裏四十八手 第一手 電気あんま
「小麦粉をふるいに掛けて……ミルクと卵を」
間もなく3時になろうというある昼下がり、リーネはおやつ作りに忙しかった。
もうすぐ午後の哨戒に出掛けたチームが帰ってくるころである。
みんな長時間のフライトで体力を消耗しているだろうから、紅茶とお菓子でお出迎えしてあげたい。
しかも、とびっきり甘いケーキで。
自分も坂本少佐直々の特訓を終えたばかりでクタクタだが、仲間の喜ぶ顔を思い描くと少しも苦にならない。
実戦ではまだまだ一人前には扱われていないけど、自分にできることでみんなの役に立ちたい。
それで仲間が喜んでくれれば、こんなに嬉しいことはない。
「みんな喜んでくれるかなぁ。今日はイチゴの特売日だったし」
リーネは一つ一つのイチゴから丁寧にヘタを落とし、ボールに入れてきれいに洗う。
イチゴの水気を取るため、傷つかないよう慎重にザルに移す。
その時、手元が狂って小ぶりのイチゴが一個、ボールからこぼれ落ちてしまった。
「あっ、いけない」
慌ててその場にしゃがみ込んだリーネは、床の上からイチゴを拾い上げる。
幸いマットの上に落ちたため、イチゴは潰れずにすんだ。
「ゴメンね、イチゴさん。うっかりしてた」
リーネは粗末に扱ったことをイチゴに詫びると、もう一度水道水で洗ってあげる。
イチゴは仲間外れにされることなく、ザルで待っているみんなの元へと帰った。
その時であった。
「見ぃ~ちゃったぁ」
約束の時間から小半時も遅れて宮藤芳佳が厨房に姿を見せた。
芳佳はニヤニヤと意味不明の笑いを浮かべてリーネに近づいてくる。
「いっけないんだぁ、リーネちゃん。床に落とした物をみんなに食べさせるなんて」
そう言われてリーネは困ってしまう。
食べ物を粗末にはできないし、マットの上に落としたとはいえ充分に食べられる物なのだ。
「よ、芳佳ちゃん、大丈夫だよぉ。もう一度お水で洗ったし、マットも綺麗にしてるから」
気にしすぎだよとリーネは笑顔で答える。
「そういう問題かなぁ? あの誇り高いバルクホルンさんが、地面に落ちた物を食べさせられて黙っているかなぁ?」
言われてみれば不安になってくる。
特に貴族出身のミーナやペリーヌなどは潔癖性だろう。
衛生観念もレベルが違うかも知れない。
「そ、そうかも。芳佳ちゃんありがとう。やっぱりダメだよね」
リーネは慌ててさっきのイチゴを取り除こうとした。
「どれか分かるのかな?」
芳佳に指摘されてリーネは慌てた。
拾ったイチゴがどれだったか、さっぱり分からなくなっていたのだ。
「どれだったか分からないよ、芳佳ちゃん」
リーネはオロオロと首を左右に振るが、もはや判別は不可能である。
「も、もう全部捨てるしか……」
遂にリーネは泣き声を上げてしまった。
「そんなことダメだよ。第一、イチゴを作ってくれた農家の人に申し訳ないよ」
芳佳は目を三角にしてリーネを責める。
「だってぇ」
「そんな悪いリーネちゃんはお仕置きだ」
芳佳はリーネに組み付くと、足払いを掛けてその場に転倒させる。
そして両足首を握ると無理やり左右に開いた。
「よ、芳佳ちゃん。ダメェ」
芳佳は拒否するリーネを無視して靴を脱ぐ。
裸足になった爪先をリーネの股間に押し当てる。
「芳佳ちゃん、止めてぇ。こんなコトしたら芳佳ちゃんのこと嫌いになっちゃうぅぅぅ」
しかし芳佳は聞く耳を持っていなかった。
食べ物を粗末にするような悪い子は許せないのだ。
「天罰っ」
そう言うや、芳佳はリーネの股間に押し当てた足指の付け根に、連続的に力を込め始めた。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~ぁぁっ」
くすぐったくてもどかしく、それでいて甘く痺れるような快感がリーネの背筋を駆け抜けた。
生まれて初めての感覚に、リーネは股間から飛沫を上げながら失神してしまった。
「グスン……グスン……」
目が醒めたリーネは、自分がお漏らししてしまったことに気付き、しゃくり上げていた。
「ゴメンね、リーネちゃん。電気あんまは初めてだったんだね」
芳佳はリーネのズボンを脱がせて、綺麗なタオルで丁寧に拭ってやる。
「けど、イチゴを全部捨てるだなんて言うリーネちゃんは許せなかったんだ」
優しくされているうちにリーネも落ち着いてくる。
パニくった挙げ句に食べ物を粗末にしようとした自分も悪かったと理解する。
「リーネちゃん、許してくれる?」
一生懸命謝る芳佳を見ていると、リーネは自分の方こそ悪かったと思えてきた。
「うん、許してあげる。その代わりケーキ作るの手伝ってくれる?」
親友の仲が壊れずに済んだと知り、芳佳の顔が輝いた。
もう時間は余りないけど、2人で協力して頑張ればなんとか間に合うだろう。
「それと……もう一回……してくれる?」
リーネは恥ずかしそうに付け加えた。
無論、芳佳にとっても望むところであった。
「何度でも。けど……今度はあたしの番だよ」
「……芳佳ちゃん」
「……リーネちゃん」
リーネは一番の親友と見詰め合いながら、今日のおやつは作り置きのケーキになるなとボンヤリと思った。
Fin