さにゃがにゃんにゃんエイラーかめん


最終話「甦れ!ジャスティン・ミラクル・ミラクル」


 えいらー えいらー えいらー

 それは山びこのように、耳をすませば聞こえてくる。ような気がする。
 ていうか聞こえてますか? なにか聞こえたって人は今すぐ病院に行った方がいいと思う。

 オレンジに縁取られる荒野の地平。
 吹きすさぶ砂嵐に羽織るポンチョを棚引かせ、ゆっくりヤツが歩いてくる。
 エイラ・イルマタル・ユーティライネン。
 あ、実際は夕日とか砂嵐はないっす。ここって基地の中だし。室内だし。
 じゃあここまで書いたことってなによ? イメージ映像? 考えないようにしようっと。

 カランカラン。
 エイラは食堂へ入ると、一番奥の椅子に座った。エイラの特等席である。
「テキーラ」
「はい、エイラさん。朝はやっぱり牛乳ですよね」
 芳佳はエイラの前にキンキンに冷えた牛乳を置いた。
 エイラはそれをぐぐっと一気に飲み干した。
 爽やかな笑顔。ウン、朝はやっぱり牛乳ダナ、とエイラは思うのだった。

 その後、エイラは芳佳と小一時間ばかり小粋な会話を楽しんだ。
 些細な世間話からはじまり、釣り鐘型とお椀型のどちらが究極かという、専門的かつ学術的な話に及んだ。
 扶桑人のくせして釣り鐘型を推す芳佳に対して、エイラは断固としてお椀型を力説する。
 互いの主張は平行線をたどり、一時はあわや乳繰りあいという一触即発の雰囲気にまでなったが、
 結局はエイラが折れる形となり、「釣り鐘型こそ究極」という結論に達した。
 その代わり、「お椀型は至高」という称号を獲るに至ったのだった。
 これは事実上、エイラの勝利と言っていい。究極と至高ならやっぱり至高だよね。

「そういえばサーニャちゃん遅いですね」
 なんとなく思い出したように芳佳は言ったが、なにがそういえばなのだろう? エイラは首を傾げた。
 今までの会話からなにかサーニャを想起することがあったろうか。サータンならばともかく。
「ンー、そういえばそうダナ」
 エイラはとりあえずうなずいたが、たしかにサーニャの様子が気がかりではあった。
 なんだろう。なにか嫌な予感がする。考えれば考えるほど、もやもやは顕在化していった。
「私、ちょっとサーニャを探してくるヨ」
 そういうことになった。

「サーニャ! サーニャー!」
 大声を張りあげながら、基地中を駆け回るエイラ。
 しかし、一向にサーニャは見つからない。サータンも。いや、サータンなら部屋ですけどね、エイラの。
 疲労と憔悴からとうとう、エイラはへなへなと地べたにくずおれてしまった。
 たった数行で? とお思いになるかもしれないが、1行1行で結構時間が進んでいるのだ。
 さながら浦島太郎である。髪の毛も真っ白である(もともと)。

「どうかしたんですの、エイラさん。どこか体の具合でも……」
 そんなエイラを見かねてか、さも偶然そこを通りかかったふうにペリーヌは声をかけた。
 今、エイラの前に現れたことがペリーヌの運の尽きである。
 エイラはゆっくりと顔をあげ、ペリーヌと顔をあわせる。
 その瞬間、エイラは悟ったのだった。
 アレ? コイツ、怪しくね? って。
 言われてみれば、そう見えなくないような気がしないでもない。
 たとえるなら、いつものツンツンメガネがツンツンツンメガネくらいに。
「そうカ、そういうことなんダナ」
 わなわなと立ちあがるエイラ。武者震いが抑えられない。
 その時エイラの頭の中では、みるみるこれまでのストーリーが構築されていく。
 さっき飲んだ牛乳の味とか、芳佳との会話とか。これまでの辛い授業とか、育んできた熱い友情とか。
 やがて、エイラは1つの結論に至った。
 なにせペリーヌだ、西部劇でいえば町を牛耳る保安官である。胸の星が泣いているぜ!
「オイ、ペリーヌ! サーニャをどこに連れ去った!」
「サーニャさん? サーニャさんでしたら――」
「問答無用ッ!」
 エイラはタロットカードを素早く抜き取る!
 それをトランプ手裏剣の要領でペリーヌめがけて投げつけた!

 ぷしゅー

 悪は滅びた。
 見事タロットカードはペリーヌの脳天に突き刺さり、血飛沫をあげた。
 ばたん、と立てた本でも倒すように、ペリーヌはそのまま地べたに倒れた。
「大成敗ッ」
 くるりと背を向け、エイラは再び歩き出した。
 いくらなんでもやりすぎなんじゃ……そう思われるのも致し方ないかもしれない。
 もし相手が悪の小悪党ではなく善良な一般人なら、各所方面から苦情殺到なところだね。反省反省。

 しかし、サーニャの行方はてんで掴めずじまいだった。
 カバンの中も、机の中も、探したけれど見つからないのに。
 それでも踊る気になんてなれなかった。エイラはまだまだ探す気だった。
 くるっぽー。
 と、そんなエイラの前に。
 鳩である。
 なぜに鳩? オリーブはくわえていない。豆鉄砲も。だったらこれしかあるまい。

 『お元気ですか。私は元気です。
  ネコは好きですか。イヌよりネコ派ですか。実は私、ネコを拾いました。とてもかわいい黒ネコです。
  エイラ、いいえエイラーかめん。もう気づいたようね。そう、その黒ネコとはサーニャちゃんのことです。
  サーニャちゃんを返してほしくば、正々堂々、私と勝負しなさい。勝ち取りなさい。
  ンジャメナ』


 なんだンジャメナって。いや、アフリカのどっかの都市だけど。
 最後に書かれているということは、差出人の名前だろうか。そんな人、エイラは知らないが。
 っていうか、ンからはじまる名前ってどうなんだ。出席番号絶対最後じゃないか。
 いや、それよりも。
 なんだエイラーかめんって。
 だって私の“正体”は、サーニャだって知らないはず……
 ぐるぐるぐるぐる、エイラは考えを巡らせた。
 悠長に考えている場合ではなかった。
 私がサーニャを助けなきゃ。
 ぐしゃり。手にした紙を握りつぶし、エイラは固く心に誓ったのだった。

 決戦の朝をむかえた。
 場所はコロッセオである。
 決戦といえばコロッセオ。常識である。テスト範囲である。蛍光ペンか赤ペンでアンダーラインである。
 しかし、待てど暮らせど、その場にエイラが現れることはなかった。
 これにはンジャメナさん(仮)もご立腹である。
 腕時計をチラチラ。銀の髪をふわりかき乱す。巌流島の小次郎状態だ。ってそれ負けフラグじゃん。
 ついぞエイラが現れることはなかった……

「ひとつ火の粉の雪の中」
 その代わり、颯爽と現れたのはエイラーかめんだった!
 といっても客席に。最前列に。腕組みして。
 なんてったってヒーロー。登場は高いところからってもんだろ?
「ふたつフミカネ原作者」
 ちなみにこれは、エイラーかめんお決まりの口上である。念のため。
「みっつみっちゃん出番なし――エイラーかめん見参!」
 とうっ……!
 勢いよくエイラーかめんはぐるぐる回って飛び降りた。

 説明しよう。エイラーかめんとはひっくり返せばかめんエイラーになるのだ。
 とどのつまり、サーニャの味方、サーニャ限定のお助けヒーローである。
 その仮面の下の素顔がエイラであることは誰も知らない……!

 ぐにゃり

 あと、視界も悪くなるのだ。仮面つけてるから。

 かっこよく月面宙返りでも決めようとしたところ、見事に着地に失敗してしまい、
 足首をひねったかと思えば、ごろごろと地面を転がっているエイラーかめん。ヒーローですよ?
 登場早々の負傷に、エイラーかめんはなかなか立ちあがれなかった。
 それは足首の痛みより、カッコつけようとして逆にカッコ悪いことをしてしまった羞恥心が勝っていた。
 心身ともに散々である。
 ちなみに本日はお日柄もよく、見事な決戦日和――つまりサンサン(Sun Sun)である。
 もしこれから決闘でもしようものなら、エイラーかめんの敗北は必須の大怪我をおってしまった……!

「クソッ……サーニャを返せ! 私のサーニャ!」
 残る力を振り絞って、エイラーかめんは立ち上がる。
 つか、ぬけぬけと「私のサーニャ」とか言っちゃってますよ奥さん。
 正体がバレてないからってちょっと大胆すぎじゃありませんこと奥さん。
「それはできないワ」
 が、ンジャメナさんはきっぱり拒否。
「サーニャちゃんを返してほしくば私に勝ちなさいと書いてあったはずヨ、エイラーかめん」
「やはり戦うしかないのカ……」
 本当ならエイラーかめんは戦いたくなんてなかった。
 それは怪我のこともあるけど、なんだかンジャメナさんとは戦う気が起きなかったのだった。
 本当は敵同士じゃない、そんな気がするのだ。
 ンジャメナさんからどこか懐かしいものを、エイラーかめんは感じていた。
 一体誰かは知らないけど――っていうか誰?
 それもそのはず。実はンジャメナさんも仮面をつけていたからだ。
 奇遇にもエイラーかめんも仮面をつけていたりする。
 これから仮面舞踏会の幕開けだろうか。あるいは武道会。ま、そんなわけないけどね。

 当たり前だが、対決方法はタロットである。
 他になにがありますか?
 22枚の大アルカナと56枚の小アルカナを組み合わせた自分だけのデッキを構築し、
 さらに正位置・逆位置の配置などまさに無限の戦略が楽しめる、今世界中で大人気のカードバトルである。
 みんなもう知ってるよね。細かいルールはググるなり友達に聞くなりしてほしい。以上。

「私のターン! ドロー! 《硬貨の1》を正位置に配置!」
 先攻のエイラがターンエンドを宣言する。続いてンジャメナさんのターン。
「ドロー! 《剣の1》を正位置に配置! 《硬貨の1》に攻撃!」
「なんだっテ!?」
 ダイヤのエース破れたり。
 数字が同じなためライフこそ削られないものの、早々に《硬貨の1》はアボーンしてしまった。合掌。
「な、なかなかやるようダナ……しかし私は負けるわけにはいかないんダ!」
 その台詞はむしろ悪役っぽいぞエイラーかめん。
 ともあれ、やられっぱなしのエイラーかめんではない。
 100メートル走ならまだしも、タロットバトルなら絶対に負けない自信があった。
 周到に用意した布石、算段と言っていい。
 それと言うのはガンパイならぬガンタロットである。語呂よく言えばガンロット? 語呂悪いな。
 自身の最強カードをシャッフル時にわざと手札の上に来るように忍ばせておき、
 あとは場に特殊召喚、一気に勝負をつけてしまおうというアレだ。
 エイラーかめんお得意の戦略であるのは周知のとおりである。最終回にわざわざ述べることでもなかったか。
 まさに一撃必殺。バレた瞬間に反則負けが決定する諸刃の剣でもあるが。
「私のターン! ドロー! ………………アレ?」
 引いたのは《硬貨の2》である。なんてこった、とんだクソカードである。
「どうかしたノ、エイラーかめん」
「なっ、なんでもないゾ!」
「だったら早くしてヨネ。それともターンエンド?」
「ちがっ……《硬貨の2》を逆位置に配置……ターンエンド」
 しどろもどろになりながら、エイラーかめんはぼそぼそタロった。
 むろんのこと、こんな好機を見逃すンジャメナさんではない。
「《剣の1》を生け贄に《皇帝》を正位置に召喚! 特殊効果〈絶対王政〉を発動!
 《硬貨の2》を場から無効化し、相手プレイヤーを直接攻撃!!!!」
「うぼああああああああああっ!!!!」
 あまりの攻撃に悲鳴をあげるエイラーかめん。
 そればかりか、まるで紐で引っ張られでもしたかのように、後ろに数メートル吹っ飛んでいった。
 これはそういうノリのバトルなのである。

「クソッ! 一体なにが起こったっていうんダ……?」
 エイラーかめんは立ち上がった。
 しかし、その体はもはやボロボロである。その足取りはまるで生まれたての馬。
 なにが起こったのか、エイラーかめんにはわからなかった。
 自分のガンロットは完璧だったはず。ではなぜ《硬貨の2》なんて引いてしまったのだろう。
 デッキからカードが1枚だけなくなっているなんてこと、果たしてあり得るだろうか?
 ではみなさんも考えてみよう。
 シンキングタイム10秒。
 9、8、7、6、5、4、3、2、1……ブブー!
 正解はペリーヌに投げつけたのをうっかり回収し忘れたでした。
 ……本当にごめんなさい。

 エイラーかめんの基本戦術は前述のとおり、1枚の最強カードに依存したものである。
 他のカードはその1枚をいかに活かすかということを考えてデッキを構築している。
 では、あろうことかその1枚だけが抜け落ちてしまえば、デッキはどうなってしまうだろうか。
 紙くずである。捨てる時には燃えるゴミか古紙のリサイクルである。
 エイラーかめん、完全敗北の瞬間であった。

「私のターン。ドロー。《硬貨の騎士》を逆位置に配置。ターンエンド」
 エイラーかめんがそう告げた時、事実上の勝負はついていた。
 《硬貨の騎士》は小アルカナではそこそこの強カードではあるのだが、
 大アルカナ屈指の攻撃力を有する《皇帝》の前では屁みたいなもんだ。
 これがまだ《女王》や《王》なら《皇帝》の〈絶対王政〉に反旗を翻らせることもあるいは可能だったのに。
 ンジャメナさんのターンがやってきた。
「特殊効果〈絶対王政〉を発動! 《硬貨の騎士》を場から無効化し、相手プレイヤーに直接攻撃!!!!」
 それはまさに死刑宣告と呼ぶにふさわしい。
 生身の人間が蒸気機関車に立ち向かうような、埋められない圧倒的戦力差とどこまでも深い絶望感。
 エイラーかめんは死の瞬間、恐怖からぎゅっと目をつむった。
「うぼああああああああああっ!!!!」
 後に残されるのは断末魔のみである。
 全身が張り裂けんばかりに駆けめぐる叫声。
 そのあまりのリアルさに、エイラーかめんはそれが自身のものであるとすっかり錯覚していた。
 そう、エイラーかめんの命はまだ尽きてはいなかった。
 ゆっくりと目を開けるエイラーかめん。その瞳に真っ先に映るものとは。
 エイラーかめんの前に両手を広げて立ちふさがる人物、それは――

「サーニャが! サーニャが守ってくれたんダ……!」

「ずっとずっと思ってた。わたし、エイラを守りたかった。
 いつもわたしのこと守ってくれて、でもわたしからはなにもお返しできなくて……
 エイラ。わたし、少しはエイラの役に立てたのかなあ……?」
「アア! そんなこと当たり前じゃないカ! エイラーかめんはそう思うゾ!」
 くずおれるサーニャの体を受け止めながら、エイラーかめんはぶるんぶるんとうなずいた。
 手と手をぎゅうとかたく結ぶ。もうけっして離れてしまうことがないように。
「ありがとう、出会ってくれて。ありがとう、いつも守ってくれて。ありがとう、いっぱいやさしくしてくれて。
 ありがとう、エイラ……じゃなかった、エイラーかめん」
「うわあああああああああ!!!! サーニャアアッ!!!!」
 感情に身を任せるまま、エイラーかめんは泣いた。
 仮面の間から溢れたそれは、汗っかきの汗のような、ものすごい涙だった。

「とんだお邪魔虫が入ってたワネ」
 へたりこむ2人を見下ろし、ンジャメナさんは荒ぶるブルマのポーズ。
 こんなことになってしまったのに表情ひとつ代えずに。だって仮面つけてるしね。
「オマエの血は何色ダ――――ッ!!」
 怒髪天をつくエイラーかめん。
「ちはチーカマのチー!!」
 対抗して思いついたことをそのまま言い返すンジャメナさん。
「もう争うのはやめて!」
 そんな2人の仲裁に入るサーニャ。残りわずかな力を振り絞って、たどたどしく言葉を続ける。
「だって2人はし」
 そこまで言ってとうとうサーニャは事切れた。多分一番肝心なところを言わずに。
 もしエイラとエイラーかめんを言い間違えてさえいなかったら……!

 サーニャをそっと寝かしつけ、エイラーかめんは立ち上がった。
 もう涙は止まっていた。
 たとえ倒れる時でも必ず前のめりに――
 それがヒーローとして、百合者として、タロッターとしてのエイラーかめんの矜持であるのだから。
「せっかく命拾いした命でまだ戦いを挑もうとユーノー?」
「アア。たしかに私は弱いナ……愛する人1人守れず」
 哀愁ただよう背中。手をグーに握り、振るう。
 キッ、とンジャメナさんを睨みつけ、エイラーかめんは叫んだ!
「ケド、私は1人じゃない!」

 傍らに眠るサーニャを想い。

「私には、なににかえても守りたい人がいる!」

 そうか。そういうことだったんだ。

「共に己を高めあえるライバルがいる!」

 ペリーヌである。おでこの絆創膏が痛々しく光る。
 客席最前列に腕組みをして。登場はピンチに高いところがライバルってもんだろ?
「べ、別にエイラーかめんを心配してとかそういうことじゃありませんわ! 勘違いなさらないことね!
 ただ、あなたを倒すのはわたくしと、そういうことですわ!」
 保安官の心は悪に染まってはいなかったのだ!
 ペリーヌは指と指の間に挟んだタロットを、トランプ手裏剣の要領でエイラーかめんに向けて放った。
 エイラーかめんは受け取ると、こくんと無言でうなずいた。

「そして、応援してくれるみんながいる!」

 いつのまにか、コロッセオの客席を埋め尽くすように観客がごった返していた。
 人々は口々にそう声のかぎり叫ぶ。

 えいらー えいらー えいらー

 耳をすませば、その声はちゃんと聞こえてくる。
 もうみんなにも聞こえてるよね? なにか聞こえたって人は今すぐ病院に行った方がいいと思う。

「こ、これがエイラーかめんの力だとユーノー……!?」
「私のターン! 特殊召喚! 大アルカナ《正義》のカードを正位置に配置!
 特殊効果〈正義の鉄槌〉を発動! 《皇帝》はその権限を失い、破壊される!
 相手プレーヤーに直接攻撃! ジャスティン・ミラクル・ミラクル!」
「うぼああああああああああっ!!!!」
 戦いは終わった。
 わなわなとンジャメナさんの仮面にヒビが走り、粉々に砕け落ちた。
 その隠されていた素顔とは――

「おっ、お姉ちゃん!!!?」

 なんてこった。ンジャメナさんがお姉ちゃん!?
 お姉ちゃんと言ってもゲルトルート・バルクホルン大尉のことではないので、くれぐれもお間違いなきように。
 そうではなく、エイラの実姉である。
 フンニャ・フニャララ・ユーティライネンさん。年のころは16歳以上。

「ひさしぶり、エイラ。元気してタ?」
「なっ、なんで姉ちゃんがこんなとこに!?」
 おや、たしか先ほどエイラは「お姉ちゃん」と呼んだはずである。まあ本人的にいろいろとあるんだろう。
「アラ? 果たし状にちゃんと書いておいたはずヨ」
「果たし状だっテ?」
 くしゃくしゃになった紙を広げ、しげしげと眺めること13秒。

 『お
  ネ
  エ
  サ
  ン


 思わずエイラは両手のひらを仮面にあてた。
 まさかこんな簡単な縦読みを見逃していたなんて。レベルが低すぎて逆に気づかなかったぜ。

「まさかお姉ちゃんが負ける日がくるなんテ。強くなったワネ、エイラ」
「姉ちゃん……」
 本当なら、エイラは今すぐにでもお姉ちゃんの胸に飛びこみたかった。
 故郷を襲った戦禍で生き別れた、この世でたった2人の姉妹。互いを思わない日はなかったのだから。
 けれど、それは許されない。
 エイラーかめんはヒーローで、お姉ちゃんはンジャメナさんで。
「心配させやがっテ! 一体今まで、どこをほっつき歩いてたんダ!」
 せきを切ったように溢れ出す感情そのままに、エイラはまくし立てた。
 それにお姉ちゃんはくるりきびすを返す。
「それじゃあ、ごきげんよう。またたびに出るわ」
「またたび?」
「世界中を武者修行して、今度こそエイラに負けないように、ネ」
 ああ「また旅に」か。エイラは納得した。
「いや、ちょっと待テ! なんでダ! せっかく再開できたんダゾ!」
「老兵は死なずただ去りゆくのみ。それより、あなたにはもっと大切な人がいるじゃナイ」
 そういえばそうだった。まさか忘れていた人はおるまいけど(作者以外)。
「サーニャアッ!」
 エイラはサーニャの元に駆け寄った。
 人工呼吸? 心臓マッサージ? どっちダ、どっち……
「ちょっと気を失ってるだけヨ」
「そ、そうなのカ」
 不謹慎にもちょびっと残念がるエイラ。
 なにせタロットバトルは未来のカードゲームだ。命は賭けても、まさか本当に死んだりするはずがない。
 お母さんも安心してお子さまにオススメできます。ご購入は全国のスーパーや薬局で。

「サーニャちゃん……いい子を見つけたワネ。大切にしてあげなきゃダメヨ」
「ナッ! ナニ言ってんダ! 全然意味ワカンネーシ!」
「アラアラ」
 エイラがいくら否定しても、お姉ちゃんは笑うばかり。

「また会いましょう」
 そう言うと、お姉ちゃんはサドルにまたがり走り出した。
 チリンチリン。
「アア、またナ!」
 どんどん小さくなっていく自転車に、エイラはグッと親指を立てた。

 また会える気がする。
 2人がタロットを続けてさえいれば。
 きっとまた……


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