so high
寒風吹き荒ぶ中、戦が始まる。
「よし、全機攻撃開始! 化け物共を全部地面にキスさせてやれ!」
お馴染みの、ラルの威勢の良い攻撃開始の合図。鬨の声である。
「管野一番、攻撃開始ッ! うおおお!」
直枝は銃を構えると真っ先に速度を上げ、小物はハナから相手にせず奥に陣取る大物目掛けてネウロイの群れに飛び込んでいく。
「あー、ナオちゃんまた先行しちゃったよ」
「見てないで追いなさい中尉!」
「大丈夫、役割はわかってるつもりさ、可愛い熊さん」
笑顔を作って手を振った後、直枝を追うクルピンスキー。ニッカもしょうがないと言う顔をしつつ、
直枝に取り付こうとする小型ネウロイの掃討に掛かる。
「管野少尉、先行し過ぎです! カタヤイネン曹長、フォローを」
「了解。てかもうやってるって」
「まあ、ナオちゃんは言っても聞くとは思わないけどね」
みるみる戦渦が広がり、辺りの空域は混沌と化した。
戦は辛うじてウィッチ達の勝利に終わり、全員がハンガーに集められた。
「戦果は上々、と。化け物共も粗方片付けたと。ふむ。……でだ、そこの三人」
メモを取っていたラルは、片隅に座る三人組に声を掛ける。
「管野も地面にキスしろとは言ってないんだが?」
「たまたまだ。大物はオレ一人で三匹仕留めた。それで良いだろ」
「弾切れして扶桑の刀折って体当たりして、ストライカー壊してまでする事かい?」
「あれは体当たりじゃない。オレの固有魔法を応用したコアへのパンチだ」
「パンチはともかく、ストライカーユニット……」
「奴等を倒す。それがオレの仕事だ」
「もはや趣味だよね」
ラルは何か言いかけたが、クルピンスキーが間を遮り、笑ってみせる。ラルは呆れ顔を作った。
「そう言やエセ伯爵だって着陸までストライカーユニット持たなかったじゃないか。基地の手前で不時着とはどう言う事だい」
「いやあ、あれはボクなりの華麗なる着陸のつもりだったんだけど、そう見えなかった?」
「見えるかっ! ……で、珍しく今日は何も無いと思ったら、どうして着地後に火を噴かすかね、カタヤイネン曹長?」
「整備の奴に聞いたら、ユニットの部品に不良品があったんだってさ。だからあれは私のせいじゃないな」
慣れた調子のニッカ。着地後の出火で火傷を負ったが、驚異的な自己治癒能力で殆ど回復している。
「ホント、ついてないよね」
「全くだ」
「……結局、今日もユニット三機破損、うち一機全損か。ああジョゼ、管野の治療はその辺にしとけ」
「あ、はい」
ジョーゼットは治癒魔法の反動でのぼせ、ふらつきながら立ち上がる。ロスマンが肩を貸す。
「いつも悪いな。もう大丈夫だ」
ぶっきらぼうに直枝は言うと立ち上がった。
「待ちなさい」
アレクサンドラは三人の前に立ち塞がった。
「おや、今日もお説教タイムかい?」
「……そうやって何故茶化しますか!?」
怒り心頭のアレクサンドラを前に、ブレイクウィッチーズは顔を見合わせた。
「さて。ジョゼ、エディータ、あたし達は行くよ。夕食が冷めるからな。大尉、悪いが後は任せる」
ラルは他のウィッチを引き連れ、ハンガーから出て行った。
「では、ハンガーでは余りに可愛そうですから、私の部屋で“反省会”をしましょう。良いですね?」
アレクサンドラの言葉に、はあ、とうなだれるニッカとクルピンスキー。
「しかし」
食堂でミートボール入りのシチューを豪快に頬張りながら、不意にラルはそう言った。
「最近、アレクサンドラ大尉は雰囲気変わったな」
「あら、グンドュラにもやっぱりそう見える?」
横に座っているロスマンも同意する。
「あたしの目はまだ確かなつもりさ。……ま、その代わり時々ボケッとしてる馬鹿タレが一人増えたが、まあ良いか」
「ユニットの損害的な意味で?」
「部隊全体の士気的な意味で、の話だよエディータ」
くすっと笑い合うカールスラントのウィッチ二人。
「あの……、隊長」
「ん? どしたジョゼ」
「ずっと隊長に抱きつかれてて、私、すごく恥ずかしいです……」
「悪い、もうちょっとだけ。寒くて寒くて。ジョゼ暖かいから手放せなくてさ。暖かくって気持ちいいな~、ジョゼ」
「はあ……」
呆れ顔のジョーゼット、苦笑するロスマン。ラルはジョーゼットに頬ずりして満面の笑みを作った。
「では、今日はここまで」
腕時計を見、アレクサンドラは声を掛けた。正座をやめ、よろけながら立ち上がるブレイクウィッチーズ。
「はいはい、お疲れ様お疲れ様、っと」
「まだ反省してませんね?」
「とんでもない。ボク達は山よりも深く海よりも高く反省しておりますとも、大尉殿。なあニパ君」
「……なんか違くね?」
「まあいいです。早く食事に行きなさい」
意外にあっさりと赦したアレクサンドラを、クルピンスキーはびっくりした顔で見た。
「あれれ、ボクの渾身のギャグはスルー? じゃあこんな諺を……」
「もう余計な事言うな! つまんない戯言は良いから、行くぞ伯爵」
クルピンスキーの服を引っ張るニッカ。
「ニパ君、そんなにボクと、お食事、したいのかい?」
「腹減ってるだけだって! 伯爵とどうこうするとか有り得ないし」
「たまにはどうかな~、なんて。ボク寂しいの」
「キモいからやめてくれよ、その流し目」
ニッカとクルピンスキーはそそくさと部屋を後にした。
部屋にぽつんと残された、直枝とアレクサンドラ。
「行かないんですか?」
「……」
もじもじと、何か言いたそうで、だけど言い出せない直枝。
「食事、無くなりますよ?」
アレクサンドラの言葉を聞いても、直枝は動かない。
所在なさげに指を動かし、下を向いたままだった直枝は、不安と期待が混じった目で、アレクサンドラを見上げた。
「あ、あの」
ごくり、と唾を飲み込む。そして一言。
「サーシャ」
その言葉がトリガーとなったのか、アレクサンドラは直枝を抱きしめ、ぐいと持ち上げた。
小柄な直枝の身体が地面から浮き上がる。
そのままアレクサンドラは直枝ごとベッドに転がり……二人はキスを交わした。
「どうして、いつも無茶をするの、ナオ」
「許して、サーシャ」
「貴方が死んだら、私どうすれば」
「オレは、死なない」
「だって……」
「サーシャが居る限り、オレは、死なない。いや、死ねない」
「それ、約束してくれる?」
「勿論」
「嬉しい」
アレクサンドラは、直枝の頬に唇を這わせた。ぞくっと身体を震わせる直枝。
ふぁさっと毛布が被せられ、二人の(公然の)秘め事が始まった。
end