スオムス1946 湯船のある扶桑風呂の風景
エイラの目つきが気になったから、サウナの準備をエイラに任せて私がお風呂の案内。
実際にエイラの用意したサウナって私がするよりもなんだか暖かくってホッとする気がするから、だからエイラが用意してくれた方が皆にも良いと思ったの。
きっと……多分、私の嫉妬とかそう言うのじゃない……と、思う。
でも、みんな楽しそうだった。
海軍と陸軍の軍歌で歌合戦とか、思わず私もピアノで混ざってしまったし。
もっといっぱい、皆で盛り上がれたらいいな。サトゥルナーリアとかでせめて欧州の人たちだけでも呼べないかな?
そんなことを考えながらお風呂の準備をして、坂本さん達を案内。
ちなみに竹井さんと加藤さんはお店の方の流しを片付けてくれてる。後で私達がやるって言ったけど、ばたばたさせちゃったお詫びにこれくらいはやらせてと押し切られてしまった。
「そうか、501基地での風呂を参考にしてくれたのか。はっはっは、あの時ミーナに無理を言って導入してもらった甲斐があったな。まさかスオムスまできて扶桑式の風呂に入れると思っていなかったよ」
「喜んで頂けて光栄です」
脱衣所でいつもの様に豪快に笑いながら服を脱いでいく坂本さん。まだまだお酒が残っているせいで肌がうっすら上気していて、すごく色っぽい。
……ちょっと、ドキドキしちゃう。
「しかし、こんなメンバーで風呂に入ることになるとはなぁ」
「そうねぇ、なんとなく意外だわ」
振り返るとクロエさんとトモコさんが服を脱いでいる。
なんとなく胸の辺りを自分と見比べ、トモコさんはいいとして、クロエさんの辺りで、ちょっとため息。
オラーシャ人はもうちょっと大きくなってもいいはずなんだけどな……。
「そうだな、うん、意外ついでにサーニャも一緒に入って行かんか? 501の頃もあまり一緒に入ったことは無かった気がするからな」
「え、でも……手狭になってしまいますし、エイラが……」
「いいからいいから……えいっ」
「え!? ひゃあっ!」
坂本さんのお誘いを断ろうとしたら、まだお酒が入っていて変なテンションのトモコさんがススッと前に回りこんできてあっという間にウェイトレス服を脱がされて下着とズボンだけの姿に……。って、トモコさん、何でこんなに手際がいいの……。
「ふふふ、見よう見まねで意外とやれるモンね」
だ、誰の見よう見まね……。
「しかし、サーニャちゃんは肌が白いよな。まるで雪の妖精のようだ」
「ひっ」
半裸になって硬直してる私を後ろから軽く抱くようにしてクロエさんが耳元で囁いて来る。
あっ、あのっ、背中っ、胸っ、当たってますっ。
あと、声が、すごく、口説かれてる気がしますっ。
アルコールのせいか体温が高くて、抱かれてるとその体温が凄く心地よいというかなんと言うか、エイラもこのくらい大胆だったら……って、そうじゃなくてっ!
ミーナ隊長が「これだから扶桑の魔女は」ってよく言ってたのがわかる気が……。
抗議とかそういうのがなんだか言葉にならなくて口ばっかりパクパクする。
「こらこら、黒江殿。サーニャが緊張しているじゃないか」
自分でも顔が真っ赤になってるのがわかって、お酒飲んでもいないのになんだかくらくらしてきた所に坂本さんの助け舟。
「おっと、ごめんごめん、サーニャちゃん」
体の前に回されていた手が緩んで開放されたと思ったのも束の間、坂本さんに手を引かれてそのままぎゅっと抱きしめられてしまう。
あ、あのっ、また胸が当たってというか……顔っ! 顔っ! 押し付けられていますっ!
「サーニャは恥ずかしがりや何だからな、もう少し距離感を気をつけてやれ」
「おいおい、そんな事いってる坂本が一番大胆だな」
「む? おおっ、すまんなサーニャ」
「えっ、いえっ……」
「あーずるいっ、私もサーニャちゃん抱くっ!」
「ひゃっ」
坂本さんが開放してくれたと思ったら今度は相変わらず一番酔っ払ってるトモコさんが抱きついてきた。
「雪ノ妖精取得セリ!」
わ、わ、ちょっと……なんでトモコさんが近くにいると服が脱げるんですかっ!?
「お風呂入りましょう、お風呂」
気がつくと全裸にされて横抱きにされて強制的に浴室へ。
「あ、こら、穴拭殿っ!」
「抜け駆けはひどいぞ、智子」
でも、流石マナーの国扶桑。浴槽に入る前に皆一度体を流すので、一応そこで開放してもらえた。
そこでホッとしたのも束の間、
「ほら、サーニャも早く体を流してこっち来ないかー」
「は、はいっ」
「なんなら私が流してあげようかしら? サーニャちゃん」
「酔ってるお前は卑猥だ、自重しろ智子」
た、たしかに怪しい笑みを浮かべながら手をわきわきと動かすトモコさんは、凄く……ヒワイです。
やっぱり、ハルカさんとかジュゼさんとの噂って本当なのかな……だとするとトモコさん、ちょっと怖いかも。
いろいろ考えながらも何となく押し切られる形でお湯を被って簡単に体を流し、広げたタオルで胸から下を隠しつつ浴槽に向かう。
するとそこには思い思いの姿勢で扶桑風呂を堪能している3人の姿があって、やっぱりちょっと手狭かもと思う。
普段私とエイラだけなら普通に足を伸ばしても余裕があるんだけれど、4人で入るには無理がある気がする。
でも、遠慮した私が「あの、やっぱり狭そうなんで、出て待っていますね」という言葉を最後まで言わせて貰えずに3人が3人で自分の脇や胸元を指してここが空いてるとそれぞれの口調で言い出す。
うう、みんな酔っ払ってるせいか行動が凄く大胆です。
やっぱりエイラにこっちを頼めばよかったかな。
逆らえる空気じゃないので、3人の様子を見る。
坂本さんは浴槽の中で胡坐をかいて壁面に寄りかかり、頭には扶桑式の薄手のタオルを乗せている。
というか3人とも頭のタオルは共通みたい。きっと扶桑の文化なのね。
クロエさんは足を伸ばしてその先を浴槽から出す姿勢でくつろいでる。あの胸元で空いてるってジェスチャーされても……それって、体の上に乗れって事なのかな。なんだかそれは凄くイケナイ気がする。
トモコさんは普通にお尻をついて座っているんだけど、手招きする指先とか目つきが妖しい。他の娘の胸を見てるエイラより妖しい。正直怖い。
酔っ払ったトモコさんとは二人きりにならないように気をつけないといけないかも。
そうすると、消去法で坂本さんのところしか無いかな。
詰めれば隣に座れそうなスペースもあるし。うん、そうしよう。
勇気を出して踏み出し、坂本さんの方へ。
「ああん、妖精ちゃんに振られちゃったぁ、残念」
「ははは、流石スカのサムライだなぁ。完敗だよ全く」
二人の冷やかしみたいな残念そうな声を聞きながら浴槽に入って坂本さんの隣に腰掛けようとすると、あっという間に坂本さんが姿勢を変えて手を引かれる。
お尻が浴槽の底についた時には後ろからすっかり坂本さんに抱かれる姿勢になっていた。
「え?え?え?」
「ようこそサーニャ」
状況が掴めなくて目を白黒させているとそんな台詞と共に畳まれたタオルが頭に置かれる。背中には再び柔らかい感触、体の両側には軽く曲げて伸ばされた脚。頭には手が置かれて、タオル越しに撫でられてる状態だから……に、逃げ場が……。
「さっ、さかもちょ……ぶくぶく」
「はっはっは、そんなに縮こまるな。遠慮なく寄りかかっていいんだぞ」
む、無理っ、絶対無理ですっ。
「……ぶくぶく」
そんな私の主張は言葉にならず、ぶくぶくと音を立てるだけ。
「しかし、サーニャは成長したな」
「?」
「初めは私やミーナと最低限の接点だけで部隊の夜の守りを担当し、次はエイラの陰に隠れ、守られていた」
「…………」
「それがいつの間にか他の連中とも普通に話せるようになって、気がつけば今はいい風情の食堂のおかみさんだ」
「さかもと、さん……」
「働いている時のサーニャ、笑顔が輝いていたぞ」
凄い、流石世界に名だたるエースウィッチ。あんなにみんなで盛り上がってる間も、私達の方を見てくれてたんだ。
「エイラと皆の、お陰です……」
「ああ、そうだと思っている。私もその一端に関われたことを嬉しく思う、サーニャ」
なんだか、力強くて優しくてお父様みたい。
女の人なのにそんな事言ったら気を悪くされちゃうかもだけれど、本当にそう思う。
そう思ったら急に緊張がほぐれて来た。
小さな頃のお父様に甘えていた時を思い出して、体の力を抜いて身を預けてみる。
その体はやっぱりとっても女性を感じさせてくれて、エイラとは違った感触で力強くて柔らかくて、別の安心感を与えてくれた。
お父様とお母様を足したら坂本さんみたいな人になるのかな……ううん、それも違うような気がする。
でも、すごくいい気持ち。
自然と歌がこみ上げてきて、気がつくとハミングで奏でてる。
ちょっと冷やかし気味の笑顔でこちらを見てたトモコさんとクロエさんも穏やかな表情になって、坂本さんも「いい歌だな」って言ってくれた。
奏で終わったらお湯の温かさと坂本さんの肌の心地よさに揺られて急に眠くなってきた。
「はっはっは、眠り姫ぶりは健在だな」
そんな坂本さんの優しそうな声を間近に聞きながら、眠りに落ちた。
なんだか、とても幸せそうな夢が見れそう。
おやすみなさい。