涙のハロウィン


 501の食堂でウィッチたちが束の間の平和を楽しんでいた。
「ハロウィンって何をする遊びなんだ?」
 坂本美緒はリーネが紹介したハロウィンの話に興味津々だ。
「魔女やお化けに扮装して近所を回り、お菓子とかを貰うんです。くれないと悪戯するって脅して」
 そして貰ったお菓子を持ち寄ってパーティを開くと聞いて、甘い物に目がない宮藤芳佳は目を輝かす。

「お化けの格好でお菓子を強請る? 扶桑のなまはげと恐喝を合体させたようなモンか」
 坂本少佐は鬼の形相になって包丁を振りかざす振りをしてみせる。
「少佐。それ、ちょっと違うと思う……」
 せっかくの説明が、美緒には今一伝わらなかったようである。
 面白そうだから月末にやってみようと相談していると、課業始めのラッパが鳴った。
 ワイワイやりながら食堂を出ていくみんなは、エイラが横目で見送っているに気付かなかった。

 ポツンと一人離れたテーブルで紅茶を飲んでいたエイラだったが、きっちり耳だけは僚友の方に向けていた。
「いい話を聞いたんだナ。サーニャの部屋に遊びに行く口実ができたんだナ、これが」
 先日、空中ブランコでサーニャを怒らせてしまったエイラは、何とか仲直りしようと懸命になっていた。
 ところが、あれ以来サーニャは取り付く島もなく、幾ら話し掛けても耳を貸してくれない。
 ハロウィンを利用すれば、何とか部屋には入れてくれるかもしれない。
「あいつらもたまには役に立つんだナ」
 エイラはクククとほくそ笑んだ。


 10月も最後となった31日、魔女の扮装をしたエイラがランタンを片手に廊下を歩いていた。
「サーニャの奴、入れてくれるかナ」
 少々ビビリながらサーニャの部屋の前に立ち、恐る恐るドアをノックする。
「……開いて……いるわ」
 ドア越しにくぐもった声が聞こえる。
 エイラは覚悟を決めてドアを開いた。

「お、お、お菓子をくれないと……い、い、いたずらするんだナ……」
 飛び出した言葉はどもりがちになる。
「エイラ……それ、違う……それじゃ……裸の大将……」
 サーニャはニコリともせずにエイラのトリック・オア・トリートを全否定する。
 そしてドアの前から身を引いて、エイラを室内へ招き入れた。

「お菓子は……あげないわ……。で……わたしに……いたずら……する……?」
 真顔のサーニャに見詰められると、エイラはドギマギして何も言えなくなってしまった。
「しても……いいわ……エイラなら……」
 頭に血が昇ったエイラは、とうとう鼻血を吹き出してしまった。
「でもね……ロシア正教じゃ……ハロウィンは死のカルト……なの……」
 サーニャの口元だけがニヤッと綻ぶ。
 同時にエイラの顔が真っ青に変化した。

「わたしを呪おうとは……いい度胸……だわ……」
 サーニャは後ろ手でドアをロックすると、ゆっくりエイラに近づいていく。
 前に戻した手には、鉄パイプがしっかりと握られていた。
「ああ……神様ァ……」
 エイラの両目から涙が溢れてきた。
 サーニャには罪はない。
 彼女の気を引こうとして、異国の宗教に頼ろうとした自分がいけなかったのだ。

「なぐごはいねぇ~がぁ」
 どこかでなまはげの声がしていた。


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