i, my, mine!
昼の訓練が終わった後、芳佳と一緒にひとっ風呂浴びたリーネ。
飲み物を探しに厨房に向かうと、そこには缶詰を手にしかめっ面をするシャーリーの姿があった。
「シャーリーさんどうしたんですか?」
「ああ、リーネに宮藤か。いや、困ったんだよ」
「缶詰の賞味期限切れたとか」
「いや、そう言うんじゃないんだけど……」
「なんでしょう?」
芳佳とリーネから迫られ、言葉に詰まるシャーリー。うーん、と呟くと、困った顔で話し始めた。
「今日、あたし夕食の当番だろ?」
「そうですね」
「でも、あたしが当番って言うと、みんなにテキトーに缶詰配って終わり、みたいな感じになるじゃん?」
「そうですね」
「だから、何かこう、缶詰を使って料理したいと思ったりなんかする訳よ」
「「ええっ!?」」
「なんでそこハモるかねー。前に、これ使って扶桑の料理作って貰ったじゃん?」
「ええ。作りましたね」
「でもあたしには扶桑の料理は出来ないし。何かないかねー」
「うーん……」
困り果てる芳佳、何かを思い付いたリーネ。
「なら、薄くスライスしてソテーして、パンに挟むとか」
「サンドイッチか。悪くないけど、夕食だしさ。もうちょっと手の込んだものを……」
「でしたら、ジャガイモと混ぜて焼いてみては如何でしょう?」
「缶詰肉を、かい?」
「コンビーフとジャガイモを混ぜてハンバーグみたいに焼く料理の事、聞いた事有ります。それの応用で……」
「なるほど! そいつぁ名案だ! よし、リーネ、早速手伝ってくれ! 夕食まで時間が無いぞ! スピード勝負だ!」
「は、はい!」
シャーリーとリーネはいそいそとエプロンを身に付けた。
「でも良いんですかシャーリーさん」
「何が?」
ジャガイモを洗いながら、シャーリーはあっけらかんと答えた。
「コンビーフの代わりに缶詰肉……言い出したのは私ですけど、合うのかなって」
「あはは、気にしない気にしない」
シャーリーは笑って、言葉を続けた。
「どうせ腹の中に入っちまえば皆同じさ。だから大丈夫」
「そう言うもんですかね」
「それにリーネの掩護も有るんだ、きっと大丈夫さ!」
やけに自信満々のシャーリー。
「ブリタニアのお茶とお菓子はともかく……、料理は食べられたものじゃありませんわ。料理のセンスがありませんわ」
「リベリアン。自分の当番なのに、非番のリーネに手伝わせるとは何事だ」
ペリーヌとトゥルーデが揃って厨房を覗き込んだ。
「あー、うるさいのが来たなあ。こっちは真剣に料理中なんだから向こう行った行った」
「ちょっと何ですの、その態度」
「おい、手を動かしてるのはリーネばっかりじゃないか」
「あたしは洗うの苦手だから缶詰を開ける作業に移っただけだ。文句言うなら食うなよ」
「……」
「全く。……ペリーヌ、ちょっと食堂に行くか。先程行った模擬戦について、少々話したい事があるんだが」
「あ、はい。分かりましたわ大尉」
トゥルーデはそれとなくペリーヌを引き連れ、厨房を後にした。
「文句しか言えないのかね、あの二人は」
呆れるシャーリー。
「多分、シャーリーさんとリーネちゃんだから、だと思います。それにバルクホルンさん、気を遣ってた様な」
横で様子を見ていた芳佳が話す。
「どう言う意味だい、それは」
「だって、気になるじゃないですか。ライバルって言うか、仲間の事」
「単純にそうだと良いんだけどね」
五つめの缶詰肉を開けてボウルに放り込むシャーリー。
「ねえ、芳佳ちゃん」
「どうしたのリーネちゃん」
「さっきからシャーリーさんと私の胸ばっかり見てる!」
「ええっ!? そんな事ないよ」
「じゃあ、少しは手伝って」
「わ、分かった」
芳佳は指をわきわきさせながら割烹着を身につけ、調理の和に加わった。
「まず、ジャガイモは蒸し器で蒸かして、皮を剥いて、つぶします」
リーネの言う通り、調理を進める芳佳とシャーリ-。
「缶詰肉も、よく混ざる様によくつぶしましょう」
「こりゃ簡単な作業だね。あたしにも出来るわ。単純な力仕事だったら堅物にやらせた方が……」
「何か言ったかリベリアン?」
「うわ、近くに居たのかよ堅物?」
「食堂に居れば嫌でも話し声は聞こえてくる。今夜はお前の当番だからな。私はあえて何もしないぞ」
「そうやってチラ見するのかい? あたしの事が気になるのかい?」
「そ、そうやって挑発するな! ……でだ、ペリーヌ。お前は稀に背後に隙が生じる事がある。それは」
厨房のすぐ横の食堂でペリーヌと空戦技について話し込むトゥルーデ。
「……微妙にやりにくいな」
「そうですか? バルクホルンさんもペリーヌさんも静かだし、良いじゃないですか」
「まあ、ね。しかし宮藤、手つき良いな」
「扶桑の料理で、似たもの有りますから」
「なるほどね……でも、捏ねる手つきが、なんかな」
「はい?」
「いや、何でもない」
「ハンバーグ風にするには、つなぎに卵を入れたり、炒めたみじん切りの玉葱入れるともっと美味しくなりますけど」
「ついでだ、時間掛からないならやってみよう」
「はい」
「じゃあ私玉葱みじん切りにするね」
「お願い、芳佳ちゃん」
「あたしは何するかな」
「混ぜるまで、付け合わせの料理をひとつ作りましょう」
「おっ良いねえ……なんか、涙出て来た」
「うっ……リーネちゃん優しい。泣けてきますね」
「芳佳ちゃんにシャーリーさん、それ玉葱切った時になるから!」
「あ、そうなの?」
「そう言えばそうだったね」
混ぜた具をぽんぽんと形にし、油を敷いたフライパンで手際良く焼いていく。
「リーネ、ソースとか要らないのか?」
「缶詰肉の塩分で大丈夫かと思いますけど」
「せっかくだからケチャップでも掛けるか」
「その程度なら」
「リーネちゃん、焼けたよ。お皿出してね」
「ウジュワー、いいにおい!」
「あ、ルッキーニ。ちょうど良かった。そろそろメシだぞ」
「シャーリー作ったの?」
「そうだぞ。あたしの……」
言いかけてリーネをちらりと見る。少々複雑な顔をしたリーネを察し、
「いや、あたし達の特製ハンバーグだ」
と言い直し、ルッキーニを抱き上げた。
「ほう、ハンバーグか?」
興味深そうに料理を覗き込む美緒。
「どうぞどうぞ。あたし達の合作だ。遠慮なく食べてくれ!」
一同はナイフとフォークを手に取り、“ハンバーグ”を食べてみた。
「あら、美味しい」
ミーナが少し驚いた顔をする。
「しかし、ただのひき肉ではないな。妙な塩気が……」
一口食べて、首を傾げる美緒。
「少佐、流石ですね。これ、SPEMが入ってるんですよ」
「あの缶詰肉か」
「ええ。ジャガイモと混ぜて、つなぎ入れて、焼いてみたんですよ。どうです? ってアイデアはリーネなんですけどね」
「なかなか美味いぞ、シャーリー。見事だ」
頷く美緒。
「いやあ……」
「シャーリー大尉にしては美味すぎると思ったらリーネと宮藤が手伝ってたノカ」
「美味しいです、シャーリーさん」
北欧コンビから色々言われ、苦笑するシャーリー。
「アイデアは悪くないですわね」
もう一言言いたそうだが、あえて抑制しつつ食を進めるペリーヌ。
「リーネと宮藤が居たからこそ、だぞ?」
釘を刺すトゥルーデ。言いつつも、もくもくとハンバーグを食べている。
「ま、まあね……で、どうよ味は」
「悪くない。だがちょっと味付けがくどいな」
「一言多いね、堅物は」
「おイモの味がして私は好きだなー」
笑顔でハンバーグを食べきるエーリカ。
「シャーリー、おかわり無いの?」
「悪い、人数分しか作ってないんだ」
「なら私のをやろう。食べかけで良いなら食べるが良い」
「ありがとトゥルーデ」
「堅物、気に入らなかったのかい?」
「そう言う意味ではない」
「じゃあどう言う意味だい?」
「言わせるな。……ほら、すぐさまルッキーニのところへ行ってやれ」
「ん? 何で?」
「一切れ落としたとかで、今にも泣きそうだぞ」
「おおっと! 良く見てるね堅物は。じゃ、そう言う事で」
「まったく……」
「トゥルーデは料理良いの? お腹空くよ?」
「少し位平気だ」
少し顔を赤らめるトゥルーデ。笑顔でハンバーグを食べるエーリカ。
一方ルッキーニは半べそをかいていた。慌てて駆け寄るシャーリー。
「ウエーン、シャーリーごめんなさーい」
「どうしたルッキーニ!? 不味かったか?」
「落としちゃった……」
「ああ、食べかけのを床に落としたのか。大丈夫、あたしのをやるよ」
「え、でもシャーリー……」
「あたしは味見で摘み食いしてるから大丈夫。ルッキーニ、あたしの分も食べてくれよ」
「良いの?」
「えっ、シャーリーさん……」
「あの……」
何か言いかけた芳佳とリーネに向かって『何も言わないで』と目くばせすると、ルッキーニに向き直った。
「ほら。たくさん食べて大きくなれよ?」
「うん! いっぱい食べて大きくなる! シャーリーみたいに!」
「ほら、あーん……」
「あーん……ウキュー シャーリーおいしい!」
「あはは、良かったな! 皆でハッピーになろう!」
機嫌良くハンバーグを食べるルッキーニ、笑顔のシャーリーを見て、芳佳とリーネはひそひそ話した。
「確か、摘み食いなんて……」
「一口もしてないのに……」
「で、でもさあ。さすがボリューム満点だね。すごいよ、リーネちゃんにシャーリーさん」
と、ハンバーグを誉めながら何故か胸を見ている芳佳。
夕食後ルッキーニととりとめないお喋りをしていたシャーリーは、ルッキーニがうたた寝したのを見ると
そっと毛布を掛け、自分の寝室に運ぼうとした。
「あの、シャーリー大尉?」
「待てリベリアン」
振り返ると、ペリーヌとトゥルーデが立っていた。
「あれ。二人共どうした? 今更ハンバーグの文句は聞かないよ」
「馬鹿者」
トゥルーデは呆れながら、皿をひとつ差し出した。
「これは……サンドイッチ? 何で堅物とペリーヌが?」
「お前は何も食べてないだろう。これでも食べておけ」
「……バレてたんだ」
「私は仮にも隊の先任尉官だからな。隊員の事は分かっていないとな」
「こう言う時に、そう言われてもね」
「そもそも、このサンドイッチはペリーヌが気を利かせて作ったんだ。礼はペリーヌに言うんだな」
「あ、ああ。ありがとな」
「いえ、ただ、具材を挟むだけですから、わたくしにもその位は」
「料理はセンスだって、言ってなかったかい?」
少しからかいながら、シャーリーはサンドイッチを頬張った。
「うん。美味いよ。ありがとな」
「では、わたくしはこれで」
「私も戻る。やる事が有るからな」
「うい。ありがとな」
照れ隠しにすたすたと早歩きで去っていくペリーヌ、ふっと笑みを見せた後、部屋に戻るトゥルーデ。
「まったく……」
残りのサンドイッチをもぐもぐと食べ尽くす。
「悪いね、二人共」
そう言うと、横で寝ているルッキーニに目をやった。
「もっと、大きくなって欲しいね」
可愛いおでこにそっと、軽いキスをした。
end