嘲的に唇を歪める。
「よし。どうでもいいけど、ここはサーニャが嫌いなリベリオンにするカ」
エイラは再びペンを動かし始めた。
幸せ者のサーニャは一片の躊躇もなく既に書き終えていた。
「必要な人……私。必要ない人、エイラ……ウザいもの……」
サーニャは表情を変えず、口元だけでそっとほくそ笑む。
リーネは困って固まっている一人であった。
「芳佳ちゃんがいないと困るなあ。あたしが一番の下手くそになっちゃうのは嫌だし……」
だが不要な人材となると困ってしまう。
理性的なリーネは芳佳が嫌ってるペリーヌにも存在意義を見出している。
「一番存在感のない人がいいのかなあ……後ろめたさもなくていいし……」
リーネは上目遣いにみんなを見回し始めた。