choker


「と、言う訳で」
 ウルスラは昼食の真っ最中だったエーリカとトゥルーデを前に言った。
「何か下さい」
 両手をトゥルーデの目の前に出すウルスラ。
 その言葉を受けて、エーリカとトゥルーデは顔を見合わせ、残りのパスタを食べきった。そして再度ウルスラを見る。
「と言う訳で、って言われても」
「姉様忘れたのですか? 今日は私達の誕生日ですよ」
「あ、そう言えばそうだった。トゥルーデ何か頂戴」
「とぼけるなエーリカ。お前なあ、昨日の夜から散々……」
 にやけるエーリカ、そして顔を真っ赤にするトゥルーデ。
「姉様はもう誕生日祝い貰ったんですか?」
「うん。貰ってる最中」
「?」
 首を傾げるウルスラ。満足そうに頷くエーリカは、ウルスラを見て言った。
「そうだねー。ウーシュも何かプレゼント無いと。トゥルーデ、何か有る?」
「いきなり言われても、流石に二人分は用意してない。と言うかウルスラは何で501に?」
「用事が有ったので。他に何か」
「いや、いい」
 言葉に詰まるトゥルーデ。
「ウーシュは何か欲しいモノある?」
「物、ですか。物は、今は特に何も……ただ」
「ただ、何?」
「この前の実験で判明したことが一つ有ります。それはトゥルーデ姉様の……」
「この前の実験って、あの妙な電波か!」
 火が吹き出そうな程の表情を作るトゥルーデ。
「じゃあ、トゥルーデを一時間レンタルするよ」
「トゥルーデ姉様を、ですか?」
「今回はそれでいいでしょ? ウーシュ」
「はい」
「じゃあトゥルーデ、そう言う事で」
「どう言う事なんだ」
「じゃあトゥルーデ姉様、行きましょう」
「え、何処へ?」
 手をひかれ、連れて行かれるトゥルーデ。エーリカは微笑みながら二人を見送った。
「おいハルトマン、良いのか? 堅物放りっぱなしで」
 横でやり取りを見ていたシャーリーがエーリカに声を掛ける。
「大丈夫だよ、あの二人なら」
「そうか? あの堅物だぞ? 普段は堅いけどいざとなったら……」
「いざとなったら~ウキャー」
 ニヤニヤ顔のシャーリーとルッキーニ。
 飲みかけのコーヒーをぐいと一気に飲み干すと、エーリカは席を立った。
「もう、そんな事言ったら少し心配になっちゃうじゃん」
「あはは、悪い悪い。でも見張っといた方が良いぞ?」
「まあね」
 エーリカは食器を片付けると、トゥルーデ達の後を追った。

「ここが基地のテラス……何度来ても、景色は素敵ですね」
「ああ。晴れた日はここでお茶会をする。なかなか良いぞ」
「恵まれてますね、501は」
「そうか?」
「トゥルーデ姉様はここにずっと居るから、分からないのでは」
「いや、各地の戦況や生活待遇の悲惨さについては、私もよく聞いている。それに、ここに来る前も相当なものだったからな。
だから501で自由にやらせて貰ってる事自体は感謝している……ってそんな目で見るなウルスラ」
「どんな目、してましたか?」
「何と言うか……エーリカと双子なのに、何か違うんだよなぁ」
「姉様と私は違って当たり前です」
 少し拗ねた表情のウルスラ。
「そ、そうだよな。かたやカールスラント空軍のエース、そしてウルスラ、お前は軍きっての技術者だ。
お前の様な優秀な技術者が居なければ戦況はもっと酷かったと思うぞ」
「慰めですか?」
「実際の評価だ。501でもサーニャがフリーガーハマーを使っているが、あれも元は……」
「言葉はもういいです」
 ウルスラは退屈そうにテラスに寄り掛かると、トゥルーデの服の袖をくいと引っ張った。
 少し頬を赤らめる。
「どうした、ウルスラ」
「ウーシュ、と呼んで下さい」
「良いのか?」
「だって、私達家族でしょう?」
「ま、まあ、エーリカと……だから、うん。まあそうだよな」
 何とか自分を納得させようとあれこれ考えるトゥルーデ。
「ウーシュ。これで良いか?」
「はい」
 はにかみながら、小さく笑うウルスラ。
「あの、トゥルーデ姉様。良ければ」
「?」
「もう少し、二人でこうしていませんか?」
「ああ、良いぞ」
 二人して、空を、海を眺める。海風が優しく二人の髪を撫でていく。
「そう言えばウーシュ」
「はい?」
「さっき、この前の実験がどうの、って言ってたよな」
「ええ」
「分かった事って、何だ?」
「それは……」
 答えかけ、口ごもり、頬を染めるウルスラ。
「な、何だ? 私に言えない様な事なのか? 私の身体が何処かおかしいとでも?」
 焦るトゥルーデ。
「違います。違うんです」
「なら、何だ」
「それは……トゥルーデ姉様」
 そっと、トゥルーデにもたれ掛かるウルスラ。思わずびくっとしてしまうトゥルーデ。
 幾らエーリカと同じ姿格好をしているとは言え、家族……義理の妹とは言え、それ以上の事はしないし出来ない。
 そんなトゥルーデをよそに、ウルスラはそっと腕を伸ばし、“義理の姉”の身体を包んだ。
「おい、ウーシュ」
「ねえ、トゥルーデ姉様?」
「な、何だウーシュ?」
「私……」
「はいストーップ! そこまで!」
 元気いっぱいのエーリカに割り込まれ、二人の距離が遠ざかる。
「姉様、まだ時間は……」
「残念、私の時計少し早いみたい」
 笑うエーリカ。少し残念そうなウルスラ。そしてどうして良いか分からないトゥルーデ。
「じゃ、三人でお風呂行こ。ね」

 扶桑の設営隊が腕によりをかけて完成させた豪華な風呂。
 そこにハルトマン姉妹とトゥルーデは到着し、ゆったりと湯に浸かった。
 ウルスラはトゥルーデの首に細い何かが付けられているのを見た。服を着ている時は目立たず分からなかったのだが。
「トゥルーデ姉様、それは? チョーカーですか?」
 聞かれたトゥルーデは何故か焦り慌てふためいた。
「あー、これね」
 エーリカがくすくす笑う。
「ウーシュの言う通りチョーカーだよ。でもただのチョーカーじゃないんだ、これが」
「見た目普通の装身具のチョーカーですよね?」
「うん。でも、チョーカーの持つ意味って知ってる?」
「意味ですか?」
「チョーカーってぎゅっと締めてるでしょ? つまり『首輪』って事」
「姉様……じゃあ」
「今日一日、トゥルーデは私のモノ。ご主人様の命令には絶対だよ、トゥルーデ」
「エーリカ、お前……っ」
「成る程。分かりました」
 そしてはあ、と溜め息をついて湯に浸かるウルスラ。
「どうしたのウーシュ」
「そう言う事をする、される。そしてそれを受け容れてる二人は、余程なんですね」
「ヘンな意味に取るなよウーシュ? 別に私達はアブノーマルな訳では」
「トゥルーデ落ち着きなよ。今更いいじゃん」
「あのなあ……」
「じゃあトゥルーデ、ウーシュをお姫様抱っこして」
「えっ?」
「エーリカ、何でまた」
「良いから」
 言われるがまま、渋々ウーシュを抱っこするトゥルーデ。顔が真っ赤になるウルスラ。
「ウーシュどう?」
「どうって言われても……」
「エーリカやめないか。困ってるじゃないか」
「喜んでるかなーとか思って」
「お前……妹に対して何て事を」
「いえ」
「?」
「どきどきしました……どうも」
「どうもって……意味が分からん」
「トゥルーデ、鈍いねえ」
 エーリカは苦笑いした。ウルスラもつられてくすくす笑った。トゥルーデはただ首を捻った。

 その日の夜。ウルスラが501を離れ、エーリカとトゥルーデは同じベッドに横になった。
「まったく、妹を玩ぶとは、エーリカも何を考えてるんだ」
 ぼやくトゥルーデ。
「だって今日は私達の誕生日だよ?」
「そうだが、それと何の関係が」
「私だけってのも、何かアレかなーって思って、ウーシュにもね」
「はあ?」
「でも、やっぱり二人見てたら、許せなくなったよ」
 そう言うと、エーリカはトゥルーデのしている細いチョーカーを触り、そのまま唇を奪った。
「まだ日付変わってないよね?」
「ああ」
「じゃあ、誕生日の夜最後のお願い、しちゃおうかな」
「お願いと言うより命令だろう……」
「いいじゃんトゥルーデ。日々の生活にも変化を持たせないとね」
「変化し過ぎだエーリカ」
「とにかく、最後のお願い聞いてよね」
 にやけるエーリカを前に、トゥルーデは小さく溜め息を付いて、頷いた。
「ああ」
 エーリカは、何かを耳元で囁き、そのままキスをした。トゥルーデもエーリカを抱きしめる。
 誕生日の夜、最後の楽しみが始まった。

end



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