protmind


 長く塞がれていた唇が、そっと離れる。
 名残惜しげに、雫がつうと垂れて服の染みとなる。
 また堪えきれずに唇を重ねる二人。舌も絡み、抱き合う力は強くなる。
「もっと、感じたい……ベルト邪魔」
「あっ、はあっ……」
 直枝は無理矢理にアレクサンドラのベルトに手を入れ、ずらし、露わになったふとももに自分の脚を載せ、絡ませる。
 肌の温もりを感じ、より情欲が高まったのか、鷲掴みに近い指の形で、直枝をぎゅっと抱きしめる。
 お互いに、一定のリズムで腰をくねらせ、時折小刻みに震わせ、次第に息遣いが荒くなる。
 やがて二人は極みに達し……がくがくと軽い痙攣を全身で感じながら、お互いの胸の中にある、いとしの人を愛でる。
 僅かにズボンが湿り気を帯びる。
 息が整う暇も無く、二人は目を潤ませ、もう一度抱き合ったまま、深く濃いキスを交わし、重ねた。

 服を整え、ふうと息を整え、表情を変える直枝。
 先程までの「恍惚とした恋する乙女」の表情は既に無く、いつもの野性的ピュアファイターとしてのウィッチに戻っていた。
「さて、と。行くか」
 直枝は部屋を出ようと、足早にドアに向かった。
「待って」
 言うよりも早く手が伸び、直枝の腕を絡め取る。そのままぐいと引っ張られ、アレクサンドラの胸に飛び込む格好になる。
「ちょ、ちょっと……大尉」
「行かないで」
 きつく抱き止めるアレクサンドラ。
「行くなって言われても……あんまし、こう言うのも。それに、他の連中に知れたら……」
 途端にしどろもどろになる直枝。
「その時は、その時で」
「ええっ?」
「私、まだ足りない。貴方が足りない」
「そ、そんな……オレ」
「自分だけ満足したら、それで良いの?」
「そ、そんな事……」
 言いかけて、直枝は口ごもった。
 ストーブの、薪がぱちぱちと燃える音だけが微かに聞こえるアレクサンドラの部屋。二人の息が絡まり、溶けていく。
「やっぱり、やめよう。オレが、悪いんだ。大尉に無理強いして……」
「どうして?」
「だってこんな関係、許される訳ないだろ?」
「私が許します。だから貴方も許して」
「何を言ってるんだ大尉」
「公認の仲になりましょう?」
「そんなん出来たら苦労せんわ……、ってまさか」
 直枝はアレクサンドラの顔を見た。
 泣いている。
 微かに滲む涙を見、直枝は少し震える手で、涙を拭った。
 アレクサンドラはうつむいた。前髪がはらはらと崩れ、しだれ落ちる。
 直枝は片手で金の髪をすくい取り、感触を確かめ、匂いを嗅いだ。紛れもない、彼女由来の香り。
「大尉、もしかして」
「何処までも鈍いのかしら、貴方って人は。扶桑の魔女だから?」
「オレを、慰めてくれてるだけじゃ……」
「ばか」
 直枝は何も言えなくなった。
 アレクサンドラは一人涙を流す。止む事の無い、雨の如く。
 そんな彼女を見た直枝は、ぽつりと言った。
「何だか、一線を越えてしまったら……、なんか、表現しにくいけど、オレ、……どうかなっちゃいそうで」
 黙って頷くアレクサンドラ。
「でもオレ、大尉の気持ち、全然考えてなかった。ゴメン。いや、今更やめてとか許して貰おうなんて、甘いよな」
「ずるい」
「だけど、大尉の気持ち聞いて……揺らいだって言うか、後戻り出来ない、いや、したくない」
 意を決したかの如く、ぎゅっと強くアレクサンドラを抱きしめる直枝。
「こんなオレで良ければ、大尉」

「サーシャ」
 アレクサンドラは直枝の顔を見て、そう言った。
「へ?」
「二人っきりの時は、そう呼んで。ナオ」
「良いのか?」
 こくりと頷くアレクサンドラ。
 前髪がほつれた姿のアレクサンドラは、普段と違ってまた艶めかしい。ごくりと唾を飲み込み、そっと頬に手を触れ、顔を近付ける。
(姉様……もう後戻り出来ないみたいだ。オレのせいだ。ごめん、なさい)
 直枝の脳裏に、祖国で暮らす実姉の姿が一瞬過ぎる。だが目の前に居るアレクサンドラの姿とかぶり粉雪の如く溶けて消えた。
「さ、サーシャ」
「ナオ」
 名前を呼ばれ、ぞくっとする直枝。押さえ込んでいた情が緩み、やがて雪崩の如く理性を飲み込み、心を圧していく。
「サーシャ」
 直枝は、サーシャをベッドに押し倒した。荒々しいキス。
 何度も繰り返す。
「ご、ゴメン。オレ、その、ヘタで」
「そう言うナオ、好き」
「本当に?」
 小さく頷いたアレクサンドラは、直枝を全身で受けとめ、受け容れる。
 服もまた乱れ、肌が露わになるも、手近に有った毛布をばさっと掛けて、寒さをしのぐ。
 ベッドの中で、二人は密になり、身体を重ね、時を過ごした。

「あれ、ナオは何処行ったんだ? せっかく替わりのストライカーユニット到着したのに」
 ハンガーで各種機材にまみれたニッカは辺りを見回して呟いた。
「ああ。ナオちゃんは多分、お食事中。ボク達もお食事するかい?」
「伯爵が言うと何か違う意味で聞こえるんだよなあ。で、伯爵の言う『食事』はパス」
「残念。じゃあ、代わりにボクとえっちな事しようよ」
「馬鹿っ、ストレート過ぎるんだ! ちっとは自重しろ!」
「たまにはニパ君とするのもいいかなー、な・ん・て♪」
「その流し目キモいから止めろって。……だからってジョゼのとこ行くな! 待て!」

end



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