ハロウィンでドッキリ作戦!サーニャ編
エーリカがトゥルーデの部屋に引きずり込まれた後、芳佳たちはお互いの顔を見合わせていた。
「ど、どうしよう…バルクホルンさん、めちゃくちゃ怒ってるよね…」
芳佳ちゃんが最初の一言を発したのに続いて、各々が口を開く。
「あ…あんな大尉初めて見ましたわ…あれは流石にマズいんじゃないかしら…」
「しかし、ハルトマンにも余裕があったようだぞ。このままはろうぃんとやらを続けるのか?」
「でっでも、あとからハルトマンさんに怒られそうですよー!」
「…それを言ったらもう後戻りは出来ないかも知れないです…」
途方に暮れる4人。しかしルッキーニだけは相変わらず無邪気だった。
「でもでも!!中尉のパンチ凄かったねー!ぐふぅって言ってたよ大尉!」
呆気に取られる芳佳とペリーヌ。ルッキーニは1人楽しそうに話している。
「貴女ねぇ!!今はそんな話してる場合じゃ…」
「あぁ、うむ!それに関しては同感だな!普段はだらしないが、やはり我が隊のエースと言う所か。
見事なまでに急所である鳩尾を突いていたからな!お前も見習えよ、宮藤!!」
「はいっ!坂本さん!!」
「そっそそそそうですわ宮藤さん!さっさと精進してわたくし達の足を引っ張らないで下さいまし!!」
「ウジュジュジュー!ペリーヌおもしろーい♪……あれ?サーニャは?」
皆がワイワイやっているうちにサーニャの姿が消えていた。
「さぁ?どうせ居ても居なくても変わらないのだし、放っておいても宜しいんでなくて?」
「ペリーヌさん、それは酷いですよー」
「ペリーヌがそんな事言うから逃げちゃったんじゃないのー?」
「……っ!!そっ、そんな事……」
「おい、エイラの部屋の前に居るの、サーニャじゃないか?」
わざわざ魔眼で見ながら美緒が言った目線の先を追うと、そこには黒い三角帽を被ったサーニャがいた。
「ウジャー!次はサーニャの番かー!!どうなるんだろ。たっのしみー♪」
「結局、続くんですね…」
「はっはっは。こうなった以上は我々も最後まで付き合うしかないな、ペリーヌ!!」
「もっ勿論ですわ!少佐となら何処まででもお供いたしますわ!!」
☆
皆が騒いでいるうちに部屋の前まで来ちゃった。
ハルトマンさんとは良くお話するし、1人だけ怒られるのは何だか可愛そう。それに、エイラの驚く顔も見て
みたいし…
私の変わりに行ってくれた夜間哨戒のせいでずっと寝ているエイラだけど、そろそろ夕方だし起きているはず。
ハルトマンさんがしたみたいに、小さく息を吸ってから扉を叩いた。
こんこん。
「エイラ、起きてる?」
「サーニャカ?ちょっと待ってナ、今あけるから」
予想通り、やっぱり起きていた。
扉を開けてくれたエイラの部屋を見ると、テーブルの上にタロットカードが散乱している。占いでもしていたのかな
「占い…してたの?」
「ん?ウン。今日の自分の運勢を見ていたんダ」
「そう。結果はどうだった?」
「ンー…何か予想外の事が起きるッテ。夕飯が扶桑の納豆と肝油だったりしてナ!」
冗談っぽく笑うエイラの顔が可愛くてかっこよくて、ちょっとドキドキしてしまった。
「もう、エイラったら。納豆は体に良いからちゃんと食べないと駄目だって、坂本少佐が言ってたわ…肝油は…
私も苦手だけど…」
微笑みながら言うと、「分ってるっテ。ニヒヒ」と笑いながら部屋に入れてくれた。
いつもと同じ部屋なのに、何だかドキドキするのは、気のせいじゃないだろう。
散らかったままのタロットを片付けながら、エイラが質問を投げかけてきた。
「なぁサーニャ、その帽子はナンダ?」
「あ、これ?これは…魔女…なの」
「何言ってンダ、サーニャ?魔女は私達だロー?」
「そ、そうだけど、違うの!これは…」
「あ、もしかしてハロウィンの衣装カ?」
「そう!今日はハロウィンでしょう?だから…」
言い当てられてしまって恥ずかしくなってきた私は、どんどん声が小さくなって赤面していく。
チラとエイラを見遣ると、何故かエイラの方も赤くなっていて、いたずらとかサーニャが私に…とか呟いている。
もしかしてバレてた?
エイラなら本を持っているし、知っていてもおかしくない。
仕方ないから覚悟をきめて、まだ赤い顔をエイラに向ける。
一瞬ビクッとしたけど、私の真摯な眼差しを受け止めてくれた。
これから話す言葉を相手も知っていると言うのは、結構恥ずかしい。
もう一度息を吸い込んで目を瞑って捲し立てるように言った。
「おっおかしてくれなきゃイタズラしちゃうっ…から!」
…言った。エイラの反応を伺う為に薄目を開けて見る。
エイラは何故か真っ白になって、虚空を見つめたままさっきよりもブツブツ言っていた。
全部は聞き取れないけど、「私ガサーニャを…」とか「イタズラされるのも良いかモ」とか、よく分らない事を言っていた。
あれ?私ちゃんと言ってたと思うんだけど…
エイラの様子が明らかにおかしい。不安になってエイラの胸元まで近寄って見上げてみる。
大好きなエイラが私の一言でおかしくなってしまったのではないかと内心思っていたら、視界がぼやけてきた。
「……エイラ?」
ハッと気付いたエイラが私に向き直り
「ササササササーニャっ!ここういうのは順序って物があっテ…」
「順序?」
「そっソウ!サーニャにはマダ早いと思うンダ!!」
知らなかった。ハロウィンに順序や年齢規制があったなんて。俯いて思考を巡らせる。
だからエイラはあんなに驚いていたのか。私はまだ子供だから、ハロウィンには早すぎたんだ。
それじゃあ、お菓子も貰えないし、仮装行列にも参加できないの…?
そう思っていたら思わず口を動かしていたみたい。
「それじゃぁ……駄目………なのね…?」
「エ…?」
もう一度エイラの胸元から見上げて呟く。
「私じゃ…駄目…なんだ…」
言いながら悲しくなって涙があふれ出た。恥ずかしい。
ぐずぐずと泣いていたら、ふんわりとした感触。まるで暖かい毛布のような…
私の大好きな両手。
「そっソンナ事ないぞっ!!」
「え…?」
「サーニャは、その、たっ大切にしたいンダ。私自身がもっと強くなってサーニャを守れるようになってから、トカ
お父様とお母様に会うまではやっぱり奇麗な体のままデ…ッテ何言ってんダ、私!」
本当に何を言ってるのか分らないけど、とても大事な事だけは分った気がする。
にっこりと微笑んで、彼女の言葉の続きを促した。
「だ、ダカラ、今はコレで勘弁ナ。私がもっと強くなって、世界が平和になって、サーニャがご両親と会えたら…
つっつつつ続きはソレからだダ!」
そう言い終えた後、真っ赤になったエイラの顔が近付いてきた。
fin