elements


 雪が吹きすさぶ502基地周辺は酷く寒い。いつもの事だ。
 だが寒さで何もかもが凍結している分、まだマシかも知れない。夏になると酷い泥濘と蚊の群れに悩まされるからだ。
 そんな502基地の食堂では、いつもの光景が繰り広げられていた。
 食事の傍ら書類を横に置き、訓練プログラムを練るロスマン。
 食事を済ませいそいそと部屋に戻るアレクサンドラ。
 仲間のウィッチを見たり、何か思いついたのか天井を見てニヤニヤしているクルピンスキー。
 そんな「伯爵」に呆れ、突っ込みを入れるニッカ。突っ込みを入れた後は横に座る直枝に話しかける。
 食べる事もそこそこに、ひとり呆けている直枝。最近はニッカとの会話もどこかちぐはぐだ。
アレクサンドラが部屋に戻ったとニッカから聞かされると、顔を真っ赤にして慌てて食堂から出て行った。
行き先は言うまでもない。
「まあ、いつもの事だぁね」
 昨日と同じ具、同じ味のシチューを食べ終わると、ラルはウィッチ達を見てそう言った。
「あら、良いじゃない。悪い方に変わってしまうよりは」
 ペンを置いたロスマンが答える。
「まあね。何だかんだで死人も出ず、502(ウチ)はよく頑張ってるよ」
 うんうんと頷くラル。
「あの、隊長」
「ん? なんだい?」
「私、いつまで隊長に抱っこされてないといけないんですか?」
 ジョーゼットは頬を染め、ラルの膝の上に居た。
「ああ、ごめんごめん。食事済んでなかったな。はい、あーん」
「そ、そうじゃなくて! 私一人で食べられますから!」
「気にするこたぁないよ。隊長のあたしが良いって言ってんだから」
「ええ!?」
「ほら、ジョゼも食べないとダメだろ。回復魔法が使えるの、ウチじゃジョゼだけなんだから」
「だからって、あーんされても困ります……」
「あたしは気にしないんだが」
「私が気にします!」
「ほら、ジョーゼットも困ってるわよ、ラル隊長?」
 わざとかしこまった呼び方で注意するロスマン。
「仕方ない。ならあたしの横で食べるんだ。身体離しちゃダメだよ?」
「ふええ、どんな罰ゲームなんですか」

「しっかし、ジョゼはいつもよく食べるね。今日は三人分か……」
「よく、言われます」
 ラルの部屋で、ジョーゼットはベッドメイクをしていた。
 ベッドと言っても簡素なもので、シーツ、毛布と寝袋がごっちゃになった「寒さしのぎ第一」なつくりだ。
 ジョーゼットは慣れた手つきでシーツをぴんと張り、寝袋、上に掛ける毛布を綺麗に敷いた。
「出来ました、隊長」
「有難う。いつも悪いね」
「いえ、慣れてますから、こういうの」
「そうかい。じゃあ早速」
 ラルは頷くと、ジョーゼットをガッとひっ掴み、ベッドに潜り込んだ。寝袋の中で密着するふたり。
「たっ隊長!」
 もがくジョーゼットを、絡め取る様に腕と脚で押さえつけるラル。
「はあ……暖かい」
 幸せそうなラル。
「隊長、暖房がご所望でしたら何か用意しますから!」
「ジョゼで良い」
「私、暖房器具じゃありません!」
「ジョゼ暖房」
「クルピンスキー中尉みたいなこと、言わないで下さい……」
「少し位良いじゃないか」
「……」
 押し黙るジョーゼット。ぬくぬくと暖まるラル。

「ジョゼは……」
 唐突にラルが呟いた。
「はい?」
「とんでもないとこに来た、と思ってるだろ?」
「えっ、いきなり、何を……」
 言葉に詰まるジョーゼット。ラルはそんなジョーゼットを見、笑った。そして不意に真面目な顔をして言った。
「確かにここ(502)は、あたしが言うのもなんだけど、変人揃いの部隊さ。ユニットの損耗も結構きつい」
 真顔でジョーゼットに迫り、言葉を続けるラル。
「でも何とか頑張ってる。何故だか分かるかい?」
「それは、皆さん凄腕のウィッチだから……」
「それだけじゃないな」
「えっ?」
「人を守る、守りたいと思う愛。それが有るからこそ、あたし達は頑張って、今日を戦い、明日へと生き延び、また戦う」
「……」
「ジョーゼットだって、ここへ来る前は随分と活躍したって話じゃないか。あたしも聞いてるよ」
「私なんか、皆さんに比べたら……」
「謙遜すんなって。それに、今こうやって、冷えきったあたしを暖めてくれてるだけでも、十分、ありがたいってもんだよ……」
「えっ、隊長、それってどう言う意味ですか」
「……」
「隊長?」
 ラルはしっかりとジョーゼットを抱きしめたまま、いつの間にか眠りに落ちていた。
 普段は見せない、柔らかな寝顔。規則正しいリズムの寝息がジョーゼットの頬をかすめる。
 ラルの髪がはらりとなびき、ジョーゼットの頬に当たる。辛うじて自由になった左手で、髪を触ってみる。
 さらっとしたストレートの髪。毛先が少し痛んでる。
 間近で見ると、ラルの肌は少し荒れ気味だ。日々の激務のせいだろうか。それとも過酷なオラーシャの気候のせいか。
「ジョゼの肌、すべすべして気持ちいいな……」
 どきりとする。ラルの寝言だ。一体どんな夢を見ているのか。
 幸せそうな顔をしている。でも、
「えっ、えっちな夢はいけないと思います!」
 思わず口にするジョーゼット。
 だがラルは起きる素振りも見せず、安らかな寝息を立てていた。ジョーゼットは身体を動かそうと試みた。
 ……動けない。
 ジョーゼットは身体をラルにがっちり押さえられているから、身動きが取れない。
 今夜も、目の前で寝ている「隊長」と一緒に寝る事になる。
 そう思うと、溜め息をつかずにはいられない。
 だけど。
 こんな子供みたいな可愛い寝顔を見せる相手は、きっと他に居ない。
 ふとそんな事を思うと、同情、と言う訳ではないが、ラルを拒む訳にはいかない。拒めない。
 そっと左手でラルの頬を撫でてみる。
 うぅん、とラルは寝言で反応した。
「ホント、子供みたい」
 くすっとジョーゼットは笑った。
 あと一時間もすれば、寝相が悪いラルは自然と身体がよじれ、そのスキにジョーゼットは自由になれる。
 だけど今夜は、ラルに添い寝してみよう。ジョーゼットは何故かそんな気分になった。

end



コメントを書く・見る

戻る

ストライクウィッチーズ 百合SSまとめ