kiss me, more


「ハ? 私ガ、キス魔ニ? 冗談言うなヨ」
 エイラは笑って否定した。
「プンプン! エイラあたしに無理矢理キスした!」
「あたしも見てたっていうかされたぞ」
「わたくし、舌も入れられて……」
「エイラさん、いきなり酷いです」
 ルッキーニ、シャーリー、ペリーヌ、芳佳から詰め寄られ、只ならぬ気配を感ずるエイラ。
「え、イヤ……私は全然覚えが無いゾ。イヤ本当ニ」
「エイラお前、もしかして酔っ払ってたか?」
「そんな筈無いに決まってるダロ!? もし仮に酔ってキスしたら酒臭い筈ジャナイカ」
「そう言われれば……特に何も」
「でもあたし達にキスしたのは事実なんだから、認めてよね!」
 詰め寄るルッキーニ。
「認めろって言われてもナー。私に記憶が無い以上はどうニモ」
「私に斬られた記憶はないのか?」
「うわッ、少佐。何で少佐ガ?」
 ぬっと現れた美緒を見てエイラは驚いた。
「エイラ、お前は私にも飛び掛かって来たんだぞ。まあ、峰打ちで済ませたが。痣は出来てないか」
「エッ!?」
 言われて腹の辺りを探ると……微かに痣らしきものが直線で引かれた様に付けられていた。
「私もこの目でお前の奇行を見た。これだけ目撃者と被害者が居るんだ。いきさつを説明して貰おうじゃないか」
「ちょっちょっと待ってくれ皆! 私、全然記憶が無いシ……」
「言い逃れは許されんぞ。酩酊状態で犯行に及んだのなら尚更タチが悪い」
「そ、そんなァ!」

「……それで、自室禁固一日の処罰を受けたの?」
「アア。すんごい納得いかないゾ」
 エイラの部屋で会話する、エイラとサーニャ。サーニャは食事を運ぶ役として特別に入室を許可されたのだ。
「昨日の夜から何にも覚えてないシ、特に変わった事も無かったシ……サーニャもそう思うダロ?」
「エイラ……」
「大丈夫、一日なんてすぐだからまた元通りになるッテ。……ただ、何でこうなったのかだけはさっぱり分からないケド」
「……」
「そんな悲しそうな顔スルナヨ、サーニャ。私がついてル」
「ごめん、なさい」
「へっ?」
 サーニャは机の上に置いてあった、古びた本を見せた。
「あれ? これは確か本棚にしまってあった……」
「私、読んだの」
「サーニャガ?」
「私、試したの」
「サーニャガ?」
「エイラで」
「サーニャガ? ってえええエッ!? 試したって一体何ヲ!?」
「エイラに、もっと愛されます様にって。でもなんかどこかおかしかったみたいで、エイラ、起きたら廊下に出て……」
「じゃあ、皆にキスしたのは本当だったのカ……」
「エイラで遊ぶつもりじゃなかったの。ごめんなさい」
「いや、まァ……」
 答えに困るエイラ。
「私、ただ純粋に、エイラが欲しくて。でも、うまくいかなかった。みんなにも迷惑掛けたし……」
「何処行くんだサーニャ?」
「ミーナ隊長に話してくる。元はと言えば、全部、私のせいだから」
「サーニャ待っテ」
 エイラは、ドアノブを掴みかけたサーニャの手を取ると、そのままベッドに連れ帰った。
「確かに、サーニャは共犯者かもしれナイ」
「うん」
「でも悪いのは私ダ」
「だけどそれじゃエイラが可哀相過ぎる! 自分の意志じゃないのにみんなを襲って……それは明らかな事実だし」
「だからってサーニャが可哀相な目に遭うのハ、私ガ絶対に許さなイ」
「エイラ」
「例え悪戯したからってサーニャが怒られるのモ、サーニャまでヘンな目で見られるのモ、どっちも許せなイ」
「……」
「だかラ、私ガサーニャの分まで、背負うヨ。真実を知る事も大切ダケド、それで全てが解決するとは限らナイ」
「でも、嫌われるよ、エイラ。エイラは悪くないのに」
「構わないヨ。サーニャが変わらず私を好きで居てくれるナラ。だから行かないでサーニャ」
「エイラ……ごめんなさい」
 涙をぽろぽろとこぼし、エイラに抱きつくサーニャ。エイラの胸の中で、サーニャは囁いた。
「私、今日はエイラと一緒に居る。ずっと」
「本当? 嬉しいヨ、サーニャ」
 エイラはサーニャをそっと抱きしめ、優しく頭を撫でた。そしてゆっくりと、キスを交わす。
 確かに、エイラ自身に原因は無かった。しかしそんな事はどうでも良かった。
 二人が求めるもの、それは何も変わらぬ強い絆と愛。その為に、エイラはサーニャの「沈黙する守り人」となる。

end


前話:1328

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