kiss me, kiss you
フラフラと廊下を彷徨い歩くエイラ。寝不足か、はたまた疲労か、顔は心なしかやつれ、生気がない。
「あれ、エイラさんどうしたんですか? 朝食まだ食べてないんじゃ……エイラさん?」
食堂から出て来た芳佳が、エイラの異変に気付く。慌ててエイラの手を握る。
……アタタカイ。
エイラは突然芳佳を全力で抱きしめ、鯖折りに近い状態で拘束すると、芳佳に濃いキスをした。
「んんっ……くっ……ぷはあ」
長いキスを終えると、手を緩めた。芳佳は慌てて離れ、わなわなと震えた。
「……な、な、何するんですかエイラさん!? いきなり酷いです!」
「宮藤、カ……」
まるで感触で相手を判断したかの如く、虚ろな目を彷徨わせ舌なめずりするエイラ。
「え、エイラさん? ちょっとと言うか凄くおかしいですよ? 一体どうしたんですか?」
「宮藤は一度でイイヤ」
「ええっ? どう言う事ですか」
そこに、食堂から出て来たウィッチ達が二人を見つけた。
「た、大変です皆さん!」
「どしたの芳佳ぁ?」
「エイラさんが、エイラさんがヘンなんです!」
「そりゃいつもの事だろ」
「違うんです、そうじゃなくて!」
ふと気付くと、ルッキーニの姿が無い。あれ? と辺りを見る一同。エイラは廊下の隅でルッキーニを同じくきつく抱きしめキスをしていた。
「ぐふっ……たたた、助けてシャーリー!」
「おい! 何やってんだエイラ!」
口を拭ってシャーリーのもとに走るルッキーニ。しかしそれよりも早く、エイラはシャーリーの唇を奪っていた。
「うぷっ……う……」
全力でエイラを引きはがし、口を拭うシャーリー。
「いきなり何だ、エイラ!?」
「ヴァー あたしのシャーリー……」
「あたしだって大切なルッキーニを……おいエイラ、これはどう言う事だ?」
「ルッキーニにシャーリー大尉カ。まずまずダナ」
「何だって?」
「ちょっと皆さん、朝から何を騒いでますの?」
「あ、ペリーヌ来ちゃダメ……って遅かったか」
言う暇も無くエイラの餌食になったペリーヌはしおしおと腰を落とし、一体何が起きたのか理解出来ずただ絶望した。
「え、エイラさんに……そんな」
「エイラ、どうしたんだ?」
「マアマア満足ってとこカナ?」
「はあ?」
「エイラ待て!」
「あ、でもうかつに近付くとまたエイラさんに……」
「なんだか手当たり次第に噛んでくる犬みたいだな。どうすんだよ」
「どうした。騒がしいな」
「あ、坂本さん」
「エイラがどうかし……」
襲い来るエイラを本能的に察知した美緒は、たまたま手にしていた扶桑刀を瞬時に抜き放った。
交錯する身体。
美緒の唇に触れる直前でエイラはがくりと姿勢を崩し、倒れ込んだ。
「ちょ、ちょっと少佐?」
「まさかマジ斬りとか」
「軽い峰打ちだ。居合いの要領でな」
「凄い殺気だったね」
「で、エイラがどうしたんだ?」
「えっ? 斬ってから気付くんですか坂本さん?」
「なんか、エイラさんがキス魔に」
「手当たり次第に襲って来たんですよ」
「わたくし……暫く立ち直れそうにありませんわ」
「あ、エイラ。ここに居た」
一同が振り向くと、下着姿のサーニャがぽつんと立っていた。
「あ、サーニャちゃん。夜間哨戒明けで、寝て無くていいの?」
「大丈夫。エイラを連れに来たから」
「え?」
「エイラが何かしてたら、ごめんなさい」
眠そうな目をしたまま、サーニャは気を失ったエイラをずるずると引きずって、エイラの部屋に籠もってしまった。
「一体、何だったんだ……」
「サーニャにも話を聞きたかったが……うーむ」
一同はただ呆気に取られた。皆揃って、唇を服でごしごしと擦った。
「さあ、エイラ。おいで」
「サーニャぁぁぁ」
エイラは呼ばれると条件反射の如く、サーニャの首筋に唇を這わせ、そのままキスをした。
「やっぱりサーニャが一番ダヨ」
「ふふ。可愛いエイラ。もう他の人にしちゃだめだからね?」
「したいケド、サーニャが言うナラ、絶対シナイ」
「うふふ。可愛いエイラ。おいで、私のエイラ……」
エイラは甘える子猫の如く、サーニャに抱きついた。自然に受け容れるサーニャ。
机の上には、「今日から貴方も出来る! 催眠術」と書かれたぼろぼろな本が置いてあった。
この本がどうして此処に有るのか、エイラに何が起きたのか、知るのはサーニャただ一人。
「エイラを愛するのは、この私だけで、いい」
エイラのキスを受けながら、サーニャはふふふ、と笑った。
end