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「なあ、今度の休暇、暇だろ?」
音速のリベリアンは、斜向かいに座るカールスラントの堅物に声を掛けた。
「ああ、暇だが、何か有るのか?」
「いつも短い休暇だとのんべんだらりと過ごして終わるじゃん? だから今度はみんなも楽しめる事しようかと思ってさ」
「ほほう。リベリアンにしては良い考えだな。で、何をするんだ?」
「早食い競争」
がたっと立ち上がったトゥルーデはシャーリーを睨み付けた。
「この、馬鹿者! 大切な食料を無駄にする気か!」
「そんな高価なモノ食う訳じゃないし、大丈夫だって。堅物こそ、何食うと思ったんだよ」
「そ、それは……」
口ごもるトゥルーデを後目に、シャーリーは自分の案を述べた。
「あたしが考えたのはホットドッグの早食いなんだけどね」
「何だそれは」
「ホットドッグ知らないのかい? パンにソーセージを挟んで……」
「食品の事は知っている! 何故にそれを早食いするんだ? 意味は?」
「あたしの国じゃ、建国記念日にホットドッグを早食いする競争が有ってさ。毎回凄いのなんのって」
「それを501で再現されても困る。貴重なソーセージを一気食いなど、とんでもない」
「じゃあ、イモの早食いにするとか」
「同じだ同じ」
「イモおいしいよね、トゥルーデ」
話を聞いているのか聞いていないのかよく分からない答えを返すエーリカ。
その横でやり取りを聞いていた芳佳が、ぽつりと言った。
「あの、私……、ホットドッグはよく味わって食べたいです」
「私も」
リーネも同調する。
「うーん。結構良いかなーと思ったんだけどね~」
「スピード勝負のお前には良いかも知れないが、競うものじゃないだろう。宮藤やリーネの言う通りだ」
「シャーリー、こんどホットドッグ作ってよ!」
ルッキーニがシャーリーの膝の上に乗って笑顔を振りまく。
「おう、良いぞ。今度たっぷり食べさせてやる」
「やったー」
「あ、そう言えば、扶桑ではわんこそばって言うのがあって、小分けにしたお蕎麦を何杯食べられるか競争するのが……」
「宮藤も競争から離れろ」
呆れるトゥルーデ。
「しかし堅いねー堅物は。たまにはいいじゃん」
「戦時でないなら、色々と祭りやらで楽しみも有るだろうが、仮にも今は戦いの最中だ。そんな無駄をやっている暇があるか」
「でも暇な事は暇だよ。休暇だし」
「ああ言えばこう言う……」
「じゃあ、あたしと勝負するかい? この際食べるものは何でも良いけど」
「……っ。危うく承諾しかけるところだった。その挑発には乗らん」
「残念」
「際限なく数を競うから駄目なんじゃないでしょうか」
ふと、芳佳が意見を述べる。同時に、ばっと振り向く大尉ふたり。
「そうだ、それだよ宮藤!」
「数を予め決めておくなら問題無いな。なるほどタイムアタックと言う訳か、なかなか合理的な判断だ」
「で、で、何を食べるの~? ナニナニ?」
乗り気のルッキーニ。
「数を決めるか、ならばクッキー十枚とかどうだ」
トゥルーデの意見に呆れるシャーリー。
「そんな少ないの、一気に飲み込んで終わりだろ。別の意味で勝負にならないって」
「じゃあ、ある程度は食べにくく、一定の数が必要になるな」
「そんな都合の良い食材、有るか?」
大尉ふたりは揃って芳佳とリーネを見た。
「それが……残念ながら余ってる食材が無くて……」
リーネが申し訳なさそうに呟く。
「でも、これならたくさん有ります」
芳佳とリーネがサンプルとして差し出したのは、青い缶詰。シャーリーの国自慢の缶詰肉。
缶詰の色、書かれた文字を見て、一同は途端にやる気が萎え、はあぁ、と溜め息を付いた。
end