姉バカ大尉とダイヤのエース
「エイラ・イルマタル・ユーティライネン少尉っ!」
ある日の、午後のお茶の時間のことだ。
バルクホルン大尉が、妙にうれしそうな顔をして、
サーニャと私の座っている席のところまでやってきた。
心なしか、赤い顔をして息を切らしてサ。
これはヤバイ。
とてつもなく、悪い予感がする。
未来予知を使う必要もないくらいに明らかにヤバイ。
私はとっさにサーニャを私の後ろに隠した。
「少尉……、いやエイラにはお姉様がいらっしゃるそうだなっ!」
「あ……ね、姉チャンね……」
背中につつーっと嫌な汗をかく。そして、嫌な予感が確信に変わったことを知った。
……全く、誰ダヨ、教えた奴!
「スオムスにいるヨ。あの辺はネウロイの攻撃も受けなかったカラ」
「お姉さんがいるということは、エイラ、お前は妹……なんだな?」
「あ……まぁ……そう、なる、カナ?」
近い。顔、近い。あと、息が荒いゾ、大尉。
私の肩をがっしりと抱いて、とても大事なことを確認するように聞いてくる大尉。
そりゃ、バルクホルン大尉にとってはすごく大事なことだろうケドさ……。
「水くさいじゃないかっ!! どうして今まで秘密にしてたんだっ!!
私たちは家族じゃなかったのかっ!!!」
「こうなるから言いたくなかったんダヨ!!」
あー、もう。本当誰ダヨ、バラした奴!ほとんどの奴は知らないはずなんダケドっ!
「エイラ……お姉さんがいたの……知らなかった」
「ごめんな、サーニャ。隠してたってわけじゃないんダケド」
「サーニャにも秘密にしてたのかっ! エイラ……貴様という奴は……!!」
なにがどうツボに入ったのか、わなわなと震えだす大尉。
横目でちらっとサーニャを見ると、申し訳なさそうに小さくなってタ。
ゴメンな、サーニャ……。本当、ゴメン。
「あぁ、いや。私どころか一番接している時間の長いサーニャにも秘密にしていたということは、
エイラがそれだけ寂しい思いをしていたということだろう。
本当は姉に会いたくて仕方のない気持ちを、『姉なんていない』と自分を偽ることによって
抑えていたんだな……。なんて不憫なんだ……」
自分で勝手にストーリーをでっちあげて、おいおいと泣き出す大尉。
オーイ、変なスイッチ入ってるぞ。誰かこの姉バカを止めてくれヨ、本当。
「いや……そんなことないカラ」
「エイラ……もう、寂しい思いはさせないぞ。私たちは家族じゃないか。
いつでもこの私を、実の姉だと思ってくれていい」
なんでそんなに優しそうないい笑顔ナンダヨ!!
もう、訳分かんないゾ!! 誰か急いで医者呼んでコイ、医者を!!!
「いつだって甘えてくれていいんだぞ。寂しい夜は一緒に寝たっていい。
私が思いっきり抱きしめてキスしてやろう。
そうだ。眠れなければ絵本を読んだっていい。
クリスも小さい頃によく読んでやったもんだ……」
「イヤ……!そういうの、間に合ってるから……!!」
「えっ?」
「えっ?」
驚き、悲しそうな顔をする大尉と……なぜか驚いた顔をするサーニャ。
何で、サーニャまで驚いてるんダ?
「あー、いや……そうか……。うん、すまない。そういうことだったのか」
何をどう勘違いしているのか、独り合点する大尉。これはこれで何か嫌ダゾ。
「だが、それでもやはり、姉という存在は大切だろう。必要なときにはいつだって私を……」
「はいはい。姉バカ病はその辺にしなよ、トゥルーデ」
「エーリカ……!」
「ごめんね~、エイラーニャ。うちの旦那が迷惑かけてさ」
本当ダヨ。自分の旦那にはちゃんと責任を持ってくれヨナ。
あと、エイラーニャって言うナ!!
「あとでたっぷりお仕置きしとくから。さっ、いくよ、トゥルーデお姉ちゃん♪」
そういってバタバタと暴れる大尉の首根っこをつかんでずるずる引っ張っていくハルトマン中尉。
お仕置きってどういう……とかは考えないほうがいいんダヨナ。ウン。
「ひどい目にあっタ……」
残ってたクッキーとお茶でちょっと一息つく。
せっかくのサーニャとのお茶の時間だったのに……。
「ねぇ……エイラ」
あぁ、サーニャ。ごめんナ、嫌な思いさせちゃって。
「やっぱり……私もそういうことしたほうがいいのかな……
抱きしめたり、とか……キス……とか」
サッサーニャ……!ナ、ナニイッテンダ……!
「だって、さっき『間に合ってる』って……」
それは言葉のあやでっ……!変な意味じゃなくてっ……!
「今夜は……絵本、読んであげるね、エイラちゃん」
うぅ……サーニャまで……。
「私をソンナ目でミンナ~!!」
fin.