操り人形


「ふぅ……やっとできた」

 ひっそりと寝静まった基地の一室で、私は一人笑みを浮かべた。
手にしたそれは人形である。
凡そ三十余の夜を経て造り上げたその人形は、世には傀儡と呼ばれる代物だった。
私は人形をそっと月夜に照らした。
映し出されたのはとっても可愛らしい女の子のお人形。
人懐こっそうな表情にふわりとはねた亜麻色の髪。セーラー服にスク水といういけない雰囲気全開の水兵服。
その全てに可愛らしいという形容詞がつく私の最愛の人、宮藤芳佳ちゃんを完全に模して造り上げたものだ。
その人形の大きさは本人の十分の一。
親友として当然のスキンシップを通じた結果、それこそ胸の形や黒子の位置まで忠実に再現した逸品だ。
もちろん芳佳ちゃんの可愛らしさも余すことなく再現してある。

「あとはこれを巻いて……」

ところで傀儡を機能させるには器となる人形の他にも、対象の体の一部が必要である。
なので今日の、いや正確には昨日のお風呂の内に採取した芳佳ちゃんの頭髪を人形の腕に結び付けた。

「やった、完成したよ芳佳ちゃん」

私は人形を大切に抱き締めると、静かに歓声を上げた。
たとえ人形でも、芳佳ちゃんを抱くと、なんだか幸せな気分になる。
少しばかり妄想に浸ったあと、私は人形を試験することにした。
実はというところ、この人形を機能させるのにはもう一つ必要な要素がある。魔力だ。
私は人形を胸に抱きながら瞳を閉じて、集中。魔力を発動させた。
側頭部と臀部のむずむずした感触に背筋がぞくりとし、思わず息を漏らす。
そしてそのまま魔力を人形に流し込む。
芳佳ちゃんを抱き締めて、その温もりを共有するように。
私の魔力が芳佳ちゃんの魔力に溶け込むように。
ゆっくりと、優しく、慈しむようにして魔力を私と人形の間で循環させた。

「よし」

目を開くと、手にした人形は淡く輝いていた。
その状態に自信を深めると、壁にコップをあてて私は耳をすました。

 息を吸って、吐く。
それを数回繰り返した後、コップを持たない左手をおもむろに人形の胸部に触れた。
反応が無い。
続け様に服の下に指を滑らすと、小さな胸をいじくり回す。
すると寝息の中に微かな喘ぎ声が混じりだした。
俄然テンションが上がった。
 私はそのあと、人形の至る所に指を這わせ、夜が明けるまでその嬌声を楽しんだ。



「芳佳ちゃん大丈夫? とっても疲れた顔をしてるよ?」
「ううん、大丈夫だよリーネちゃん! ちょっと寝不足なだけだから!」
「ふふ、ちゃんと寝なきゃダメだよ? 寝るのも任務の内なんだから」
「う~わかってるよそれくらい。ただ、昨日はその……特別なの!」
「なにそれー」

ああ可愛いな芳佳ちゃん。顔を赤らめて恥ずかしがって。
それにしても確かに昨日、というか今日は特別だったよね。
芳佳ちゃんの鳴き声とっても可愛かったよ、なーんてね。
でもさすがに夜中にするのはもうやめよう。朝食を作る芳佳ちゃんを見て私はそう思った。

「ああっ! お米を流し台に捨てちゃだめ!」
「え?」

「お塩とお砂糖間違ってるよ!」
「え?」

「うぅ、そこからはミルクなんて出ないよぉ……」
「え?」

いかんいかん、最後に私の妄想が入り込んでしまった。油断も隙もない。
なんにしても、これでは戦闘行動に支障を来してしまい、芳佳ちゃんの被弾率が大きく上がってしまう。
それは私にとって耐えがたいことだ。
しかし、だからといってあの人形の味を知った私は、もうあれ無しでは生きられない体になっているのだ。
芳佳ちゃんが寝不足にならず、私が魔力を発動させても不審ではなく、且つ危険でもない。
そんな理想的な環境といえば……やはりあの時間しかない。

ブロロロと、ストライカーの振動が空気を震わせた。下を向くと小さい点になった基地が見える。
上空千メートルの世界に私達は居た。

『今から飛行訓練を始める!』

坂本少佐がインカム越しに宣言する。

『宮藤は私に、リーネはバルクホルンについていけ』

全員が肯定の声を返す。俄に場の魔道エンジンの音が大きくなる。
そして突然、爆音上げて坂本少佐は真っ逆様に海に落ちていく。芳佳ちゃんはそれを慌てて追いかけていった。

『我々もいくぞ』
『はい!』

言葉と同時にバルクホルンさんが急降下を始めた。一瞬の間を置いてから私もそれを追従した。

急降下から始まって、あらゆる戦術機動を行ない、現在の私達は水平飛行をしていた。私の右前方には芳佳ちゃんが見える。

(そろそろ……)

訓練用の銃を肩に背負うと、私は隠し持っていた人形を手にした。その人形に私の魔力を流し込む。
私は右前方を注視しながら、人形の胸部に右手を触れた。

『きゃあっ!?』

耳に可愛い声が鳴り響いた。芳佳ちゃんは驚いたのか、少しバランスを崩した。
反省反省。もっと優しくしなきゃね。

『どうした! 宮藤!』

坂本少佐はストライカーを停止させて叫ぶ。私達もその動きに従う。

『な、なんでもありません!』
『よし! ではこれより模』
『ひゃうっ!?』

だめ、可愛いすぎて我慢できない。

『なんだぁ! 宮藤ぃ!』
『ち、ちがあぁん!』
『しゃっきりせんか!』
『ひゃ、ひゃいっ!』『みぃ!』
『あっ』
『やぁ!』
『いやぁ』
『ふぅ!』
『んぁっ』
『じいいいいぃ!!!』
『んぅぅぅぅぅ!!!』

可愛い喘ぎ声ともじもじ悶える芳佳ちゃんを前に、私の理性は虚しく弾けとんだ。
私は胸を弄んでいた指を人形の下腹部までなぞると、一気にその部分を擦った。

『いやぁぁぁぁぁぁ!!!』

可愛い。可愛いよ芳佳ちゃん。もっとたくさんその可愛い声を私に聞かせて。

『まったく……なにをやっとるんだこいつらは……ん?』

芳佳ちゃあぁぁぁぁぁぁぁん!!!

『おい、リーネ』
『え?』

あっ

不意に捕まれた肩に驚いて、私はなんと、大事な人形を落としてしまった。
直ぐさまストライカーを急降下させる。魔道エンジンは出力全開。降下速度も気にしない。
どんどん海面が近付いてくる。人形まであともう少し――

――結局人形の回収は失敗した。

その後、ことの真相が暴かれた私は、ミーナ中佐にこってり絞られることになった。

「リーネさん」
「はい」
「あのね……その」

「私の分も作ってもらえないかしら?」


おわり


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