Ein Dachs


「エーリカ、まだ起きてるのか?」
私が深夜、不意に目を覚ますといつもは隣で寝ているエーリカが机で編み物を編んでいた。
「あっ、ごめん。もしかして起こしちゃった?」
エーリカは編み物を編む手を止め、私のほうに向きなおりそう言った。
「いや、気にするな。それにしてもお前が編み物とは珍しいな」
「うん、もうすぐ私とウルスラの誕生日だからあの娘にプレゼントを贈ろうと思って」
エーリカは再び机のほうに向きなおり編み物を再開しながら言った。
「そうだったのか……」
「それで、宮藤とリーネに編み方を教わって……ふわぁ……」
話の途中でエーリカが可愛らしい欠伸を洩らす。
時計を見ると時刻はすでに深夜の1時を回っていた。
「もう夜の1時だ。今は寝て続きは起きてからにしたほうがいいんじゃないか?」
「うん、そうだね……そうする……ふぁ」
エーリカは机から離れ、再び欠伸を掻くとそのまま私の隣で眠ってしまった。
「……すー……すー」
「……もう寝たのか? 随分と寝付くのが早い奴だ……」
それにしてもエーリカの奴、妹のために慣れない編み物を頑張っていたんだな……
「……すー……すー」
私は可愛らしい寝息をたてながら眠っているエーリカの髪をそっと撫でる。
「……私もお前へのプレゼントを考えないとな」
さすがに例年通りに目覚まし時計をプレゼントするのはやめたほうがいいだろう。
しかし、一体何をプレゼントすればエーリカは喜んでくれるだろうか?


「え? ハルトマンへの誕生日プレゼント?」
朝食の時間に私はエーリカと仲の良いシャーリー大尉とサーニャに
何をプレゼントすればいいかを尋ねた。
「う~ん、本人にさり気なく聞いてみるのが一番いいんじゃないか?」
「そうしたいところなんだが、エーリカの奴、朝食を食べ終わるや否や宮藤達を
自分の部屋に連れ込んで3人でずっと編み物をやっているみたいでな。中々話しかけづらいんだ」
「あの寝坊助のハルトマンが私らより早く起きて編み物とはねぇ~」
シャーリー大尉が感心するような口調で言った。
「ハルトマンさん、妹さんのために頑張ってるんですね」
「ああ、だからこそ私も頑張っているあいつに日頃の感謝を込めてなにかプレゼントを
贈りたいんだが、何がいいだろう?」
私は再び2人に問いかける。
「う~ん、そうだな~……ハルトマンの奴、イモが好きだからイモ料理とか振舞えば喜ぶんじゃないか?」
「もちろん、誕生日当日には私が料理をつくるつもりだが、
それとは別に何か形に残るものをプレゼントしたいな」
「そういえば……ハルトマンさん、前にぬいぐるみが欲しいって言ってました……」
サーニャが不意に呟く。
「それは本当か?」
「はい、前にハルトマンさんとお話したとき、自分の部屋にぬいぐるみを飾ってみたいって言ってました」
「ハルトマンがぬいぐるみを? そりゃ意外だな」
シャーリー大尉が驚きの声をあげる。
私も口にこそしなかったが、内心ではかなり驚いていた。
エーリカがぬいぐるみを欲しがっていたなんてまったく知らなかった。

「あら、みんなしてフラウの誕生日プレゼントの相談かしら?」
そこに朝食のトレーを抱えたミーナが食堂に入ってきた。
「ミーナ、エーリカがぬいぐるみを欲しがっていた事、知ってたか?」
私がミーナに尋ねると彼女は首を振った。
「いいえ、知らなかったわ。でもそんなに驚くほどのことでもないんじゃないかしら」
「そ、そうなのか?」
「ええ、フラウだって年頃の女の子よ。ぬいぐるみを欲しがったって不思議じゃないわ」
ミーナが笑顔で私に応える。
「……ぬいぐるみをプレゼントにもらって嫌がる女の子はいないと思いますよ」
サーニャがミーナに賛同するように頷く。
「……そういえば昔クリスの誕生日にぬいぐるみをプレゼントしたら、とても喜んでくれたな」
「女の子はみんなぬいぐるみやお人形さんを欲しがるものよ……それじゃ、行きましょうか」
朝食のスープを飲み干したミーナが言った。
「行くってどこに?」
「フラウの誕生日プレゼントを買いに行くのよ。ネウロイの来襲予定はまだ先みたいだしね」
ミーナが微笑みながら言った。
思い立ったらすぐ行動に移すところがなんとも隊長らしい。

――1時間後、私たちは街中の雑貨屋さんに到着した。
店の商品棚には多数のぬいぐるみや人形がびっしりと並んでいた。
「……これなんて中々良いんじゃないか。迫力もあるし」
「こっちのぬいぐるみも可愛いわね」
「私はこれが可愛いと思います……」
ゴリラに、狼に、ペンギン。
シャーリー大尉、ミーナ、サーニャの3人はぬいぐるみの選び方も三者三様だった。
そんな中、私は商品棚の端っこにあるぬいぐるみに惹かれ、気づけば『それ』を手に取っていた。
「おっ、バルクホルンはそのぬいぐるみにするのか? ちょっと地味なんじゃないか?」
「あら、私はとても素敵だと思うわ。あなたらしいチョイスね」
ミーナは私が手に取ったぬいぐるみを見て微笑んだ。
「ご主人、このぬいぐるみを買わせてもらおう」
私たち4人はそれぞれぬいぐるみを購入し、店を後にした。


――そして4月19日の夜……

「あ~おいしかった! トゥルーデの料理、最高だったよ」
「喜んでもらえて何よりだ」
誕生会を終え、私とエーリカは宿舎のテラスでくつろいでいた。
テラスのテーブルの上にはエーリカが誕生会でもらったプレゼントが置いてある。
「シャーリーもミーナもサーニャもみんなしてぬいぐるみをくれるもんだから、
ビックリしちゃったよ。本当は私も編み物でぬいぐるみを作ってウルスラにプレゼント
しようと思ったんだけど、思ってたより難しかったから途中で断念しちゃった」
「それじゃ、結局ウルスラには何を編んで贈ったんだ?」
私はエーリカに尋ねる。
「えっとね、帽子と手袋とマフラー……あははっ、全部冬に着用するものだね」
「そういえば、何でお前はウルスラに編み物をプレゼントしようと思ったんだ?」
私は再びエーリカに尋ねる。
「……昔ね、母様が言ってたんだ。『大切な人には心を込めて作ったものをプレゼントしなさい』って。
それで、母様が昔よくやっていた編み物にチャレンジしようと思ったんだ」
「そうだったのか……」
「まぁ、途中難しいところはほとんど宮藤やリーネに編んでもらったんだけどね」
エーリカが苦笑いしながら言った。
「いや、それでも寝坊助でグータラで不真面目で時間にルーズなお前が、妹のために
不慣れな編み物に挑戦したのは立派なことだと思うぞ」
「それって褒めてるの? それとも貶してる?」
「あ、すまん……とにかく、お前はいつも妹や仲間のために影で頑張っているからな。
そんなお前に私から日頃の感謝を込めたプレゼントだ」
私はあらかじめテーブルの下に隠しておいたエーリカへのプレゼントを取り出し、彼女に渡す。

「開けてみてくれ」
「うん……」
エーリカは私の言われるままにプレゼントの箱を開く。
「わぁ、可愛い……」
「その、サーニャからお前がぬいぐるみを欲しがってるって聞いてな……それで私たち4人でそれぞれ
お前へのプレゼントのぬいぐるみを選んだんだ……その、私の選んだぬいぐるみ、気に入ってくれたか?」
「うん、とっても可愛いよ。このアナグマのぬいぐるみ」
エーリカはアナグマのぬいぐるみを抱きかかえながら微笑んでくれた。
「……店に入ったら、商品棚の端っこのほうにそのアナグマのぬいぐるみが置いてあってな。
それを見て、ウルスラの使い魔がアナグマだということを思い出して……
気づいたらそのぬいぐるみを買ってたんだ」
「ウルスラの使い魔、覚えててくれたんだ……そういえば今年のトゥルーデからの
誕生日プレゼントは時計じゃないんだね」
エーリカのその言葉を聞いて私は苦笑いをした。
「ああ、今年はいつもと違うものをプレゼントしたいと思ったんだ。それにしても水臭いじゃないか。
ぬいぐるみが欲しいなら私かミーナにそう言ってくれれば良かったのに」
「だって、そんなこと言ったら子供っぽいって馬鹿にされるんじゃないかと思って……」
「馬鹿になどするものか。それに、私はお前の子供っぽい一面も好きだぞ」
私はエーリカの頭を優しく撫でる。
「……本当にありがとう。トゥルーデ、私も大好きだよ」
エーリカはそう言うと、私の頬に唇を重ねた。
「エ、エーリカ……こんなところで……」
「えへへ、ごめん……トゥルーデの事が愛しくなっちゃって……誰も見てないからいいでしょ?」
エーリカは今度は私の唇に自分の唇を重ねる。
そのとき、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。
「あら、ごめんなさい。お取り込み中だったかしら」
私たちが慌てて振り返るとそこにはミーナがいた。
「え、えっと、ミーナ、これはその……」
私もエーリカも顔がりんごのごとく真っ赤になっていた。
……穴があったら入りたい。
「フラウ、あなた宛ての荷物がさっき届いたわ」
ミーナは何食わぬ顔でエーリカに小包を渡す。
「え、あ、ありがとう……」
「それじゃあ、ごゆっくり」
ミーナは母親からご褒美をもらった子供のような笑顔を浮かべてその場を去って行った。
私はしばらくその場に呆然と立ち尽くしていたが、エーリカの持っている小包が誰からきたものなのか
気になったので、彼女に尋ねてみた。
「……えっと……エーリカ、その小包、誰からのだ?」
「え? えっとね……あっ、ウルスラからだ」
エーリカが小包を開けると、中にはバースデーカードと手編みのセーターが入っていた。
「すごい……これ、ウルスラが編んだんだ……」
「……どうやらウルスラも母親から教わったことを覚えていたみたいだな。だからこうやって
大切なお前に手編みのセーターを贈ってきたんだろう」
「うん、そうみたいだね……ありがとう、ウルスラ」
エーリカはセーターを大事そうに抱えながら呟いた。

――同じ頃、カールスラント……
「ウルスラ技術将校、寒いんですか?」
1人のウィッチがウルスラに尋ねる。
「平気」
ウルスラは応える。
「ではなぜ、毛糸の帽子と手袋とマフラーを着用しているのですか?」
「……姉様が贈ってきてくれたから」

~Fin~


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