hot fashion
その日の午後は雲ひとつ無い快晴で、訓練にはうってつけだった。
ストライカーを履き、銃を肩に掛け、軽やかに空へと揚がるふたりのウィッチ。
「……ああ、了解した。機動テストの後、訓練を開始する。行くぞ、ハルトマン」
「いつでも良いよ、トゥルーデ」
トゥルーデとエーリカはロッテを組むと、ストライカーの調子を確かめ、ゆっくりと降下し、上昇する。
一度ホバリング状態に移行し、再度状態を確認しあう二人。エーリカが自分とトゥルーデの姿を見、声を掛けた。
「よし、問題なし、と」
「そろそろ行くか?」
「良いよ、トゥルーデ。今日の訓練のルールは『十秒後ろに付いたら勝ち』って事だったよね?」
「ああ。まるで決闘だな」
『バルクホルン、ハルトマン、どうした。始めないのか? 何か問題でも有ったか?』
基地の司令所テラスから二人を見守る美緒が無線で話し掛けてきた。
「いや、今回の訓練内容を確認していただけだ。問題無い。これより開始する」
『了解した』
トゥルーデとエーリカは頷くと、速度を上げ、訓練を開始した。
司令所テラスで上空の様子を眺める美緒。双眼鏡を手にしているが、魔眼も使って二人の動きをくまなくチェックする。
「うむ。いつも通りだ」
「ええ。良い調子ね」
いつやって来たのか、ミーナが美緒の横に立ち、空を見上げた。
陽射しが暖かい。掌で陽の光を少し遮って、訓練の様子を見守る。
二人はしばし無言で訓練の様子を見ていたが、ぽつりと美緒が言った。
「いつ結婚するんだ?」
「えっ!? な、何いきなり!? 一体何の事? 私まだ心の準備あでもいつでも大丈夫だけど……って美緒?」
慌てふためくミーナ。
「ん? ああすまん。独り言だ」
苦笑いする美緒を少々の呆れ顔で見た後、再び空に視線を戻しミーナは言った。
「あの二人の事?」
「そうだ。ずっと最前線に居ながら、よく戦意を維持している。なかなか出来ん事だ」
「あの二人だからこそ、よ」
「ミーナの言う事だ、きっとそうなんだろうな」
「あら、やけに素直に私の言う事を信じるのね」
「カールスラントの乙女は真面目で一途だからな」
「何処でそんな事覚えたのかしら?」
「格好の例が私の目の前に居るじゃないか」
何気なしに呟いた美緒の前で、顔を赤らめるミーナ。見られたくないのか、ぷいと横を向く。
「ん? 何かヘンな事でも言ったか?」
「これだから……」
二人の間を微妙な空気が流れた。
が、間もなくその雰囲気は吹き飛ばされる事となる。
「待て、ハルトマン」
上昇に移り掛けたトゥルーデが、基地から微かに聞こえてきた警報、ほぼ同時に打ち上げられた花火を察知し、動きを緩めた。
即座に無線で呼び掛ける。
「司令所、指示を頼む」
『ネウロイだ! グリッド東08地域、高度12000に侵入! 訓練を中止し直ちに迎撃せよ』
「了解」
『基地から他の機が間もなく出る。バルクホルン、ハルトマンは先行して敵況を報告せよ』
「了解!」
銃を構え直すと、トゥルーデとエーリカは指定されたエリアへと急行した。
数分飛んでいると、遠くに“所属不明”の飛行物体が見えた。かなりの速度で接近してくる。
付近を飛行中の航空機は無く、すぐにネウロイだと察知する二人。
やがてこちらに向かってくるネウロイを見て、エーリカはちょっとした驚きを軽い欠伸で誤魔化しながら言った。
「うわあ……トゥルーデ見て。今回のネウロイ、編隊組んでるよ」
「見た目はそうだな」
ざっと見て、いわゆる“ロッテ”が四組。いや、“シュバルム”がふたつというべきか。
「ネウロイも遂に集団戦闘を覚えてきた、と言う事か?」
「どうだろうね。単純に整列してるだけかもよ? 前ぇ習えってね」
「司令所へ、ネウロイを確認した。小型タイプが全部で八機……」
突然無線に奇妙な“旋律”が走る。それまでクリアだった音声がざらついたものに変わり、すぐに沈黙した。
「司令所、応答せよ。司令所!? おい! 応答しろ!」
「トゥルーデ……」
「ああ、まただ」
前方に広がるネウロイの群を見て、トゥルーデは敵を睨んで言った。
「ここに来て電波妨害か。どうするハルトマン。一旦距離をとるか、援軍を待つか」
「あの速度だと、待ってるうちにブリタニア本土に近付かれちゃうよ」
「となると……答えは」
「決まりだね」
二人は頷くと、銃を構え直し、安全装置を解除し、ネウロイ目掛けて突っ込んで行った。
ネウロイは編隊を組んだまま……少なくともトゥルーデにはそう見えた……
ゆっくりと旋回し、トゥルーデ達に迫った。どうやら背後からビームを浴びせるつもりらしい。
「まずは奴等の動きを見るとするか。こう言う時のセオリーは?」
「端からだっけ?」
「相変わらずだな」
ふっと笑うと、エーリカはネウロイ目掛けて急旋回し、端の小型ネウロイに狙いを定めた。
その時、ネウロイ達は一斉に動いた。いや、反射的に散り散りになったというべきか。
そして全方位を取り囲む位置取りで、エーリカにビームを放った。
「これ位!」
軽やかな動きで全てのビームを避けきると、狙っていたネウロイ向けて銃撃した。
正確な射撃を受けたネウロイは抵抗の機動も虚しく爆発した。
「まず、ひとつめ!」
声を上げるエーリカ。
「まだまだ最初のひとつだ」
「もっと稼ぐよ! ボーナス上乗せだね!」
エーリカの言葉に頷いたトゥルーデもMG42をうまく操り、瞬く間にネウロイを一機撃墜する。
爆発の塵は美しいが見とれている暇など無い。
間もなく戦いは“混沌”と言うべき状況になった。
ネウロイはなお数が多く、しかも勝手に動くので逆にペースを乱されつつあった。
偶然か、エーリカが集中的に狙われ、回避やシールドでの防御も虚しく一筋のビームがストライカーに被弾した。
右ストライカーの外装がぼろぼろになり煙が出て、エーテル流プロペラもゆっくりと止まった。
「ハルトマン、大丈夫か!?」
「何とかね! まだ飛べるよ!」
「無理をす……」
刹那、一機のネウロイがトゥルーデと交錯する。咄嗟にシールドを張るも、直撃を受けてしまう。
シールドのお陰でネウロイは爆発したが、その爆風に耐えきれずシールドが一部破られ、
何かの破片がトゥルーデの顔面を掠めた。
一瞬の出来事に、トゥルーデは意識が飛びかける。そのままふらふらと失速し、海面付近まで落下する。
「トゥルーデ!」
エーリカが慌ててフォローに入る。直撃寸前のビームを辛うじてシールドで弾く。
「大丈夫、トゥルーデ?」
トゥルーデの肩を持つエーリカ。身体を触れられた感覚で気付いたのか、トゥルーデは弱々しく声を上げた。
「ああ、ハルト……エーリカか」
トゥルーデの左瞼の上が切れ、鮮血が流れ、目に入り込んでいる。顔をしかめるトゥルーデ。
「困った。視界が悪い」
「トゥルーデ、目に血が」
「ああ、その様だ」
「とりあえず」
エーリカは何とかトゥルーデを引っ張り、ネウロイの群……ビームの範囲外まで逃げ出した。
トゥルーデは服のポケットハンカチを取り出し、血を拭う。しかし左目に流れ込む血は止まらず、視界がクリアにならない。
もしかしたら、瞼だけでなく目そのものにも何らかのダメージを受けているかも知れない。
そうエーリカに告げると、エーリカは自分のとトゥルーデのハンカチを結び、合わせて長く裂き、
額からぐるりと左の目を覆い、きゅっと縛ってみた。即席の眼帯の出来上がりだ。
「これで、血は止まるよ」
「すまない」
「絶対に仲間(僚機)は失わない。安心して」
「そうだったな。頼もしいな」
「それ以前に、一番大事な人を失いたくないよ」
「有り難う」
「もうすぐ掩護が到着するけど、どうする?」
「残りはあと何機だ?」
「割と沢山」
トゥルーデはぼやける視界で辺りを見回した。爆風の影響か、まだ見える筈の右目もかすんで見える。
「なあ、エーリカ」
トゥルーデは何か言いかけたが、エーリカに遮られた。
「分かってる。じゃあ、やってみようか」
「ああ」
二人は身体を重ねた。まるで訓練用の二人用戦闘脚を付けているみたいに、エーリカは片腕をトゥルーデの腰に回し
ぎゅっと抱きしめた。トゥルーデも片腕をエーリカに回し、おんぶする格好になる。
「なんか、訓練生時代を思い出すよね」
「まったくだ」
余裕か開き直りか、二人はくすっと笑った。
「で、トゥルーデは、目は見えないけど動けるよね。固有魔法で私も軽々、ね」
「そしてエーリカはストライカーに被弾しているが、射撃と目視は出来る、と」
「決まりだね」
「やってみるか。……いや。やるしかないか」
「行こう、トゥルーデ。私達は、今はふたりでひとりのウィッチだよ?」
「ああ。ブリタニアの空は、私が……」
「そこは複数形にすべきだよ。“私達”、ってね」
「そうだった。私達が……、私達が、この空を護ってみせる!」
歯を食いしばり、トゥルーデは片手でMG42を構えた。ストライカーの魔導エンジンが唸りを上げる。
「行くぞ、エーリカ!」
「いつでも良いよ、トゥルーデ!」
エーリカもMG42を構え、踏ん張った。
二人は抱き合ったまま、再び戦火へと舞い戻った。
重量を活かした一撃離脱。群を掻き乱し、すれ違い様に一機仕留める。海面スレスレまで急降下した後、
勢いで急上昇し、群からはぐれたネウロイをまた一機屠る。コアを破壊され爆発し、瞬く間に塵と化す。
トゥルーデは二人分の機動を担当し、エーリカは目となり腕となりトゥルーデを導く。
軽く体重を傾け、的確にトゥルーデに指示を出す。
「右三度、ロール」
「こうか?」
エーリカから直に伝わる身体の傾きと言葉で、トゥルーデはすぐさま機動を行う。
エーリカのストライカーも補助的な出力となり、機動に一層のキレが出る。
「オッケー! 次、左スリップ! 左方に短射、三回!」
「よし!」
二人の前方にはネウロイの機影が見える。トゥルーデは自身の固有魔法の強みか、片手で容易くMG42を操る。
「直前方、斉射二秒!」
トゥルーデの銃撃で逃げ腰になったネウロイをエーリカが的確に捉え、挟み撃ちの要領で撃破していく。
「いっただきー!」
「やったか!?」
背後で爆発の轟音が聞こえ、すぐに遠ざかる。
「一匹仕留めたよ。次左バンク……やばっ、シャンデル! もっときつく!」
「ぐおお!」
二人の鼻先をネウロイがかすめて飛んでいく。反航しつつ距離と高度を稼ぎ、機会を窺う。
「危なかった~。急上昇、行けるとこまで……オッケー、一度水平に、そう、そんな感じ」
トゥルーデは唸り声で返事の替わりとした。ストライカーの魔導エンジンにありったけの魔力を注ぎ込んでいる。
「頑張れトゥルーデ、私達イケるよ」
「とりあえず、生きて帰りたい」
「私が保証するよ、必ず帰ろう」
「頼もしいな」
「トゥルーデもね」
敵の真っ直中にあっても、トゥルーデとエーリカは恐怖を感じていない。
二人がお互いを心から信頼している証。
やがて次第に劣勢となっていくネウロイの群れ。
「あの二人、一体何をやっているんだ」
遅れて掩護を引き連れてやって来た美緒が魔眼を通じて事態を把握する。
「凄い……。あの状態で、あの機動……」
ロッテの長機として飛行していたペリーヌも、トゥルーデ達の奮戦を目撃し、言葉を失う。
「ペリーヌ、周辺に残存ネウロイが居ないか注意しろ! 宮藤は攻撃に備えシールドを」
「了解しました」
「了解!」
二人のエースが「二人羽織」で行う鋭い急降下と急上昇の繰り返し、僅かに機体をスリップさせ
被弾を免れる繊細かつ大胆な機動を見、美緒達は驚嘆した。
「流石はエース、と言う事か。……リーネ、二時の方角にネウロイだ! 撃てるか」
「はい!」
リーネはすかさずボーイズを構え、きっかり三秒後、続けざまに四発撃ち込んだ。やや遅れて、遠方で爆発の痕跡が見られた。
「少佐、付近にネウロイの姿は有りません。大尉とハルトマン中尉はなお飛行中です」
「よし。……どうやら戦闘終了の様だな。バルクホルン達と合流する。無線の状況に注意しろ。
まだネウロイの影響が残っているかも知れない」
「了解」
「バルクホルン、ハルトマン。状況を報告せよ。聞こえるか? 応答せよ」
「片付けたよ、トゥルーデ」
「本当に終わったのか?」
「うん。向こうからみんなが来るよ。しっかし今頃遅いなー」
「今更だな。でもまあ良い。撃墜スコアは頂きだ」
「共同撃墜だけどね」
「何でも良い。どうやら生きて帰れそうだ」
ふうと一息付くトゥルーデ。ホバリングに体勢を移し、微笑んだ。
「有り難う、エーリカ」
「どうしたしまして。てかトゥルーデ、早く帰ろう。出血が結構酷いよ」
肩を貸すエーリカ。
「ああ……言われてみればそう、かも」
「基地に連絡して救護班を要請しよう。すぐ帰ろう」
基地には滑走路上に救護班が待機しており、エーリカとトゥルーデは着陸後直ちに医務室へ運ばれ、
念入りな検査を受けた。
エーリカはストライカーの破損のみで身体には影響なく、懸案のトゥルーデも幸いな事に負傷の程度は軽く、
芳佳が夜を徹して施した治癒魔法の甲斐もあり、一晩で驚異的な回復を見せた。
美緒とミーナは今回のネウロイの“戦法”について戦況を交えながら議論したが、明確な答えは出なかった。
議論の後、二人の治療にあたった医師や整備班の報告を受けレポートを纏めたあと、ミーナがぽつりと呟いた。
「とりあえず怪我の程度が軽くて良かったわ」
「ああ。最悪、我が隊のエース二人を失うところだった。私の指揮が軽率だった。すまない」
悔やむ美緒。
「いえ、通信もネウロイに遮断されていたし、仕方ないわ。むしろ……。」
「むしろ、何だ?」
「あの二人でなかったら……と思うと、少し怖いわ」
「なるほどな」
「その意味では、あの二人で正解よ。美緒」
「これ何本?」
「もうしつこいぞ……エーリカの指が二本だ」
「当たり。もう大丈夫って事で良いのかな?」
「私はいつだって大丈夫だ」
「治癒魔法使ってくれたミヤフジに感謝しないとね~」
「ああ、今度何かしないとな。食事でも振舞うか」
「トゥルーデの?」
医務室のベッドでお喋りするトゥルーデとエーリカ。
トゥルーデはベッドの上で、食堂から運ばれて来た夕食を食べつつ、エーリカのからかいに応じている。
「さて問題。これは何本?」
「それは……何本じゃなくてOKサインじゃないか」
「当たり」
「もう良いだろ」
「あ、全部食べたね。おかわり要る?」
「いや、充分だ。食べ過ぎも良くない」
「りょ~かい」
エーリカは適当に食器を片付けると、トゥルーデの横に座った。
何処で調達したのか、黒のアイパッチを取り出すと、トゥルーデの左目を覆うガーゼの上から、きゅっと付けてみる。
「エーリカ、何するんだ。もう目は大丈夫……」
「こうやって、少しはポーズ取らないと」
「ポーズ? 何の?」
「名誉の負傷、みたいな?」
「もう治った。そもそも傷跡も消えた。要らん」
「駄目だよトゥルーデ、せっかくの海賊船長が台無しだよ」
「……私はいつから海賊になったんだ?」
「そんな感じ、しない?」
「し、な、い。もう取るぞ」
「駄目」
「何で」
「これで少佐と並んだら、何か格好良くないかな」
「少佐と?」
想像してみたものの、いまいちその様子が浮かばないトゥルーデ。
「トゥルーデのアイパッチ姿、なんかホレちゃうよ」
くすくすと笑うエーリカ。
いささかげんなりしていたトゥルーデだが、エーリカの小悪魔みたいな笑顔を見ているうちに、
何故か、もやもやしていた気分が晴れていく。
「ほら、見なよ」
手鏡を渡される。
トゥルーデはしげしげとアイパッチ姿の自分を眺めた。
「何とも言えんな。やっぱり少佐みたいにはいかん」
「当たり前だよ。向こうは固有魔法、こっちは負傷だよ?」
「だからもう治ったと」
「まだだめ」
「どうして」
「私が満足しないから。分かるよね、トゥルーデ」
「エーリカ……」
エーリカは毛布の上からトゥルーデの身体に跨り馬乗りになると、顔を両手でそっと持ち、
アイパッチの上からそっとキスをした。
「くすぐったい」
「なんか、雰囲気出るよね」
「ここ医務室のベッドだぞ」
「気にしない気にしない」
「気にしろ」
そうこう言いつつまんざらでもなさそうなトゥルーデ。
ゆるゆるとエーリカを抱きしめ、じっくりと口吻する。
何度か長いキスを交わした後、二人は、はあぁ、と甘く熱い溜め息を付いた。
「トゥルーデ」
「何か、やっと実感が湧いた気がするよ、エーリカ」
「実感?」
「生きて帰った事」
「トゥルーデってば」
エーリカはトゥルーデをベッドに押し倒し、ふふっと笑った。
「そんな事言うと……もっと実感させてあげたくなる」
その言葉には答えず、トゥルーデはエーリカの唇を求めた。エーリカも全力で応じた。
朝にはすっかり体調も戻り、トゥルーデは医務室から“退院”して皆と朝食を共にした。
トゥルーデのアイパッチ姿に、一同は驚いた。すすっと横にシャーリーがやって来て言った。
「へえ~。堅物が負傷ねえ。アイパッチまで付けちゃって」
「な、なんだリベリアン」
「割とサマになってるじゃん」
「ウジュー ホントだ。なんか新鮮~」
「ルッキーニまで……」
「で、治るのかい? 怪我は?」
不意に真面目な顔をしてシャーリーが言った。
「ああ。もうなっ……ッ」
本当の事を言いかけたが横に居るエーリカに脇腹をつつかれて言葉に詰まるトゥルーデ。
「?」
二人のやり取りを見て首をかしげるシャーリーに、トゥルーデは曖昧な返事をした。
「……ま、大丈夫だろう」
「随分と楽天的だね堅物は。大事な自分の身体なんだぞ?」
「私の事を心配してくれるのか?」
「そりゃ、まあ……。隊の仲間だし、エースだし、同じ大尉同士だし、当たり前じゃないか」
「有り難う」
素直に礼を言うトゥルーデ。ルッキーニは大尉二人の顔をちらちらと見比べた。
「あれ? シャーリー照れてる?」
「んな事あるか!? 朝から堅物にからかわれた気がする。行こうルッキーニ」
「ニヒヒ おかしなシャーリー」
シャーリーとルッキーニは席に戻った。
「どうだバルクホルン。怪我の具合は」
美緒が横に来てトゥルーデの顔を覗き込んだ。
「ああ少佐。宮藤の治癒魔法のお陰でもう大丈夫……だが、とりあえず様子見で」
「そうだな。激戦の直後だ。無理はいかんぞ」
うんうんと頷く美緒。トゥルーデの横ではエーリカがニヤニヤしている。
「そう言えば宮藤はどうした? 姿が見えんが」
辺りを見回すトゥルーデ。
「宮藤はお前の治癒の後魔力を消耗してまだ休息中、今朝の訓練も休みだ。そっとしておいてやれ」
美緒が答える。
「やつには済まない事をしたな。今度礼を……」
「お礼は、おいおい考えれば良いんじゃない?」
美緒の横に来たミーナがトゥルーデに言った。そして美緒とトゥルーデを交互に見比べた。
「あら、こうして見ると……二人揃ってアイパッチ付けてるとなんか面白いわね」
「ミーナも感心してないで」
「トゥルーデの黒、美緒の白。色もかたちもバッチリ合ってるわ。お揃いみたいで」
「ぶっちゃけありえない」
呆れるトゥルーデ。
「まあ、ミーナが言うんだ。我々で何かやってみるか? 一発芸とか」
笑う美緒。
「いや、勘弁してくれホントに」
エーリカは相変わらずトゥルーデの服の裾を持って、笑っている。
だが、トゥルーデはそんな賑やかな一同を、そしてエーリカを見、実感する。
生きているとは、何と素晴らしい事か、と。
自然と、エーリカを抱き寄せる腕に力が入った。
end