haze in daylight
「トゥルーデはさ」
薄曇りの、静かな午後のひととき。
トゥルーデの部屋、ベッドの上に座り、紅茶を飲みながらエーリカは目の前の婚約者を前に問うた。
「どうして私が好きなの?」
答えづらい質問を前に、トゥルーデは首を傾げた。
「それは……好きだから、じゃあダメか?」
「好きだから好き、ねえ。何か哲学みたい」
エーリカは笑うと、リーネが丹精込めて焼き上げたクッキーを一口かじった。さくっとした歯触りが心地良い。
「他にどう答えれば良いんだ」
うーむと考え込んだトゥルーデは、紅茶をくいと飲むと、ポットからおかわりを注いだ。
雲の隙間から緩く日差しが差し込み、窓越しに二人を照らす。飴色にも似た色が二人を包む。
「なら、エーリカはどうして私が好きなんだ?」
トゥルーデの言葉に、エーリカは照れ笑いを浮かべた。
「トゥルーデと居ると楽しいから。だから好き」
「楽しい、か」
「あと、言っても良い?」
「ああ」
「トゥルーデ、たまに危なっかしい所有るから、私が守らなきゃって思う時も有るよ」
「それはどう言う事だ?」
「だって、たまに暴走するし。そんな時はしっかり背中を守らないとね」
「暴走って……」
「それに分かってるよトゥルーデ。上のエラい人から、私をかばってくれてること」
「うっ……そ、それは、その。優秀で大切な仲間だ、つまらない規則や偏見ごときで失うなど許せない」
「顔赤いよ、トゥルーデ」
「……」
照れ隠しに、クッキーを一口で食べる“お姉ちゃん”。
「普段はうるさく規則規則って言ってるのに、トゥルーデの口から『つまらない規則』とか」
ふふ、と笑うエーリカ。トゥルーデは何と言えば良いか分からなくなった。
「でもね、トゥルーデ」
エーリカは言葉を続けた。
「そういう理由も幾つか有るけど……やっぱり全部ひっくるめて、トゥルーデが好き」
「何だそれは」
「最終的に行き着くのはそこかな。トゥルーデと一緒」
カップに残った紅茶を飲み干すと、エーリカはトゥルーデの背にもたれかかった。
トゥルーデもエーリカの行為を自然に受け入れる。
「一緒か」
「安心した?」
「……ああ」
「それに、こうして二人で一緒に居て、のんびりして、背中を合わせてるだけでも、良いなって思うよ」
エーリカはトゥルーデに体重を預けた。
ふっと笑みをこぼすカールスラントの“堅物”。
背中を合わせ、ただただ、くつろいでいる。それだけの事が、とても大事で、幸せに感じる。
静かに目を閉じるトゥルーデ。同じタイミングでエーリカも目を閉じた。
喧噪らしい喧噪もなく、時折廊下を通る誰かの控えめな足音、外で囀る小鳥の歌、風に揺られる木々のさざめきが、微かに聞こえる。
そして、背中越しに感じる、お互いの温もり。
「ねぇ、トゥルーデ」
「どうしたエーリカ?」
目を閉じたまま二人は名を呼び合う。
「伝わった?」
「何を?」
「私が考えた事」
「……言った方が良いのか?」
「まるで全て分かってると言いたそうだね」
「恐らくは」
トゥルーデはエーリカをそっと抱き寄せると、頬に軽く唇を当てた。
「カッコつけてる、トゥルーデ」
「そ、それは……」
「照れるトゥルーデも可愛い」
そう言うとエーリカは同じ事をして返した。そのまま唇を重ね、緩く抱擁する。
長く甘いキスを交わした二人は、そのまま抱き合ったまま、お互いを感じる。
「伝わってて安心した」
はにかむエーリカ。
「そうか。良かった」
「トゥルーデだもん。だからこそだよ」
エーリカはそう言うと、服の袖をくいと引っ張り、もう一度と求めた。
トゥルーデは愛しのひとを抱き直し、ゆっくりと、味わうかの様にキスを交わした。
やがて訪れる微睡みを前に、目を閉じ、二人は余韻を楽しんだ。
午後の、優雅で気怠くも贅沢なふたりの、ふたりによるふたりのための時間が過ぎて行く。
end