裏四十八手 第二手 剃毛
「あ ん の ヤ ロ ォ……」
バルクホルン大尉は憤怒の形相で廊下をドスドスと歩いていた。
偶然通りかかったルッキーニは、大尉を一目見るなりそそくさと逃げ出した。
野生の本能が「関わり合うとロクなことにならない」と告げていた。
バルクホルン大尉が怒っているのも無理はない。
親友のエーリカ・ハルトマン中尉に約束を破られたのである。
昨夜のこと、「明日、新しい洋服を買いに町へ行こう」と大尉を誘ったのはエーリカであった。
最初、バルクホルンは「カールスラント軍人たるもの、華美な装飾は一切不要だ」と突っぱねた。
それでも「お見舞いに着ていき、クリスを喜ばせてあげよう」と言うエーリカに押し切られ、その気になった大尉であった。
それなのに約束の時間を過ぎても、エーリカは一向に姿を現さなかったのである。
今サイクル中の休みは本日の午前中だけで、しばらくは勤務が続くことになる。
従って車を飛ばして町へ出かけるのは、当分の間お預けだ。
せっかくその気になったのに、すっかり肩すかしを食らってしまった。
何より大尉はエーリカと二人っきりで外出することを楽しみにしていたのであった。
どうせまた朝寝坊をしているのだろう。
「アイツ、最近は特にぶったるんでいる」
エーリカ本人のためにも、一度ビシッと叱ってやらねばならない。
色々な怒りがまぜこぜになり、バルクホルンを激怒させているのだ。
「エーリカ・ハルトマン中尉ぃっ!!」
バルクホルンは蹴破らんばかりに荒々しくドアを開いた。
「ヒエェェェ~ェェッ?」
いつにも増して散らかった部屋を目の当たりにして、バルクホルンは卒倒しかけた。
饐えた臭いのする衣類が脱ぎ散らされ、床の上は足の踏み場もない。
テーブルに転がったリンゴの囓り跡には、毒々しい色のカビが発生している。
「ヒィヤァァァ~ァァッ?」
クモの巣に顔から突っ込み、バルクホルンは悲鳴を上げてしまった。
以前より退廃が進んでいる。
こんなところに人が住めるのか。
「ハ、ハ、ハ、ハルトマン中尉ぃぃぃっ」
怒鳴ると言うより悲鳴に近い絶叫が迸った。
当のハルトマンは窓際のベッドでグッスリ眠っていた。
珍しいことに、今日はベッドからずり落ちていない。
「貴様ぁ、起きろぉっ。何時だと思っておるかぁっ」
バルクホルンは僚友を怒鳴りつけると、勢いよく毛布をひっぺがえした。
その途端。
「ヒィィィィィッ」
バルクホルンはまたしても絶叫を上げてしまった。
なんと僚友ハルトマン中尉は、何も身に付けていない姿で眠っていたのだ。
少女に特有の全く無駄のない、機能美溢れるヌードが惜しげもなく晒されていた。
バルクホルンがゴクリと生唾を飲み込む。
「こ、こらぁ……貴様……それでも……カールスラント……軍人かぁ……」
大尉の語尾がどんどん弱まっていく。
最後の方は枯れていて、ほとんど聞き取れないほどであった。
大尉はショックを受けていたのである。
エーリカの股間にある秘密の場所、そこを包み込むように金色の縮れ毛がフサフサと生えていたのだ。
「ハルトマン……いつの間に……」
子供だ子供だと思っていたが、知らないうちに成長していたようである。
しかし、それを喜ぶバルクホルン大尉ではなかった。
彼女にとってエーリカはいつまでも可愛い妹でなくてはならないのだ。
バルクホルンの手で、切っ先の鋭いナイフが刃をきらめかせる。
「カールスラントの刃物は世界一ぃぃぃ~っ」
バルクホルンは不気味な薄笑いを浮かべると、エーリカの股間にナイフを近づけた。
立てた刃先を使ってジョリジョリと縮れ毛を剃り上げていく。
ゾーリンゲンの切れ味は素晴らしく、産毛もろとも一剃りで綺麗になっていった。
エーリカの股間が少女に戻っていくのを見て、大尉は満足そうに顔をほころばせる。
「まだまだ」
バルクホルンは秘唇をつまみ上げ、局面に生えた陰毛を丁寧に剃り上げる。
そして、彼女が肛門回りに生えた毛を剃っている時であった。
「ギョッ?」
驚いたバルクホルンは思わずナイフを持った手を止めた。
眠ってるはずのエーリカの秘裂から、タラタラとお汁が垂れ落ちてきたのであった。
それを見て、バルクホルンはようやく我に返った。
「……ハルトマン……貴様……目が醒めているのだろう?」
問い掛けるバルクホルンの声は震えを帯びていた。
とんでもないことをしてしまったという自覚があった。
エーリカから嫌われ、軽蔑されるかと思うと生きた心地がしなかった。
それでもエーリカは寝息を立てるばかりで、バルクホルンに返事をしなかった。
エーリカもまた、親友との関係に変化が訪れることを望んでいなかったのである。
急接近、破滅、いずれもが彼女の好むところではなかった。
しばらくは今のままがいい。
互いの気持ちを理解しながら、内に秘めて表には出さない。
平和が訪れるまではこのままで……
一向に返事をしないエーリカを前に、バルクホルンはホッと溜息をついた。
明日からも激しく厳しい戦いが2人を待っている。
正直なところ最後まで生き残る自信は彼女にもない。
いずれどこかの空で散華する日が来るであろう。
それでも命よりも大事なエーリカだけは、死んでも守り抜いてみせる。
「……可愛いよ」
それだけ呟くと、大事な親友の少女に戻った部分にそっとキスをした。
Fin