galactic storm
「お黙りなさい! そのことば、聞き捨てなりませんわっ!」
まったりした雰囲気のミーティングルームに雷の如く響く、ペリーヌの怒鳴り声。
指差されて怒鳴られたリーネは顔を紅潮させてペリーヌを睨み返す。
「黙りません! ペリーヌさんは、ご自身がそうでないからそんな事言えるんです!」
「なんですって!?」
唐突に始まった喧嘩を見て、居合わせた隊員達は顔を見合わせた。一体どういう経緯で起きたのか皆目見当がつかぬ。
ぐぬぬ、と一歩も引かぬふたりを見、すっくと立ち上がったのはゲルトルート・バルクホルン。隊の先任尉官だ。
「どうした二人共。いきなり言い争いを始めるとは、一体何事だ」
「一体何が始まるんです?」
芳佳がおどおどして周りを見た。
「第三次せ……」
「ハルトマン、お前が出てくるとややこしくなる」
芳佳の耳元で囁くエーリカを話の輪からつまみ出すトゥルーデ。
「ヤヤコシヤー、ヤヤコシヤー」
面白そうに茶化すルッキーニ。
「で、ペリーヌにリーネ。何が原因で言い争いになったんだ。話してみろ」
「えっ」
「えっ」
途端に頬を赤くし、顔を見合わせるペリーヌとリーネ。
「何だ、話せない事なのか? 私達は家族みたいなものだろ。遠慮など不要だ。さあ、このお姉……いや、上官である私に話してみろ」
ずいと近づくトゥルーデ。ぞくっと一歩ひくペリーヌとリーネ。
「堅物はホント堅物だね~。話せない事ならそっとしといてやりなよ」
後ろで腕を組み、のほほんと構えるシャーリー。
「また後で問題が再発しては困る。ここははっきりと原因を突き止め、遺恨が残らぬ様、解決に導かねばならない。
それが隊の先任尉官たる私のつとめだ」
「じゃああたしも同じ大尉として話を聞こうじゃないか」
ぽんとトゥルーデの肩を叩くシャーリー。
「……まあ、良いだろう。さて、二人共。早速だが、原因を話して貰おう。大丈夫だ、秘密は厳守する」
「あの、大尉……皆の目の前で秘密の話と言われましても」
「バルクホルンさん、いいんです、その」
「良くはないだろ。それとも、皆の前では話しにくい事なのか? ならば後で……」
「な~んか、あんたが言うとどうもいやらしく感じるんだよ、堅物は」
「何だとリベリアン? 私には、やましい気持ちなど欠片も無いッ!」
躍起になり拳を握り否定するトゥルーデ。
「そう言えば、ペリーヌさんとリーネちゃん、胸の事で話してました」
横で様子を見ていた芳佳が、ぽろりと核心を口にする。
「なっ!?」
「芳佳ちゃん!」
「こっ、この豆狸ッ……! 何処まで節操がない……」
「胸が大きいのと小さいのどっちが良いか、でもんで……いえ、もめてました」
「芳佳ちゃんの馬鹿ッ!」
「密告だなんて、なんて卑怯、破廉恥な!」
「そうか、胸、か」
トゥルーデとシャーリーは、二人同時にペリーヌとリーネのそれを見比べた。ばっと胸を隠すペリーヌとリーネ。
「あの、大尉、シャーリー大尉? お二人とも、何か目がいやらしいですわ」
「その、見られても、困ります」
「良いじゃないか減るもんじゃなしに。なあ堅物」
「そうだな。胸のサイズをはっきりさせたいなら……」
「はい、メジャー」
「おお、気が利くなハルトマン。では実測……」
「ちょっ! そ、そういう話ではありませんでしてよ!」
「あれ、違うのかい?」
「勝手に話を進めないで下さいまし!」
「じゃあ、何をもめてたのさ?」
「あの……」
「だから、胸が大きいのと小さいのどっちが良いか、でもんで……いえ、もめてました」
「宮藤は、ほんと胸にこだわるね」
「なるほど。大と小、どちらが優れているか、か……ふむ」
「あた~しはおっきーいのがいい! だからシャーリーのが一番!」
「あはは、ルッキーニは可愛いなあ。まあそれは良いとして……どうするよ堅物」
「困ったなリベリアン」
「あたしはほら、隊で一番だからさ、何とも言えないね」
「どういう理屈だそれは」
「色よし張りよしバルクホルン♪ ってね~」
「こ、こら、やめんかハルトマン!」
隙を突き背後から胸を揉みし抱くエーリカに翻弄されるトゥルーデ。
「あの……大尉」
「本当に、もう良いですから」
おろおろするペリーヌとリーネ。
「じゃあ、宮藤に判断してもらうか? 一応治癒魔法の専門家だし、メディカル的な意味で」
シャーリーに名指しされた芳佳は目を光らせ指をわきわきさせながら近付いた。
「お任せ下さい! おっぱ……いえ、胸に関して私はオーソリティですからご心配無く!」
「みっ宮藤さん貴方! そもそも、この豆狸は大艦巨砲主義ならぬ巨乳好きですから不公平ですわ!」
「えっ、私そんなんじゃ……」
「確かに芳佳も、おっきいのスキだよね?」
頷くルッキーニ。
「そっそんな事無いよ。私、おっきいのは勿論好きだけど、本当はみんなのが好き! ……あれ、何この空気?」
芳佳から一歩身を引く隊員達。
「宮藤はともかく、ならば私が判断しよう」
「どうやって」
「目視だ」
「見るんだったら少佐連れてきた方が良いんじゃないか?」
「幾ら何でも魔眼の無駄遣いを頼む訳にはいかないだろう」
「無駄遣い、ねえ」
トゥルーデは、しげしげと、やがてじっくりと、果てはこれでもかと言う程にふたりの胸を見比べた。
「……」
「あの、大尉」
「恥ずかしいです」
「女同士恥ずかしい事は何もない。ふむ」
トゥルーデは頷いて言った。
「この勝負、引き分けとする」
「なっ!?」
「勝負?」
「引き分け!?」
「どう言う事だよ堅物。説明しなよ」
「良いだろう。分かり易く説明しよう。まず、二人の年齢、身体の全体的な発達具合を勘案してだな」
「一応真面目に考えてたのか」
「あとは運動や飛行時の影響を考えて」
「……」
「……で?」
「ペリーヌはこれから。リーネはこれ以上はやや危険、と判断した」
「意味が分からないです、バルクホルンさん」
一人だけ納得する芳佳、一方の困り顔のリーネを前に、トゥルーデは真面目な顔をして答えた。
「つまりだ。要は二人とも、大事な家族として、私の大事な妹としてだな、お姉ちゃんである私に……はっ放せリベリアン!」
「はいはい、病室はこっち」
「トゥルーデ、向こういこー」
シャーリーとエーリカに肩を掴まれ引きずられ、ミーティングルームから強制的に連れ出されるトゥルーデ。
「一体、なんでしたの……」
「さあ……」
渦中のふたりは、呆気にとられ顔を見合わせた。
「ま、胸の大きさイコール強さって事じゃないって事ダロウナ。ほらみんなこれでも食って落ち着けヨ」
エイラから渡された飴玉を口に入れ、途端に悶える一同。
「ぐっえっエイラさん! 貴方!」
「ひどいです、エイラさん……」
「ヴェー」
「ま、まずい……」
ひとりニヤケ顔のスオムス娘はサルミアッキの箱を手にひゅーと口笛を吹いた。
「元気付けのつもりだったんだケドナー……いててッ!?」
「エイラ? こっち来て反省しましょ?」
「はうっサーニャ!?」
耳を引っ張られてそのまま何処かへと連れ去られた。
「何だか賑やかね」
「いつもの事だろう」
通りがかったミーナと美緒は、ちらりと様子をみて特に何を言うでもなく、その場を後にした。
end