elder sister


「皆さん、反省しましたか?」
 アレクサンドラの凛とした声が響く。目の前には正座させられる「ブレイクウィッチーズ」三人組の姿が。
「うう……」
「今日はやけに長いね大尉……ボク達はそんな壊してないと思うけど」
 呻くニッカ、ぼやくクルピンスキー。
「……」
 一人歯を食いしばって耐える直枝。
 アレクサンドラは血相を変えた。
「三人揃ってストライカーユニット全損ですよ!? 分かってますか? これ以上壊す余裕なんか有りません」
「でも、倒さなくて良いネウロイなんか、いないよね? 損害の前にボク達の戦果を見て欲しいよね」
 軽口を叩くクルピンスキー。
「私だって今日はナオと一緒にデカいのを二機やったんだ。それだけでも凄いじゃないか? なあナオ」
 自画自賛のニッカをぎろりと睨み付けると、アレクサンドラは言い放った。
「……あと三十分追加です」
「ええーっ?」

 腕時計の針を見る。きっかり三十分経ったところで声を掛ける。
「では今日はこの辺で」
「この辺もクソもあるかよ……」
「まあまあニパ君。あんまり言うと熊さんがまた……」
 アレクサンドラの視線を受け、肩をすくめてニッカと一緒に部屋を出る。正確には、二人でふらつく足を支え合って……
二人三脚みたいな足の引きずり方で、部屋を出た。
 一人、正座したままの直枝。
「もう、行っていいんですよ?」
「あの……大尉」
 顔を真っ赤にして、直枝はしどろもどろに言った。
「お願い……」
「またですか。仕方ないですね」
 アレクサンドラは慣れた様子で、おずおずと差し出された直枝の手を取り、引っ張った。
 小柄で華奢な直枝の身体は、ふわりと持ち上がり、そのままアレクサンドラの胸に飛び込む。
 ふるふると、しびれが直らない足に力を入れ、アレクサンドラを抱きしめる。
「いけない娘……」
 アレクサンドラはそのまま椅子に腰掛け、直枝を上に跨がらせる格好で抱きしめた。
「いけないってのは、オレだって分かってる、けど……」
「貴方のお姉さんに似てるから? でしたっけ?」
「……」
「本当、いけない娘」
 アレクサンドラはそう繰り返すと、直枝の唇を奪った。そっと、しかし確実に。
 ぼおっとする直枝。アレクサンドラの顔を見つめ、自らの表情もうっとりとしたものに変わる。
「ああ……」
「髪の毛の先、焦げてる」
「戦火に飛び込んだから……」
「せっかくの美しい黒髪が台無し」
「でも……奴等を倒さないと」
「貴方が倒れては、どうしようもないでしょう?」
「お、オレは不死身だっ」
 強がる直枝。
「ニパさんも、クルピンスキー中尉も同じ事を言うけど……皆が心配なの。分かって?」
「わかって……る」
 首筋にキスされ、ぞくっとなる直枝。ぎゅっと強く抱きしめる。
「お願い」
 ズボンの上から、ゆっくりと秘めたる部分をさすり合い、合わせ、擦り合う。
「うう……、いけないって分かってるのに……大尉……」
 唇を塞がれ、何も言えなくなる直枝。アレクサンドラも動きを止めない。
 椅子の上で小刻みに揺れる二人。部屋で炊かれた薪ストーブの、ぱちぱちと薪がはぜる音以外、
聞こえるのは二人の荒い息遣いだけ。
 がくがくと震える。
「……さま」
 こられきれずに、小さく呟く直枝。
「だめ」
 アレクサンドラは、強引に直枝の唇を塞ぎ、動きを早める。
 びくり、とお互い絶頂に達し、そのままがくがくと身体を震わせ、足がぴんと張り、つま先が伸びる。
 ゆっくり息を整えながら、緩やかに抱き合い、もう一度唇を合わせる。
「ごめん、なさい。また……」
「良いの。貴方が落ち着くなら」
「分かってるんだ。こんな事しちゃいけないって。でも大尉……」
「良いから」
 アレクサンドラは直枝の頭を優しく撫でた。もう一度、ゆっくりとキスを交わす。

 部屋を出た直枝は、廊下の天井を見、ふうと息を吐き出した。白く、靄となり拡散していく。
「姉様……ごめん。オレ……」
 直枝は考えた。大好きな姉様に会いたい。でも……。
 だけど、アレクサンドラの事が最近気になる。彼女の姿を見るだけで自分の顔が赤くなる。嫌でも分かる。
 既に「単に姉に似てるから」、という理由だけでない事も。けれど、認めると何かが壊れる気がして……。
「ああもう! どうすりゃいいんだ!」
 頭を振ると、直枝はズボンが少し湿っているのも気にせず、ずかずかと歩き始めた。

「あの娘ったら」
 アレクサンドラは、ズボンに残った直枝の残り香と染みを、手に取り、嗅いだ。
 彼女の、におい。少々の甘酸っぱさ。
「私も、失格よね……遠く離れた彼女の姉をダシにして」
 思わず出る溜め息。
「出来るなら、私を通して姉を見るんじゃなくて私自身を……」
 言い淀む。目が泳ぐ。窓の外を歩く直枝を見つけ、視線が自然と彼女を追っている事に気付く。
 このまま射止めてしまう様に。けれど直枝は気付かず、宿舎へと消えていった。
 ぽつりと寂しげに言った。
「不思議。扶桑の魔女って……」

 ハンガーで全損した自分達のストライカーユニット(の残骸)を眺めていたニッカは、ふと辺りを見回した。
「あれ、そう言や、ナオは何処行った?」
 横に居たクルピンスキーはふふんと笑った。
「気付かなかったのかいニパ君? まだまだ君も青いな……って服の色の事じゃないよ」
「うるせえ。スオムスの制服馬鹿にすんなよ? それにこのセーターは私の自前だ。で、ナオは?」
「大方、熊さんと食事してるか、されてるかどっちかだね」
「はあ? 何だそれ?」
「知ってるかい? オラーシャの熊は大きくてコワイらしいよ?」
「また適当な事を……」
「まあ、ボクはどっちかと言うとジョゼ好みだね。何故って、暖かくて暖房の代わりになるから。ジョゼ暖房、みたいな」
「意味わかんねーよ伯爵。そうやってまた適当な理由つけてジョゼにセクハラするつもりだな?」
「とんでもない。とりあえずジョゼの所に行って暖まろう。あ、その前にまずボクが彼女を温めないと」
「温めるって何だよ! 待ちやがれこの変態!」
「そう、ボクは軽い変態なんだ」
「認めんな!」
 軽やかに走り出すクルピンスキーは、廊下でラルとロスマンの二人にすれ違った。
「あー、ラルさんにロスマンさん。いつもご機嫌麗しぅ。このクルピンスキー、いつでも何なりと……」
「まーた下らない事考えてたろエセ伯爵」
「また新人にちょっかい出したりしたら許さないからね?」
「酷いな二人共、ボクはまだ何もしてないよ?」
「する気満々じゃねえか、その顔……」
「いや、本当言うとボク以外の他の娘には全く興味が無いんだ」
「嘘つけ! じゃ何処行くんだよ! 待てって!」
「あ、クルピンスキー中尉……」
「やっほ~いつもカワイイね、いとしのジョ……」
「逃げろジョゼ!」

 喧噪と静寂が交叉し、502の夜は更けていく。

end



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