食わず嫌い


 滑走路の上に張られた日よけ布と、幾つも並ぶ長テーブル。
 第31統合戦闘飛行隊『アフリカ』では、ウィッチと兵士が一緒に食事をとるのが通例となっている。

「あ~腹へったぁ……」
「だよねぇ。洗濯物の量、多すぎだよ」
 強制的にストームウィッチーズへ配属となって以降、凸凹コンビはすっかり隊の雑用係として馴染んでしまった。男性兵士が立ち入れないデリケートな部分、つまりウィッチの衣類の洗

濯やテントの掃除などをおもに任せられている。
「立ち止まっていたら通行の邪魔だぞ」
 後ろからかかった声に振り向けば、そこには絶世の美女。
 身にまとう王者のオーラに、思わずヘヘェ~と平伏したくなる。
「あ、悪い! ほらルッキーニ、こっちへ寄れ。マルセイユ大尉が通れないって」
「うん。あれ? ねえシャーリー、マルセイユ大尉のメニューって、あたしたちと違うよね」
 炊事班の兵士に盛ってもらったプレートを手にして、ルッキーニが呟く。
 そんな少女を追い抜いたマルセイユは、先に席へついていた上官の隣に腰を下ろす。そして、双方のプレートをちらり。
「この隊では食事に貴賎はないぞ。私やケイも皆と同じメニューだ」
「ん~でも、なんか―――あ、わかった! ピーマンの炒め物がないんだ!」

ざわっ、ざわっ

 途端、滑走路にはしる異様な緊張感。
 談笑していた隊員たちも、いまや固唾を呑んで行方を見守っている。

「お、おい、ルッキーニ」
 よからぬ空気を察したシャーリーが相棒を小突く。
 だが興味をひかれたルッキーニは意に介さない。マルセイユのいる長テーブルへ自分のプレートを置く。
「ねえねえ、マルセイユ大尉ってピーマン嫌いなの?」
「…この私に好き嫌いなどあるわけないだろう。残り少ないようだったから、他に回してやっただけだ」
 くい下がってくる新人へ、もっともらしく述べるマルセイユ。
 軽く汗をしたたらせて強弁するさまに、ケイは噴き出しかけた口元を押さえる。
「うにゃ? 先にあたしがいっぱい取っちゃったせいかぁ。じゃあ、あたしの半分あげる!」
「―――――?!」

ざわっ、ざわっ

 遠巻きにする隊員たちの度肝を抜く行為。
 山盛りになっていたピーマンの炒め物が、ごっそりとマルセイユのプレートへ。

「そのかわり、このお肉もらうね。んー、おいしいっ! ……どったのシャーリー、変な顔して」
「…もういい。今さら言っても遅いし」
 ゲットした極上の肉を頬張るルッキーニ。テーブルに組んだ両手へ額を預けるシャーリー。
 緑色で埋め尽くされたプレートを前に、マルセイユは口の端を吊り上げる。
「二人とも、雑用ばかりも飽きただろ? 午後は空へあがれ。この私が直々に相手をしてやろう」
「に"ゃーーーっ?! なぜにぃ!」
「それはこっちの台詞だっての! あたし関係ないじゃん!」
 凄みをきかせるウルトラエースの死刑宣告。
 大騒ぎする二人組を放置して、据わった目をしたマルセイユは緑の物体をもぐもぐ。機械的な動作で、咀嚼と嚥下を繰り返す。
「どう? 意外といけそう?」
「だから好き嫌いなどないと言っている」
 ライカを構えた上官に尖った口調でかみつく。
 珍しい光景を激写したケイは、レンズを明後日の方向へ向ける。
「そっちじゃなくって、あの二人のことよ」
「…ふん。使い勝手はまだわからんが、退屈はしなさそうだ」
 逃げるルッキーニを追うシャーリー。
 陽炎たつ砂漠での追いかけっこを眺め、午後への英気を養う隊員たちだった。


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