sweetheart, good night


「何だお前達、その格好は」
 芳佳とリーネの姿を見た美緒は溜め息を付いた。
 お揃いのマフラー……と言うより長い一本のマフラーを二人で巻いて使っている。
「マフラー長く作っちゃったので、こうして二人でひとつ……」
「いざという時迅速に動けるのか? たるんどる」
 マフラーを両断するつもりか、扶桑刀に手を掛ける美緒。
「す、すいませんっ!」
「坂本さん、お願いですから斬るのだけは止めて下さい!」
「そうよ少佐。そこまでする必要は無いわ」
 背後からミーナの声が聞こえた。美緒は扶桑刀を肩に掛け直すと、溜め息を付いた。
「しかしなミーナ。いつネウロイが来るとも分からんのだぞ」
「いつもそうされるとちょっと困るけど……非番の時とか、休暇の時位は良いんじゃない?」
 ミーナに諭され、美緒もうーむと唸り、芳佳とリーネを見た。
「まあ、ミーナが言うなら」
「少し位気分転換しても良いと思うわ。ねえ、トゥルーデ?」
 ミーナの後ろからやって来たトゥルーデとエーリカは、揃って頷いた。何故かトゥルーデの顔が赤い。
「ま、まあ……マフラー位なら良いんじゃないか。すぐ脱げるし」
「バルクホルンもそう思うのか。……なら、良いか」
 あっさりと納得した美緒は、改めて芳佳とリーネを見た。芳佳の顔が緩んでいる。
「こら宮藤。認められたからと言って気分まで緩んでどうする!」
「は、はひっ! すいません」
「仮にもここは最前線だ。羽目を外しすぎぬ様にな」
 それだけ言うと、美緒は立ち去った。
「宮藤さん、リーネさん。少佐の言う通り、あんまりだらけちゃダメよ?」
 ミーナは笑顔で二人に言うと、マフラーにそっと手を掛けた。
「あら、随分綺麗に織り込んでるわね。暖かそうで素敵ね。これはリーネさんが?」
「は、はい! 姉から糸を送ってもらったので、作りました」
「そう。今度また糸を貰ったら私にも少し分けてくれないかしら? 私も少し作ってみようかしら」
「はい、喜んで!」
「宮藤もリーネも、もう少し時と場所と場合を考えてだな……」
 トゥルーデの説教が始まるかと思いきや、エーリカにくいくいと腕を引っ張られ、言葉が詰まる。顔が真っ赤になる。
「? バルクホルンさん、どうかしました?」
「いや、何でもない。何でも無いんだ」
 トゥルーデはそう言うと、皆から見られぬ様、腕を後ろに回した。その分エーリカの腕が引っ張られる。
「全く、この子達は……」
 ミーナは苦笑して、書類を小脇に抱えると執務室へと向かった。
「さて、私達も戻るか、エーリカ」
「顔真っ赤だよトゥルーデ」
「あ、あのなあ……」
「?」
「じゃ、私達はこれで~」
 エーリカはトゥルーデを引っ張って部屋に戻った。
 そこで芳佳とリーネは、トゥルーデとエーリカの腕が何かで固定? されている事に気付く。
「バルクホルンさんとハルトマンさん、どうしたんだろうね」
「何だろうね……」
 首を傾げる芳佳とリーネ。

 部屋の扉を閉め、鍵を掛ける。その動作を終え、ゆっくりとエーリカに向き直った。
「エーリカ」
「トゥルーデ」
 とりあえず軽く挨拶代わりのキスをした後、トゥルーデは腕をぐいと引っ張った。釣られてエーリカの腕も上がる。
「あの二人の前で、これは無いだろう」
 トゥルーデとエーリカの腕をしっかりと繋ぐ、手錠。がっちりと二人を繋ぎ、外れそうもない。
「たまにはこう言うのも面白いよね」
「だから……」
「首輪よりは良いと思うけど」
「当たり前だ! 皆に示しが付かない」
「でもトゥルーデ、必死に隠そうとしてたけどバレバレだよ」
「……ーっ!」
「大丈夫、鍵なら持ってるし、いざという時はトゥルーデの怪力で何とかなるでしょ」
「そう言う問題じゃない! それこそ少佐に斬られるぞ」
「じゃあ今度ミーナと少佐を手錠で……」
「上官を拘束するつもりか、エーリカ」
「まあまあ」
 エーリカは迫ってきたトゥルーデを逆に抱きしめると、口止めとばかりにキスをした。
 流石に拒めず、ゆっくりと、柔らかな唇の感触を確かめる。
「ねえ、トゥルーデ」
「何だ、エーリカ」
「今日は私達非番でしょ?」
「そうだが」
「なら、良いよね」
 それだけ言うと、エーリカはトゥルーデを抱きしめたままベッドにダイブした。
「エーリカ……」
「トゥルーデ見てたら、何かこうしたくなった」
「あのなあ」
「じゃあ、トゥルーデは?」
 問われ、口ごもったトゥルーデは、ぷいと横を向き、ぽつりと呟いた。
「まあ……、私も、ちょっと、したい」
「ちょっと? ちょっとだけなの?」
「いや……そんな事は」
「トゥルーデってば」
 エーリカは笑った。その笑みには艶が有り……トゥルーデの理性をくらくらと惑わせる。
「時間もたっぷり有るし……ねえ、トゥルーデ?」
 エーリカはトゥルーデの服のボタンを少し外し、首筋に唇を這わせた。
 トゥルーデから甘い声が漏れる。負けじとエーリカの服を半分脱がせ、同じ事をし返す。
 ふたりはそのまま、時が経つのも忘れ、愛する行為に没頭した。

 ぐちゃぐちゃに乱れた服のまま、手錠も外さずに、トゥルーデはベッドに横になり、同じ様相のエーリカを抱いた。
 ふと外を見る。いつしか陽は沈み、夜の帳の中にあった。
 窓越しに、星空をじっと見つめるトゥルーデ。
 幾つもの戦いの中、たまに夜空を見上げ、星の瞬きを眺める事が有る。
 だが、その行為でいつも心安らぐ訳ではない。かつての激戦の夜を思い出し、心掻き乱される時も有る。
「トゥルーデ、眠れないの?」
 エーリカがトゥルーデを緩く抱いて、囁いた。
「星空を、見てた」
「星って綺麗だよね~」
「ああ」
「トゥルーデ、余計な事考えちゃダメだよ。星空は星空、それ以上でも何でも無いよ」
「ああ、分かってる。分かってはいるさ」
「そう言えば、今日は晩ご飯食べ損ねちゃったね。後で夜食食べに食堂か厨房にでも行く?」
「いや……今日は良い。このまま寝よう」
「良いよ、トゥルーデ。一緒に寝よ」
「ああ。すまない、エーリカ」
「ベッドに押し倒したの私だもん。それにトゥルーデさえ居れば」
「有り難う」
「おやすみ、トゥルーデ」
 エーリカはトゥルーデにキスをした。お休みのキスのつもりが、ぐっと深く濃いものに変わる。
 はあ、と息を付く。熱い吐息がお互いの頬を撫でる。
「眠れないかな、これじゃ」
 笑うエーリカ。
「いや、眠れるさ。きっと」
 トゥルーデはそう言うと、もう一度キスを求めた。エーリカは指を絡ませ、そのままトゥルーデと身体を、唇を重ねた。

end


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