heartbeat


「規定の任務完了。これより帰投します」
『了解しました大尉。お気をつけて』
 部隊通信本部と簡単な通信を済ませたのち、ハイデマリーは周囲をもう一度見回し、ネウロイの影が無い事を確かめる。
 ライムグリーンの魔導レーダーがひときわ輝く。
 任務を終え帰る間際が一番危険。幾多の戦いを潜り抜けてきた“戦訓”だ。
 ハイデマリーは意識を集中させた。
 今日はネウロイの影もなく大丈夫らしいと判断し、くるりと身体をロールさせる。
 再び、魔導レーダーの輝きが増す。
 雑多なノイズを抜けて、幾つかの周波数を辿っていくと、たまに他のナイトウィッチと交信出来る。
 今日は誰が……と期待していると、どこか聞き覚えのある声が聞こえてきた。

『ハ~イ……「STRIKE TALKING RADIO」始まりマ……
DJ兼MC、パーソ……の……でス。皆聴い……カナ?
この番組ハ、サーニャのレーダー魔導針を……、全世界の悩めるウィッチに……』
 雑音が酷い。今日に限ってどう言う事? と訝しむハイデマリー。
『サテ……ホンット、今日は特別ダカンナー! 今日だけダカンナー!』
 この声は、確かサーニャさんの友人の……。いまいち思い出せないハイデマリー。
『ええっと、シュナウファー大尉に連絡と言うか伝言です』
 突然サーニャから自分の名を呼ばれ戸惑う。感情に呼応したのかストライカーの消炎排気管から炎が一瞬見える。
 ノイズ混じりのサーニャの声を拾うべく、必死に魔導レーダーの位置を変えてみる。

『では読みます。
--
ハイディ、今日は貴方の誕生日と……から聞きました。おめでとう。
本当は……で一緒にお祝いしたいけど、
その楽しみとワインは一緒に取っておきますわ。だから絶対に無茶しないで。
離れても心は共にある、ブループルミエより
--
シュナウファー大尉、お誕生日おめでとうございます』
『おめでとナ』
 ハイデマリーは、ああ、とそのひとを思い出し、口を手で覆った。
 そう言えば、今日は私の……そんな日も有った。でも、わざわざ無線で言わなくても……
 眼鏡を取り、目に溜まった涙を拭く。
 “ラジオ”はその後殆ど聞き取れなくなったけど、知りたい情報は全て得た。それ以上の嬉しさが有った。
「ありがとう」
 そんな言葉も自然と口に出る。
「今度は、どんな理由つけて行こうかな」
 ぽつりと呟く。
「そうだ、今度彼女の誕生日、調べてみないと」
 私の楽しみもひとつ増えそう、と笑みを浮かべるハイデマリー。
『大尉、どうかされましたか』
 部隊通信本部から連絡が入る。
「何も。問題有りません」
 平静を装いつつも、ハイデマリーの関心と意識は、既にあの場所、あのひとへと向いていた。

end


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