please, my sister
のどかな春のある日、507JFWからウルスラがやって来た。目的は新兵器のテストだ。
「テスト」と言うだけあってやたらと多くの機材を持ち込み、自身もストライカーを履かず輸送機に便乗した。
近くの空港に着陸した輸送機は、トラックに多くの機材、そしてウルスラを乗せ替えて、ようやく基地に到着した。
案内され、執務室に通されるウルスラ。
「いらっしゃいウルスラさん。長旅お疲れ様。歓迎するわ」
ミーナが書類を受け取り微笑んだ。
「お気遣い有り難う御座います、ヴィルケ中佐」
エーリカと比較すると妙に穏やか、物静かな口調で、ウルスラが答える。研究者らしく、軍服の上に白衣を着ている。
「滞在中、何か問題が有れば遠慮なく言うと良い。お前の姉も居る事だし、施設を好きに使え。案内は姉にして貰え」
美緒も言った。そして改めて、横に居るエーリカとウルスラを見比べた。うーむと顎に手をやり呟く。
「しかし……双子とは言え、本当によく似ているな」
「はい。小さい頃はよく間違えられました」
「ま、黙って座ってたら、の話だけどねー」
双子はそれぞれの“昔話”をする。なるほど、と頷く美緒。
「そう言えば……改めて、おめでとうございます」
突然ウルスラに話を振られたトゥルーデはどぎまぎした。
「え? な、何の話だ?」
「姉との婚約です」
「あ、ああ。有り難う。あの時電報を貰ったから別に構わないぞ」
「連絡が突然で、スオムスの507から出られませんでした」
「良いって良いって」
エーリカがウルスラの肩を持って笑う。
「そうだ、話の途中悪いが、ウルスラは何処で寝泊まりするんだ?」
美緒の問いにエーリカが答える。
「私の部屋にする? ちょっと散らかってるけど」
「『ちょっと散らかってる』で済む話じゃないだろう……あそこは人が踏み込める場所じゃない」
「やっぱり」
「知っているのかウルスラ」
「なら、姉様のお部屋をお借りします。そのついでに少し……」
「ついでに掃除しといてよ」
「姉様も手伝って下さい」
「えー」
だらけたエーリカにトゥルーデが雷を落とす。
「えーじゃない! お前の部屋だろ」
「しょうがないなあ。行こう、ウーシュ」
「はい、姉様」
二人は執務室から出て行った。やれやれと言った感じで二人を眺めるトゥルーデ。
「おい、バルクホルン」
「少佐、何か?」
「二人を見ていなくていいのか?」
「いや……せっかくの姉妹水入らずも良いかと思って」
「トゥルーデったら」
ミーナがくすっと笑う。
「しかし、あの二人だからな。何か有ったら困るんじゃないか?」
美緒が呟いた何気ない一言。琴線に触れたのか、トゥルーデは踵を返すと執務室から早足で出て行った。
「やっぱり気になるか」
トゥルーデの後ろ姿を見て呟く美緒、呆れるミーナ。
「美緒、貴方ねえ……」
「ん? 何かヘンな事でも言ったか?」
「入るぞ」
ノックと同時にエーリカの部屋の扉を開け、中に踏み込む。
「うっぷ……凄い埃だな」
口元を押さえるトゥルーデ。部屋の真ん中には、埃だらけになった双子が居た。
「あ、トゥルーデ。トゥルーデも手伝ってよ」
「その為に来たんじゃない」
「えー」
「姉様、そっちを持って」
「あれ? これは必要なんじゃないの?」
「これは要りません」
「そう……。じゃ、これは?」
「これも要りません」
ウルスラがエーリカの“私物”を「仕分け」している様だ。
作業も大分進んでいると見え、何とベッドが本来の姿を見せている。普段は常に何かに埋もれている筈なのに。
「凄いな、ウルスラは。ゴミの分別が巧い」
「ゴミって言うなー」
「これは……もう効果が期待出来ませんね。要りません」
「それも捨てちゃうの?」
「もう少し片付けようと言う気持ちはないのか、エーリカ」
「だってー」
「あのなあ。お前の代わりにいつも私が片付けてやっていたんだぞ? 少しは……」
「ちょっと待って下さい」
トゥルーデのセリフを遮るウルスラ。
「どうかしたか?」
「『やっていた』とは、過去形ですよね? しかもこの部屋、最近使われた形跡がまるで無い……」
「ま、まあ、その通りだが」
頷くトゥルーデ。
「最近は物置みたいにしか使ってなかったからねー」
あっけらかんと答えるエーリカ。
「では、姉様は何処で寝起きを?」
エーリカは答える代わりに、トゥルーデの袖を引っ張ってニヤニヤした。顔を赤くするトゥルーデ。
「そうですか。お二人共幸せそうで何よりです」
「ウーシュも今晩一緒に寝る? トゥルーデも良いよね? 三人で楽しく」
「待て」
「何か問題でも?」
「大アリだ。エーリカとはともかく、ウルスラは関係無いだろ」
「義理の妹だよ?」
「続柄的にはそうだが、それとこれとは話が別だ」
「そう言えば、改めて貴方を何と呼べば良いか、まだ聞いていませんでした」
ウルスラがトゥルーデを向いて聞いた。
「私を、か? 確かに『バルクホルン』とかだと、何かかしこまり過ぎだからな……」
「トゥルーデで良いじゃん」
「それだと区別が」
「では、続柄的に、姉様」
「ね、ねえさま?」
トゥルーデは目をぱちくりさせた。
「ねえさま、か……うーん」
悩むトゥルーデ。
「ウーシュ、トゥルーデは『お姉ちゃん』って言って欲しいんだよきっと」
「なるほど」
「こらエーリカ! 勝手に決めつけるな」
「トゥルーデお姉ちゃん?」
「うっ……まあ、何でも良い」
ウルスラに呼ばれ、まんざらでもなさそうなトゥルーデ。
片付けを終えてすっかり綺麗になったエーリカの部屋。
トゥルーデは怪力持ちなのを良い事にゴミの運び役となり、部屋とゴミ捨て場を何度も往復した。
「まったく、魔法の無駄遣いとはまさにこの事だ……あれ?」
部屋に戻ると、双子の姿が無い。
とりあえずエーリカのベッドに腰掛けてみる。
普段は閉め切られて暗い部屋だが、今は窓が開け放たれ、外の新鮮な空気が部屋をぐるりと回り、廊下へ、また窓へと抜けて行く。
「まるで別人の部屋だな」
トゥルーデは呟いた。
「ああ、そうか。ウルスラが居るから、か」
視線を落とす。いつ掃除したのか、床も綺麗になっている。
「姉と妹、か」
思いを巡らせるトゥルーデ。しかし時間が過ぎても双子は一向に戻る気配が無い。
トゥルーデは二人を捜しに部屋を出たが、途端に、廊下を歩いてきた芳佳とぶつかった。
「おお、すまん宮藤」
尻餅をついた芳佳に手を貸すトゥルーデ。
「いえ、私は大丈夫ですけど……、バルクホルンさん、どうかしました?」
「何か急ぎの用事でも?」
芳佳と一緒に居たリーネもトゥルーデに声を掛ける。
「いや。エーリ……、ハルトマン達を見なかったか? 彼女の妹が来ていて二人一緒なんだが」
「さっきまで私達と一緒にお風呂に入ってましたよ。私達は先に出てきましたけど」
「お二人とも何だかとっても汚れてたみたいで」
「そうか。風呂か……」
トゥルーデもゴミ処理をしたので割と埃っぽくなっている。風呂にはちょうど良い。
「分かった。宮藤、リーネ、有り難う」
トゥルーデは風呂場へと向かった。
途中、慌てて着替えを準備して、改めて風呂場へと向かう。
脱衣所に着くと、既に双子は風呂から上がり着替えを済ませていた。
「エーリカ、ウルスラ。何も言わずに風呂に行くとは酷いじゃないか。一言声くらい掛けて……ん?」
双子の様子が何かおかしい事に気付く。
「さーて、どっちがどっちだ?」
トゥルーデの前で揃って指をわきわきさせる双子。
「あえて服装を変えてきたな」
眼鏡をしている筈のウルスラがエーリカの服を着ていたり、服や装身具がごちゃ混ぜになっている。
「当てたらご褒美」「間違えたらお仕置き」
口々に問い掛ける双子。
「なんだそれは」
「「さあ、どうぞ」」
双子からの挑戦。
「そう言われても、見分けがな……うーむ」
トゥルーデはしばし考え込んだ末、ぽんと手を叩いた。
おもむろに白衣を着た方に迫ると、唐突に服のボタンを外し脱がしにかかった。
数秒後、二人から同時にビンタを受け、たじろぐトゥルーデ。
「な、何するんだ……」
「それはこっちのセリフだよトゥルーデ。いきなりウーシュ襲うなんて何考えてるの?」
「違う! 話を聞けエーリカ……って、エーリカはお前だな」
両方の頬を代わる代わるさすりながら指差すトゥルーデ。
「それは当てたとは言わないのでは」
「で、話って? 言い訳聞こうか」
双子の姉妹から迫られ、壁際に追い詰められるトゥルーデ。
「うう……その、エーリカとは昨日一緒に寝たから……だから、その、私が付けたキスの痕とか付いてると思ってだな」
「ヘンタイ」
「ち、違うんだ」
「じゃあ、同じ様な痕ついてたらどうするつもりだったの?」
「ウルスラに付いてる訳無いだろう」
「有りますよ」
「えっ?」
「ウーシュ、誰と?」
「507で実験中に」
「実験……」
「何の実験をしてたんだ」
「そう言えば姉様。姉様の部屋からトゥルーデ姉様までの部屋の距離はどれ位有りますか」
「距離ねえ。私の部屋の隣だから」
「なるほど。大まかに見当が付きました」
「? 何の話だ」
「お気になさらず」
「じゃあ、私達は先に出るよ~」
エーリカとウルスラは服を本来のものに着替えると、仲良く脱衣所から出て行った。
「まったく……何なんだ一体」
トゥルーデはぶつぶつ言いながら、一人入浴した。
その日の夜。
エーリカとウルスラはエーリカの部屋で一緒に寝る事となり、トゥルーデは一人自室のベッドに居た。
いつもはエーリカが横に居るのだが、今夜は居ない。ウルスラが帰るまで、暫くはこの状態だろう。
同じ部隊だし部屋も近いし寂しくはない……筈。言い聞かせる様に呟くトゥルーデ。
「まあ、たまの再会だし、実の姉妹で積もる話も有るだろうな」
トゥルーデは誰に聞こえる訳でも無く独り言を言うと、毛布を掛け、久々の「ひとり」の睡眠を開始した。
ところがものの十分しないうちに、奇妙な感覚に襲われた。
全身が熱くなる。ランニング直後みたいに、全身が、中から熱せられる感じだ。身体が火照る。
しかも何故だか……身体ががくがくと震え出す。そして、思わず声を上げた。
「う……ううっ……あっ……んんんっ……あああっ!」
トゥルーデは痙攣しつつ、身をよじらせた。だらりと汗が垂れ、荒く息をついた。快楽にも似た、いや快感そのものが全身を巡る。
そして不意に快感が消え、はっと我に返り、起き上がる。
「……あれ?」
確か、一人で寝ていた筈。エーリカもウルスラも彼女達の部屋で寝ているから何も無い筈なのに、今の感覚は一体何なのか。
まさかな、と自嘲気味に笑うトゥルーデ。
エーリカは同じ基地に居るのに、同じベッドに居ない。
ウルスラが来ているから仕方ないと理性が冷静に分析するも、疼く感情が訴える事はただひとつ。
エーリカと一緒に居たい。一緒に寝たい。キスしたい。いちゃいちゃしたい。
……これじゃ四つか。
トゥルーデはぼんやりと考え、再び毛布を被った。しかし数分と経たずに、またさっきの謎の“感覚”に襲われ、がばと身を起こした。
「私は……そんなに欲情に飢えているとでも言うのか? まさにヘンタイだな」
苦笑いし、毛布を頭からかぶり、何とか寝ようと試み……また暫く経って、喘いで起きた。
翌朝。朝食の席に現れたトゥルーデを見て、美緒は驚きの声を上げた。
「どうしたバルクホルン、何があった? 随分とやつれたな」
「……そう見えるか、少佐?」
げっそりとしたトゥルーデを、心配そうに見る美緒。
「何か悪いモノでも食べたの?」
ミーナも気になったのか、トゥルーデの顔を覗き込む。
「そんな筈は無い。皆と同じモノを食べている」
余りの変貌ぶりに、ペリーヌまでもがトゥルーデに声を掛ける。
「大尉、どうされたのですか? お身体が悪いとか。医務室に行かれては如何ですか?」
「問題無い。……ただ、自分でもどうしてこうなったのか、訳が分からないんだ」
トゥルーデの曖昧な答えに、首を傾げる美緒とミーナ、ペリーヌの三人。
「またまた堅物は~。ハルトマンが恋しいって素直に言いなよ」
横から軽口を叩くシャーリー。
「なっ? そんな事は無い。恋しいも何も無い。それにたった一晩位で……」
「強がるところもまた堅物だね~。あたしは違うぞ? なあルッキーニ」
「ウニュニュ シャーリーだいすき!」
「お前達は自由過ぎるんだ、リベリアンにルッキーニ!」
腐ってもそこはトゥルーデ、怒る所は変わらない。
「姉様、501は面白い所ですね」
「でしょ?」
そんな一同を後目に、ハルトマン姉妹はゆっくりと朝食を取った。
その後、昼間は新兵器の試験とやらで各ウィッチ……夜間哨戒明けで寝ていたサーニャまでも……を連れ出し、
見た事もない武器をずらりと並べ、射撃テストを行った。
機関銃各種、ロケット弾の改良型、対戦車ライフルの強化版など、種類は多岐にわたった。
滑走路端から海上の模擬標的への試射、ストライカー装着状態での試験など、普段の訓練とはまた違う体験の数々に
隊員達は興味津々と言った様子だ。
日も暮れかかった頃、ようやくテストは終了した。武器を片付けた後、ウルスラは隊員達に礼を言った。
「皆さんの協力のお陰で、貴重なデータが収集出来ました。感謝します」
そしてウルスラは実験データをびっしり書き込んだ書類に目を通し、満足そうに頷いた。
「あとは……」
「? まだ何か有るんですか?」
「いえ。大丈夫です」
ウルスラの視線の先には、げっそりしたままのトゥルーデが居た。
ふらつくまま、食事もろくに取らずに自室へと戻り、ベッドに突っ伏すトゥルーデ。
殆どと言って良い程、疲れる事はしていないのに、何故か疲労困憊の有様だ。
もうダメだ。
今日は寝よう。
そう思い、毛布を掛けて目を閉じる。
が、またあの感覚に襲われ身体が身悶え、髪の毛まで逆立ち、悲鳴に近い喘ぎ声を上げ、がばっと起き上がった。
「また、か。何なんだ一体」
トゥルーデは荒く息をつき、ベッドから這いずり出ると、そのまま立ち上がる事無く身体を這わせたまま廊下に出た。
「アレ? 大尉何ヤッテンダ? 新しい訓練カ?」
偶然にも、エイラとサーニャに出くわした。
「ああ。二人とも」
「大尉、顔色悪いゾ……ってか悪過ぎダゾ」
「バルクホルンさん、どうしましたか」
「いや、何でも無いんだ」
「何処がダヨ」
「本当に何でも無いんだ。まあ強いて言えば、悪霊に取り憑かれたみたいな……」
「そう言えバ、この基地は昔修道院として使われてて……」
「その話は前に聞いた」
「そう言えばそうだっタ。まア、大尉に限ってそんなのはネーヨ」
笑いかけたエイラを、サーニャがたしなめる。
「エイラ」
「ああっゴメンな大尉。ほんの冗談ダヨ、冗談」
「……あれ」
「? どうかしたか大尉?」
トゥルーデは不思議と身体が軽くなるのを感じていた。部屋に居ると謎の感覚に襲われるが、廊下では何も無く、
普段、本来のコンディションに戻る。
「何故だ?」
トゥルーデが疑問を口にする。
不意に、サーニャの魔導レーダーが、ばっと光った。
「サーニャ、どうしタ? ネウロイなのカ?」
サーニャは魔導レーダーを出したまま途端に顔を真っ赤にして、エイラの服の袖をぐい、と思い切り強く引っ張った。
「な、何ダヨどうしたんだサーニャ、様子ヘンダゾ?」
サーニャの異変に驚くエイラ。
「エイラ、しよ? 今すぐ」
「え? エ? ……エエエ!?」
意味が分からないまま、エイラはやる気満々のサーニャに引きずられ、そのままエイラの部屋に籠もってしまった。
丁寧にがちゃりと鍵まで掛ける辺り、サーニャの入念さと本気が窺える。
「サーニャにまで異変が……確か、何かに反応していた様な……」
トゥルーデは辺りを見回した。何も無い。ごく普通の廊下、ごく普通の基地……
普通でないのは……そう言えば……。
おもむろにエーリカの部屋に踏み込むトゥルーデ。
いつ持ち込んだのか、エーリカの部屋は多くの機材が建ち並び、さながら実験室の様相を呈していた。
そしてトゥルーデの部屋に向かって、直径六十センチ程の小型アンテナが何本も立てられている。
「こ、これは……私の部屋に向けられているじゃないか」
「流石はカールスラント空軍が誇るエース。勘付くのも早いですね」
「お……お前らか! お前らの仕業か! 夜な夜な私にヘンな事をしていたのは!」
「これも全部ウルスラ・ハルトマンって奴の仕業なんだ」
「お前もだエーリカ!」
耳元で囁いたエーリカの首根っこを掴むと、双子を揃ってベッドに座らせた。
「さて、じっくり話を聞こうじゃないか」
「大した事有りません」
「大アリだ! この二晩の私の苦しみと言ったら……」
「本当に苦痛でしたか?」
「……っ!?」
思わず身体を隠す様に腕を交差させるトゥルーデ。そして改めて言葉を続ける。
「ともかく、何でこんな事を」
「姉様の旦那様……いえ、お嫁様かは分かりませんが」
「そう言う言い方はエーリカと同じなんだな」
「トゥルーデ姉様がどんな方なのか、知りたいと思いました」
「だからって、何を知ろうとしてたんだ。根本的におかしいぞ。まるで人体実験じゃないか。
私の部屋の前を通り掛かったサーニャも様子がおかしくなっていたぞ」
「ああ……多分ここからの電波を拾ったんだと思います。大丈夫、数時間で元に……」
「で、電波? ウルスラ、電波ってどう言う事だ!? 何の電波だ?」
「分かったトゥルーデ。」
エーリカが言葉を遮る。
「ウーシュ、この装置付けっぱなしにしてさ、私達三人で向こうに行ってみようよ」
「それは……」
「トゥルーデが楽しんだみたいに、きっと楽しめると思うよ」
「エーリカ、お前って奴は……」
「トゥルーデ、そんなに良かったの?」
「よ、良くない!」
「それはおかしいですね。肉体的な快感を与える様にセッティングした筈……」
ウルスラの前にトゥルーデが立ちはだかる。
「やはりそう言う事か」
「はい」
「よくも私をオモチャにしてくれたな!」
「だが私は謝らない」
「謝るとかそう言う問題じゃない! とっととこの物騒な装置を……」
「行こうトゥルーデ、ウーシュ。面白いよきっと」
「だからそう言う問題じゃないと……」
「じゃあ、この部屋に電波を集中させよう」
エーリカはそう言うと、アンテナの向きを変え、何かの装置のダイヤルを適当にぐるりと回した。
途端に三人の身体がびくりと痙攣し、がくがくと震え、数分しないうちに全員が絶頂を迎え、ベッドに仰向けになった。
「エーリカ……だから止めろと言ったんだ……よりによってこの三人で……」
「いいじゃん。これ、面白いかも。せっかくだから三人で楽しもうよ」
「そもそもこれは何の装置なんだウルスラ……うひゃっ!?」
「うう……我慢出来ない……んあっ」
「ウーシュも可愛いよ」
「こら、姉妹で何をやっ……ん、あああっ……」
「トゥルーデも一緒に、ね……」
エーリカは快楽に身を任せ、ウルスラを抱き、トゥルーデに濃厚なキスをして、そのまま身体をびくつかせた。
やがて日が昇る頃、服も髪もぐしゃぐしゃに乱れきった三人は、ようやく止まった装置を後目に、
ぐったりと疲労しながら、緩く抱き合っていた。
「ウーシュってあんな声出すんだ。可愛いよ」
「姉様だって……それに、トゥルーデ姉様も随分と」
「うっうるさい! こんな装置で身体を玩ばれるなんて……」
「でも、気持ち良かった筈ですよね?」
「……」
「否定しないんだ。私は面白かったからいいかな」
「何処まで楽天的なんだ、エーリカは」
「ウーシュも自ら実験に加われて良かったんじゃないの?」
「……ええ、まあ」
顔を赤らめて恥じらいの表情を見せるウルスラ。トゥルーデは彼女を見て、溜め息を付いた。
本当に同じ、双子の姉妹なのか? と。いやむしろ双子だからこそ、この様な悪魔的天才による悪魔的実験を
行うのだろうと思いを巡らす。
「とりあえず、この装置を片付けたら……」
トゥルーデはゆっくりと身体を起こし、エーリカとウルスラの身体も起こした。
「身だしなみついでに、朝風呂に行こう。こんなみっともない格好じゃ、皆に何て言われるか分からない」
帰りの日。
501近くの空港でスオムス行きの飛行機に乗り込むウルスラ。見送りに、基地からトゥルーデとエーリカも来た。
「では、お元気で、姉様、トゥルーデ姉様」
「ウーシュも元気でね」
「身体に気を付けろよ」
「大丈夫。私にも、頼もしくて楽しい仲間が居ます」
「それは良かった」
「今度紹介してよね」
「勿論です。それに、確かめたい事がはっきりして、良かったです」
「確かめる? 何を?」
「お気になさらず」
「そう言われると気になる……まさか」
「まあまあトゥルーデ。ウーシュの考える事は大体分かるよ」
「姉様……」
「ま、分かってくれただけでも、ウーシュの姉として、トゥルーデの……旦那かヨメかは分からないけど
ちょっと嬉しいかな」
「あのなあ」
呆れるトゥルーデに、ウルスラが声を掛けた。
「あの」
「? どうしたウルスラ」
「例の装置の事は、どうかご内密に。まだ試作段階ですので」
「あれで試作なのか? 一体何を作ろうとしているんだ」
「秘密です」
「ウーシュずるーい。教えてよ」
「姉様にも内緒です」
そろそろ出発の時間となった。
ウルスラは最後の荷物を積み込むと、鞄を肩に掛け、飛行機に向かった。
「ではまた」
「また近いうちに会おう」
「楽しみにしています」
「元気でね」
「ご武運を……あ、そうだ」
トゥルーデに近付くと、耳を貸せ、とジェスチャーするウルスラ。
「? どうした? 飛行機のエンジン音で聞こえないのか?」
トゥルーデが耳を貸すと……ウルスラは耳元で囁くと見せかけ、トゥルーデのほっぺにそっとキスをした。
「……ッ!」
「妹からの、愛情の証です。では」
「ウーシュいつの間にそんな事覚えたのよ」
「今度お話しします」
それだけ言うと、はにかみながら笑顔を見せ、タラップを昇っていった。
ウルスラと機材を乗せたJu52/3mは、カールスラント空軍から送られてきた護衛のウィッチに守られて、507JFWに帰って行った。
飛行機の姿が見えなくなるまで、ぼおっと機影を見つめるトゥルーデ。
「ちょっと、トゥルーデ」
「何だエーリカ」
「ウーシュに何したのよ?」
「したんじゃない。されたんだ」
「まあ、そっか」
「あのなあ……ウルスラが来てから、私がどれだけ苦しめられたか」
「でもウーシュ、楽しそうだった。そこはちょっと、ほっとしたかな」
「そうか。まあ、その事に関しては良かった」
「でも」
エーリカはトゥルーデの腕をぐいと引っ張ると、強引にキスをした。
「幾ら実の妹でも、トゥルーデは渡さないよ」
「大丈夫だ、心配するなエーリカ。幾ら姿がそっくりだからとは言え、二人は……」
「本当かな~?」
にやけるエーリカ。そして空をもう一度ちらりと眺め、不敵な笑みを見せた。
機上の人となったウルスラは、トゥルーデの事、エーリカの事を考えていた。
「お幸せに」
そう呟くウルスラ。そして、トゥルーデをもう一度思い返した。
「姉様が夢中になるのも、無理ないか……」
エーリカの弾ける笑顔を思い返し、
「ずるい」
自然と呟いてしまう。
そして、はっと気付く。
嫉妬の言葉が誰の何に向けられたか、ウルスラはあえて考えない事にした。
鞄から本を取り出し目を通しているうちに、軽い眠気に襲われ、程なくして身を任せた。
end