無題
カールスラントの昼はほの暗い。
それが晩秋のテンペルホーフ空軍基地となればなおのことだ。
その晩秋の曇天を白い閃光が塗り潰す。
ついでに轟音が鳴り響き、小規模の爆発音が追走する。
歩哨が一瞬足を止めるが、またか、と溜め息一つで任務に戻る。
ここはテンペルホーフ空軍基地。
地から天へと雷鳴が昇る基地。
轟音を司令室で聞き、ハンナ・ルーデル大佐は今週三回目の補給物資陳情書の下書きを始めた。
直後、司令室を目指し甲高い足音が響いてくる。
下書きを机の引き出しにしまい立ち上がり扉に向かいつつ数を数える。
一つ、足音が近づく。
二つ、空気が帯電し始める。
三つ、司令室の扉が蝶番を引きちぎり内側の壁にめり込む。
四つ、甲高い声が響く前に、その発生源をふさぐ、自分自身の口で。
五つ、噛み付かれないように注意しながら、目標の弱点を己の舌で蹂躙する。
それから、ゆっくり10数え大きな音と共に舌を抜き取る。
まず、快楽に砕けた腰が下がり、力の入っていない脚が立つ事を放棄する。
ほうっておけば転けるのは明らかだ。
しかし、そうはならなかった。
「大佐。お戯れが過ぎます」
凍らせた薔薇の美貌が背後から、支えたからだ。
「今更だアーデルハイド、この司令室を四度も壊されてはかなわないからな。」
熱烈な口付けを交わした後だと言うのにルーデルは眉一つ動かさずに、その薔薇の秘書官告げる。
「扉のみの破壊を数に含むならば19度目になります」
「律儀だなアーデルハイド」
「出来れば次回以降は二人の時に決着を付けて下さい」
「は、ベッドの上では私の一人勝ちになるからな」
「存じております。上がる前も上がった今も航空魔女に撃墜された事が無いのが大佐の自慢ですから」
「そう褒めるなアーデルハイド。仕事を続けたいそのシャルトリューには轡を噛まして縛り上げ私の部屋に転がしておけ」
「何時もの縛り方でよろしいでしょうか」
「カールスラント軍正式の捕縛術も美しいが扶桑のなんと言ったか米俵を縛る縛り方を頼む」
「了解しました大佐。亀甲縛りですね」
ネウロイの脅威がオストマルク国境に下がった今、カールスラントは平和であった。
一人のガリア令嬢の除き