you're my only shining star


  夜空を駆ける無数のウィッチ達。銃を手にし、互いを撃ち合う。恐らくは模擬戦か飛行訓練か。
  彼女達の懸命な姿、空を描く軌跡は美しく、ワルツの様で、それでいて少し物悲しくも見える。
  そんなウィッチ達の乱戦をひらりひらりとかわし前を進むのは、スオムスが誇る無傷のエース、エイラ・イルマタル・ユーティライネン。
  まるで朝飯前の如く、他のウィッチ達をからかい、おちょくり、次々と被弾させながら飛んでいく。「完全回避」の面目躍如。
  だけど、他のウィッチはエイラの事はさして気にも掛けず、素通りしている風で……しばらく経たぬうちに周囲には誰も居なくなり、ぽつんとひとりになった。虚無感にも似た感情がエイラを襲う。
  (私は一体、何をしているんだろう)
  ふと気付く。
  自分を狙う、誰かが居る事に。
  背後、斜め上を見上げる。満月を背に、ひとりのウィッチがこちらを見下ろしている。表情は分からない。
  エイラは反射的にMG42を構えた。が、握っているはずの銃が無い。
  彼女のMG42は、エイラを見下ろすウィッチがいつの間にか手にしていた。
  撃たれる。エイラの直感がそう告げる。シールドは、間に合わない。
  逃げられない。
  ゆっくりと、しかし確実に、ウィッチはトリガーを引く。
  エイラの心臓を一瞬一撃で貫く。ぐらりと体勢を崩すエイラ。ストライカーのエーテル流も止まり、自由落下に身を任せる他無かった。
  だけど痛みは感じず、エイラはただ、遂に撃たれたと言う安堵にも似た感情、自分に向かい飛んで来て手を差し伸べる「魔弾の射手」の影を懐かしく、愛しく思い……


「ねえ、エイラ。起きて。エイラ」
「ウワ!? サーニャ?」
 エイラは耳元、至近距離でこそばゆく聞こえたサーニャの囁き声と甘く熱い吐息で、微睡みから一気に覚醒した。
「大丈夫? エイラ。寝汗凄いよ。タオル、使って」
「ああ、アリガトナ」
 慌ててタオルで額を拭う。
「エイラ、珍しい。うなされてた」
「ホントカ? 寝言とかうるさかっタ? ゴメンなサーニャ」
「良いの」
 夜間哨戒帰りのサーニャを起こしてしまったとは……己を呪うエイラ。しかしひとつ気に掛かる事が。
「さっき、サーニャの声が耳元で聞こえた様ナ……何かしタ?」
「ううん、まだ何もしてないよ?」
「そ、ソッカ。……マ、マダぁ!?」
「そ、それはその……とにかく起きて、エイラ」
「あ、アァ」
 もうひとつの、疑問。
 さっき見た光景は……、自分が撃ち抜かれたのは、夢? それとも……。
「ねえ、エイラ」
「どうしたサーニャ?」
「今日は、貴方の誕生日でしょ? だからちょっと早起きして、作ってみたの」
 いつ用意したのか、小さな小さなケーキがひとつ。上にイチゴとブルーベリーが数個載っている。
「これ、サーニャが?」
「うん。エイラ、気に入ってくれれば良いんだけど」
「オオ~可愛いケーキだなァ。アリガトナ、サーニャ。何か食べるの勿体ない気がするゾ」
「エイラの為に作ったんだから」
「食べるヨ」
 じっと、エイラを見つめるサーニャ。
「な、何か食べ辛イ……」
「見てちゃダメ?」
「いや全然」
 フォークを当てるのも躊躇う程に、整った可愛いケーキ。
 意を決してひとくち、そっと味わう。エイラの好みに合わせた、ほのかな甘味と酸味……
 エイラは仰天した。
 この感覚……さっき“撃たれた”時と同じ……。
 と言う事は。
 エイラはサーニャを見た。サーニャはサーニャで、ケーキの味がどうか、エイラの評価を待っている。
 あのヴィジョン、満月の中に居た“人影”は……間違いない。
「サーニャだ!」
「えっ? どうしたの、いきなり?」
「やっぱりサーニャだったんだ!」
 エイラは堪えきれず、サーニャに抱きついた。何故か涙が一筋流れる。
「エイラ。どうしたの。ケーキは? 美味しくなかったの?」
「美味しい。これだったンダ、分かったヨ、サーニャ」
 涙声で、エイラはサーニャを抱きしめた。意味が分からなかったが、とりあえずサーニャも優しく、エイラを抱いた。

「夢の中で、私に撃たれたの?」
 エイラの夢物語を聞いたサーニャは、首を傾げて言葉を続けた。
「私はMG42は使わない。フリーガーハマーを使う筈だけど」
「そ、それは実戦ダロ? 私の夢の中の話だってバ」
「でも、どうして私だって、分かるの?」
「だって、ほラ。私は相手の動きを先読み出来るから絶対に当たらないのニ……」
「だけど、私は……」
「確かに魔導レーダーも見えなかっタ。でもあれはサーニャなんダ。じゃなきゃ私は撃たれなイ」
「エイラったら」
「撃たれた時、何とも言えない気持ちになっタ。解放されたと言うか何と言うか……それで、このケーキ食べた時も同じ気持ちに……だから、サーニャ」
「おかしなエイラ」
 くすっと笑うサーニャ。そしてエイラをきゅっと抱きしめ、ベッドに押し倒した。そしてエイラの耳元で、また囁いた。
「でも、間違いではないかも」
「サーニャ、それって……」
「今日はエイラの誕生日、よね?」
「そうだヨ」
「私だけが、お祝いしても、良いよね?」
「エ?」
「私だけ。良いよね?」
「サーニャ……」
「答えは、聞かない」
 それだけ言うと、サーニャはエイラの唇を自らので塞いだ。
 ケーキのカスタードクリームの味がほのかに残る。サーニャはまるでそれを味わうかの様に、エイラに口吻を何度も繰り返した。

 部屋の外がにわかに騒がしい。
 そろそろ朝食……いや、もう昼飯の時間だ。
 恐らく、エイラの誕生日と言う事で、501の隊員達が何かを用意して待っているのだろう。
 だけどサーニャはそんな事お構いなし。
「私だけの、エイラ」
 それだけ言うと、エイラには何も言わせず、繰り返し、濃いキスをした。
 暫く経って外が静かになっても、二人は絡み合ったまま、熱い息遣いの中、“お祝い”の行為に耽った。

end


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