仮面の告白


「遅かったじゃないカ、サーニャ。夜間哨戒おつかれさま」
「夜間哨戒? なにを言っているの、エイラ。わたし、昨日の夜は芳佳ちゃんの部屋に」
「芳佳ちゃんっ!? ちょっ、それどういうことダ!?」
「どうしたの、エイラ。急に大声を出したりして」
「これが騒がずにいられるカ! なあ、なにがあったんダ、サーニャ!?」
「言ったでしょう。クラスのみんなで学園祭でやる劇の、その練習のお手伝いをするって」
「げ、劇? ていうか学園祭? なぁ、サーニャ。さっきから一体なにを言ってるんダ?」
「ああ、ごめんなさい。帰りが遅くなってしまったルームメイトを心配していたのね」
「ルームメイト? それって誰のことダ?」
「なに言ってるの、エイラ。わたしとエイラはこの寮のルームメイトじゃない」
「わっ、私とサーニャがルームメイトォ!?」
「どっ、どうして驚くの? 別におかしなことないじゃない」
「そ、そういえばそうだったナ……。なんだかさっきから調子が悪くて」
「大丈夫?」
「私はストライクウィッチーズ学園の2年で、サーニャは1年。一人前のウィッチになるため、この魔法学校に通ってるんダヨナ」
「説明口調……。でもそれで大丈夫」

「それで、練習ってどんなことをしたんダ?」
「クラスのみんなと、お茶を飲んだり枕投げをしたり」
「それって劇の練習なのカ……?」
「さあ? でも、とっても楽しかった」
「そっカ。サーニャが楽しければいいんダ……できれば私も行きたかったけど」
「それじゃあ次はエイラも一緒に行こ」
「うん――そういえば、劇ってなにやるんダ?」
「『ロミオとジュリエット』よ」
「ふぅん。私、あの話あんまり好きじゃないんダヨナ」
「そう? すてきな話だと思うけど」
「そーカナ? なんか暗くないカ?」
「とってもすてきだったのよ、芳佳ちゃんのジュリエット」
「へぇ。アイツがねぇ……」
「ねぇ、エイラ。わたしたちもやってみない? ここに台本もあるし」
「えっ?」
「エイラはジュリエットをお願い」
「えー!? 私がジュリエットーっ!?」
「それでわたしはロミオをやるわね」
「サーニャが、ロミオ……」
「どうしたの、エイラ。イヤだった?」
「……別に、そんなことないけど」

「じゃあ始めましょう。まずはジュリエットのセリフからよ」
「『ねねねぇ、ロミオ』」
「声が震えているわ、エイラ」
「しょっ、しょうがないダロ。はじめてなんだから」
「落ち着いて。もう一度最初から」
「『ねぇ、ロミオ。あなたはどうしてロミオなの』」
「棒読み……」
「恥ずかしくってサ。普段はこんなしゃべり方しないし」
「照れたりしてはダメ。つけるのよ、ガラスの仮面を」
「ガラスの、仮面……?」
「そう。千も万もの仮面をつけ、千も万もの人生を生きるの」
「人生……。なんだか話がどんどん壮大に」
「人がただ一人の自分を持ち、ただ一度の人生を生きられないのに比べて、なんてぜいたくで、なんて素晴らしいことなのかしら」
「そ、そうカ……。わかった。次はもっとしっかりやるヨ」
「それじゃあもう一度最初からね、エイラ――いいえ、ジュリエット」
「わかったヨ、サーニャ――じゃなかった、ロミオ」

「さあ、もう一度最初から。仮面をつけるのよ」
「『ロミオ。あなたはどうしてロミオなの』」
「エイラ、変わってないわ。棒読みのまま」
「いいや、これは棒じゃなくてスーパーナチュラルっていうんダ」
「スーパーナチュラル?」
「ああ。アニメ監督の中にはそういう演技をする人を好んで起用する人もいるくらいなんダ」
「そう……言われてみればだんだんそんな気がしてきたわ。まるでその人がそこにいるみたい」
「そ、そうカ? 照れるナァ」

「ふぅ。とうとうクライマックスね」
「そうダナ」
「ちゃんと死んでないとダメじゃない、ジュリエット。正確には仮死だけど。喋ってはいけないわ」
「ゴ、ゴメン……」
「じゃあ行くわね。『なんということだ、ジュリエット。君は本当に死んでしまったのかい?』」
「…………」
「『やはり返事をしてはくれないんだね。
  ああ、ジュリエット。
  君のいない人生に、一体なんの意味があると言うだろう?
  そんなものはすべてまやかし、富も地位もいかほどの価値も持たない』」
「…………」
「『そうだ、この毒薬で! ジュリエット、僕は君といつまでも一緒にいる』」
「…………」
「『待っていてくれ、ジュリエット。僕も今、君の元へ――』」
「ダメダ」
「えっ?」
「死のうなんてすんナ。そんなことヤメロ」
「どっ、どうしたの!?」
「だって私は生きてるゾ? なのになんで自殺なんてしようとすんダヨ!?
 どっちも死んで、それで幸せなのカヨ!?
 おかしいダロ! ナァ!
 こんなのダメダ! ハッピーエンドじゃなきゃヤなんダ! いや、終わるのもダメダ!
 ずっとずっと、私はサーニャと一緒だから!
 でも、死んだりしない! 生きて、ずっと一緒ダ!
 だからサーニャも絶対死ぬナ! 絶対絶対絶対死ぬナ!!」
「エイラ……」
「サーニャ。私はその、サーニャのことを……その……」
「………………」
「えっと……」
「ふふっ。どうしたの、エイラ? そんなセリフ書いてないじゃない」
「えっ!? そ、そうだったナ……。ゴメン」
「ううん、いい」

「それじゃあ続きからダナ」
「続き?」
「そうダ。今度はちゃんと死んでるからサ」
「じゃあいくわね――やっぱりわたしは死んだりしないわ」
「ン……?」
「あなたが好きよ。いつまでも生きて、わたしはあなたと一緒にいたい」
「どうしたんダ、サーニャ? 台本とセリフ違うじゃないカ」
「……ばか」


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