How to Dismantle a Love Bomb
「うひゃあ、いい眺めだな。最高点は地上120メートルに達するってさ」
「…………」
「なんだそのむくれっ面は。好きなんだろ、観覧車」
「お前が私の背中を強引に押してきたんだろう」
「だって乗りたそうにしてたからさ」
「してない」
「してた」
「してない」
「はいはい。もうそれでいいよ――あー、なんか飽きてきたな」
「なにを言っている。まだ1分も経ってないだろう」
「つまんねーよ。高さはあってもスピードはない。おまけにこんなのと10分以上顔をつきあわせるなんて」
「勝手なやつだ」
「あんたはどうなの?」
「悪くない。のんびり空を散歩してるようだ……ん? どうしたんだ、笑い出したりして」
「あはっ……いや、カールスラントの堅物ともあろうものが意外にロマンチストだなって」
「笑うな」
「怒るなよ、あははっ……あっ、ルッキーニが手ぇ振ってる。おーい!」
「おい、あまりはしゃぐな。ゴンドラが揺れるだろう」
「ハルトマンもだ。なんか叫んでるぞ。あんたも見ろよ」
「別にいい」
「ほーら」
「おい、引っ張るな……なぁ、なんだか下の様子がおかしくないか?」
「人がわんさか集まってきてるな。パレードでもあるのか?」
「なんだかみんなこっちを見てないか?」
「あっ、モールス信号」
「ゴ、ン、ド、ラ、ニ、バ、ク、ダ、ン、ガ、シ、カ、ケ、ラ、レ、テ、イ、ル」
「……なんだよそれ? 笑えない冗談だな」
「係員までか?」
「なに、まさか本気で信じちゃったわけ?」
「こっちにはないようだ。そっちじゃないのか?」
「なんだよ、取り乱して。冷静に――」
「いいから股をひらけ、リベリアン!」
「なっ、なに言い出すんだ!?」
「早くしろ!」
「わっ、わかったよ。どうせホントにあるわけ――」
「あった」
「0432……これ、4時間32分とかじゃないよな?」
「着々と減っているのにか? 23、22、21……」
「読みあげるな!」
「あと4分――ちょうど頂上にいるころだ」
「どうすんだよ! あたしまだ死にたくないぞ!」
「クリスー! 芳佳ー!」
「落ち着けよ、堅物! こんなとこから飛び降りたらそれこそ死ぬだろ! だいたい、妹はともかく、なんで宮藤なのさ?」
「別にいいだろう。お前はどうなんだ? なんでそんなに落ち着いてる」
「んなわけあるか。あたしだってイヤに決まってるだろ。明日の新聞に書かれちゃうんだぜ。
『なおその観覧車にはシャーロット・E・イェーガー、ゲルトルート・バルクホルンの両名が乗っていた』」
「『ゲルトルート・バルクホルン、シャーロット・E・イェーガーの両名』だ」
「どっちでもいいよ。あー、せめてこれが作戦中なら殉職だったのに」
「おもいっきりオフだったな。特にお前はハメを外しすぎだ。一体、ジェットコースター何周した?」
「あんたこそ、メリーゴーランドではしゃいだりして。似合わねー」
「…………」
「…………」
「…………」
「あたし、あんたと2人で死ぬなんてヤだからな」
「私こそ、お前とだけは死んでもゴメンだ」
「…………」
「…………」
「なぁ、このまま死んだら、あたしとあんたって仲良しってふうに思われるのかな」
「それどころかカップルってことになるかもな」
「死ぬな」
「死ねるな」
「…………」
「…………」
「そこどけ」
「?」
「今からあたしが時限爆弾を解体する。あんたはそっちでバランス取ってろ」
「そんなこと言ったってここには道具も……なんであるんだ」
「普通持ってない? 精密工具セット」
「持ってるわけがないだろう。そんなものいつも持ち歩いているのか?」
「まあね。えーっと、まずは外装を外して……」
「なんでできるんだ?」
「聞かないでくれ」
「そうしておこう――どうだ、いけそうか?」
「構造自体は単純みたい。あとは時間との勝負だな」
「急げ、残り30秒だぞ」
「んなことわかってるよ。静かにしてろ――よし、あと1本」
「やったな…………どうしたんだ、手が止まっているぞ」
「1本がホンモノで、もう1本がダミーだ。間違ったら多分爆発する」
「わからないのか?」
「お手あげ。あとはフィフティーフィフティーだ」
「切らないのか?」
「どっちだかわからないのに?」
「らしくないな」
「そう? 完全な運任せってあたししないんだけどな。運よくないし。だから1%でも確率のあがる方法を模索する」
「なるほどな」
「青と赤、どっちだと思う? ていうか、そもそもあんたって運はいい方?」
「…………」
「訊くんじゃなかった」
「私はまだ答えていないだろう」
「……あのさ。ごめん」
「なにがだ」
「あたしがムリヤリあんたを押しこんだせいでさ。こんな目にあわせちゃって……」
「謝るな。そんな話、今はいい。残り10秒――」
「なぁ、さっきはついあんなこと言っちゃったけどさ」
「…………」
「やっぱあたし、あんたとだったらさ」
「青だ」
「聞けよ」
「聞かん。青を切れ」
「なぁ、訊いてもいいか?」
「なんだ?」
「なんで青を切れって言ったわけ?」
「……別に、大した理由があるわけじゃない」
「なんかあるんだ。いいから教えろよ」
「……赤は……」
「なに?」
「赤は、お前の色だから。だったら赤を切るわけにいかないだろう」