Un anniversaire


「困りましたわね・・・」
復興作業の合間、腰を下ろしていたペリーヌはゆるやかなウェーブのかかったブロンドの
髪を揺らしながら、思案げな面持ちで空を見上げた。天上で燦々と輝く、貴婦人。彼女が
幾度か地平線という門を出入りすれば、11月22日、アメリー・プランシャールの誕生日が
訪れる。それはペリーヌにとっても喜ばしいことであったが、一方である問題をペリーヌ
に投げ掛けた。それは、プレゼントである。
(いくら復興作業が軌道に乗ってきたといっても、店舗はまだほとんどが閉まったままで
すし・・・何か料理を振る舞ってあげるにしましても・・・)
料理人もほとんどがブリタニアに避難してしまっている上、自分の料理の腕は・・・いささか心許無かった。
(それに、食材だって今のガリアではそう簡単には集まりませんし・・・。リーネさんの
お手を借りれば、何とかなるとは思いますが・・・)
今回はあまりリーネの手は借りたくないのがペリーヌの本音だった。
別に強がっているわけではない。だが、できることならガリアのものを使ってアメリーを
祝ってあげたかったのだ。ぼんやりと空を眺めていたペリーヌを呼ぶ声がどこからか聞こ
え、ペリーヌは「はいっ、今行きますわ」そう言い腰を上げながら、「でも、なんとかしま
せんとね」僅かに強い口調でそうつぶやいた。

「アメリーさん、食事が終わったらちょっと来ていただけますか?」
「はっ、はい」大勢での簡素な夕食が終えられると、ペリーヌはアメリーを人気の無いと
ころへと呼び出した。
「あっ、あのなんでしょうか?」
「アメリーさん」
「はっ、はい!」
「お誕生日おめでとう」
「えっ・・・あっ、ありゅがとうご、ごさいます」
「なんですの・・・急に泣き出して」
「だ、だって・・・てっきり怒られるのかと思ってたら、おめでとうって・・・嬉しくて」
アメリーはしゃくりあげながらそう言う。
「それで、プレゼントがありますの」
「うぅ!!」
「もう、泣きすぎですわ、あなたは」
ペリーヌはまたも泣き出したアメリーを見ながら思わず苦笑いをするが、それは楽しげなものだった。
「ほら、涙をお拭きなさい。それに、プレゼントもたいしたものじゃないんですのよ」
「で、でもペリーヌ中尉が私のためにそんなものを用意してくれただけで嬉しいです」
アメリーはペリーヌから手渡されたハンカチーフで自分の涙を拭った。
「はい、どうぞ」ペリーヌは白い布をかけたお皿をアメリーの前に差し出し、その白い布を払い除けた。
「わぁ、クレープですか」
「正確には、クレープシュゼットですわ。上手にできたかどうか少し不安ですが・・・」
「ペリーヌ中尉が作ったんですか!!・・・うぅ」
「もう、食べる前から泣かないで下さいまし、まだ仕上げもあるんですから」
「仕上げ?」
アメリーはキョトンとした顔を上げる。
「トネール」
ペリーヌが指先から最小限の雷光を発する。そうすると、クレープシュゼットは青白い炎
を発し始めた。
「うわぁ・・・綺麗」
アメリーはその幻想的な光景をまじまじと見つめた。
「・・・もういいですわね、どうぞアメリーさん」
ペリーヌはお皿をアメリーにへと手渡した。
「いっ、いただきますっ!」
「手で食べる気ですの?フォークとナイフで食べるんですのよ」
「あっ・・・すっすいません」
アメリーは気恥ずかしそうにしながら、ペリーヌからナイフとフォークを受けとった。

「おいひい、しゅごい美味しいです」
「そんなに慌てて報告して下さらなくてもいいですわ」
「あっ、すみません」
アメリーは隣に座るペリーヌに向けていた視線を再びお皿に移した。その様子をペリーヌ
は横目でチラリと見ながらクスリと笑った。
「ふぅ・・・美味しかったですペリーヌ中尉」
アメリーは食器を膝の上に置き、満足した顔をペリーヌに向けた。
「そう、なら良かったですわ」
「まさか、料理までお上手だとは知りませんでした」
「そ、そうですわね。ガリア貴族の子女としてはこれくらいのことは・・・」
「でも、なんだか懐かしい味がしました。なんでですかね?」
アメリーはペリーヌの狼狽の理由などには気付かないまま話を進める。
「それは、きっと使った材料、小麦粉、卵、牛乳どれもガリアのものだからですわ」
「あっ! それで」
「あと、味付けのソースなのですが、本来ならオレンジのソースを使うのですが、今回は
リンゴのソースを使いましたわ」
「リンゴ?」
「ええ、アメリーさんのご出身のノルマンディー地方のものですわ。これだけでも、集め
るのは案外一苦労で・・・」
「・・・・っぐ、ひぐ」
「ど、どうしたんですの、また泣き出して」
「その・・・嬉しいんです。私なんかのためにこんな風にペリーヌ中尉がお祝いしてくれることが」
「貴方なんかのためでは、ありませんわ」
「えっ」
「貴方だから、こんな風にお祝いしてるんですわ」
「・・・うわぁぁぁん」
その言葉にアメリーは勢いよくペリーヌの右腕にへと抱きついた。
「ぐす・・・ぐす」
「まったく、自分の誕生日にこんなに泣く人は初めて見ましたわ」
「ぐす・・・ぐす・・・ご、ごめんなさい」
「そんな風に謝る人もですわ。1年に1度のこんな日ぐらい、もう少し甘えてもいいんですわよ」
「はっ、はいっ! じゃあ甘えます!」
そう言うなり、ペリーヌの腕を抱きしめるアメリーの力は強くなる。
「もっ、もっとも明日からは復興作業にもっと力を入れてもらいますわよ。それに、北ア
フリカでいくら初戦果を上げたとはいえ、まだまたウィッチとしての腕は半人前のい
え・・・そうですわね0.75人前ぐらいのはずですわ。機会があれば、ビシバシ訓練をし
ていきますわよ」
「はいっ!」
アメリーの声はパリの空の下に一段と高らかに響いたのだった。

Fin


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