後日談~本当にあった怖い話~
(そういえば扶桑じゃ、幽霊よりも生きている人間の嫉妬の方が怖いって言うな・・・)
そんな事をぼんやりと考えながらベッドへと潜り込む。
夢と現実の間をさ迷い始めた頃、ギィと扉の開く音がした。
(サーニャか…また…寝ぼけて来たんだナ…ショーガナイナー…)
もうすぐ来るであろう振動に、無意識に身構えつつそんなことを思っていた。
ドサッ
「さー…にゃぁ…また、部屋間違エテ………ッ!?」
ソコには眠りに包まれているサーニャでは無く、無表情でベッドに腰掛けて見下ろす私の知らないサーニャが居た。
いや、正確には私はこのサーニャを知っていた。
以前人の体を触るのは良くないと怒られてから、サーニャが朝に弱いのを良い事に、毎朝隠れてリーネのおっぱい
を揉みしだいていたんだ。でもついにいつもより早く起きたサーニャに見つかってしまった。
その時の記憶は脳が思い出すことを拒否している んダケド…
この黒っぽい紫色のようなオーラを出すサーニャは危険だ、と、使い魔と言うか、第六感と言うか、未来予知
云々の話ではなく、本能 そう 本能が告げるんだ。この状態のサーニャに逆らってはいけない、と…
☆
起きるにはまだ早いケド、小鳥達がさえずり朝日も差し込んで、まさに一日の始まりとも言うべき気持ちの良い朝!
だと言うのに…私は青ざめた顔でサーニャを見上げている。
扶桑の言葉で言うなら、蛇に睨まれた蛙 だっけか…。
ベッドに腰掛けたまま無言の圧力をかけて来るサーニャ。
耐え切れなくなった私は勇気を振り絞り、いつも通りを装って話しかけた。
「ササササササーニャ、かか帰ってたたのカ。ねっ寝ないのカッ?つつ、疲れてるダロ…?」
ヨシ、いつも通りダ。問題ナイ。
後はサーニャが「眠い…」と言ってくれれば万事オッケィなはず…
なんでこんなに怒ってるのか分らないけど、サーニャを寝かしつけてサウナにでも行こう。
こんなに怒っているサーニャを見てしまったら眠気なんて吹っ飛んでしまった。
「…エイラ」
「ハヒッ!!」
「おすわり」
(な、何言ってんダサーニャ…)
私はすでに半身を起こした状態で座っている。と言うか固まっている。それに恐らく変な顔してる。これ以上どう
座れば良いのか…
と自問自答してたらサーニャが口を開いた。
「聞こえなかった?…おすわり」
「ハ、ハイ…」
普通に座るだけでは駄目なのだろう。私は足を折りたたみ、「正座」と呼ばれる姿勢をした。
「これはどう言う事?」
「ナ、ナンノコトカナ…?」
正座したのがマズかったのか?それとも懲りずにリーネのおっぱい揉んでたのがバレたとか?自問自答を繰り返して
いたらサーニャが口を開いた。
「質問に質問で返すのは良くないわ、エイラ。私が夜間哨戒から帰って来たら、宮藤さんがあなたの部屋から出て
きた。この説明をしてくれないかしら?」
「エ…(さっきの、見られてたノカ!いや、でもミヤフジとは何もないんだシ…て言うかサーニャ、ミヤフジのこと
いつもは芳佳ちゃんって呼んデなかったカ…?)」
「エイラ?」
「あの、ソノ…(ミヤフジもミヤフジだ!あんな嘘の話に騙されテ、その上一人で眠れないッテ…リーネの所にでも行け
ば良かったンダ。そしたら私がコンナ目に合う事も無かったハズなのニ…!そもそもなんでサーニャは怒ってるンダ?
あー!もー!ワケワカンネーヨ!!)」
心の中で宮藤に責任転嫁していたら、慣れない体勢のせいか足が痺れてきた。それに気をとられてまた返事をかえせない
でいると
「…そう、言えないのね」
と俯き加減で目を閉じ、悲しげに言うサーニャ。心なしか瞳が潤んでいる。それに気付いた瞬間、ようやく言葉が出てきた。
足の痺れなんて、サーニャの涙と比べるまでもない。
「チッ、違うんダサーニャ!」
「もういい。エイラなんか知らないっ」
「待っテ、サーニャ!!」
☆
思わず部屋を出て行こうとするサーニャの腕を掴んで引き寄せる。
足が痺れていたせいか、上手くバランスがとれずにドサッとベッドの上に倒れこんだ。
サーニャがベッドに顔面衝突するのを避ける為に、無意識で抱きとめていたらしい。我ながら良くやったと思う。
この状態で顔を見るのは恥ずかしいので、サーニャの頭を抱えたまま言葉を紡ぐ。
「あの、さ。ミヤフジとは本当に何にもないんダヨ。昨日の夜、ミヤフジに怖い話をしてからかったンダケド、
ミヤフジがソレを真に受けて怖がっちゃってサ。私の部屋に無理矢理押しかけて来たンダ。だから、本当に…」
「もういい」
「…エ?」
やっぱりまだ怒ってるのか…どうすれば機嫌をなおしてもらえるかアレコレ考えようとしていたら、胸元から
くぐもった声が響いてきた。
「エイラがそう言うならそれを信じる」
よかった。いつの間にかお姫様のご機嫌はとっくに治っていたみたいだ。泣いてるサーニャなんて見たくない。
サーニャには辛い過去がある分、笑っていて欲しい。
サーニャの笑顔の為なら、私は何だって出来るんだ。
…出来ればあの禍々しいオーラも二度と見たくない。
不意に笑みがこぼれた。
「…そっか。アリガトナ」
「でも、他の子を部屋に入れるなんて、もうしちゃ駄目よ、エイラ」
「でも今回はミヤフジが勝手に」
「返事は?」
「ハイ!スミマセンデシタ!!」
「ふふっ。よろしい。(それに、エイラの隣で寝ても良いのは私だけなんだから…)」
「ん?なんか言ったか?サーニャ」
「なんでもない。それよりも朝ごはん食べに行きましょう?」
「エッ、もうソンナ時間なのカ。そういえばハラヘッタナー」
「そうだ。エイラ。罰として今日は一日中手を繋いでてもらうからね」
「エェッ!ソンナァ…は、恥ずかしいジャンカァ…」
「…嫌?」
「ウッ…謹んでお受けシマス」
だから泣きそうにならないで。泣きたいのはこっちだぞ、ホントに…
そこでまだサーニャを抱きとめたままの状態だったことに気付いて、慌てふためく私。きっと顔真っ赤なんだろうなぁ
「はっ、早くメシ食いに行こーゼ!」
☆
二人して部屋を出ると同時にサーニャが手を取ってきた。
嬉しいやら恥ずかしいやらで私はカチコチ。まるでロボットだ。
食堂には既に何人か居て私たちを好奇の目で見てきたけど、ここで振り払ったりしたらまたサーニャの機嫌が悪く
なりそうだからしない。と言うより、サーニャを振り払うなんてできない。
当のサーニャは凄く楽しそうで、さっきまでの怖いオーラはどこへやら。まぁ、機嫌直してくれたみたいだから
ヨシとしよう。本当に良かった良かった。
安心して席に着くと、厨房で料理をしているミヤフジと目が合った。なんだか嫌な予感がするぞ…
「あ、エイラさん。昨日はすみませんでした。私、結構(寝相が)激しかったでしょ?エイラさん(ベッドから落ちて)
腰とか痛めてなければ良いんですけど…」
「あ、あぁ。ナンテコトナイッ…デェエ゛ッ!!」
てっ…手が!私の手がぁっ!なんかゴリゴリ言ってる!!サーニャ!痛い!痛いって!魔力開放しないで!まじで痛い!
「…エイラ。さっきのお話の続きしましょう?」
「みッミヤフジ!テメェェ!!!」
「えっ!!何々?私本当の事しか言ってないよ?!」
「そう。本当の事しか言ってないのね…」
「いいからミヤフジッ!モウお前は喋るナァァ!!」
殆ど感覚の無くなった右手を引かれながら、ふとミヤフジの後方の黒い塊が目に入った。
黒すぎてネウロイかと思ったけど、冷静に考えてあれ多分リーネだな…
「ねえ芳佳ちゃん、私も後で話があるの。良いかな?」
「え?あ、うん。分かった。あとで部屋に行くね」
そんな会話が聞こえてきたような気がした。ミヤフジ、今日は部屋から出られないんだろうな…
リーネに比べたらサーニャは可愛いもんだな
引きずられながらも他人事の様に思い、サーニャの顔をチラと盗み見た。
………前言撤回。今日は私も部屋から出られないかもしれない…
明日の朝日が拝めるかも微妙な所だ。
明日、生きてミヤフジに会えたら取りあえず謝ろう。元はと言えば私の話が原因なんだから。
私はまだ自分の恐ろしい未来が分っていないであろうミヤフジに、悟りきった笑顔を向けながら引きずられていった…
end