jealousy


 ハンガーに響く、元気一杯の声。
「どうもお邪魔します!」
「いらっしゃい。歓迎するわ、レンナルツさん」
 早速渡された書類を片手に、にこりと笑うミーナ。
「ありがとうございます、ヴィルケ中佐」
 微笑むヘルマを見、トゥルーデは溜め息を付いた。
「全く、毎度毎度お騒がせだな、ヘルマは」
「そうですか? 今回は私のせいじゃないですけど」
「基地への連絡が遅れたせいだと言いたげだな。基地のウィッチ全員で迎撃するところだったぞ」
 トゥルーデの言う通り、『基地に高速で接近する未確認飛行物体を発見』と言う事で基地が緊張に包まれた。
だが数分後、所属原隊を通じてヘルマ来訪の連絡が(やや遅れて)届き、
『未確認飛行物体』がヘルマのジェットストライカーだと知った501のウィッチ一同は揃って拍子抜けした。
「それはそれで、皆さん総出のお出迎えで歓迎してくれるってことで」
「歓迎ねえ。超遠距離から狙撃されたりロケット砲撃ち込まれたり、挙句蜂の巣にされるんだけど」
 嫌味たっぷりにヘルマの頭をごしごしこすりながらエーリカが言う。
「それは嫌ですけど、大丈夫です」
「何だその自信は」
「お姉ちゃんが守ってくれるって信じてますから。ね、お姉ちゃん♪」
「ああ、確かに私はお前を守るぞ、ヘルマ。さあ……」
「ああ、お姉ちゃん……」
 その場できつく抱擁し、指を絡ませ、更に異次元へと向かうトゥルーデとヘルマ。
「ストップストップ!」
「はい、そこまで」
 シャーリーとエーリカに引き剥がされる二人。
「あーん、いいとこだったのに」
「はっ、私は今何を……」
 正気に返り自分の手をわなわなと見るトゥルーデ。
「皆の居る前でいきなりおっ始めるのは、流石にどうかと思うぞ、堅物さんよ」
「き、気のせいだリベリアン! 私は何もしていない! ……と思う。この通りちゃんと正気……いたたっ、何するんだエーリカ」
 耳をつねられ、よろけるトゥルーデ。
「トゥルーデ、すぐ別の世界にトリップするよね」
「き、気のせいだ」
「へえ、気のせい、ねえ」
「怖い顔するなエーリカ」
「だって」
「あれ、嫉妬ですか? ハルトマン中尉」
 むくれた顔のヘルマに言われ、ちらりと見返すエーリカ。
「アンタにだけは言われたくないよ、レンナルツ。さ、用事済んだらとっとと帰って」
「酷い! せっかくの機会なのに」
「何がせっかくなんだか」
「だって。私、今日誕生日で」
「……だから?」
「その記念すべき日に憧れの人に会えるなんて、ステキな事だと思いませんか?」
「レンナルツにだけは有り得ないね。さ、滑走路はあっち」
 とっとと帰れと指差すエーリカを見てヘルマはトゥルーデに抱きついた。
「酷い! 助けてお姉ちゃん、ハルトマン中尉が冷たいんです」
「うーむ、誕生日か。おめでとうヘルマ。何かお祝いしてやらんとな」
「誕生日祝い? ウキャキャ、楽しそう」
「こらルッキーニ、また何かヘンな事考えただろ」
「べーつにー」
 しばし考え込んだトゥルーデは、ハンガーの様子を見に来た芳佳とリーネを見つけ、声を掛けた。
「宮藤、リーネ! 何か祝うものは無いか? 例えばケーキとか……、あとケーキとか」
「祝う、ものですか?」
「ケーキばっかりですね」
「いきなり言われても、流石に準備が……お茶菓子ならすぐ準備できるんですけど」
「うーむ、そうか。私も、今は特になあ」
「あう」
 がっかりするヘルマを見たミーナは、ふっと笑って言った。
「まあ、良いじゃない。ひとまずみんなでお茶にしましょう。レンナルツさんもゆっくりしていくと良いわ」
「ありがとうございます、ヴィルケ中佐」

 楽しい午後のお茶会も終わり、ヘルマは帰り支度を始めた。
 今回は日帰りと言う事で兵装の整備も慌しく、武器を担ぎ、ストライカーを履いて魔導エンジンの調子を確かめる。
 ヘルマは見送りに来たトゥルーデを見て、言った。
「今日はお茶会楽しかったです。皆さんからお祝いしてもらったし」
「まあ、いつもと同じ午後の休憩だったけどな」
「私はそれでも良いです」
「また来ると良いさ。誕生日祝い、しっかり準備しておくからな。でも次来る時は、前もって言うんだぞ?」
「それは期待して良いって事ですね?」
「はいはいレンナルツ、落ち着いて。エーテル流乱れてるよ」
「おっとっと……じゃあ、これで」
「気を付けてな」
 ヘルマはストライカーの格納装置から出てタキシングしながら、すすっとトゥルーデに近寄って来た。
「あの……」
「ん? どうした?」
 そのまま近付き、距離がゼロに。トゥルーデの頬にそっと唇を当てると、ヘルマは弾けるばかりの笑顔を見せた。
「なっ! 何するんだ!」
「これ、私へのお祝いで、良いですよね?」
「あ、ああ……まあ」
「じゃあ、今日はこれで!」
 笑顔のヘルマは手を振って離れていった。ゆっくりと滑走路に向かい、やがて速度を上げ離陸し、去っていった。
「……」
 トゥルーデは頬を押さえ、しばし無言。そして何かを言おうとした矢先、エーリカに耳を引っ張られた。
「いたたっ、何だエーリカ! 今日はヤケに暴力的だな」
「トゥルーデに言われたくはないよ。全く、毎度毎度お騒がせだよあの子」
「まあ、たまには良いじゃないか」
「たまに? そのたびに私はどう言う気分になるか、分かってる?」
「すまない、エーリカ」
「たまに洒落にならないんだもん、トゥルーデ」
 すねるエーリカをそっと抱き寄せ、額に軽くキスするトゥルーデ。
「エーリカ、私は……」
「分かってる。分かってるからこそだよ?」
 上目遣いにトゥルーデを見るエーリカ。
「すまない」
「ま、自覚してるだけマシ、か」
 エーリカはトゥルーデと軽くキスを交わし、ぎゅっと抱きしめる。
「今夜は分かってるよね? さ、行こうトゥルーデ」
 にやりと笑うエーリカ。
「あ、ああ。ってあれ? 今日はヘルマの誕生日……」
 ずりずりとエーリカに引きずられるうち、まあ良いかとうやむやになってしまうトゥルーデ。
 そんな二人を見て、やれやれと溜め息を付く501の一同だった。

end


前話:1037


コメントを書く・見る

戻る

ストライクウィッチーズ 百合SSまとめ