ハロウィンでドッキリ作戦!芳佳編
今日は一日お休みの日。
朝食の後片付けも終わったし、実家から送って貰った物を片付けよう。
片付けると言っても両手で抱えられる木箱が1つだから、すぐに終るだろうな。
それが終ったら一緒に送られてきたブルーベリーで新しいお菓子でも作ってみよう。
そう言えば、以前頼んでいた本が見つかったと言っていたっけ…
換気の為に窓を開けて…っと。
木箱を絨毯の上に置いてその前に座り込み、蓋を開ると同時にその本と対面した。
今すぐにでも読みたい衝動に駆られたけど、それをしてしまうといつまで経っても片付けが終らない事は経験上
重々承知していた。
我慢、我慢…後でゆっくり読んだ方がきっと楽しいよ。
そう自分に言い聞かせ、片付けを始めていたら不意にノックの音が響いた。
「はーい。どなたですか?」
「あ、あたし。芳佳だけど、ちょっと入っても良いかな?」
「芳佳ちゃん?勿論良いよ!どうぞ入って」
「うん、おじゃましまーす」
お休みの日に芳佳ちゃんが尋ねて来てくれることは珍しくない。
この前も扶桑のオハギと言うお菓子の作り方を教授して貰った所だし。
あの独特な材料と作り方はブリタニアには無いだろう。でも甘くてモチモチで、すっごく美味しかったなぁ。
そんな事を思いながら扉を開けて彼女を招き入れる。
いつもと違ってなんだか落ち着かない様子の彼女を変に思いながらもソファに案内して、
ちょっと待っててと告げて片付けていた箱から1冊の本を取り出した。
先程見つけた、新しいお菓子作りのレシピ集。
片付けが終ってからゆっくり1人で見るのも楽しいかも知れないけど、片付けが終って無くても芳佳ちゃんと
一緒に見る方が絶対何倍も楽しい。
私は呆気無く片付けることを放棄した。
「あ、ごめんね。もしかして片付けの途中だった?」
言いながら早くも立ち上がって部屋を出ようとする芳佳ちゃんに片手を振りながら答える。
「ん、大丈夫だよ。片付けなんていつでも出来るから。それよりこれ、一緒に見たいなぁと思って」
A4サイズ程の本を両手で掴みながら彼女に見せた。
出来上がりの写真やオーブンの細かい温度は勿論、ブリタニアのありとあらゆるお菓子のレシピが載っている
それは、結構重くて分厚い物だった。
だからこそ手に入れたかったのだけど。
「わぁ!それリーネちゃんがずっと探していた本だよね!?やっと見つけたんだぁ!見たい見たい!!」
無邪気にはしゃぐ芳佳ちゃん。やっぱり可愛いなぁ、なんて思いながら二人分の紅茶を注ぐ。
「芳佳ちゃん、アールグレイで良いかな?」
「うんっ!リーネちゃんの淹れてくれる物ならなんだって良いよ!だって美味しいんだもん!!」
それは芳佳ちゃんの為に淹れるから、特別美味しくなるようにしてるんだよ。
聞こえないぐらいの小声で呟いてみる。…やっぱり聞こえてないみたい。
本当は聞いて欲しいと思っているのか、彼女の驚く顔が見てみたいと思う私はどこか変なのだろうか。
二人分の紅茶とクッキーをソファ前のテーブルに持って行き、お礼の言葉を受けてから隣に座る。
「これもしかして昨日焼いてたクッキー?」
「うん。そうだよ。きっと芳佳ちゃんが来ると思っていたから、少し取っておいたの」
「そうなんだぁ。私の為に、有難う」
満面の笑み。あーもう、可愛いなぁ…
大きなレシピ集を二人で見ながら、次はあれに挑戦しよう、とか、これは材料を集めるのが大変だ、とか
色々とお喋りをしていたけど、ふと気付いた事があった。
「あれ?そう言えば芳佳ちゃん、私に何か用事があるんじゃない?」
「えっ、ど…どうして?」
「だって入ってきた時の芳佳ちゃん、様子が少し変だったよ。私に用事があるんじゃないの?」
そう、何か言いにくいような事が。
「あ、やっぱりおかしかった?あ、あのね…」
「うん。何?」
相槌を打って先を促す。
なんでも聞いてあげるよ。大好きな芳佳ちゃんの為だもん。
「あ、あのね…その…と、トリックオアトリート!!…って知ってる?…よね?」
トリックオアトリート?どこかで聞いたことあるような……確か、ハロウィン…だったかな?
それがそのまま口をついて出たみたいで、芳佳ちゃんの驚いたような、がっかりしたような顔が間近にあった。
「や…やっぱり知ってたんだ…」
そう言って今まで見ていたレシピ集をぱたりと閉じて、何故かしょんぼりしてしまう。
「あ、でっでも話を聞いただけだから、詳しいことはわからないんだ!芳佳ちゃん、詳しいの?」
慌ててフォローを入れる。
知らなかったのは本当の事だし、芳佳ちゃんが何か考えているなら聞きたい。
「わ、私もそんなに詳しくは知らないんだけど…」
さっきまでのしょんぼり顔はどこへやら。
そう言って顔を赤くしながら嬉しそうにハロウィンについて語ってくれた。
「…と言う事なんだ!」
「へぇ…そうだったんだ。芳佳ちゃん詳しいんだね」
「う、うん。それでね、その、ハロウィンが…今日…だったりするんだ…」
「えぇっ!そうなの?……じゃあ、もしかして、その、お菓子を貰いに来たって、事?」
1つずつ確認しながら言葉を発した。変な汗が頬を伝う。
そう…なんだ。じゃあ、クッキーをあげた私は芳佳ちゃんに好きなイタズラをしてもかまわないって事…?
そう…そうだよね…だって私は芳佳ちゃんからお菓子を貰ってないし。
今朝なんて私以外の人たちと楽しそうにお喋りしていたし……
それならイタズラされても構わないって事…だよね……はっ!!…もしかして芳佳ちゃん、ワザと…?
私にイタズラされたいが為にワザとハロウィンなんて名目で尋ねて来たのかしら…
そっ…それならちゃんと答えてあげないと…
「そうなんだ!でも、リーネちゃんが知ってたらドッキリにならないし、知らなかったらどんなイタズラしようか
考えてなくて……聞く時はすっごく恥ずかしかったよぉ……って、リーネちゃん、大丈夫?さっきからブツブツ言ってるけど
私何か変な事言ったかな…?」
あれ?心の中で呟いていたつもりが、言葉になっていたみたい。
芳佳ちゃんが心配そうに顔を覗き込んでくる。
ああ…そんな顔もとろけるほどに可愛いんだから。きっと、もう私は………
心配する芳佳ちゃんに、大丈夫。と満面の笑みを向けてゆっくり立ち上がる。と
扉の鍵をかけ、芳佳ちゃんに向き直る。
「ど、どうしたの?リーネちゃん…鍵なんてかけ…て…………っ!!」
ハッと気付いたような素振りを見せ、青ざめた顔で震える芳佳ちゃん。
私のお気に入りベスト5に入る彼女の表情だ。
……でも、どうしたのかしら?
「どうしたの芳佳ちゃん?今日はハロウィンで、お菓子を貰わなきゃイタズラしても良い日。なんでしょう?」
そういって努めて明るく微笑みかけながら確認を取る。
返ってくる言葉は無く、ただただソファの隅で肘置きを掴みながら震える芳佳ちゃん。
自分から誘っておいて、その態度は無いんじゃないかと半ば呆れたけど、彼女が汗を流している事に気付いた。
それじゃあ、早く脱がないと風邪引いちゃうね。
魔力を開放し、一歩ずつ近付く。
ぎし、と床がなる度にびくりと肩が震えるのも可愛い。
抱き上げた拍子にひゃぁと、小さな悲鳴をあげる芳佳ちゃん。やっぱり可愛い。
ぎしりとベッドの上に優しく寝かせ、彼女の上に跨った。
開けた窓からそよそよと心地良い秋風が吹く。芳佳ちゃんがもぞもぞと動くから、シーツに皺が寄ってしまった。
でもそんなのは、今からする行為によってどうでも良くなる事だから。
怯えた瞳で見上げる芳佳ちゃんが、何か言おうと口をもごもごさせているけど聞いてあげない。
事の始まりを意味するキスを彼女のそれに重ね合わせたらようやく認めたのか、はたまた諦めたのか。
私のシャツをぎゅっと掴み、震える舌で答えてくれた。
かわいいかわいい、わたしの わたしだけの 芳佳ちゃん…
fin