monday midnight blue
「竹井さんも同じ誕生日とは」
「奇遇ね。運命の二人かしら?」
「はっはっは、そんな事を言ったら宮藤とサーニャもそうなるぞ?」
先日の、シャーリーと醇子の誕生日祝いでのひとこま。
何気ない会話の中の、美緒の言葉に、心掻き乱される乙女が二人。
リーネとエイラである。
あの後、心の隅に美緒のセリフが引っ掛かって……眠れない程ではないが、冗談であって欲しいと
本気で思い詰めたりする事も。
リーネはお菓子とお茶の配分を微妙に間違え、エイラに至っては意味もなくタロットをめくっては一喜一憂。
そんな二人の心つゆ知らず、芳佳とサーニャはミーティングルームでたわいもないお喋りをしている。
リーネとエイラは、互いに顔を見合わせ、溜め息をついた。
「あれ、どうしたエイラにリーネ。顔色悪いぞ?」
たまたま通りかかったシャーリーが二人を見て言った。途端にエイラとリーネはシャーリーに食いついた。
「シャーリー、教えてクレ! ホントなのか?」
「運命の二人って、本当なんですか?」
突然詰め寄られて焦るシャーリー。
「うえっ!? 一体何の事だ? 運命って?」
「竹井大尉はシャーリーの運命の人なのカ?」
「そうですよ? 私達の死活問題なんですから、答えて下さい!」
「ちょ、ちょっと落ち着け二人とも! 順を追って話してくれよ」
二人から事の次第を聞いたシャーリーは大笑いした。
「竹井さんとあたしが? んな訳ないだろー」
「ホントカヨ?」
「本当ですか?」
「何も無いって。まあ大尉同士仲が良いのは確かかも知れないけど、戦友つうか仲間以上のものはないよ。
本当だって」
「でも……」
「じゃあさ、もしそれが本当だったら、ルッキーニは何て言うかな」
「えっ」
「なあ、ルッキーニ」
シャーリーが声を掛けると、いつの間に居たのか、エイラとリーネの背後にロマーニャの少女が立っていた。
「ウジャー 二人とも考えすぎ! だってシャーリーあたしのだもん」
「分かり易いナー」
「あたし、ジュンジュンも好きだけど、シャーリーはもっと好き。て言うか好きの意味がぜんぜん違うよ」
「そ、そうですか……」
「それに、ジュンジュンがシャーリー取ろうとしたら、あたしは全力で抵抗するもん。遠距離から狙い撃つ~」
「おいおいルッキーニ、穏やかでないなあ。これは仮定の話だって」
「だってぇ……」
指をくわえてじと目でシャーリーを見るルッキーニ。
「あらどうしたの、みんなで楽しそうね?」
そこにやって来たのはミーナ。執務途中の休憩か、マグカップにジュースを入れてリラックスしている。
「あ、ミーナ中佐」
ミーナはジュースを一口飲むと、皆の顔を見渡した。
「エイラさん、リーネさん。元気無いわね?」
「そ、そんな事ナイゾ? なあリーネ」
「え、ええ。ちょっと、相談と言うか、質問を……」
「何かしら。私も力になれるかしら?」
休憩ついでに、話の輪に加わるミーナ。
「じゃあ聞くけどサア、ミーナ中佐。ミーナ中佐は運命のひとって信じるカ?」
「はい?」
エイラから漠然とし過ぎた質問を受け、思わず聞き返すミーナ。
「この前、少佐が仰ってたんです。『誕生日が同じだと運命の二人』って……」
「あら、初耳よそれは」
答えながらジュースを飲み干すミーナ。
「だからサ、そうなるト、この前研修で来た竹井大尉とシャーリーが運命の二人って事ニ……なあリーネ」
「ええ。そして芳佳ちゃんとサーニャちゃんも……」
ミーナはふふっと笑うと、自分の唇に当てた人差し指をエイラとリーネの唇にそっと当てて、答えた。
「誕生日が一緒なだけで、運命とか言うのは有り得ないわね。気にしすぎよ、二人とも」
「うう……けどミーナ中佐、その根拠ハ?」
「なら逆に聞くけど、誕生日が一緒だと、必ず運命的な事に繋がるのかしら? たまたまじゃなくて?」
穏やかな口調で諭すミーナ。
「そ、それハ……」
「そう、ですよね」
「ほら、中佐もそう言ってるんだし、安心しなって。あたしと竹井さんは何も無いよ」
ジェスチャー混じりで安心させるシャーリー。ルッキーニはシャーリーの豊か過ぎる胸にもたれて遊んでいる。
「そうよね。竹井大尉とシャーリーさんは何もないわよね。問題はみ……少佐と彼女が何か有るかどうかで」
ごく一瞬ではあるが、触れたら肌が裂けそうな障気にも似たオーラを出すミーナ。
その場に居たミーナ以外の全員が、顔色を変える。
「……あらやだ。私ったら何言ってるのかしら。さ、仕事仕事♪」
ミーナはそそくさと席を立つと、笑顔で皆に手を振って、ミーティングルームから出て行った。
「あ、あの……」
「何だリーネ」
「何か、急に寒気が」
「奇遇ダナ。私もダ」
「あ、あたしも」
「あたしも……」
それから少しして、意を決したリーネとエイラは、ミーティングルームの端でお喋りに夢中な
芳佳とサーニャの元へ行った。
「芳佳ちゃん!」
「さ、さ、さサーニャ!」
背後から同時に声を掛けられ驚く芳佳とサーニャ。
「どうしたのリーネちゃん、それにエイラさん」
「単刀直入に聞くゾ。その、二人は……二人は……ええっト……」
「?」
「ああもうエイラさん! あのっ、二人は運命の人なの?」
リーネが大声を出した。
「え?」
「……どうしてそうなるの?」
意味が分からずきょとんとする芳佳とサーニャ。
「だって、少佐が……誕生日が一緒だと……って」
リーネの言葉を聞いて、顔を見合わせる芳佳とサーニャ。そして二人してくすっと笑った。
「そんな訳無いよ。ねえサーニャちゃん」
「うん。芳佳ちゃんは、ともだち。でも、運命的……」
サーニャの言葉が途切れる。思わず身を乗り出すリーネとエイラ。
「誕生日が一緒で、お祝いしてくれるのは嬉しい。それで、二人一緒に501に居る事は、運命的かも」
「うわーやっぱりダー!」
「そんなあ!」
嘆く二人。
「一体どうしたの二人とも?」
意味がいまいち分からずおろおろする芳佳。
「でもね、聞いて」
サーニャが言葉を続ける。
「『運命的』って、誕生日が一緒ってだけなら、そう言う使い方しないと思う。本当に運命的って言うのは……その……」
言いかけて顔を真っ赤にするサーニャ。
「芳佳ちゃん……続き、お願い」
サーニャはそう言うと芳佳の手を握った。
「さささサーニャ!?」
「待って下さいエイラさん、何か勘違いしてます」
芳佳はエイラを止めた。
「迷信です」
芳佳はきっぱりと言い切った。
「宮藤まで言い切ったゾ……」
「信じて良いの、芳佳ちゃん?」
リーネも身を乗り出す。
「だって。サーニャちゃんは大切な仲間で友達だよ」
「そ、ソレデ?」
「でも、エイラさんとサーニャちゃんは、私とサーニャちゃんとはまた違うでしょう?」
「そ、そうなのかサーニャ!? 本当カ?」
顔を赤くしてこくりと頷くサーニャ。
「じゃあ、芳佳ちゃん……」
「そう。その、リーネちゃんと私も、その……ね?」
芳佳も言いかけて顔が真っ赤になる。
「芳佳ちゃん!」
たまらずリーネは芳佳に抱きついた。
いつの間にかエイラもサーニャに抱きついていた。
「何やってんだかねーあの四人は」
「ニヒヒ 面白いねみんな」
遠目に見て苦笑するシャーリーとルッキーニ。
「ほほう……。衆目も気にせず抱擁と。随分と大胆、大らかだな」
いつ来たのか、シャーリー達の裏に美緒が立っていた。ぎくりとする二人。
そして向こうに居るだらけた四人を見つけると、つかつかと近寄って怒鳴った。
「こらお前達! 皆が居る所で何をやっとるか! たるんでるぞ!」
「あ、噂をすれば!」
「少佐!」
「坂本さん!」
「少佐!」
「な、なんだ?」
逆に、四人から口々に……しかもちょっと怒った感じで……名を呼ばれ、思わずたじろぐ美緒。
「少佐酷いです! 適当な事言わないで下さい!」
「そうだゾ少佐! 幾ら冗談でもシャレにならない事って有るんダゾ!?」
「な、何の事だ?」
突然なじられて軽く動揺する美緒。
「誕生日が一緒だと運命のひとって、少佐が……」
リーネが言った。
「……はて? そんな事言ったか?」
思わず首を傾げる美緒。十秒程首を傾げて沈思した後、記憶に無い、と言わんばかりに両手を挙げてみせる。
四人は、あぁ、と肩を落とした。いつもの事か、と。
その様子を見た美緒は少し慌てた。
「ま、まあ……良いじゃないか。扶桑の諺に『雨降って地固まる』と言うのが有ってだな」
「ナンダヨソレ」
「つまり、もめたりした後、前よりも状態が良くなるって事だ。今のお前達はそうじゃないのか?」
「えうっ……」
「そ、その……」
一同はそれぞれの姿を見る。確かにエイラとサーニャ、芳佳とリーネはそれぞれしっかり抱き合っていた。
「まあ、そう言う事だ。私が何を言ったか詳しくは良く覚えてないが、気にするな」
「えっ?」
「戦場は別として、日常生活に於いては、気にしすぎは良くない! 細かい事でクヨクヨするな!」
強引に笑いながら、美緒はそそくさとその場を後にした。
「何か、少佐に引っ張り回されたと言うか」
「……まあ良いんじゃないカ」
「疑惑も晴れたし」
「そうだよね。やっぱり私はリーネちゃんが良い」
「芳佳ちゃん……私も」
「エイラ。後で一緒にサウナ……」
「今すぐでもイイゾ!?」
「……くどいぞミーナ」
美緒は苦り切った顔をしていた。執務室で二人っきりになった途端、ミーナから繰り返し質問攻めに遭っていたのだ。
「本当ね? 本っ当に何も無いのね? 竹井大尉とは何も?」
「無い無い。何度も繰り返させるな。しかしミーナも一体全体どうしたって言うんだ。突然そんな事を問い詰めるなんて」
「貴方が根も葉もない事を言うからっ!」
「わ、私の……せいなのか?」
「こっ、これだから……ッ!」
「一体どうすればいいんだ……」
取り乱す寸前のミーナを前に幻滅気味の美緒。憂鬱な夜は更けてゆく。
end