i have control


 小雨が降る、とある日のミーティングルーム。
 サーニャと仲良くクッキーを食べるエイラのところに、芳佳とリーネがやって来た。
「おお宮藤にリーネか。どうかしたカ?」
「これ、扶桑のおまじないなんですよ。こうして、穴の空いた硬貨に糸を通して吊して……」
「何だソレ?」
「さ、催眠術なんですよ」
 いきなりここでネタばらしに走るリーネ。
「アノナア。そんなんで催眠術なんて出来るのカヨ」
「なら、試しにやってみます?」
「ウニャ? なんであたしが?」
 突然“実験台”として引っ張り出されるルッキーニ。
「リーネちゃん、この硬貨吊した糸持って、ゆっくり硬貨振ってね。一定のリズムで。
あ、リーネちゃんは硬貨見なくて良いからね」
 芳佳はルッキーニをぶら下がった硬貨の前に座らせると、額に手を当て、ゆっくり揺り、回した。
「じゃあルッキーニちゃんいくよ~ この硬貨を目で追ってね。いい~? ずーっと見ててね……」
「ちょっと芳佳ぁ。なんであたしなのー」
「ま、良いじゃないかルッキーニ、試しにやってもらいなよ」
 一緒に居たシャーリーも笑いながら様子を見ている。
 芳佳はルッキーニの頭をゆっくりと揺りながら、耳元で囁いた。
「肝油がとっても美味しく感じます……肝油がとっても美味しく感じます……まるでオレンジジュースみたいに」
「ウジュワ……」
「随分とかけ離れた味にするんだナー」
 呆れ半分のエイラ。
「はい、どうぞ」
 目を回しかけたルッキーニの前に、ぽんと肝油の入ったコップが置かれた。
「ヴェ…」
 以前体感した“あの味”を思い出して後ずさりするルッキーニ。
「大丈夫だって。ほら、美味しいから」
 芳佳は嫌がるルッキーニに無理矢理肝油を飲ませた。一口含んだ途端びっくりするルッキーニ。
「あ、あれ? あれれー? これオレンジジュースだ! あっま~い!」
 芳佳の手から肝油の入ったコップを奪い、ごくごくと一気飲みする。
「おいしい! おかわり!」
「おいおい……ホントに催眠術に掛かったのか?」
 少し焦るシャーリー。
「シャーリー、これ美味しいよ? 甘いよ? シャーリーも飲む?」
「いやいやいやいや、どうやってもエンジンオイル味だろ、それは。あたしは無理。絶対無理」
 全身で拒絶するシャーリー。その様子を傍目で見ていた美緒がやって来た。
「はっはっは! ルッキーニがやっと肝油を気に入ったか! 身体に良いからどんどん飲め!」
「あ、坂本さん」
「宮藤、これは使えるな。全員を暗示に掛けて肝油を飲ませるのにもってこいだ」
「そう言う使い方はいけないと思います」
「そうか?」
「芳佳ぁ! もっと肝油ちょーだい!」
「芳佳ちゃん……そろそろ催眠術を解かないと」
 リーネが少し心配そうに言う。
「あ、そうだね。じゃあルッキーニちゃん、座って」
「ほえ?」
 ルッキーニを座らせると、ぶら下げた硬貨を見せながら、ぽん、と手を叩いた。
「はい、元通り」
「ヴェ~口の中に肝油の味がぁ~ダディゴデ~」
 突然悶え苦しむルッキーニ。
「なんだ、だらしないなルッキーニ。よし宮藤、もう一度ルッキーニを……」
「少佐、勘弁してやって下さい! てかホントに、そう言う使い方はどうかと思いますよ」
 慌ててフォローに入るシャーリー。
「う゛~気持ち悪い……シャーリー助けて……」
「分かった、じゃ本物のオレンジジュース飲みに行こう、な?」
 げっそりしたルッキーニはシャーリーに抱きかかえられてミーティングルームから出て行った。

「と、言う訳で」
 芳佳とリーネはエイラに向き直った。
「と言う訳でじゃないダロ! 私に何させようってンダ?」
「エイラ。試しに、されてみて?」
 興味津々なサーニャ。
「エ? サーニャまで乗り気? てかなんで私ガ!?」
「お願い、エイラ」
「うー、何で私がこんな訳の分からない事に……」
「ではいきますよ~ この硬貨を目で追って下さいね。いいですか~? ずーっと見てて下さいね……」
 頭をゆっくり振られていくエイラ。芳佳が何を言ったかは、記憶に残らなかった。

 ふと正気に返る。芳佳とリーネ、そしてサーニャが興味津々と言った感じでエイラを見ている。
「な、ナンダヨ。何ともナイゾ。扶桑の呪術なんてたかが知れてるナ」
「そんな事有りませんよ! エイラさんは絶対に……」
「……絶対に? ナンダヨ?」
「いえ、その……大丈夫です」
「ナンダヨソレー!」

 その日の夜。
 サーニャがエイラのベッドに横になった。いつもと違って、何か恐る恐ると言った感じだ。
「どうしたんだサーニャ。何か有ったノカ?」
「な、何も。……エイラは?」
「私は何ともぉ……? うッ!!!」
 サーニャの下着姿を見て、エイラは全身に火が点いた様な……とてつもない興奮を覚えた。
 サワリタイ。
 そう思った時には、サーニャを押し倒し、ブラを外し、露わになった胸を掌全てで感じていた。
「ち、違うんだサーニャ、こ、これハ……」
「エイラ」
 サーニャが名を呼んだ。
 キスシタイ。
 片腕をベッドにぐいと押さえつけたまま、エイラは力任せにサーニャの唇を奪った。長く、荒々しいキス。
 浅く早い息。鼓動の高まりと共に、エイラの心にはひとつの情欲が火山の如く突き立った。
 サーニャを……
「ねえ、エイラ」
 エイラは、頭の片隅に僅かに残った“理性”の欠片で、どうしてこうなったのか、考えた。
 私は何てコトをしているんだと。まさか……
 しかし、拒むどころか両腕でエイラを抱きしめ、控えめに耳たぶにキスをしてくるサーニャを前に、理性は完全に消え、
エイラは欲望のまま、サーニャの唇を奪い、身体を奪い、味わう行為にただただ耽った。

「ねえ、芳佳ちゃん」
「どうしたの、リーネちゃん」
「エイラさんとサーニャちゃん、大丈夫かな?」
「大丈夫。カタヤイネンさんの言った通りに、しておいたから」
「どう言う事?」

 エイラの“猛攻”に遭ってなお、サーニャは喜びに満ち、エイラを全身で包み込み、受けとめた。
 そして自らもエイラの乳房を舐り、吸い口を付ける。
 熱い吐息を互いの頬に当て、二人は尚も絡み合う。それはとても淫靡で、魅惑的。
「エイラ、エイラ……私のエイラ」
「サーニャ、大好きダ、だからモット、もっとシタイ」
「うん、もっとして。私を、あげる」
「嬉しい、サーニャ」
 火照った身体を合わせ、何度も絶頂を迎え、痙攣し、また行為に耽る二人。
 いつになく積極的な……積極的過ぎるエイラを、サーニャはひたすらに受け入れた。
 嬉しい。
 でも、どうしてだろう。
 エイラ、どうして?
 いつものエイラじゃない。
 それは、少し悲しい。だって……

「えっとね……催眠術が解ける、暗示をひとつ入れておけって言われて」
「それは?」

 サーニャは自然と、一筋の涙を流していた。ぺろっと舐めたエイラは、唐突に我に返った。
「さ……サーニャ? 一体誰がこんな事……って私カ」
「エイラ、一人ツッコミ?」
 サーニャは涙目ながら、笑った。
「サーニャ、ゴメン。私、こんなつもりじゃなかったンダ。身体が、頭が勝手に……サーニャの事がどうしても……」
「良いの、エイラ」
 サーニャはエイラの頭を、ぎゅっと胸に抱いた。控えめな乳房が、エイラの顔に当たる。
「だって、これは私が望んで、芳佳ちゃんとリーネさんに頼んだ事だから」
「エッ!?」
「エイラは、ただ暗示に掛かってただけ。積極的なエイラ、少し見たかったの」
「イヤ、積極的過ぎダロ私……サーニャに酷い事ヲ……」
「嬉しかったよ。でも、それは本当のエイラじゃないって思ったら、どうしてかな……」
 サーニャは上を向いた。涙が零れるのを防ぐ為。
「やっぱり、エイラ……」
「ご、ゴメン、サーニャ」
 エイラは腕を回し、サーニャを抱きしめた。
「私ガ……私がいつもだらしないからサーニャに悲しい思いさせて……」
「エイラ、でも」
「サーニャ、こんな私でも、まだ好きでいてくれるノカ?」
「当たり前でしょ? エイラはエイラだもの。いつも、ずっと大好きよ、エイラ」
 エイラは、大声でサーニャの名を呼んだ。そしてぎゅっと強く抱きしめ、口吻をした。
「サーニャ、大好きだ、サーニャ」
 今度のエイラは、催眠術でも暗示でも何でもない、勇気を出した“ほんもの”のエイラ。
「サーニャ、シヨウ? もっと、もっとシヨウ?」
「良いの? だって……」
「サーニャが良いなら、私は……」
「来て、エイラ」
 二人はそのまま腕、脚を絡ませ、汗と雫をまぜこぜに、そのままひとつになった。

「ね、リーネちゃん。エイラさん、サーニャちゃんの涙が、暗示を解くスイッチになってたって訳」
「凄いね、芳佳ちゃん」
「催眠術自体は、カタヤイネンさんの受け売りなんだけどね……って言うか、カタヤイネンさんは
エイラさんにやられたって言ってたから、元を辿ればこれってエイラさんの催眠術?」
 頭を掻いて苦笑いする芳佳。
「私が知ってた方法は、ただ、こうやって硬貨を使う事だけ。詳しい事は殆ど……。
でもカタヤイネンさん、エイラさんに仕返しとか言って、全然そんな事なってないよね?」
 くすっと笑う芳佳。もじもじそわそわしているリーネ。
「リーネちゃん?」
「芳佳ちゃん……私」
 突然リーネに飛びつかれ、そのまま床に転がる芳佳。
「リ、リーネちゃん?」
「エイラさん達見てたら、その、私……我慢出来なくて……芳佳ちゃん」
「ちょ、ちょっとリーネちゃん、せめてベッド……っんんっ」
「芳佳ちゃん……私だけの芳佳ちゃん……食べたい」
「リーネ、ちゃん……」
 リーネは返事を聞く間も与えず、そのまま芳佳に襲い掛かった。

end


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