無題


ガリア上空に位置していたネウロイの巣が無くなってから数日。
501統合戦闘航空団は正式に解散となった。


と言っても急なことだったし、次の配属先を決めるまでの数日間は皆惜しむように基地でゆっくりしていた。
相変わらずハルトマンさんはズボンを履いてなくてバルクホルン大尉に怒られてるし、ルッキーニちゃんは
そのとばっちりを受けていた。笑ったり呆れたりしながらも、その顔は皆満足感に溢れていた。

リネットさんと芳佳ちゃんはいつもの様にごはんを作ってくれて、でもいつもより少し量が多かったり
豪華だったりした。
基地に残った食料は街の人に分けようという提案で纏まったけど、当日街まで持って行ったミーナ中佐と坂本少佐
が困り顔で倍の量の食材を積んだトラックで帰ってきた時には流石にみんな驚いていた。

「最後まで私たちに気を使ってどうすんですか。最後ぐらいみんなでパーッとやってくださいよ」

ということらしい。
野菜や果物、ワインまで。街の人たちがどんどんトラックに詰め込むものだから、中佐も諦めてしまったみたい。

「厄介払いされるより断然良いだろう。これも街の人々との交流を大切にしてくれていたミーナのおかげだな!はっはっは!」
と言うのは坂本少佐の言葉。

そんな事があってか、芳佳ちゃんは食材を早く使ってしまいたいからと言っていたけど、本当の理由はそれだけじゃないと思う。

みんな食事の時間を楽しみにしていたし、バルクホルンさんに至っては芳佳ちゃんの料理ばかり選んで
食べていたように思う。ナットーと言う発酵食品まで涙目になりながら食べていたけど。
ペリーヌさんはナットーを出されたことに対して文句を言ってはいたけどちゃんと全部食べていた。

扶桑の料理は奥が深い。中でも扶桑の家庭の味、オミソシルを近いうちに芳佳ちゃんに教えてもらおうかな。

そんなことを考えながら視線を落とすと、強い風が吹き抜けた。木陰で休んでいた私たちの髪が強風に煽られて暴れ、
ざわざわとゆれた木から何枚か葉が落ちた。ものすごい速さで目の前を通り過ぎたのは、シャーリーさんだ。
音速を超えた時の感覚が忘れられなくて、暇を見つけてはチャレンジしてるみたい。

私も早くお父様、お母様と会いたい。シャーリーさんのように、諦めずに探せばいつか合えると信じている。

突風で乱れた髪を直しながら、私の膝を枕にして寝ている人を見やる。彼女も突風の洗礼を受けて髪がぐしゃぐしゃだ。
少し驚いてしまうほどの突風なのに、小さく呻いただけで目を覚まさないなんて、普段とは逆だな。なんて思ったりして。

ゆっくりと、起こさないよう彼女の髪を手櫛で直して行く。さらさらと流れる髪の感触が心地良くて、整えた後も
頭を撫でる事でその感触を楽しんでいた。
だって、普段起きている時はこんな事させてもくれないでしょう。膝枕をしているのだって偶然で。

木陰で寝ていた彼女を見つけたのはリネットさんのお茶を頂いた後。
起こさないよう近付いて横に座ったのに、もぞもぞと動いて当然のように膝に頭を乗せてきたものだから、
起きてるのかと驚いたけど、寝ぼけてただけで。
でもそんな彼女を見るのも珍しいから好きなようにさせていたら、私の膝の上で良い位置を見つけたらしく、
満面の笑みを浮かべてまた眠ってしまった。


今は寝ているこの人も、私の両親探しを手伝ってくれるそう。スオムスで待っているお友達は良いの?
と以前聞いた事があった。

「あいつの固有魔法は超回復なんダ。あいつ、変な所でツいてるからナー。よっぽどの事が無い限り生きて会えるサ。
もしかしたらその内私達の前に堕ちてきたりしてナ。そんな予感がする。」

ニヒ。と空を見上げて笑う彼女。遠く離れた彼の地に居る、ニパさんの事を考えているんだろう。

信頼されているニパさんを羨ましく思ったのと同時に、妬ましく思った。
彼女のほっぺをつねる事で少しは解消した気分にはなったけれど。

私はいつも心配されていたから、長い間会えなくなってしまったらこの人はどうなってしまうんだろう。
その前に私自身、この人が居ないと気が狂ってしまうかもしれない。彼女の居ない日々なんて考えられない。
会えないだけならまだいい。もし彼女を紛争で亡くしてしまったら…
そこまで考えて撫でていた手を止め、不安を振り払うかのように彼女の髪を掬い上げる。
はらはらと数本の毛が手から零れ落ちた。彼女特有の暖かな香りが鼻腔を埋める。自然と涙が滲んでいた。


――エイラ、どこにも行かないでね。大好きよ。だから、私を置いて行かないで


自然と口から零れてしまった告白の、なんて身勝手なこと。
それでも言われた当の本人は寝息を立てていて、私の精一杯の告白を聞いているのは背もたれにしているこの木だけ。


――ねぇ、好き。大好きよ。エイラ…愛してる


エイラが好き。彼女の頭を撫でながら、感情を押し留めること無く、目に涙を溜めながら思いの限り彼女にささやき続けた。
それは言葉では埋め尽くせないほどの感情。一つ一つ、吐き出す度に何倍にもなって膨れ上がる感情。このまま言い続ければ
いつか心臓が破裂するんじゃないかと顔を真っ赤にしながら本気で思って、案外私もヘタレだな、と気付き始めた頃
ふわり。と柔らかな風が吹いた。

シャーリーさんの起こすような力強い突風ではなく、暖かい春の風のような。
さわさわと木の葉が音を立て、雲の切れ間から柔らかい日差しが差してきた。このまま私も眠ってしまおうか。とも思ったけれど
まだ煩い心臓のせいでそういうわけにも行かず、自分を落ち着ける為にふぅ、と息をついて「ムリダナ」と呟いた。彼女のマネだ。
そうして彼女の頭をもう一度撫でる。

感情のたがが外れてあんなことを言ってしまったけれど、今思えばものすごく恥ずかしい。
誰にも、それこそエイラにも聞かれてなくて良かったけど。でも、やっぱり恥ずかしい。
きっと、時期が悪いんだ。あとエイラも。こんな時に、こんなところでお昼寝してるなんて。

理不尽な言い訳をしながらも、エイラの頭を撫でるのはやめない。

…ぱた……ぱた。

ふと、視界に動くものが見えた。
エイラの頭を撫でるのを止め、動くものを追っていくと…見つけてしまった。
見慣れた黒くてもこもこの尻尾。大好きな人の、エイラの尻尾が嬉しさを我慢するかのようにふらふらと揺れていた。
慌ててエイラの顔を覗き込むと、耳まで真っ赤になりながら「寝たフリ」を決め込んでいた。小刻みに震えたりもしている。

いつから起きていたのか、どこから聞いていたのか、聞きたいけれど、聞いたら後戻りできなさそうで。

さっきとは似てるけど少し違うドキドキが胸を支配する。きっと告白した時と同じぐらい真っ赤になってる。
たった数秒が何時間にも思えた。実際、告白をしたのはほんの数分だろうけど。

シャーリーさんの計測を終えたルッキーニちゃんに見つかってからかわれるまで、そのまま動けなかった自身がある。
エイラが「ソンナンジャネーヨ!!!」と勢い良く起き上がって、それで私も正気に戻ったのだから。


元気な救世主には「二人とも顔真っ赤ー!」とからかわれたけど。


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