独白


「あぁ、もう私の知ってるトゥルーデじゃない……」
 
呆れと諦めの混じった声でボソリと呟くフラウ。
私はそんな彼女を力無く見守る。
私達の半歩前を走るその原因。
彼女……トゥルーデは、未だ何やら熱弁を語りながら時折私達に同意を求めてくるのだから仕方ない。
とは言え、そんなトゥルーデに呆れる事の¨出来る¨事を、私は密かながらも嬉しく思う。
小さな幸せは、唐突に訪れるものなのだから。
 

 
思い返すのは、第501統合航空戦闘団をブリタニアに設立するに至ったあの撤退戦。
大切な幼馴染みを私は失い、大切な妹を彼女は失いかけた。
大切な人が、目覚めるか分からない昏睡ながらも生きているトゥルーデ。
永遠に再開の有り得ない私。
果たして戦火の続く中では、どちらが幸いなのだろうか。
いつ目覚めるか分からないながらも生きている、という希望にすがる事の危うさと恐怖感。
人間はどうしても欲が出てしまうものだから、人は皆¨if¨を、生きているからこそ考えてしまう。
だからこそトゥルーデは「守れなかった」クリスに顔を合わせ様としない。
正確には、合わせる事を恐れていた。
目覚めるとも分からない無限にも思える恐怖の日々。
目覚めた時に「守れなかった」自分が何を言えるのか、してやれるのかが分からないのだろう。
そもそも目覚めるかすら分からない。
しかしながらクリスは生きている。
生きているのだ。
私からすれば、羨ましい事この上ない。
妬ましい、とすら言えるかもしれない。
本来ならば、この様な感情を向けてしまう事を私は恥じるだろう。
けれども、あの日、あの時、あの瞬間、私はその想いが爆ぜた。
誰も頼らず、己が身を省みず、単身で無茶をして墜ちたあの日。
目の前で、私の目の前で重力に身を捕われるのを見たあの時。
理性と感情の板挟みにより、駆け付ける事の出来なかったあの瞬間。
端的に言ってしまえば、一度の失敗で自分を見失っている大馬鹿、と私は言い切るだろう。
何しろ、私は失ってしまっているのだから。
彼女はまだ、失っていないのだから。
けれども今まで、私の声はトゥルーデの中には届かなかった。
それはきっと私と彼女が近すぎたから。
失いかけた私と、失った彼女にもなりえたから。
だからそれは同情に過ぎず、私の言葉はトゥルーデの心にはまだ届かなかった。
あの日、美緒が扶桑から一人のウィッチを連れて来るまでは。

墜ちたトゥルーデを助け、トゥルーデの身に再び希望と力を与えてくれた、一人のウィッチに会うまでは。
 

 
トゥルーデが始めて宮藤さんの事を見た時は、基地での顔合わせの時。
扶桑艦隊の助けに向かった際には、よく見ていなかったのだと言う。
顔を合わせた際、私は確かにトゥルーデが一瞬目を見開き、唾を飲み込んだのを見た。
その後は小さく歯を噛み、平常心を保とうとしていたのが、私には分かった。
現に私ですら、一瞬宮藤さんの姿を見た時に息を飲んだのだ。
トゥルーデが動揺しない方がおかしいと言うもの。
けれども私は、ある意味で恐怖感を覚えていた。
もし、宮藤さんが墜ちたりしたら……。
しかし私は、それと同時に、善くも悪くも期待も募らせていた。
つい先日まで民間人だった宮藤さんの、こちらの考えを越えた行動の数々。
もしかしたら、トゥルーデの心の氷を溶かしてはくれないだろうか。
そんな淡い期待があったのだ。
とは言え、期待のホープは素晴らしいくらいに問題も起こしてくれた。
命令無視に始まり、阻塞気球の全機破砕、ルッキーニ少尉が原因だったとは言え、人格が変わっただの、単独行動かつ独断行動するわ、果ては上官を負傷させて、止めは脱走だ。
……改めて思えば、とんでもない問題児な訳だが。
それでも、その真摯な想いは、トゥルーデの心を解きほぐしたのだ。
私に出来なかった事を、彼女はしてしまったのだ。
 
「諦めたくない」
 
一言。
そんな、たった一言を、宮藤さんは守り抜いたのだ。
信じ続けたのだ。
その想いは、トゥルーデに再び、以前の様な活気を取り戻した。
私達がかつて失いかけた、ゲルトルート・バルクホルンと言う一人のウィッチを完全に復活させたのだ。
始めこそ、感情を持て余していた様子であったが、そんなトゥルーデを見て、私は心底嬉しかったのだ。
そう、嬉し¨かった¨のだ。
……いや、私の知っていたゲルトルート・バルクホルンと言う人物は、生粋のカールスラント軍人であった。
規律厳守で、部下の面倒見もよく、上官への進言も怯まない。
そんな、しっかりとした、お堅いながらも優しさを持った人物のハズであった。
……のだが。

「……すなまい宮藤、私が信じてやらなかったばかりに。姉…いや、お姉ちゃ……じゃなくて、えぇと……そう! 先輩ウィッチとしてもっとしっかりきっちり付きっきりで話をするべきだったのに。……だろう? ミーナ」
 
こんなに姉馬鹿なキャラになるなんて、夢にも思わなかった。
何か色々と開放された反動なのだろうか。
私はなんとなく、トゥルーデの原隊のウィッチ達に合わせる顔がない気がする。
 
「あぁ……はいはい、そうね」
 
返事をしつつも、ほのかに口元が引き攣るのが分かる。
ストライカー収納庫まで、後何mあるのだろうか。
フラウに同意を求めたトゥルーデに、もう勘弁してくれ、とフラウが視線を私に寄越す。
そんな、取り留めのないこの瞬間を、私はただ、大切に思う。
今はただ、呆れと諦めと嬉しさが、どうしようもなく私の中で渦巻いているのだから。
 
 
 
おわり


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