あったか治癒魔法


「う……ん……」
牛乳をたらした水みたいに視界がぼやけてる。
その奥にぼんやり見える、大きな梁、電球のほのかな光、白いカーテン……。
窓の外には霞がかった月。あぁ、ここは医務室か。……またやっちまったな。
大型ネウロイと戦ってる最中に、目の前にコアが見えたところで弾切れになって、
思わずげんこつでコアをたたき壊したところまでは覚えてるんだけど……。
ユニットは無事、なわけないよな。あぁ、また正座とハンガー掃除の日々か。
本当、502は楽しいよ。

「うっ……!」
姿勢を変えようと軽く体を動かしただけで体の隅々に痛みが走る。
はは……思ってたより無茶しちまったらしい。
こりゃまた、サーシャにみっちり怒られるな。
「あなたはどうして自分の命を大切にしないの!」って。
ごめんな、サーシャ。でも、不器用なオレにはこんな生き方しかできないんだよ。

それにしても、医務室のベッドがこんなに気持ちのいいものだなんて全然知らなかった。
裸の肌に触れるシーツはぱりっとしているし、背中もお腹もなんだがあったかい。
遠い昔、お母様に抱かれていた頃を思い出すような、不思議な感じだ。
幸せに包まれてるって、こういう感じのことをいうのかもな。
ゆっくりと体の向きを変えると、不意に左手がなにか柔らかいものに触れた。
なんかしっとりしてて、ハリがあって、あったかくて……。

「うひゃぁぁぁ!!」
体の痛みも忘れて、オレは思わず飛び起きた。
「ちょっ、えっ、ばっ」
なっ、なんでジョゼが裸でオレの隣に寝てるんだよ!
って、オレも裸じゃん!今気がついたけど!

「う~ん……」
オレの大きな声に目を覚ましたのか、ジョゼが目をこすりながら体を起こした。
「あ……ナオちゃん。気がついたんですね~。よかった~」
「え……と……お前、何してんの……」
「ナオちゃんに治癒魔法かけてたんですよ~。元気になってよかったです~」
そういっているジョゼの体は右に左にゆらゆら揺れている。
……だめだ、こいつ半分寝ぼけてやがる。
「ほら~。ナオちゃんはケガ人なんですから、ちゃんと寝てないとだめですよ~」
「ちょっ、おいっ……!ジョゼ、やめっ……!」

まるでぬいぐるみのようにジョゼに抱きつかれたまま、ベッドの上にぼふっと横たえられる。
「ジョゼ……はなして……一人で寝れる……」
「ふゎ、ん……」
次の瞬間、すぅすぅと可愛らしい寝息が。魔力を解放したまま寝てしまったから、
ジョゼにがっちり挟まれたまんま抜けられなくなってしまった。


寝ろといわれたって、こんな状況ではいそうですか、と寝られるわけがない。
ジョゼに抱きつかれて身動きとれないし、ちょっと重いし、
……なによりドキドキして眠れやしない。
しかし、改めてよく見ると、ジョゼってかなりかわいい顔してる。
まつげは長いし、目鼻立ちははっきりしてるし、髪はさらさらだし。
姉ちゃんが持ってた青い目の人形みたいだ。
伯爵じゃなくても、ちょっかい出したくなる気持ちはわかる。
……ちがうよ、サーシャ。浮気じゃないって。

「う……ん……」
ジョゼがもぞもぞと体を動かして、オレをもう少し強めに抱きしめる。
……やばい、これはやばい。
ジョゼのやわらかな胸がオレの貧相な胸にあたってる。
丸められたしっぽが太ももと腹の下のあたりでさわさわしてる。
しかもいつのまにか足を絡められてる。
このままじゃあまりにもまずい。
少し離れようと体をよじると――。
「んっ、はぁ……」
ジョゼから甘い吐息が漏れた。そのとき、オレの中の何かがはじけ飛んだ。

気がつくと、オレはジョゼにキスしていた。
ジョゼの唇はやわらかくて、甘くて、頭の奥がじんじんしびれてくる。
そっとジョゼの背中に触れると、肌はすごくすべすべしてて、しっとりしてて、
手に吸いついてくるみたいだった。
そのまま手を前に持ってきて、ジョゼの膨らみに手を添える。
サーシャのよりおおきいそれは、やわらかいのに張りがあって、
オレの手をしっかりと押し返してくる。
やわらかくて、あったかくて、気持ちいい。
オレのもこのぐらい大きかったら、触って気持ちいいのかもな。
猫の頭を撫でるみたいにジョゼの胸をそっと触っていたら……
誰かに手首をつかまれた。

「ずいぶんとお楽しみのようね、管野直枝少尉」
「さ、サーシャ……!」
いつの間にか、ベッドの横にサーシャが立っていて、
白熊でも殺せるんじゃないかってぐらいの鋭い視線でオレを睨んでいた。
魔力を解放してないはずなのに、ものすごい力で手首が締め付けられる。
「そろそろ目を覚ましてる頃だと思って様子を見に来たら……。
私がどれだけ心配してたか、あなたわかってるの!?」

「あ……ポクルイーシキンたいぃ……おはようございます~」
まだほとんど寝たままのジョゼがなんとも呑気にサーシャに話しかける。
お前、本当空気読めよ!
「ありがとう、ジョーゼットさん。直枝少尉はずいぶん回復したみたいだし、
後は私に任せて、あなたはゆっくり休んでちょうだい」
「あ……はい~。よろしくお願いします~」
サーシャのとびっきりの笑顔に隠された全然笑っていない目に気がつかないまま、
ジョゼはシーツに潜り込んで寝てしまった。

「さっ、ナオ。私の部屋でじっくり話を聞こうかしら?」
「え……あの……」
「大丈夫よ。まだ夜は長いから『そういうこと』をしたいんだったらたっぷり付き合ってあげる……」
固まったまんまのオレを、サーシャは軽々と抱え上げて医務室から連れだした。
「あれだけのケガをしたんだから、明日は一日休んでても、誰も不思議には思わないわよね、ナオ」

……その後、サーシャがオレにどんなことをしたのかは軍事機密扱いなのでしゃべることはできない。
というか、思い出したくないのでしゃべらせないで欲しい。本当に。

fin.


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