ドリーム・タイラント


「睡眠は……永眠の為の準備動作なんです。擬似体験なんですよ」
「……開口一番に何を言い出す、宮藤」
「……重いな。なんつーか、すっごい話が重いな」
「坂本さん、シャーリーさん。今日は、月が朱いですね」
「今は真昼だ」
「てか、赤いのはお前の顔じゃないか? ……っと?」
「……何をしている、リベリアン」
「いや、なんか宮藤の様子が変だから熱を見て……って、怖いなオイ!? どんだけ睨んでんだよ!?」
「わ・た・し・は・い・た・っ・て・へ・い・じ・ょ・う・だ・!」
「い、いや、鼻息荒いし」
「もぅ、トゥルーデは。短く息を数回吐いて落ち着いてよ」
「ハァハァハ……って、何をさせるかフラウ!!?」
「……あー、少佐ぁ。やっぱり熱あるみたいですよ。かなり熱い」
「やはりか」
「いぇ、私に熱なんてある訳ないじゃないですか、シャーリーさん」
「は?」
「バルクホルンさんは、『私の怪力は世界一ぃ!!』ってネウロイだって素手で真っ二つに引き裂けるんですよ?」
「脈絡なさすぎやしないか!?」
「み、宮藤? お前は私の事を一体何だと……」
「え……出来ないん、ですか……?」
「ふっ、出来るに決まっているだろう?」
「ちょ、おま、堅物!?」
「シスコーン、落ち着けー」
「宮藤が私なら出来ると信じてくれているなら!! 私に不可能なぞ無い!!」
「あらあら、何の騒ぎ?」
「よ、芳佳ちゃん!? 顔が真っ赤……って、凄い熱だよ!?」
「あぁ、ちょうどいい。リーネ、宮藤を部屋へ。とりあえず休ませよう。頼めるか?」
「はい! さ、芳佳ちゃん、行こう」
「み、ミーナ、さん――」
「宮藤さん?」
「――じゅうはっさい……」
「…………」
「あ、ねぇ、トゥルーデ。鏡餅――」
『…………』バッ
「……うふふ。今、私を見た理由を聞かせて貰えるかしら? バルクホルン大尉、イェーガー大尉?」
「い、いや……特に意味は……」
「た、たまたまです! 自分は顔を上げただけです、マム!」
「ミーナの足でー……雪見大福! なんちって」
『……ぶふッ!?』
「……フラウ?」
「うん?」
「怒られたい?」
「……ごめんなさい」
「まったく……」
「ミーナの足か……ふむ」
「あ、あの……美緒?」
「きめ細やかな肌。うむ、雪見大福とは言い得て妙だな」
「……喜んでいいのかしら」
「いいんじゃないカ? 隊長の肌、綺麗なのは本当だしナ」

「あら、エイラさ…ん……どうしてサーニャさんを肩車しているのかしら?」
「夜明けのトーテムポール、だからだナ」
「ごめんなさい、意味がわからないわ」
「……エイラの機動性が0.7倍、鼻息が2.3倍にパワーアップします」
「機動性落ちてるよな?」
「……朝焼けのトーテムポール、ですから」
「名称が変わった!?」
「あ、シャーリー。ちょっとしゃかんでくれヨ」
「は? こう、か?」
「回れ右デ」
「こっち向きでか……って、お前私に乗る気だろ!? そうだな!? そうなんだな!? そうに違いないだろ!?」
「レッツ、ディバイン・トーテムポール!」
「何言ってんの!?」
「あ、あの……芳佳ちゃん、寝かせてきました」
「うむ。ご苦労だったな、リーネ」
「いえ、眼福……じゃなくて、目の保養もとい……えっと、大丈夫です!」
「……でも、宮藤さん、急にどうしたのかしらね。」
「……あー、んんっ。昨日は……元気だったよな? 堅物は何か知ってる?」
「いや、私も……私にも、否、私ですら気がつかなかった」
「シスコーン、頭冷やせー。……私が昨日の夜会った時は普通そうに見えたよ」
「ふむ、トーテムポーラーズの二人は?」
「何ですか、その呼称!?」
「……気がつきませんでした」
「トーテムサーニャ」
「それは肯定なのか!? 返事なのか!?」
「シャーリー、今日は突っ込みがトーテム絶好調だナ」
「誰が突っ込ませて……ってか、トーテムの意味はなんなんだよ!?」
「トーテムトーテム」
「無駄に欝陶しいな、オイ!!」
「あの……芳佳ちゃんの熱なんですけど……」
「トーテムどうした、リーネ」
「少佐に感染した!?」
「実はその……私、昨夜は芳佳ちゃんと一緒に寝たんですけど……」
「………………ほぅ?」
「トゥルーデ、目が怖い。てかちょっと危ない」
「それで、宮藤の寝相でも悪かったのか?」
「ここで少佐、トーテムスルー」
「だからトーテムってなんなんだよ!? てか、トーテムから離れろよ!?」
「トーテムリダナー」
「張り倒すぞ!!」
「あの……ええとですね。ベッドに入って少したってから、芳佳ちゃんの様子がおかしい事に気が付きました」
「……ベッドイン」
「フラウ、黙ってなさい?」
「い、イェス、マム」
「私はうつらうつらとしていたんですけど、身体がなんだかくすぐったくて目が覚めたんです。それで見てみると、芳佳ちゃんが……その」

「……宮藤が?」
「私の身体を撫で回す様に……こう、手を動かしていて」
「……それで?」
「最初はくすぐったいだけだったんですけど、その……次第に芳佳ちゃんの手が(ヒンヤリと冷たくて)気持ちよく感じてきてしまって……」
「……ごくり」
「改めて見ると、芳佳ちゃんは(うなされているのか)息使いも荒くて、何かを求める様に手を、私に……」
「……うわぉ」
「でも、そんな(しんどそうな)芳佳ちゃんを、私には拒むことなんて出来ませんでした。私は、そんな芳佳ちゃんだからこそ、受け入れたんです」
「お、おお……」
「今思えば、熱にうなされていたんだと思います。今にも泣きそうな顔をしていましたから。だから、私は芳佳ちゃんをぎゅって抱きしめました」
「…………」
「少し落ち着いた様に見えました。でも、その後で……その……」
「……な、何があったの?」
「芳佳ちゃんが……私の(服の)中に指を……這わせてきて……」
「……!!!」
「私、芳佳ちゃん(の行動)に驚いたりしてましたし、(汗で)私の(服の)中も濡れてましたし、どうにかして芳佳ちゃんを止めようとしたんです。……やっぱり、その。(汗の臭いとか)恥ずかしい、ですから」
「……うわぁ、うわぁっ」
「でも、芳佳ちゃんの頬に涙が流れていたのに気付いたんです。芳佳ちゃんは、熱にうなされて、身体が寒くて、私(に暖)を求めようとしたんだと分かりました」
「トーテム」
「だから、芳佳ちゃんの頭をゆっくりと撫でました。少しでも安心させてあげたかったんです。……芳佳ちゃんも私が受け入れたのが分かったんだと思います。
……でも、最初は指だけだったんですけど、その、突然っ……」
「ふむ」
「最初は指で(背中を)擦る、と言うか擦るくたいだったのに、腕ごと私の(服の)中に入れようとしてきて……」
「  ! ?  」
「突然だったので私も驚きました。芳佳ちゃんを止めようとしたんですけど……私の身体は(汗で)濡れたりなんだりで大変でしたし……でも、芳佳ちゃんは全然止まらなくて……」
「わっふる!わっふる!」
「と、トゥルーデの輝きが止まらない……私の知ってたトゥルーデは何処に……」
「トーテム!トーテム!」
「何張り合ってんだよお前は!?」
「でも、両手とも(服の)中に入れられて一応満足したみたいで――」
「り、両手!?」
「え、はい。それで、その後ぎゅっと――」

「ぎゅっと!!? え、その…り、両手で……?」
「はい……あの、ミーナ中佐。どうかされたんですか?」
「い、いいえ!? 大丈夫ですよ、リネットさん!!」
「み、ミーナ中佐……言葉使いが……」
「リーネ! そんな事より続きを!!」
「は、はい、バルクホルン大尉! え、えと……芳佳ちゃんの両手でぎゅっとされて……しばらくはそのままでした」
「あの……やっぱり最初は……痛かった、ですか?」
「痛い…? えと、最初はやっぱり無理矢理と言いますか突然でしたから、少しは」
「で、でも……両手、なんだろ? 大丈夫だったのか?」
「それは……まぁ。でもその、一度受け入れちゃうと、だんだん芳佳ちゃん(の体温)を腕から感じる様になりましたから、(暖かくて)気持ち良くなってくるんですよ」
「り、リーネが……遠い……」
「その後……しばらくは、芳佳ちゃんの好きな様に、されるがままでいました」
「何故だ……何故、姉である私がその場に居なかった……ッ!!」
「……もうダメだ、このシスコン」
「それで、気が付くと芳佳ちゃんたら、私の(服の)中に思い切り手を入れたまま眠ってたんですよ。ただ、もうそのままでいいかな、って私もそのまま眠ってしまって……」
「……で、起きたら朝だった?」
「はい。芳佳ちゃんはいませんでしたし、自分の部屋に戻ったんだと思ってました。私に毛布もかけてくれてたみたいです」
「ふーン?」
「……な、なぁ、エイラ。なんでお前そんなに冷静なんだ?」
「何がだヨ?」
「……エイラは、へたれで、朴念仁で、唐変木で、鈍感で……お子様」
「あの……サーニャ? もしかして、なんか怒ってル?」
「……知らない」
「サァアアアアアニャアアアアアアアッ!!?」
「肩車したままで、なんかシュールだな……」
「ね、ね、エイラ。ABCって知ってる?」
「今それ所じゃねーヨ!!」
「エイラ、ハルトマン中尉の質問に答えて」
「さ、サーニャ…? えと、アルファベットだよ、ナ?」
「そっちじゃない」
「……エイラ、本気で知らないの?」
「うぅ……こ、答えないと……ダメ?」
「だめ」
「え、Aは……」
「Aは……?」
「その……て、手を繋ぐ」
「……………………は?」
「だかラ! Aは手を繋ぐだロ!? 恥ずかしい事何度も言わせんなよナ!!」
「あの……エイラさん、Bは……?」
「リーネまデ!? すぅ…はぁ…Bは……キ、キキキ、キスだロ!?」

「エイラ、Cは?」
「サーニャぁ……あの、言わなきゃ……」
「エイラ」
「分かっタ! 分かりましタ! Cは。きっ、キスしながら口の中に舌入れるんだロ!? ……うぅっ、恥ずかしいんだかんナ……」
「エイラ、それ本気か?」
「なんだよシャーリー。言わせといて本気も何もないだロ、まったク!」
「サーニャ、大変だね」
「……ありがとうございます、ハルトマン中尉」
「なぁ、ミーナ。何かエイラはその、変な事を言ったのか?」
「え、みっ、美緒!?」
「少佐まで……」
「な、なんだミーナ、バルクホルンまで」
「はぁ、リネット師匠! あの朴念仁二人に一言お願いします!」
「あ、あのシャーリーさん!? 師匠って」
「まぁまぁ、一言でいいから」
「ハルトマン中尉まで……でも私、何を言えば……」
「急に呼ばれた気がしました」
「芳佳ちゃん!」
「宮藤!?」
「宮藤、お前何処から現れたよ!?」
「そんな事はどうでもいいです。突然ですが、ここでペリーヌさんの新作パジャマコーナー!!」
「いよっ!!」
「待ってたんだナ!!」
「あ、あれ、エイラとハルトマン。なんでお前らそんなにテンション高いの…?」
「ペリーヌさんが夜なべで編んだトーテムパジャマ!! ペリーヌさんどうぞ!!」
「お前もトーテムか!?」
「オーッホッホッホッ、でしてよ!」
「滑らかなラインと淡い色使い。悠々と存在感を示すその出で立ち! テーマはマウント・富士!!」
「着ぐるみじゃねーか!?」
「そして、続いてリーネちゃん専用! ペリーヌさんの愛と友情と何かが詰まってます、どうぞ!」
「あ、あの……どうですか?」
「鳥」
「鳥だナ」
「鳥だね」
「だから着ぐるみだろ、コレ!?」
「テーマはホーク! ホークホクと暖かそうな雰囲気を醸し出します」
「駄 洒 落 か よ ! ?」
「最後は私、芳佳がお送りしますこの着ぐるm……げふん、新作パジャマ!!」
「今着ぐるみって言った!!!言っただろ!!?」
「茄子芳佳! 爆・誕・!」
「何故野菜!?」
「そんな訳で。さぁ、ルッキーニちゃん、朝ですよー」
『……!?』

◇ 
 
「…………ウジュ?」
「あ、ルッキーニちゃん。おはよう」
「……芳佳? あれ、なすびじゃない?」
「……へ?」
「あ、リネット師匠。おはようございます」
「も、もぉハルトマン中尉!! あれは誤解だって言ったじゃないですかぁっ!!」
「いやぁ、だって、ねぇ?」
「……リネット。改めて聞くが……本当に、服の中だよな?」
「バルクホルン大尉まで!?」
「まぁ、仕方ないよね。まさかリーネに芳佳がフィストファっむぐ!?」
「ふ、ふふふフラウ!? おま、何処でそんな言葉を!?」
「……私も、いつまでも子供じゃないのさ」
「もっと違う場面でその言葉を聞きたかったぞ、私は……」
「あ、あはは……あ、ルッキーニちゃん、おはようございます」
「……リーネも、普通のパジャマ?」
「え?」
「あ゛ー、喉痛ぇ……、お、ルッキーニ、おはようさん」
「シャーリー! ……声、なんか変」
「……昨日、ちょっと、な!」
「なんだリベリアン、その目は。突っ込みは自己責任でお願いしたいな?」
「全員がボケばっかかますんだから仕方ないだろ!……ゲッホゲホ」
「あぁ、シャーリーさん、これをどうぞ。ハチミツレモンです」
「サンキュー、宮藤」
「あら、皆さん。こんな所で集まって何を――」
「ちぇー、ペリーヌもフツーの服ー。つまんなーい!」
「……まだ寝ぼけてますの?」
「服がどうかしたのか、ルッキーニ」
「うん! あのね、あのねっ――」
 
ウジュっと、せつめーちゅー
 
「――え、と。か、変わった夢だね」
「…………」
「…………」
「…………」
「あ、あれ、リーネちゃん? シャーリーさんも、バルクホルンさんまで、どうして視線を反らすんですか!?」
「まったく、夢は所詮夢ですわ。だいたい、どうして私がどこぞの山の着ぐるみなんて着ますの!?」
「あ、それはですね。扶桑では、年明けの初夢で見ると縁起が良いって『一富士、二鷹に、三茄子』という言葉があるんです」
「……ペリフジ、トリーネ、なすよしか?」
「意味がわかりませんわ」
「み、皆さんは、何か夢は見ましたか?」
「そういえば、私は見てないな。宮藤とペリーヌ、あとルッキーニは、年明けてそうそうに眠ってたよな?」
「他の皆は飲み会みたく騒いでたけどねー。……ついさっきまで」
「初夢なんて。そんなもの、私は……私、は………」
「…………ぁ、ぅ」

「あの、ペリーヌさん? 芳佳ちゃんも、なんだか顔が赤くなって……?」
「な、わ、私の夢にまでどこぞの豆狸が……ッ、ゆ、誘導尋問を!?」
「いや、ペリーヌが勝手に自爆しただけじゃん」
「宮藤の夢にはペリーヌが出たのか?」
「……ベッドの、上?」
「!?」
「……ぁぅー」
「あれ、なんだこの二人から発せられる甘酸っぱい空気は」
「知ってる? 夜明けのモーニングコーヒーって、そんな甘い空気を入れ換える為にブラックで飲む物なんだって」
「よ、よよよ…芳佳ちゃん!!?」
『お、落ち着けミーナ!! 正気に戻れ!!』
『失礼ね!? 私は正気だし落ち着いています!!』
『なら服を脱ごうとするなッ!!』
『指揮官たるものABCくらい実践で、私が教えるもんッ!!』
『もん、とか言うなぁああああッ!!』
「…………」
「…………」
「……あの二人、まだやってたんだ」
「え、あのミーナさんを止めなくてもいいんですか?」
「……よし、リーネ師匠。あの二人に一言お願いします」
「ま、まだ引っ張るんですか!?」
 
「……ね、シャーリー」
「ん? どうした、ルッキーニ」
「おんぶして」
「またいきなりだな……ほらよ」
「え、と……トーテム?」
「ぶっ、な、何言ってんだ!?」
「なんでもっ。ね、シャーリー」
「んー?」
「今年もよろしくおねがいします」
「……ああ、私こそ」
 
「リーネ師匠!」
「お願いしますっ!」
「それは誤解なんですってばぁっ!!」
「――あの、ペリーヌ、さん……」
「宮藤、さん……」
『AはピーーーでBは■■■■なのよ!? だからCは£%#&@で、つまり、A=B=Cだから、美緒は私のモノ!!』
『ええい、それ以上近付くな! 切るぞ!? というか舌噛むぞ!?』
「……トーテムエイラ」
「トーテムサーニャ」
 
そんなこんなで、新年、明けてますがおめでとうございました。
 
 


コメントを書く・見る

戻る

ストライクウィッチーズ 百合SSまとめ