sweet doughnut


 501基地の庭。木立が生い茂るその隅に、海が見えるポイントが有る。
 基地の細部に詳しいルッキーニは勿論、時たま隊員達がそれとなく訪れ、
海の青さ、海風の爽快感と木漏れ日の温かさを同時に、静かに味わう。
 今日はその場所に芳佳とリーネが居た。大きな木の下に座り、海を眺めた。
「ちょっと、肌寒いね」
「そうだね」
 リーネは頷くと、脇に置いていた包みの中から丁寧に編まれたマフラーを出した。
「これ、リーネちゃんが?」
「うん。でも、失敗しちゃったの」
 芳佳はマフラーを手に取った。何処も破けていないし、編み目も細かく正確だ。
「失敗した様には見えないけど……」
「ええっと」
 リーネは苦笑いしてマフラーの“続き”を芳佳に見せた。
「な、長いね……」
 芳佳はマフラーを広げて、言葉に困った。リーネも苦笑してマフラーの端を持った。
「うん。一生懸命作ってるうちに、長さの調節忘れちゃって……こんなに長く。お姉ちゃんから糸送って貰って、
頑張ってたんだけど……」
「大丈夫だよ、リーネちゃん」
 芳佳は自分にぐるりと一回りさせると、そのままリーネの肩、首に回し、ひとつで二人分のマフラーとした。
「ほら。こうするとちょうど長さもぴったり」
「芳佳ちゃん」
「リーネちゃん、これ切ったりするの勿体ないから、これからはこうやって使おう?」
 笑顔の芳佳。リーネは顔を赤らめる。
「芳佳ちゃん、それって……」
「?」
「私と、ずっと一緒に居てくれるって事?」
「やだなぁリーネちゃん、何言ってるの」
「え」
 一瞬リーネの顔色が変わる。
「聞くまでも無い事だよ。今までもず~っと一緒だったんだし、これからも一緒だよ」
「そ、そう言う意味……」
 ほっとするリーネ。
「私、何かヘンな事言った?」
「ううん、全然」
 リーネはちょっと恥じらいと苛立ちが混じった表情を作った。
「ゴメンね、リーネちゃん。私、あんまりこう言う事、うまく言えないから」
「良いの。気にしないで」
 慌てて芳佳をフォローするリーネ。顔を見合わせて、二人はふっと笑いあった。
 南から優しく流れてくる海風は少し冷たいが頬に心地よく、木々の中を抜けてくる木漏れ日は
優しく二人を照らし、包み込む。
 二人は肩を寄せ合い、海を眺めた。この海原を隔てた場所で激戦が行われているなど信じがたい程海面は穏やかで、
飛んでいる海鳥が豆粒の様に小さく見える。
「暖かいよ、このマフラー」
 不意に芳佳は呟いて、マフラーをさすった。そのままリーネにもたれ掛かった。
「芳佳ちゃん」
「ありがとう、リーネちゃん」
 リーネは芳佳の名を呼んだ。芳佳もリーネに微笑みかけた。
「マフラー暖かいから、とっても幸せ。リーネちゃんの気持ちと同じだね」
「えっ? そんな事……」
 二人は肩を寄せ合ったまま、お互いを見つめた。そのまま距離を縮め、ゼロに。
 二人の影が交錯する。
 唇を重ね合わせた二人は、マフラーの温もりと一緒に、お互いの身体の温かさを感じた。
 芳佳とリーネは、そのままゆるく抱き合ったまま、温もりを共有した。

 暫くゆっくりした後、リーネはもうひとつの包みを取り出した。
「これも、リーネちゃんが?」
「うん。本当は午後のお茶会に出すつもりだったんだけど……失敗しちゃって」
 リーネが包みを開くと、そこにはまん丸にかたどられたドーナツが幾つか出て来た。
「失敗? そうは見えないけど」
 芳佳は早速口にした。
「……別に全然大丈夫だけどな。ちょっと甘さ多め?」
「うん。お砂糖多く入れ過ぎちゃって」
「これ位全然大丈夫だよ~。私だったら気にせず食べちゃうよ」
「でも」
「じゃあ、これ私が全部食べる。せっかくリーネちゃんが作ったドーナツだもん」
「芳佳ちゃん」
「これも、リーネちゃんの心がこもってるんだよね」
 芳佳は笑顔でドーナツを頬張った。
 からりと揚げられたドーナツは生地もふんわりして、油もしつこくない。
 リーネもひとつドーナツを手に取り、一口食べてみた。芳佳の言う通り、それ程でもないかも……と思い直す。
「美味しいよ、リーネちゃん」
 芳佳は笑った。
「ありがとう、芳佳ちゃん。今度はもっと美味しく作るから」
「このドーナツも美味しいんだけどなぁ」
「でも、リベンジさせて?」
「じゃあ、作ったら、一番最初に私が味見するよ。約束」
「うん。約束」
 二人は指を絡ませ、頷いた。
 お互いの距離がまた近付いたのを切欠に、二人は再びキスを交わした。
「なんか、幸せ」
「私も」
 芳佳とリーネは、肩を寄せ合い、微笑んだ。
 二人の首に巻かれた一本のマフラーは緩やかな円を描き、まるで二人を包むドーナツのよう。
 二人だけの時間、二人だけの休息。

end


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